「バス旅も悪くない」

世界一周576日目(1/25)

 

 

「クソガキめ!」

 

 

僕は昨日自分をバスターミナルまで案内した宿の少年、
ヘノックを心の中で罵った。

あんにゃろう!コーラもカフェオレもおごらせておいて、
そのくせとんでもないチケットを買わせやがった!

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ここはエチオピア、ゴンダール

時刻は深夜4時半。これから向かうはアディスアベバ

 

 

 

 

そして、僕がこれから乗り込むバスは、

 

 

 

なんと二日間かけて
アディスアベバに向かうらしい。

 

 

 

宿の前で会ったお兄さんは
「それでは良い旅を!」と一日で
アディス(地元の人は「アベバ」を省略する)
まで行けるバスに乗り込んで行った。

 

 

 

僕は20ブル(116yen)を払ってトゥクトゥクに乗り込んだ。

バスターミナルの前まで行くと、
バスターミナルの入り口は閉まっていた。

その前に20人くらいが開門を待っていた。

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バスターミナルの前では朝も早くから
紅茶とパンを売っている即席の屋台のようなものができている。

冬の朝のエチオピアはひんやりとしていた。

僕はギターケースからパタゴニアのアウターを取り出して
それを羽織った。

炭火にかけられた紅茶の入った容器から
白い湯気が立ち上っているのが見えた。

 

 

 

 

時間が経つにつれて開門を待つ人間の数は増えてきた。

僕は情報収集した際に目にした記事を思い出した。

その内容というのは

 

 

「バスターミナルの開場と共に、バスの席取り合戦が始まる」

というものだった。

 

 

僕はバックパックを背負っている。機動力はそこまでない。

その記事には

賄賂を払って先にバスターミナルの中に入れてもらった

と書いてあった。

 

 

どれ、ここはひとつ僕も賄賂とやらを払ってみるとしよう。

 

 

 

 

門の向こう側にいたお兄さんにお札をちらつかせて
(と言っても5ブル(29yen)
先に中に入れてくれないかと頼んだ。

 

 

だが、簡単に賄賂に屈するような
せこい心はお兄さんは持っていなかった。

ごく普通の対応で
「いやいや、お金なんてもらっても困るよ」
と返されてしまった。

僕はなんだか自分が
汚い大人になってしまったような気がした。

 

 

だが、くじけずに再度アタックをかけると、
お兄さんは門の隙間から僕を通してくれた。

僕はお礼を言い、
そのままアディス行きのバスがどれなのかを訊き
教えてもらったバスに向かった。

 

 

 

バスターミナルの中には
これから長距離を走るであろうバスがいくつも並んでいた。

バスの中にはオレンジ色の電灯が灯り、
これから始まる長い旅路に備えて
体力を温存しておるように見えた。

僕は教えてもらったバスの上にバックパックを乗せてもらい、
そしてバスに乗り込んだ。

 

 

 

こんな賄賂なんて払って席を
確保するような人間は僕しかいなかった。

無論、車内には僕以外の乗客はいない。

席は選びたい放題だ。

バスの座席は通路を挟み2列・3列となっており、
それが後ろの方まで続いていた。

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僕が選んだのは前の入り口に一番近い席だった。

前に座席がないので、足を伸ばせて快適だろうと思ったからだ。

 

 

僕が席に腰掛けてじっとしていると、添乗員のお兄さんらしき人が

「そのポジションに座っていると
荷物盗まれやすいから気をつけな」

とアドバイスしてくれた。

 

 

それを聞いて僕はすぐにギターケースと荷棚を
ダイヤルロックで固定した。

 

 

 

 

 

5時15分にいよいよバスターミナルの門が開かれた。

どんどんどんどん人がターミナル内に流れ込んでくるのが
バスの中からでも確認することができた。

想像していたほど急いでいるというわけでもなかったが、
みんないくらか早足になっていた。

そして、バスの車内からエチオピア人たちの波を見ていると、
それは僕にゾンビ映画を思い出させた。

ちなみに僕のお気に入りのゾンビ映画は
ドーン・オブ・ザ・デッド」だ。

走るゾンビはなかなかに衝撃的だったな。

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アディス行きのバスにもどんどん人が乗って来た。

チケットには座席の番号が書いてあるらしかったが、
僕が先取りした席に対して
何かを言ってくる人間はいなかった。

サブバッグはいつも盗難防止のために
レインカバーかけているが、
それに加えてジッパーをカラビナで閉じておいた。
これなら寝ている隙に中身が盗られるなんてことはないだろう。

 

 

外では人々が行き交い、スタッフが大声でわめいている。

バスの上に荷物がぼんぼん乗せられているのが分かる。

 

 

座席が乗客で埋まると、ようやくバスは動き始めた。

出発のタイミングが他のバスとかぶるため、
バスターミナルの出口(入り口)はちょっとした混雑になる。

運転手たちはクラクションを鳴らし、大声を上げる。

あぁ、日本だったらこんなことないんだろうなぁ、
と僕は比べてしまうのだ。

こういうプリミティヴな状況を目の当たりにすると、
僕は日本のサービスだったり、気遣いだったり、
和を重んじるその心が、実はすごいことなのだ
ということを改めて考えるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして

バスは暗い夜道を走り出した。

 

 

エチオピアの日の出は遅い。
朝の六時台では太陽は顔を出していない。

ヘッドライトをつけたバスは郊外へと出る。

町の灯りから遠ざかると空に輝く星がはっきりと見えた。

 

 

僕は前日ほとんど寝ていなかったので、すぐに目をつむった。

荷物が盗られないように抱きかかえるようにして
サブバッグを膝の上に乗せた。

 

 

 

 

 

 

10時をまわる頃には
バスの中は温かくなって来た。

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外の景色はのどかなエチオピアの田舎の風景だった。

というかほとんど自然って感じだけど。

バスの外を眺めては、またウトウトとしてきて眠りに落ち、
眠りから覚めてまた外の景色を見る。

 

 

しばらくはずっとこのサイクルだった。

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12時を過ぎると
バスは昼食休憩のためにどこかの町で止まった。

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みんなが降りるので僕も
コチコチに固まった体をほぐすために車の外に出た。

乗客たちは食堂に入り、受付でお金を払って
引換券代わりのコインをもらっている。
一体みんな何を食べるのだろう?

 

 

僕と同じバスに英語の喋れるラスタマンのお兄さんがいた。

ジャマイカ出身でエチオピアに8年住んでいるらしい。

服の合わせ方がどこかオシャレで、髪の毛はドレッド。
玉虫色のサングラスがよく似合う人だった。

 

 

ラスタの兄さんは僕に食事の注文の仕方を教えてくれた。
現地の言葉が喋れるのでコインを渡している受付の人と会話し、
僕に「ベジタブルかミートか」と訊いた。

僕は野菜が摂れるシチュエーションであれば
積極的に野菜を食べるようにしているので、即答で野菜を選んだ。

 

 

ラスタの兄さんは「自分はベジタリアンだ」と言って
僕と同じ物を注文していた。40ブル(232yen)だった。

今ではその知識もおぼろげだが、
「ラスタ(ラスタファリズム)」ひとつの宗教のようだ。

ジャマイカ発祥で、自分たちのルーツがある
エチオピアに帰ろうとする原点回帰的な運動でもあるようで、
「ジャー」という独自の神様を信奉する。
あとマリファナに寛容だ。

それを広めたのはレゲエで世界的に有名な
ボブ・マーリーで、ラスタマンは彼のことが大好きだ。

 

 

 

 

そんなラスタマンに僕はエチオピアで出会ったのだ。

僕たちが注文した料理はなかなか出て来なかった。

それもそのはずで、
さっきまでバスに乗っていた乗客が
一斉に同じ食堂で料理を注文したからだ。

給仕の女性スタッフたちが忙しそうにテーブルと調理場の間を
行ったり来たりしている。

 

 

 

 

ようやく出て来た料理はインジェラだった。

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僕はこの料理を旅に出るまえから知っていた。

 

 

「見た目は雑巾、味は吐瀉物(ゲロ)」

 

 

という可哀想なレッテルを貼られてしまった
エチオピアの主食である。

っていうか、こういう発言って
ちょっと行き過ぎてますよね。

 

 

 

僕はそこまでこの料理が不味そうには思えなかった。

丸く平たい皿一面にパンケーキの生地のようなものが張られ、
その中心にソースがかけられている。

 

 

「あれ?野菜は?」

「ああ。ソースが野菜なんだよ」

 

 

まずは何も生地につけずに口に運んでみたのだが、
生地は酸っぱかった。

それをベジソースにからめて食べる。

お、なんだ意外といけるじゃないか。

 

 

 

そう思ったのだが半分も食べないうちに飽きてきた。

40ブルも払った割には、生地とソースしかない。

他にサイドディシュ的な食べ物はない。

味は完食できるまでずっと一緒。

 

 

僕はこのすっぱさがどうも受け入れがたかった。

一体なんでこいう味付けなのだろう?と
食べながらずっと疑問に思っていた。

米もパンもプレーンな味付けじゃないか?
インジェラの生地だってプレーンでもいいじゃないか?
なんで酸っぱいんだ?

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僕は手を止めて、目の前にいるラスタの兄さんを見た。

ラスタの兄さんはパクパクパク食べ、
僕よりも早く完食していた。
よっぽどお腹がすいていたに違いない。

僕だって今日の朝からほとんど何も食べてなかった。
空腹なはずなのに、インジェラだけは完食できなかった。

 

 

仕方が無いので、近くの売店で2.5ブル(15yen)の
クッキーを二袋と15ブル(87yen)のスプライトを買った。

それだけでは物足りず、バスに乗る直前で
5ブル(29yen)でサトウキビも買い込んだ。

わずか5ブルで30cmくらいに切られた
サトウキビが5本も手に入った。

僕はそれを隣りに座っていたお兄さんに一本あげた。

 

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昼食が済むとバスはまた走り始めた。

今朝はバスがアディスアベバまで
二日もかかることに困惑していたが、
だんだんとバスの旅を楽しめるようになってきた。

なんだかんだで、旅とはそういうものだし、
リッチなバスで快適に行くより、
ローカルバスでゆっくり行くのも悪くないなとも思えた。

今までだって僕はそういう旅をしてきたのだ。

 

 

僕は一緒に乗っているエチオピアのみんなに少しずつ慣れ、
向こうも僕という人間に慣れていった。

 

 

 

隣りのお兄さんはサトウキビの味わい方を僕に教えてくれた。

サトウキビはまるで天然のガムのようだった。

外の皮を剥いて、一口サイズに噛みちぎる。
サトウキビを噛むと中から甘い汁が出てくる。
汁を吸い終わるとそれをペっと捨てる。

 

 

僕は味わい終わったサトウキビをどこに捨てようか
キョロキョロと辺りを探した。

ビニール袋は持っていなかったっけ?

サトウキビを食べるのにはごみ袋がひつようだな。

 

 

そんな僕に隣りのお兄さんは
「バスの入り口に捨てちゃいなよ」と言った。

そうかこれが現地スタイルなのだな、と僕は
前に誰もいないことをいいことに、
吸いつくしてパサパサになったサトウキビの残骸を
どんどんバスの入り口に放っていった。

こんな日本人にあるまじきはしたない
振る舞いをしてしまったからだろう。
サトウキビを噛んでいると歯茎から血が出た。

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楽しい

バス旅は20時頃に終った。

どこかの町のホテルの敷地内にバスは停まった。
今日はここで一晩を明かすらしい。

僕とラスタの兄さんは部屋をシェアすることになったが、
一人あたりの金額は150ブル(870yen)という固定金額だった。

 

 

 

ラスタの兄さんと僕はひとまず夕食を取ることにした。

僕はこの前にマラリアの薬を一錠口に放りこんでいたのだが、
それがよくなかった。

空腹時にマラリアの予防薬を服用してしまうと、
一気に気分が悪くなり、運ばれて来た
ベジタブル・パスタを完食するのが苦痛でしょうがなかった。

 

 

 

食事の後はシャワーを浴びた。

ホテルの名前は「アフリカ・ホテル」という名前だった。

一階建てのフラットにいくつか部屋があるだけの、
ホテルというよりかは典型的な安宿。
もちろんトホットシャワーなんて出やしない。

 

 

一番驚いたのは共同トイレの汚さと臭いだった。

今まで1年7ヶ月世界を旅してきたけど、
ここまで汚いトイレにはお目にかかったことがなかった。

トイレの薄暗さがよけいにみじめさを演出している。

とてもじゃないけど、ここにしゃがみこむことはできないと思った。
一刻も早く出て行きたい。そんなトイレだった。

ここで用を足すくらいなら、
外で立ちションしたほうがマシだ!と思ったほどだ。

モンゴルのトイレでさえ、もっとナチュラルな香りがしていた。

 

 

 

 

この小さな町には
僕たちが乗って来たバス以外のバスもあった。

他のバスにはラスタ兄さんの友達の
イスラエル人の女性二人が乗っており、
僕たちは部屋をシェアすることになった。

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彼女たち二人に僕がイスラエルのテルアビヴで
ゲイに遭遇した話をすると、大笑いしながら
「あの町はゲイの町なのよ」と教えてくれた。

どうりで…。

 

 

 

 

『バス旅も悪くないな』

 

 

僕はそう思った。

 

 

 

明日の出発は5時だ。

部屋の電気が消えたのは22時だった。

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8 件のコメント

  • 訂正

    という 佐々木さん の返信でした。
    今度読んでください。
    +。:.゚(๑>◡╹๑)〜♥♡♥〜(๑╹◡<๑):.。+゚

    • >あっきーさん

      タツヤさんのブログって著者象が掴みずらいですよね。
      淡々と書いてるっていうか。
      (そして下ネタにクスりとさせられる。)

      もっとなぁーお兄さんっぽかったような…。

      あ、文章と実際は異なる場合が多いなぁって話でした。
      僕は他の方にどう思われているのでしょう?ふふふふ♪

  • シミ君、こんにちわ!

    バスの旅、もいいですね~

    読んでると、旅の中にさまよっている様な、夢の中にいるような…

    気持ちよく、こちらも旅させてもらっています。

    屋久島は春のような、あたたかさで、ひまりも生まれて2ヶ月ちょっと、身長が8センチも

    大きくなり、聖人のような天使のようなお顔も、だいぶ、人間らしくなりました。

    自分の子供達を育てる時は、なにがなんだかわからず、無我夢中でしたが、孫の顔は

    客観的にみれるのかな?

    ゆっくり、ていねいなシミ君の文章を読むと、心が春みたいにおどります

    今から山々の新緑がいっせいに芽吹き、まばゆいほどの緑が世界を包み、

    全体的に、ぼーっとしている時間を、あえて、たくさん、とるようにしたくなる季節です。

    世界じゅうを旅してるシミ君へ  

    お気をつけて、旅してください  ブログ、楽しみにしてま~す

    ひまわり

    • >ひまわりさん

      ちっちゃい子って成長がほんとうに早いですよね。
      知り合いの方のお子さんもFacebookで写真なんか見ると
      『この前までハイハイしてなかったか?!』
      って驚くくらい成長速度が早いです。

      いつもほんわか、あたたかいコメントありがとうございます。
      僕はひまわりさんの文章好きですよ?
      どこか詩を読んでいるようなリズム感が好きです。
      (あぁ、日本語の本読みたいなぁ)

      あと数日はまったりしているので
      ブログも順調に更新できそうです。

      春が待ち遠しい!

  • 今日の日記面白かったです。
    絶対乗れそうにないけど、
    そのバス乗りたいって思いました。

    • >あっきーさん

      いや、僕、旅に出てから
      よく思うんですけど、

      日本の満員電車がいかに酷いか

      これに尽きます。

      基本、ローカルのみなさんって満員でも(それでも日本ほどではないです)
      割と理解があってフレンドリーなんですよ。
      確かに最初は『狭いなぁ、暑いなぁ』とか思いますけど
      なんだかんだ慣れちゃうんですね。

      でも、日本の電車ってみんな無表情だし、
      スマートフォンずっといじってるし、
      場合によっては痴漢だの、酔っぱらいだの、
      あれこそカオスですよ。

      大学時代、一限の授業は取らないようにしてました。

      みんながフレンドリーだったらいいのにな。

  •   佐々木さんのブログ、
     そこら中がアートだらけの街へっ! <モロッコ・アシラー>
    に初コメして、シミさんの話題だったんですが、
     
    僕もめっちゃ好きです笑
    雰囲気がアーティスト感ありありで凄いんですよね(^^)

    という佐々木の返信でした。
    今度読んでください。
    +。:.゚(๑>◡╹๑)〜♥♡♥〜(๑╹◡<๑):.。+゚

    • >あっきーさん

      教えていただいたタツヤさんの記事読みました♪

      え?あれって僕のことなんですか?

      自分、雰囲気あるのかなぁ?

      あ、アホっぽいとか!!!???

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