「10年同じことをし続けると」

世界一周708日目(6/7)

 

 

ドアの外

から足音が聞こえる。

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窓の外はぼんやりと薄明るい。

二人とも仕事に行のだろう。
そう思いながらも僕は目を閉じた。

 

 

 

 

起きたのは8時半。部屋には僕一人しかいない。

冷蔵庫から昨日の残りものご飯をいただき、
使った食器を洗った。

昔は人の家で気を遣うなんてことが
全くと言っていいほどできなかった僕が今では、
寝袋やブランケットを綺麗にたたんで部屋の片隅に置くし、
シャワーの時に抜け落ちた髪の毛を拾ってごみ箱に入れるし、

なんならトイレは座ってするくらいに
(いや、それは自発的にやっている)

気を遣う人間になれたんだから驚きだ。

 

 

 

やっぱり「気を遣うシチュエーション」
自分が置かれてみないことには人は変われないのかもしれない。

ちなみにジェイの家は水の節約のため、
トイレを一回の使用ごとに流したりしない。
僕は訊ねるまでもなくそのルールを理解した。

 

 

 

 

支度を済ませると鍵をかけずに部屋を出た。

「いつでも開けっ放しさ♪」とジェイは言っていた。
このエリアはよっぽど治安がいいのだろう。

 

 

外に出てまず一番先に向かったのは
「Trouble Coffee(トラブル・コーヒー)」という小さなカフェ。
こんな朝の時間から店内は混み合い、
外に順番待ちの列ができているた。

IMG_4513あ、これ、外に置いてある椅子。

 

 

そこで2.5ドルのコーヒーを買い、
外で煙草をふかしながらまったりとコーヒーを飲んでいると、
お客さんの一人から
「近くに子供がいるから煙草は吸わないでくれ」
と注意を受けた。

いやはや失礼しました。風上にいるから大丈夫かなって、
近過ぎましたね。僕は謝って5mほど距離をおいた。

こういう気配りができるのは実に素晴らしいと思う。
注意をしてきたのはカフェの前で遊ぶ子供たちの親たちではなく、
後からきた人物だったのだ。

こういう気配りができていることから、
この地区に住む人たちの距離感のようなものが
伝わって来たような気がした。

 

 

 

近くの小さなスーパーは個人経営のようで、
中は食べ物の他にコスメティックや
地元のアーティストたちが作った
ハンドメイドの雑貨も置かれていた。
スーパーなのにいるだけで楽しくなってしまう様な場所だ。

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僕はそこでベーグルを買い、
食べながらダウンタウンのある方角へ歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

頭のボヤボヤ

にはムラがあることが分かった。

特に起きたばかりの時はかなりボヤボヤする。
そしてコーヒーを飲んだとしても全く効果はない。

脳みその一部が眠ったままなのか?

味覚も鈍いし、体の感覚そのものが薄い。

だが、バスキングをし終わったあとや、
適度な運動をすると感覚がいくらか戻ってくる時がある。

そう考えると次に必要なのは
息切れするくらいの運動なのではないだろうか?
と僕は考えた。

体も疲れをあまり感じないのだ。
僕はこれを「ナチュラルハイ」と呼ぶことにした。

自分の体の限界まで攻めるというわけではないが、
僕はスタスタと歩きだした。

ダウンタウンと呼ばれるエリアまでは
7km以上もあったが、知ったことか!

 

 

 

 

 

ジェイの住むエリアの近くからアイビーロードという道を
ひたすらに北へ向かって歩いて行った。

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チャイナタウンが続き、
そこで見つけたアイスクリーム屋さんでカップのアイスを
2.5ドルで買った。なかなかに美味しい。ような気がする。

そして昨日訪れたスターバックスに到着した頃には
背中は汗でしめっていた。だが、感覚が鈍い。

 

 

 

ちょこちょこと一休みはするものの、
バスに乗るつもりはない。

目覚めよ体!
あぁ、なんでギター持ってきちゃったんだろうな?

僕はサブバッグだけでなくギターも持って来ていた。
まぁ、どこかでバスキングができるだろうと思ったからだ。

長距離を歩くと、膝のすぐ脇をギターケースが擦れるのが分かる。
nudie jeansの膝の脇の片側は擦れて穴が空いている部分もある。

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マップアプリをこまめに確認し、
自分の今いる位置を確かめながら進んでいった。

サンフランシスコには急な坂が多いような気がする。
それなのにも関わらず、何人ものランナーが
街を走っているから驚きだ。

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虹色の旗がはためく、
ゲイ・ストリートらしき通りを抜け、
見つけたセーフ・ウェイでジュースとクリフ・バーを買った。

お金をつかわなければ街を楽しむことはできないだろう。
それにしても僕はどうでもいいものに金を使い過ぎてるな。

 

 

 

 

そして6kmほどを歩き、向かった先は
アジアン・ミュージアム」だった。

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昨日ヒッチハイクで
僕を乗せてくれたジョアンさんが
僕にここを教えてくれたのだ。

今日は日曜日ということもあり、なんと入場が無料

クロークにギターとサブバッグを預けて、
僕はのんびりと館内を見てまわった。
中には日本の浮世絵なども展示してあった。

「根付け」というポーチにつける小物を見て、
ストラップの文化は江戸時代からあったのだなぁと感心したりする。
まぁ、なかなかに面白かった。

何よりタダだしね。

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この水墨画に「ビビッ!」ときた。
モロッコで会った水墨画家のシンペイ兄さんが見たら
なんて思うだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

外では

インド人がストライキを起こしていた。

あの特徴的な鼻の形、皮膚の色、少し癖のある黒髪。
頭にあのターバンを巻いた人や、
サリーをきたおばちゃんなんかを見ると、
僕は無性に愛おしい気持ちになる。

いや、向こうからしてみたら
「うわっ!キモッッ!」って感じなんだろうけど、
インド人は好きだ♪

 

 

そこではサモサやチャイが無料で配られていた。

ジンジャーの入ったあつあつのチャイをすすりながら
僕はアスファルトの地面に腰を下ろし、太陽の下で風に吹かれた。
あぁ、マジで幸せだな…。

 

 

ここが天国だとしたら、僕はそれでいいと思った。

いやいや、死んでねーから。

インド人のストライキ

 

 

 

 

美術館のWi-Fiでルートを調べて僕はバスに乗った。

入り口付近の席でまったりしながら座っていると、
向かいに座ったおばちゃんに「これが読めないの?」と
優先席を移るように注意をされた。

いやはやすみません。
次回からは気をつけるからゆるしてちょんまげ。

 

 

 

そして次に向かった先はパタゴ・ニアストアだ。

倉庫をそのまま店舗にしたようなサンフランシスコ店。
ここもまたいい味を出していた。

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まおからもらったTシャツはもう限界。

 

 

何も買うでもなく、店の中をぶらぶらとウロつき、
スタッフさんとのお喋りを楽しんで店を後にした。
明日ビーチの清掃があるらしい。参加しようと思う。

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本日最後

のシメは

ノース・ビーチ

ここがサンフランシスコのビーチで一番の観光地らしい。

 

 

通りには何軒ものお土産やが立並び、
ストリート・パフォーマーの姿も見かけた。

スピーカーから爆音で音楽をかけて
即興でスプレーペイントを仕上げるクールなヤツらや、
子供の注意を引こうと動きまくるスタチュー(銅像パフォーマンス)
もちろんBGMと共にスチールパンなんかを鳴らすヤツらもいた。

適当な場所を見つけた僕はギターを構えた。
もはや、ギャグですからね。僕の存在は。
まぁ、楽しんでいきましょう。

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向かいは車道になっており、交通量は多くなかったが、
僕は声を張らなくてはならなかった。

数曲唄ってもお金はほとんどはいらなかったが、
通り過ぎる人たちはどこか笑顔。まぁ、楽しきゃいっか。

 

 

 

 

「あ!」

「え?!ウソだろ!」

 

 

 

目の前で見覚えのあるヤツが足を止めた
あの大学生三人組の一人だ

 

 

「他の二人はどこ言ったんだよ?
てかロサンゼルスまで行くんじゃなかったの?」

「ああ、アイツらは今別のとこにいるんだよ」

 

 

旅の中で出会った他のヒッチハイカーが
自分と同じ場所にいるとどこか安心する。

『そうかお前もここに辿り着けたんだな』
って仲間意識が生まれる。

挨拶だけして彼は去っていった。SFCを楽しんで!

 

 

僕は嬉しくなって演奏を再開した。

するとすぐに一人の女性が声をかけてきた。

 

 

「あなたクリスチャン・ミュージックはできるの?」

「いや、自分のオリジナルがほとんどっす♪」

 

 

 

すると彼女の態度は
いきなり険しいものへと変わった。

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「あなたみたいなヤツが
善良な人をたぶらかして
お金をせびっているのね!
あなたは悪魔の手先よ!」

 

 

ワーワーと言いたいことを矢継ぎ早にまくしたてる。
僕が口を挟む間もない。

別に僕は聖者でもなんでもないので、
悪魔だのなんだのと罵られようが反感は湧かなかった。

いや、キリスト(主)に仕えているという人間が
ここまで人を罵倒できるのがおかしくてしょうがなかった。

 

 

「悪魔の手先!」

「は~~~…

そうかもしれないっすね♪」

「そんなの
わかってんのよ!
ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ~」

「あの、ひとつ言っときたいんですけど、
あなたが発する言葉が人を傷つける時もー..」

「ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ…」

 

 

やれやれ。

 

 

自転車に乗った女のコが足を止めて
こっちを見ているのが分かった。

目が合うとジェスチャーで
「そんなん無視してさっさとずらかった方がいいわよ!」
とアドバイスを送ってくれたので、
僕はさっさとギターをしまった。

その自称敬虔なるキリスト教徒は
言いたい放題いって満足すると同じように去っていった。

 

 

 

 

 

通りの一番一踊りが多い場所はバスキングなんて
やれそうにもなかったし、こっちもやる気がなかったので、
場所を移ることにした。

場所を移ると路上演奏をするパフォーマーの数も増えていった。

適当な場所でギターを構えた。
肩の力を抜いてゆったりとした気持ちで唄う。

弦が切れると、座って交換して、
そのままの姿勢で唄ってみたりもした。

歩行者より視線を下げると意外にレスポンスが多い様な気もした。

アガリは25ドル。お、メシ代!

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時刻は

20時前。

マクドナルドでジェイの家までのバスのルートを調べると
僕は路面電車に乗った。

 

 

路面電車はひとつずつ駅に止まり、
なかなか先へは進まなかった。

少しずつ気持ちが焦ってくる。
もしかして僕の分のご飯を作ってくれて待っているかもしれない。
あぁ、こんなことなら、さっきのマクドナルドで遅れるって
メールしておけばよかった。

遊ぶのに夢中で家に帰るのが遅れる
子供の時の気持ちを僕は思い出した。

くっそ!これがジェイ一人なら気が楽なんだけどな。

彼女もいると、ほら、
そういうことに腹立てられそうじゃん??!!

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僕の焦りとは裏腹に、
乗り換えのバスはなかなかやって来なかった。

そうか今日は日曜日か!
バスの本数は少ないのかもしれない。

仕方がないので確実にバスが来る場所まで走って行くことにした。

日が暮れると気温が下がり、
霧がたちこめるようになっていった。
いつもなら気にしないが
治安がいいのか悪いのか分からずちょっと怖い。

 

 

来る時も越えた山をジョッグで迂回するように走り、
どこだか分からないバーの通りを走り抜け、
汗だくになってバス停へと辿り着いた。

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「ご、ゴメン。
帰ってくるの遅れちゃった..」

 

 

ドアをそろりと開ける。
叱られるのを恐れる子供のように。

ジェイの家に着いたのは21時半。
夕飯はとっくに終ってしまったようだ。

 

 

「ハーイ。シミ?今日一日はどうだった?
そんなとこにいないで入って来いよ?」

ジェイがそう言ってくれるが、声のトーンは低めだ。
喧嘩のあとのよう。

 

 

荷物を置き、シャワーを浴びさせてもらい、
部屋で大人しく日記でも書いていようかなと
パソコンを広げようとしていると、
ジェイから「ビール飲むかい?」と声がかかった。

 

 

リビングでマグカップにビールを注いでくれる。

 

 

「それで今日はどうだった?どこに行ったんだい?」

「いやぁ、めちゃくちゃよかったよ?
昨日教えてくれたカフェにも行ったし、
ノースビーチにも行ってみた。

それよりテイラー怒ってない?
ほら、帰ってくるの遅かったろ?」

「なぁに、アイツはいつもあんな感じさ。
静かなヤツだ。今も部屋で映画観てるよ」

 

 

「そっか…。

それよりさ、泊めてくれてありがとね。
ジェイと会えなかったらここまで
サンフランシスコを楽しむことができなかったと思う」

「何言ってんだよ?
おれも昔は色んな人たちによくしてもらったんだよ。
だからこれはシミのためだけじゃないよ?」

そう言ってジェイは話を聞かせてくれた。

 

 

「18の時に旅に出たんだ。
二年旅をして二年働いて、また旅に出る。
ずっとそのサイクルだった。

帰ってきたら友達やガールフレンドはいないし、
もちろん仕事もなかった。
だから夕方4時から朝の8時までバーで仕事をしていた。

あの時は何もできなかったな。
帰ってきてもすぐに寝ていたし、
休日には何もする気が起きなかった。

そんな生活を10年続けて、
ようやく自分の生き方が見えて来たんだ。
テイラーにも出会えたしね♪」

 

 

「いつからパタゴニアで働いているの?」

「パタゴニアと会ったのは去年さ。
ニューヨークで会った友達のツテでね。
まとまった期間パタゴニアで働く。
そしてまとまった休みをもらって色々な場所へ行く。

もちろん仕事はパタゴニアだけじゃない。
だけど、おれは仕事と旅が密接に繋がった生き方がしたかった。
それが今はようく形になってきたってとこかな?」

 

 

 

この時僕は

10年同じことをし続けるとそれが仕事になる

という言葉を思い出した。

一番始めは浪人時代の講師がこのことを言っていた。
「10年後に笑えていればその人の勝ちなんだ」と。

そして今では小説家として執筆活動をしている坂口恭平も
同じことを言っているし、他にも誰が言ったかは覚えていないが、
この10年という単位は僕にとってかなり重要なことのように思えた。
旅を10年続ければその人は旅で生きていけるようになる。

それは単に10年待てばいいといいうことじゃない。
同じことを10年続けて行くにはもちろんし試行錯誤があって
暮らして行けるだけのお金が稼げる価値を生み出す力が
培われるということだろう。

えっと、僕が漫画を描き始めたのはいつだ?
21歳の時か。あと5年。

「旅する漫画家」が仕事になるのは
5年後ってことか、な?

 

 

 

 

そうだ。

この一瞬一瞬が僕にとっては大事なのだ。

 

 

「人は自分の知らないことを知っている」

だからトークはすごく大事。
話すことはもちろん、聞くことも。

 

 

この音楽のセッションみたいな言葉のやり取りを楽しみ、
そこに抽出されたものは
まさに旅の醍醐味なのだと僕は思う。

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