「優しさのこもったジャケット」

世界一周650日目(4/10)

 

 

朝飯に

シリアルを頂いた。
そしてヒッチハイクポイントまで行くバスの出る場所まで
車で送ってもらった。

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ヤムにお礼を言って別れる。

昨日の夜中に、友達から連絡が行っただけで、
よく見ず知らずの人間を泊める気になったなぁと思う。

 

 

旅をしていると感謝の連続なのは変わらない。

日本に僕が戻ったらそれを他の誰かに繋いでいかなくちゃなぁと
心のノートにメモをした。

 

 

 

 

ヒッチハイクポイントまで向かうためバスに乗った。

大きな都市からヒッチハイクのできり場所に向かうには
バスや電車に乗らなくてはならない場合が多い。

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モントリオールの場合もそうだった。

町の外れまで出るバスに乗ったつもりだったのだが、

あろうことか、逆方向に向かうバスで、
三個先の停留所で慌ててバスから転げ落ちた。

幸い反対車線からは同じ番号のバスが出ていたため、
30分ほどのタイムロスで済んだ。危ない危ない。

 

 

 

僕が乗り込んだバスの運転手さんは優しい女の人だった。

僕が事情を説明するとバス代を免除してくれたばかりか、
間違った場所で降りそうになると、
「気が変わったの?」とわざわざ訊いてくれるほどいい人だった。

 

 

 

町外れのバス停で降りて、ハイウェイへ続く道の手前で荷物を置いた。

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前日の雨のせいで路面はいくらか濡れており、
空も曇り空で、冷たい風がビュービューと吹いていた。

いつも参考にしている”hitchwiki”では

「朝の早い段階からここでヒッチハイクをすれば
比較的楽にトロント行きの車を捕まえることができるだろう」

と書かれていた。

だが、

「9時から14時までやってダメだった場合、
電車でもっと郊外まで出た方がいい」

とも書かれていた。

さすがに5時間も同じ場所でやってダメだったら
見込みなしのポイントだろう。

 

 

現在時刻は10時

これでトロント行きの車をゲットすることはできるのだろうか?

 

 

 

 

 

ドライバーたちのレスポンスはよかった。

止まってはくれなくても、
笑顔で手を振り返してくれる人なんかがいた。

こういうレスポンスがあるかどうかは
成功する確率に比例していると僕は思う。

 

 

さっそく車が止まった。

 

 

 

 

 

 

 

パトカーだった。

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ウィンドウが空いて、中から警官が顔を出す。

 

 

「パスポート見せて」

 

 

言われた通りにパスポートを見せる。

警察はここでもパスポートのデータを
端末に入力して記録を残している。

 

 

だ、大丈夫だ..。

だって、ここはハイウェイの前だし、
ケベックに行かなければヒッチハイクは禁止させていないはず!

 

 

 

 

 

「なぁ、ここはヒッチハイクをしちゃいけないんだぞ?」

「え?どうしてもダメですか?!」

「それに危ないんだ」

 

 

考えてみれば、
モントリオールもケベック州の一部ということだった。

きっと危ないということで注意してくれているんだろう。

 

 

「あと30分だけでいいのでヒッチハイクを続けてもいいですか?
それでもダメなら電車に乗ります」

「見回りで返ってくるまでだったらな」

 

 

そう言ってパトカーはハイウェイへと去って行った。

『どっちだよ?』と思いながらも、
僕のやるべきことは親指を立て続けることしかない。

パトカーが連れてきたように、そこから雨が降り出した。

僕は急いでレインカバーをバックパックにかけ、
アウターのフードを被ってヒッチハイクを続けた。

寒さと雨で笑顔がひきつる。
ドライバーたちからのレスポンスが少なくなってきたが分かる。

雨の中ではヒッチハイクの成功確率は下がる。
だってこんな濡れネズミを誰が車に乗せたいと思うだろう?

『こんなことなら
ヤムにもう一晩泊めてもらうんだった…』

と後悔した。

これでダメなたヤムに連絡して今日も泊めてもらおうかな…。

 

 

 

雨は降ったり、止んだりを繰り返した。

30分はとうに過ぎ、一時間が経とうとしたころ
ようやく一台の車が止まってくれた。

 

 

エリックさんは無口な運転手さんだった。

警察と同じように「ヒッチハイクは危ないんだ」と僕に注意してくれた。

車に乗ったタイミングで今度は強い雨が降り出した。
あの場所であのままヒッチハイクを続けていたら
ずぶ濡れだっただろうなと思う。

 

 

こういうタイミングってほんとうにある。

エリックさんは僕をモントリオールから20km離れた場所にある
小さなガソリンスタンドで僕を降ろしてくれた。

ひとまず僕は気持を切り替えるために、
ガソリンスタンドに併設された売店でマフィンを二つとコーヒーを買って、
レストランのテーブルでそれを食べた。

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外は相変わらず雨が降り続いており、
僕はここで野宿する可能性も考慮し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間ほど

レストランに待機して、ようやく雨は収まった。

僕は外に出てハイウェイの入り口で
「侵入禁止」の標識の前で元気よくヒッチハイクを始めた。

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降ろされたところもそこまで交通量が多くはない。
それがいっそう惨めさを演出する。

心なしかレスポンスもさっきよりも少なくなった気がする。

寒さですぐに手が冷たくなる。

車が通らなくなると、僕はボードを掲げた手を下げて、
ポケットに突っ込んだり、行きを吹きかけて手をさすったりした。

 

 

ここでも一時間ほどヒッチハイクを続けた。

だけど、止まってくれる車というのは
何の前触れもなく現れるものだ。

度が強そうな眼鏡をかけたおじさんが
「さあ!乗った乗った!」と元気よく僕に声をかけてくれた。

荷物をしまおうとトランクを開けると、
そこには「ドラゴンボール」が一冊無造作に置かれていた。
やっぱりこの車は現れるべくして現れたのかもしれない。

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ミッシェルさんはフランス語を日常的に話す方だった。
英語の会話も少しおぼつかなく、
ニコニコと簡単な単語をゆっくりと喋ってお喋りをした。
トランクのドラゴンボールの単行本は息子さんのものらしい。

 

 

「それじゃあ、君を、
次のガソリンスタンドまで連れていくよ」

「ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

降ろしてもらったガソリンスタンドの脇には
24時間営業のマクドナルドがあった。

ハイウェイのすぐ脇にあることにはあるのだが、
ここも車の量が極端に少ない場所だった。

こんなところで次の車に乗ることはできるのだろうか?

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ガソリンスタンドでトイレを済ませ、
ヒッチハイクを開始したのだが、ハイウェイに戻って行く車が少なく、
人によってはモントリオール方面(逆方面)に行く車もあった。

ガソリンスタンドの出口でヒッチハイクをしているので、
ドライバーからのレスポンスは比較的に得やすいのだが、
これは場所を代えた方がいいのかもしれない。

 

 

そう思い、トロント方面へ続くハイウェイ入り口の直前で
ボードを掲げたのだがここはもっと車の量が少ない場所だった。

何台か思わせぶりな車が速度を落としたが、
会話もないままそのままハイウェイに入っていった。

 

 

 

小雨が降り出す。

 

 

『今日はここで野宿かもな…』

 

 

ヒッチハイクがうまくいかないと
いつもそんなことを思う。

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ここから

5kmほど歩いた場所に
キャンプサイトがあるのがわかった。

もしかしたらそっちの方がヒッチハイクしやすいかもしれない。

5kmを歩くとなると小一時間かかるだろう。
だけど、成功する見込みがあるのであればそちらへ行こう。

 

 

僕は再び先ほどのガソリンスタンドに戻り、
売店で何か買おうとしたが、
ハイウェイ脇の売店の食べ物の値段なんてどこも高いに決まっている。
何も買う気にもなれなかった。

僕は売店のお姉さんに

「ヒッチハイクするなら、ここか、隣り町か」

と訊いてみた。

 

 

「隣り町なんて行っても車なんて全然通らないわよ。
帰宅ラッシュがそろそろ始まるから、
ここの方がいいんじゃない?」

「帰宅ラッシュって何時頃ですか?」

「4時」

「あと、一時間…」

 

 

それでも5km歩かずに済んだことはラッキーだった。

それも、5kmも歩いて車が通らない町に行くことに比べたら
格段にここに留まっていた方が楽だ。

 

 

 

 

 

 

帰宅ラッシュ前に、一台のワゴン車が止まってくれた。

中から中年の女性が眉をしかめて

「ここよりも次のサービスエリアの方がいいわよ」

と言って僕を車に乗せてくれた。

こんなところでヒッチハイクをしている外国人を
車に乗せることはためらわれるだろう。

 

 

 

『コイツ、ほんとうに乗せても大丈夫なのかしら?
噛み付かれやしないかしら?』

と僕を見定めているのは理解できたので、
フレンドリーな笑顔で声のトーンを落ち着いたものに変えた。

彼女の娘さんもオーストラリアをバックパッカー旅行をしたということで、
話始めるとすぐに打ち解けることができた。

さっきまでのしかめっ面は何だったんだってくらい
良い笑顔を見せてくれるようになったので、
僕も安心して喋ることができた。

 

 

娘さんはどうやら、これから送ってくれることになっている
サービスエリアの朝の時間帯でバイトをしているらしい。

車を降ろしてくれた際に
「娘があなたを見たわ」なんて言わないように祈ってるわ!」
と冗談混じりに僕にエールを送ってくれた。

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サンクスです。

 

 

 

 

 

 

 

車を三台も乗り継いで進めた距離は
70kmほどだったが、ハイウェイの中にあるサービスエリアだったら
かなり成功確率が高る気がする。

時間は16時でこれからトロントに向かう車が
ここを通るのかは分からないけど、
待っていればきっとチャンスは来るはずだ。

 

 

僕はヒッチハイクを始める前に、売店でポテトチップスを買うことにした。

お店の頑固そうなおっちゃんは
僕がポテトチップスを買おうとしていることを知ると、

「ちっ、油と脂肪ばかり喰いやがって」

と現代っ子を批判した。

 

 

「いやいや、いつもヘルシーな物を食べているからいいのです!」

と反論して2ドルちょっとの大きなサイズの
特売のポテトチップスをレジに持って行った。

ジーンズのバックポケットから小銭を取り出そうとすると、
おっちゃんは「もう払った!」と言う。

 

 

「え?いいですって!払いますって!」

「払ったって言ってるだろう!」

「いや、でも」

「モンダイナイ!」

 

 

お店のおっちゃんはなぜかその
「モンダイナイ(問題ない)」という日本語を知っていた。

 

 

「ノープロブレムって意味だろう。セーフトラベルをな!」

「あ、あざっす!」

 

 

外を吹く風は相変わらず強かったが、
僕の不安もどこかに吹き飛んでいった。

ここでも何もせずに待っている時間の方が長かったが、
いつもよりオーバーなリアクションをして、
ドライバーたちに自分の存在をアピールすることができた。

 

 

 

そしてここでも一時間もしないで車が止まってくれた。

カナダで一時間以上待っていたことなんてないのではと思う。

「危ない」とは言われているけど、
実際にヒッチハイクをしてみた僕の感想はカナダの人たちは
ヒッチハイカーに寛容ということだった。

 

 

 

「ありがとうございます!
それで、トロント方面に行かれますか?」

 

 

 

 

 

 

「あぁ、トロントに行くよ」

 

 

 

 

 

ラストにデカいのが待っていた。

なんせトロントまでは600km以上も離れていたからだ。

通常ヒッチハイクに適した距離というのは300kmくらいだろう。

それが今日中にトロントまで行けてしまうというのだ。

なんだかバルセロナで6時間待ってた時も、
最後には700km走る車に乗せてもらったりしたなぁ。
ヒッチハイクの神様はほんとうにいるのかもしれない。

 

 

 

運転手のリックさんはふくよかな初老のおじさんだった。

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車の中にはテイクアウトのコーヒーがひとつ置いてあり、
さっきまで何かを食べていたようだった。

口の周りをペロペロとなめ回す癖があり、
僕はそれを見て『あぁ、食いしんぼさんなんだな』と思うことにした。

リックさんは左耳が聞こえなかったので、
右側の助手席に座った僕は何かを話す時には
っきりと大きな声を出さなければならなかった。

時折リックさんは「エェッッッ?」と言って
僕にもう一度同じことを話させた。

そんな可愛いおじさんがリックさんだったのだ。

 

 

 

この時僕は一種のヒッチハイカーズ・ハイの状態になっていた。

なんせ一気にトロントまで戻れる車がつかまったのだ。
車の中ではぺちゃくちゃと言うわけではないが、
ほとんど途切れることなく喋っていた。
まるでラジオのDJのようだった。

 

 

というか、リックさんと僕の
「波長」のようなものがぴったしと合っていたいたのだ。

時々旅をしていると日本人、外国人問わず、
一緒にいるのが楽しくなるような人がいる。

それは向こうにトークのスキルがあったり、
僕の話を「うんうん」と聴いてくれたりする場合もあるんだけど。

 

 

ひとつのトピックが終ると、
適当なものを見つけてリックさんに投げかける。

リックさんはそれに答えて向こうも何か質問をする。

パスはリズミカルに続いた。
時には僕が話すのに夢中になって、
どこからか次の話題に派生させたりもした。

会話とは「舌と舌を会わせるその場限りのもの」
と坂口恭平氏は日誌の中にそう書いていた。

だからあんなに活発に語ったことは、
ほんとうにライブであり、鮮度のある生ものだったのだ。

 

 

 

 

最初は呑気なおっちゃんだと思っていたのだが、
ドライブが進むにつれて、
リックさんは実は弁護士だということが分かった。

この車は弟から借りているもので、
今からトロントに返しにいくのだとか。

話の内容も途中から人生論のようなものに変わっており、
リックさんのトークも活発になっていった。

この日記に会話を表現するのは不可能だ。
なんせトロントまで6時間ものドライブをしており、
そのうち5時間くらいは喋っていたからだ。

だから僕がリックさんとのドライブが終った後に、
ノートに描き残したリックさんの言葉を載せようと思う。

 

 

 

 

・「自分の人生を創るのは自分。
だから謙遜や遠慮なんてしていたって仕方のないことだ。
有言実行をしなさい」

・「今を大切に。人生は短い」

・「他の人が自分に何を求めているのかを理解しなさい」

・「隣りにいる人と笑っているかい?
東京に限らず、都市に住む人たちには笑顔が少ない。
だから身近な人たちと笑い合っていくことは心が豊かな証なんだよ」

 

 

 

 

 

21時には、トークもいくらか収まっていた。

カーステレオに入れたCDからはリックさんのお気に入りの音楽が
さりげなく流れていた。

ただ、カーステレオに振動が加わると音が飛んだり、
曲が再生されなくなってしまうことが度々あった。

 

 

最後にかかったのは6曲入りのジャズのCDだった。

ナット・キング・コールの「スターダスト」は
村上春樹の「国境の南、太陽の西」に出てきた曲だった。

僕はそれほど、小説を深く理解しているわけでもないのに、
ナット・キング・コールのアルバムをTSUTAYAで借りたことがあったので、
すぐに曲を思い出すことができた。

他にもルイ・アームストロングなんかもCDには含まれていた。

 

 

 

リックさんにはマッカロウ駅の近くで降ろしてもらった。

その時僕はリックさんにもらった
アウトドア用の厚手のジャケットを着ていた。

物を極力持ちたくない僕はリックさんに
何度もそのことを伝えたのだが、
リックさんは僕がキャンプ生活をしていると知ると、

「それなら持って行った方がいいに決まっているじゃないか。
必要なくなったらサルベーションアーミーに寄付してくれればいい」
そう言ったので、僕は有り難くもらっておくことにしたのだ。

 

 

「トロントまで乗せてもらってありがとうございました。
リックさんとの会話も楽しかったです」

「こちらこそ♪」

 

 

そう言って
別れ際にリックさんから手渡されたのは20ドルだった

僕は一応断ったのだが、お金も有り難く受け取っておくことした。

 

 

道路を渡るとリックの車も駐車場から出て、そして車の群れの中に消えていった。

寒さに凍えながら電車の窓ガラスに移る自分の姿を見た。

膝まであるベージュ色の大きなジャケットで
首にはファーのついたフードがついている。

そんなジャケットを着てバックパックを背負う僕の姿は

紛れもなくホームレスだった。

 

 

 

それでも、ジャケットのおかげでかなり温かかった。

僕はティム・ホートンズをハシゴし
(一軒目は立ち飲みで、Wi-Fiすらなかったのだ)
営業終了までそこで作業をしていた。

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酔っぱらった若者たちで賑わう通りを抜けて、
クリスティ・ピッツ・パークという公園にテントを張った。

深夜3時でも時折近くを人が通ったが、寝る分にはなんの心配もなかった。

優しさのこもったジャケットが一緒だったから。

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2 件のコメント

  • 皆さん良い人ばかりですけど、最後のリックさんの優しさに感動しました。

    シミ君のブログを読むまでヒッチハイクやキャンプで旅をしている人の気持ちなと考えてみたことありませんでした…

    見てくれで人を判断してはいけませんね…

    • >ユキさん

      自分でも不思議なくらいヒッチハイクでは素敵な人にしか出会いません。
      僕みたいなヤツを乗せてくれるのが人たちが素敵なんですよね。

      もちろんヒッチハイクが孕む危険ももちろん承知ですが、
      巡り会えた時の喜びは大きいのです。

      それより「見てくれ」?!

      まぁ、そこは否定しませんよ。ふふふふふ♪

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