「車を乗り継いでワイオミングへ」

世界一周678日目(5/8)

 

 

誰かに

起こされるかと思ったが、
ここは最高に寝心地のいい公園だった。

起きると気分もスッキリする。

そうだ。嫌なことなんて寝て忘れちまった方がいい。
人間は忘れる生き物だろう?

 

 

ここはアメリカ、ユタ州ソルトレイク・シティ
「Suger House Park」というのがこの公園の名前らしい。

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8時に起床してさっさとテントをたたむと、
僕はヒッチハイクポイントまでの残り2kmちょっとを歩き始めた。

途中にマクドナルドを見つけて僕の心は揺れた。

最近ずっと移動ばかりだったじゃないか。
今日くらいは作業日にあてて、一日中マクドナルドのテーブルで
絵を描いたり日記を書いて過ごしてもいいんじゃないか?

横断歩道を渡ってしまえばそこはマクドナルドだった。
あと10秒早く信号が変わっていたら僕はそれを渡っていただろう。

 

 

 

 

ふと空を見上げると
青空がそこにはあった。

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『あ~、今日は良いヒッチハイク日和になりそうだ…』

 

 

今は早くアメリカ横断の旅を終えてしまいたい。

僕が旅したいのは西海岸なのだから。

 

 

 

僕はマクドナルドの誘惑を断ち切って先に進むことにした。

見つけた小さな車の修理工場のごみ箱から
良質なカードボードを頂戴しておいた。

行き先で埋まったカードボードはひとつの作品のような気がする。

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なんかいいっしょ?

 

 

 

僕が検討をつけたヒッチハイクポイントは

微妙なポジション

にあった。

 

 

ウォルマートが目の前にあり、交通量もほどよい。
だが、車が停まるスペースがかなり限られていた。

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しかも忘れてはならないのが、
ユタ州はヒッチハイクが禁じられている
ということだった。

外国人の僕なら一回までは許されるだろう。
それにこんな街のはずれまでパトカーが来るはずがない。

そう読んだ上での僕は
「Evanston」と書いたカードボードを掲げた。

向かう先はワイオミング州だ。200kmと離れていない。
これならすぐに捕まるだろうと僕は考えた。

時刻は9時半。いい感じだ。

 

 

 

だが、車はなかなか止まってくれなかった。

レスポンスはある。
ニコニコ笑って僕のことを見てくれる人も多い。

それなのになぜだ?
この先のハイウェイはエヴァンストン方面に続いているんじゃないのか??

 

 

一時間が経過したところでパトカーの姿が見えた。
僕はカードボードを茂みに投げ、一旦その場から離れることにした。

 

 

ウォルマートの駐車場でバックパックを降ろし、
昨日買っておいた食糧を食べた。

あぁ、いつだって大きな街から出るのは難しいな..。

 

 

 

 

 

僕は再びもとのポジションに戻ってヒッチハイクを再開したのだが、
手応えは掴めなかった。

すぐ近くに、ここよりももっと交通量の多いポイントがある。
ダメもとでそっちにいってみようか?

僕は一度その場を離れ、
ウォルマートの裏手にあるヒッチハイクポイントへと向かった。

そこはハイウェイのほぼ直前だった。
交通量はハイウェイ並みにあり、車がビュンビュン走っている。

これで車が停まる可能性と言えば
すぐ横にあるガソリンスタンドとドライブスルー専門のコーヒー屋へ
入るために、わずかにスペースがあるということだった。

僕はボードを掲げたが、車も早過ぎてまるでレスポンスが得られない。

一時間ほどその場でトライしてみたが、結局は元の場所に戻ることにした。

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気づけば

ヒッチハイク開始から
4時間が経とうとしていた。

遠く向こうの方には峰に雪が残ったワイオミングの山々が見えた。

まるでそこから先には別世界が広がっているようだ。

何か見えない壁のようなものがあって、
僕はそこを突き破ることができずにいるみたいだった。

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ヒッチハイクを始めた時は晴れていたが、
山の向こうから薄い雲が歩み寄り、そして雨が降り出した。
マクドナルドに行かなかったことが悔やまれる。

30分雨をしのぎ、雲の切れ間から太陽が見えた時、
ようやく一台の車が止まってくれた。

 

 

中にはお母さんと子供二人が乗っていた。

少し怒ったような顔をして

「こんな場所でヒッチハイクしても
車なんて止まってくれないわよ!」
と言う。

 

 

 

 

 

「それに危険なんだからね。あなた分かっているの?」

出来の悪い子供を叱るようにシャーロットさんは僕に言った。

 

 

「ベター(better)プレイスに連れて行ってあげるは。
そこならここよりもマシでしょう」

「ありがとうございます」

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僕が日本人であると告げると、
シャーロットさんはいくらか安心したようだった。

そして僕がおよそ二年に渡る長旅をしていると告げると、
シャーロットさんはいくらか興味を示してくれた。

「ほら!このお兄さん世界一周をしているんだって!」
そう後部座席の子供たちに言っても、男の子たち二人はじゃれあっており、
まったく感心などしめしていなかった。

シャーロットさんには
危うくハイウェイの真ん中で降ろされそうになったが、
なんとかハイウェイの出口で降ろしてもらうことに成功した。
この次のヒッチハイクもうまくいくという

予感があった。

 

 

 

 

 

 

 

ハイウェイ

の出口から入り口へ。

ボードを掲げるとエヴァンストン行きの車が
5分で停まった。

 

 

 

「ワイオミングはいいところさ。
ただしレッド・ネックが多いけどな」

 

 

と運転手のロブさんは言った。

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ロブさんも若い頃はアメリカを
ヒッチハイクで旅したことがあったらしい。

そういう経験のある人はなんのためらいもなく
止まってくれることが多い。感謝です!

 

 

「レッド・ネック」
と言うのは西部の荒くれ者たちのことを指すらしい。
今でも西部にはカウボーイハットを被り、そこら辺に唾を吐き、
がさつで粗野な男たちがいるとのこと。

ロブさんは自分のことを「”少々”レッドネック」と言った。

「うちの親父は正真正銘のカウボーイだったんだ。
首にバンダナなんてしてな、沢山の牛を飼ってたんだ」
ロブさんは嬉しそうに自分の父親の話を僕に聞かせてくれた。

 

 

 

エヴァンストンまでは1時間ほどのドライブだったが、
またここでも周りを流れる景色は変わっていた。

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山はなだらかなものが多く、
コロラド州のような壮大さはまだ見られないが、
人が住む場所よりも自然の方が
この州の面積を占めているように思えた。

途中雨が降り出した。
前方の車が路面の雨を巻き上げ、それが煙のように見えた。

 

 

ロブさんは僕に自家製のサンドイッチをくれた。

今日の予定では、エヴァンストンの町で一泊しようかと考えたが、
ロブさんが「そのままヒッチハイク続けるだろう?」
と言ってくれたため、

流れで

僕はヒッチハイクを続行することになった。

きっとこの流れはどこかに通じているはず…だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

エヴァンストン

は小さいだけでなく、
なぜかダウンタウンと人の住むエリアが分断されていた。

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降ろしてもらったガソリンスタンドは町はずれにあるようだった。

車を降りる際に、ロブさんはアーミー配給の保存食を僕にくれた。
保存の利く食糧はほんとうに有り難い。

お礼を言ってロブさんの車を見送り、
ギターをチェックするとヘッドの部分が少し割れていた。
確かに彼はレッドネックだったのかもしれない。

 

 

ひとまずガソリンスタンドですることと言えば
コーヒーを飲むことだろ。

トイレを済ませ、コロンビア100%のBoldを
12オンスのカップに注ぎ、
ヘーゼルナッツのクリームを二つ入れてかき混ぜた。

レジで並んでいると、レッド・ネックのおじさんが僕に3ドルをくれた。

ワイオミング州からもてなしを受けているような気がした。

 

 

外に出ると、僕はカードボードに新しい行き先を書こうと
マジックを探したのだが、
バックパックのボトルホルダーに入れたマーカーは
どこかにいってしまっていた。

シカゴでpatagoniaのカールの弟、デールからもらった
使い古しのマーカーだった。もう掠れてきていたので、
寿命ではあったのだが、僕は他にマーカーを持っていなかった。

ガソリンスタンドの売店に戻りマーカーを探したのだが、
売られていたマーカーはなんと5ドルもするものだった。

防水性で何にでも書き込むことのできるる作業用に特化した極太の
「マグナム」と書かれたものだった。

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購買がためらわれたが、
これがなければ行き先を書くことはできない。

いや、さっき3ドルもらったから差額の2ドルが出費か。

うんうん。5ドルのマーカーで書いたボードで
ヒッチハイクすりゃあ成功しないわけない!

僕は思い切ってその5ドルもする極太マーカーを購入した。

 

 

 

ガソリンスタンドの外に出て書いた行き先は

「Yellostone National Park 」

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ユタ州からワイオミング州にかけては自然公園が広がっている。

アメリカで最も古い国立公園らしい。
何人かのドライバーがこの場所を僕に教えてくれたのだ。

 

 

僕はガソリンスタンドの出口でボードを抱えた。

時刻は15時だったが、
空は雲で覆われ日の沈む前のような明るさだった。

10分もしないうちにガソリンスタンドの店員が二人出てきて、
「ここでヒッチハイクをしないでくれないか?」
と申し訳なさそうに言われてしまった。

「イエローストーンに行きたいのならあっちだよ」と言われ、
マップで確認すると確かに町を横断した
逆サイドのハイウェイの入り口の方が
ヒッチハイクに適しているように思われた。

僕はガソリンスタンドを後にした。

 

 

 

ヒッチハイクをしていると、
「このガソリンスタンドなら長距離トラックが捕まるかもよ?」
と言ってそれらのトラックが停まる大型のガソリンスタンドで
降ろしてもらうことがあるのだが、
どうしてだがその場合はうまくいかないことが多い。

ドライバーがヒッチハイクによかれと思っていることは
案外違っていたりするのだ。

まぁ、
「ガソリンスタンドで降ろされたら気をつけましょう」
って話ね。

 

 

 

 

僕はエヴァンストンの町へと入っていった。

歩いてみて分かったのは、
ここには観光地のような見所/名所のような場所もなければ、
寝るまでの時間をつぶすような
ファストフード店もないということだった。

西部の田舎の町。
これはさすがにヒッチハイクを続けた方が正解だった。

町にはポツリとビジターズ・センター(観光案内所みたいな場所)があったが、
そこではインド人顔のおばさんが一人カウンターに座っており、
中にはちょっとした博物館があるだけだった。

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ヒッチハイクを再開しようとしたタイミングでまた雨が降り出した。

ワイオミング州は山に囲われた州だ。天候は移り変わりやすい。

雹(ひょう)がパラパラと雨に混じるようになり、
たまらず僕はレストランの軒下に非難するはめになった。

 

 

しばらく雨宿りをしていると、
レストランの店員のおばちゃんが出てきて
「誰かを待っているの?」と声をかけてきた。

僕がヒッチハイカーであることを告げると、
「誰か呼んであげましょうか?」とまで申し出てくれたのだが、
行き先がイエローストーンであることを知ると、
「ごめんね」と言った。

ここからイエローストーン国立公園に向かう車なんて
捕まえることができるのだろうか?

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16時になると雨が上がった。

僕は行き先を国立公園手前の
“Jackson”という町に変更した。

ジャクソン方面へと続く道の上でボードを掲げて親指を立てる。

車の交通量は徐々に減って行くのだろうか?
それとも帰宅ラッシュがあるのか?

レスポンスはよかった。ドライバーと目が合うと笑いかけてくれる。

この些細な反応がヒッチハイクの成功に繋がっているようにも感じる。

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30分後に

車が止まってくれた。

 

 

ロバートさんは見た目からしてレッド・ネックだった。

いや、現実に顔と鼻が赤かった。

 

 

「酒を飲んでも構わないかい?」

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そう訊かれても、車に乗せてもらった以上
「はい」としか言いようがない。

ロバートさんは町外れの酒屋で瓶ビールを買うと、
車の中にあるクーラーボックスにそれらを移し替えた。

最初は飲酒運転に少し戸惑っていた僕だったが、
少し話してみると、すぐにこのおじさんが
陽気な酒飲みであることが分かった。

ガソリンスタンドではホットドッグを僕にごちそうしてくれた。

僕はここぞとばかりにトッピングの野菜を盛りつけて
レジに持っていくと、店員は「サラダみたいだわ」と飽きれて言った。

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サラダです。

 

 

 

ドライブが再開するとロバートさんは
僕に瓶ビールを一本分けてくれた。

「ただし対向車がきたらビールを隠すんだぞ。いいかい?」

といたずらをするガキンちょのようにそう言った。

 

 

ロバートさんの行き先は車で30分~40分走った先にある
“Bear Lake”というらしい。

そこには奥さんの待つ家があるらしいのだが、
そこは冬になるとかなり冷え込むのだとか。

 

 

「おれはなぁ、はっきし言って寒いのが嫌いなんだよ。
だけど、うちのカミさんときたら寒い場所が
好きだっつーもんだから仕方ない。
冬になると暖炉に火をつけて、犬を撫でながら
「人生っていいわねぇ」って言うんだ。おれには理解できないよ!」

 

 

ロバートさんはソルトレイク・シティで働いているらしい。
電気の修理工のような仕事だと言っていた。

ここから二時間かけて一定期間働き、
また別の場所で働くという特殊な働き方をしており、
家に帰るのは一ヶ月ぶりなのだとか。

じゃあビールも飲みたくなるよね。

 

 

「おれはこの道が好きでねぇ。
この道では思うぞん分酒が飲める!
警察なんていないも同然さ。
だってこの町には警官が一人っきゃいないんだ!」

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そう言っている間に
パトカーが向こうからやってきて、
車とすれ違った。

 

 

「じゃあ、あれがその一台ですね」

「いや、あの車は別の州だな」

 

 

走っている道はワイオミング州とアイダホ州の間を
縫うように続いていた。

アイダホ州はヒッチハイクを禁止している州の中でも
ひときわ厳しいらしい。

さすがにこんな田舎では取り締まりも厳しくはないだろうが、
罰金を喰らいたくない僕は
できることならアイダホ州は避けて通りたかった。

 

 

 

陽気な酒飲みロバートさんには
途中の分かれ道で降ろしてもらった。

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今いる場所はユタ州だった。
周りには畑しか広がっていない。

分かっているのはどちらの方角に歩いて行けば
ワイオミング州に戻れるかということだけだった。

ワイオミング州まで5kmあるのか、
それとも10kmあるのかは分からなかった。

ただ、今日はその途中の道でテントを張るのも悪くないかもな、
なんて映画の中の旅人っぽいことをしてみても
いいかもしれないと考えていた。

 

 

 

歩き出した途端声がかかった。

 

 

「ジャクソンかい?
乗ってく?」

 

 

「あ、はい。
よろしくお願いします☆」

 

 

イッツ・ミラクル。

 

 

 

 

 

 

 

 

「君が

“Jackson” って書いたボードを持ってたからね。
それよりワイオミングまで距離があるけど
どうするつもりだったんだい?」

「いやぁ~、歩けば着くかなって」

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アレックさんはジャクソンに奥さんと
二歳のお子さんと暮らしているとのことだった。

アレックさんはロサンゼルス出身だが、
奥さんがワイオミング州出身とのこと。
こちらに越してきたようだ。

それに今日はお子さんの誕生日らしい。
「おめでとうございます」と僕は言った。

 

 

走っている間に、雨は降ったり止んだりした。

車は雨を巻き上げて走る。

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アレックさんは今日はソルトレイク・シティからドライブを始めたらしく、
どこか眠たそうにあくびをしていた。

お喋りも一段落すると、
アレックさんのiPhoneの曲をカーステレオでかけてもらったのだが、
僕はそれが自分の旅を盛り上げてくれるように聞こえた。

山々に囲まれるワイオミングの風景を車の窓から眺める。
雨が降っていると少し物悲しく見える。

 

 

そんなシーンを演出してくれたのだが

「Imagine Dragon」の”Amsterdam”
という曲だった。

 

 

 

というか、旅で聴いた音楽って
その時何を見ているかと密接に繋がるから、
何を聴いても『旅っぽいなぁ~』と思っちゃうんだけどね。

 

 

 

ジャクソンの町外れにあるマクドナルドで
僕は車を降ろしてもらった。

途中で買った「クリフ・バー」を山沢山と20ドルを頂いた。

お礼を言ってありがたく受け取る。

「お子さんの誕生日おめでとうございます」
僕がそう言うとアレックさんは「ありがとう!」と言って
スマートに立ち去って行った。

そう言えば相棒の持っているデッド・ベアの名前は
同じ名前だったなぁということを思い出した。

 

 

 

 

 

マクドナルドでいつものように閉店まで作業をし、
僕は今日の寝床を探した。

ジャクソンという町は比較的所得のある人が暮らす町らしい。

町はけっして大きくはないが、整備されていた。
公園で寝ているとレンジャーが叩き起こしにくるそうだ。

そのため今日は川沿いのベンチを陰にする様な形でテントを張った。

辺りには電灯はほとんど灯っていない。
すぐ目の前には川が流れており、水の流れる音がずっと聞こえていた。

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