「サンドラ」

世界一周731日目(6/30)

 

 

野宿する

のはアメリカで最後にするつもりだった。

サンディエゴでツバサさんと
ウェルカムボード作製のやり取りをしている時、
ツバサさんは僕が野宿やヒッチハイクをしていることに対して

「あまりそういうことはやってほしくはないけどね」

と言ってくれた。

無事に日本に帰らなくちゃ意味がない。
もう野宿もヒッチハイクもやらないだろう。

僕はそう決めたはずだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?

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いやいや!

断っておくけど僕も
『安全だ!』と思わなきゃ
ここでテントなんて張らない。

えっと、何が言いたいかと言うとですね。

意外にメキシコって安全ってことです。

 

 

世の中には自転車で外に寝泊まりする人もいる。

ガソリンスタンドは意外にいい野宿スポットらしい。
授業員にテントを張る許可さえもらえば、
そこはアフリカのキャンプサイトとあまり大差ないと思う。

 

 

 

ここはメキシコ、サンタ・アナの町外れ
そこにあるモーテルの脇

 

 

 

 

 

モーテルのスタッフは
昨日のおばちゃんとは違う人に変わっていた。

トイレを下さいというと
「なんだこの貧乏人は?」とでもいうような顔つきで
渋々トイレを使わせてくれた。

そこにはシャワーもあったのだが、
僕はそれを素通りして一番置くのトイレへ使わせてもらった。

シンクがあったので、そこでタオルを濡らして軽く石鹸でもむ。
個室トイレの鍵をかけてそれで体をぬぐった。
強く肌を擦ると垢が出てきた。

トイレの外にはシンクがあった。
モップが入っていので掃除をする際に利用するのだろう。
僕はそこで頭を洗った。

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『完璧な高さだ!頭を洗うのに!』
なにもためらわず頭を突っ込む。

 

 

ここまですると体はかなりリフレッシュされる。

おいおい。メキシコに来てまで何やっているんだよ?と思ったが、
まぁヨーロッパやアメリカで見につけた都市型キャンプのテクニックは
こんなところで活きるのだ。
シャワーがなくてもシンクとタオルと石鹸でリフレッシュ!

 

 

それだけ済ませるとおばちゃんにお礼を言って外に出た。

またヒッチハイクで南に向かおうと思う。

車が捕まるまでどれだけかかるか分からない。
だが、やれないことはないだろう。

 

 

 

 

 

チャイニーズレストランの前で僕は荷物を下ろし親指を立てた。

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お兄さんがレストランから出てきて僕に声をかけてきた。

 

 

「君かぁ。昨日そこにテント張ってたやつは。
のど渇いてない?レモンティー飲む?」

 

 

そう言って、お兄さんは僕をレストランまで連れて行くと、
大きなカップに氷のたっぷり入ったレモンティーをプレゼントしてくれた。
そのついでにペットボトルに水も補給させてもらった。
炎天下の中でずっと立っていなくちゃならないのだ。
こういうサポートは本当に嬉しかった。

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サンクス!爽やか兄さん!

 

 

お兄さんにお礼を言って所定の位置についた。

ボードは掲げずに親指だけ立てた。

ヒッチハイク開始から20分もせずに車が止まった。

え…??嘘?

 

 

 

 

「えっと、グアイモスまで行きますか?」

「そのすぐ近くまで行くわよ!」

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車には初老のファンキーなおばちゃんが座っていた。

中にはレゲエ・ミュージックがかかり、
ほんのりとマリファナの匂いがした。

僕はお礼を言って車に乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンドラ

は英語がペラペラだった。

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助手席からのこの眺め、好き♪

 

 

というのもサンドラは
アメリカのアリゾナ州のトゥースという町に
レストランを持っているというのだ
片道5時間かけて自分の住む村まで戻るらしい。

サンドラの持つ旅の経験も凄いものだった。
アメリカはほとんど州をハーレー・ダヴィッドソンで旅し、
若い頃はメキシコ全土をヒッチハイクで旅したらしい。

メキシコはヒッチハイクが思っていたよりもポピュラーなのか?

 

 

サンドラは7年前に
日本人のジュン(確かそういう名前だったと思う)
という男の子にあったそうだ。

彼はロサンゼルスからアメリカに入り、
ここまで自転車で旅をしていたそうだ。

アリゾナで偶然ペヨーテ(幻覚作用のあるサボテン)を見つけ、
そこから写真を撮るようになったのだとか。

サンドラさんの住む村で
プリミティヴ(原始的)な生活を送るワークショップに参加し
交流を深めたらしい。

「サボテンから繊維を作る方法を彼は学んでいったわよ」
そうサンドラは懐かしそうにいった。

今年の二月にも彼と再会する時があったそうだ。
交流はまだ続いているらしい。

 

 

 

 

自己紹介の時に僕はインド人から教えてもらった
いつものジョークを口にした。

「ノー(No)・ジョブ(Job)、
ノー・マネー(Money)、、
ノー・ハニー(Honey)。
イッツ・ファニー!ですよ」

「ははは♪でもイッツ・サニーよ?」

 

 

フロントガラスから空を見上げた。
確かにそこには青空が広がっていた。

確かにな。いい天気だ。それでいいじゃん?

 

 

 

「私の住む漁村はね、とっても貧しいのよ。
ほんとうに何もないところなのよ」

そうサンドラは自分の暮らす村のことを教えてくれた。
だが話しぶりからはそこでの暮らしを気に入っているように思えた。

 

 

 

「もしよかったら私の村まで来ない?」

「喜んで!」

 

 

ヒッチハイクで出会う人。
もはや波長が合っているとしか思えない。

この偶然の「縁」がどこへ僕を連れて行くのか
確かめてみることにした。

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サンタローサの近くは道路が完璧に舗装され、
街灯が等間隔に並んでいた。

そこを抜けると一気に環境が変わった。

道路は未舗装になり、海沿いにボロボロの家々や
キャンピングカーの後ろの部分だけがポツポツと並んでいる。
見るからにお金を持っていなさそうな村だった。

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ラ・マンガ」というのがサンドラの暮らす村の名前だった。

そのちっぽけな村の真ん中を通る道を車で走りながら、
「ヨロロロォォォ~~イ!」と変な声を出して
サンドラは自分が帰ってきたことを村の人たちに伝えた。

何人かは家から出てきて、世間話のようなことを話した。

 

 

 

「ここは私が作った幼稚園なの」

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そこにはこじんまりとした幼稚園があった。
建物には確かに「SANDRA DAVILA」と彼女の名前が書かれていた。

 

 

 

 

 

サンドラの家は村の端の方にあった。
男たち三人が何か工事をしていた。

「おぉ、戻ってきたんだね」と彼らと話をするサンドラ。
今新しく自分の車を止めるガレージを造っているようだ。

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彼女の家の外観はかなり無機質なものだった。

だが中に入ってみるとそのイメージは一気に変わった。

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置かれている物にセンスを感じる。
何もないのに豊かな感じがするのだ。

 

 

工事をしてたおっちゃんと
その子供たちは一旦手を止めて休憩に入った。

サンドラはコーヒーを淹れてくれた。
濃い味のとても美味しいコーヒーだった。

 

 

家からは海が見えた。
家の中にいても涼しい風が入ってくる。

落ち着ける空間だった。

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実は弾けません。

 

 

工事のおっちゃんたちと話していると、
おっちゃんはグアイモスの町まで僕を送ってやろうか?と申し出てくれた。
サンドラはどうする?と僕に尋ねた。

僕の答えは決まっている。
やっぱり家に泊めてもらうのを遠慮する?

いや、違うでしょ。

ここに来たのは何か意味があるからだ。僕はそう考える。

 

 

「今日はここにステイします。
サンドラの家もこの町もなんだか気にいちゃいましたから♪
今日泊まっても大丈夫ですか?」

「もちろん!」

サンドラは明るい声で答えてくれた。

 

 

ラテンのノリが素敵なおっちゃんには
似顔絵をプレゼントした。

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うん。インプレッション(印象)で描くから。
よく捕らえられたんじゃないかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンドラが

サンタ・ローサの町へ買い出しに言っている間、
僕は村を散歩してみることにした。

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村にはほんとうに何もなかった。

海にはプカプカと小さなボートが浮かび、
その横では色の濃いペリカンが魚を獲ろうと列を成している。

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貝殻をメインにした小さな土産物屋が出ていたが、
売れている様子はなかった。

レストランがあるが、これはサンタローサから来た人が
立ち寄ることで成り立っているのだろう。

どこの店も暇そうにしていた。

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教会の前の空き地には遊具が置いてあったが、
どういうわけかそのどれも奇妙に歪んでいた。

きっと大シケが来た時に風でやられてしまったのだろう。

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野良犬も木陰で暑そうにしている。

メキシコには野良チワワがいるのだ。
野良はみなそろって臆病なやつらだ。

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中型犬は怖い..。

 

 

 

 

ざっと村を見回って僕はサンドラの家へと戻った。

残ったコーヒーをマグに注ぎ、すすりながらノートに絵を描いた。

戻ってきたサンドラと一緒に近くのレストランで買ってきた
魚のフライと味のついたライス、それとできたてのトルティーヤ。

近郊で獲れた魚はかなり大きく、
指で肉をむしりライスとレタスと一緒に包んでタコスを作る。
ライムを絞って、サルサソースをかければメキシカンフードの完成だ♪

瓶のコーラとの相性はばっちしだった。

食後に二人でアメリカン・スピリットを吹かした。

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ここでは水が貴重であるのだとサンドラは教えてくれた。

近くの山から水を運んできてもらうらしい。
トイレもおしっこくらいだったら一回ごとに流さない。

『今日はシャワーはなしだな』僕はそう思った。

 

 

 

この辺りはかなり暑いかった。
日陰にいてもいつの間にか汗をかいている。そんな場所だった。
まぁ、シャワー浴びなかったくらいで死にはしないからね。

ちなみに電気はバッテリーとソーラーパネルから作られているようだ。
流し台の下には三つのバッテリーが繋がっていた。

 

 

 

日が沈むと僕はパソコンを広げて日記を少し書いた。

サンドラが「これオススメなのよ♪」と言って見せてくれたのは
世界中の路上で有名な曲をパートごとに動画に撮り、
それをひとつにまとめるというものだった。

僕も演奏する「Stand by me」が一曲目から始まる。
あぁ、音楽って簡単に国境を越えちまうんだな。
僕はそれらの映像を見ながらそう感じた。

 

 

 

 

波の音を聞きながら外の椅子に座ってサンドラと話をした。

対岸には町の明かりが見えた。
だがこちら側にはほんの2~3軒しか電気の灯った家はなかった。
レストランはジェネレーターで電気を作っている。
そうサンドラは教えてくれた。

 

 

 

 

「8年前、私はある男とここに移り住んだの。

何もないところだったわ。
そして二人でこの家を造ったの。

だけど男が出て行って、私が一人でここに暮らすようになった。

最初は『なんで自分はこんな場所で暮らしているんだろう?』
って疑問に思うことがあったわ。一人でいることが怖かった。

そうして時間をかけてゆっくりと
一人でいることを楽しめるようになっていったの」

 

 

サンドラはもともと町で暮らしていたらしい。
アメリカにレストランもあるので、お金には困っていなさそうだ。
それでも彼女はここで暮らすことを決めたのだ。

 

 

「インドのムンバイに行ったことがあるの。
とても貧しいところだったわ。

ある時町で物乞いの女性に声をかけられたの。
お金を渡そうとしても受け取ろうとしないのね。
ついて来てって言うから私ついていったのよ。
けっこう歩いたわ。
『どこまでいくんだろう?』って。

一軒の売店でね、そこでミルクを買ったの。
彼女に利益なんてほんのこれっぽっちしか入らないのよ?
わざわざそこの売店まで行って買う理由は
彼女がそういうコミュニティに属しているということね。

私はその時自分の無力感に打ち拉がれたわ。
『私には彼女たちを救うことはできっこない』って。
だけど、ここでならできる。

ここの漁村は本当に貧しいの。私が外貨を稼いでくる。
そしてここに還元することができるのよ。
さっきここを工事していた人たちは仕事が必要。
私は水を運んできたりガレージを作ることはでできない。
だからお互いに助け合っているのね。

私はそこまでお金が必要じゃないわ。
大事なのはコミュニティの一員として
ここで暮らし、それを楽しむことね」

 

 

サンドラは二週間アメリカの店で働き、
二週間ここでリラックスする生活を送っているらしい。

あと4年間働いた後は完全にこちらで暮らすようだ。

サンドラは自分のできることを通して、
このラ・マンガという小さな漁村において重要な役割を担っていた。

他にも幼稚園に毎朝交代制で朝ご飯を作る制度を
母親たちの間に導入したり、
頼まれたものがあったらアメリカから
手に入れてきたりするらしい。

 

 

「それでもね、あなたも知っている通り、
ここの人たちはお金を持っていないわよね。
だから私は物々交換みたいにして彼らのお願いを聞いてあげてるの。
ここで手に入るのものは大体が魚ね。
でもそれは私の店で使うことができるのよ」

 

 

少し原始的に聞こえた「物と物の交換」。

それって彼女がお金がなくなった時に
みんなが手の平返すようになるんじゃないかと、
僕はいささか懐疑的だった。まだ僕は「お金」に縛られているのだ。

そうならないコミュニティ作り彼女はしているように思えた。

 

 

「仮に何もない場所で
あなたが水を求めていたとするでしょう?
お金なんてそんな場所ではただの紙くずよね。
もし目の前に水を与えてくれる人がいたらどうする?
私だったらこのゴールドの指輪と交換してもらうわ」

 

 

もちろんこれは比喩だが、
彼女の言いたいことはお金の持たない、使わずに生きていくことを
表しているのだということが分かった。

僕はなんて言えばいいのか分からなかった。
そのやり取りは人間の良心に寄るところが大きい。
お金がなくなった人間は誰からも見放されてしまうんじゃないか?

 

 

「それができたら素晴らしいですよね。
理想的だと思います。ただ、僕は少し怖いんですよ。
やっぱり暮らしていくためにはお金が必要じゃないですか?」

「そうね。でも不可能じゃないわ」

 

 

確かにそれをやるには準備が要るだろう。
だからこうしてサンドラは働いているのだ。

 

 

この村は一種の「モデル」だと思った

彼女は行動を起こしてそれを理想へ近づけていっている。
行動で示しているのだ。

 

 

ここにもシンプル・ライフを営んでいる人がいた。

物は持たずに、それでいて豊かな生活を送る。
コミュニティとの関わり合いも今回学んだことのひとつだった。

 

 

 

 

「ありがとうございます。
やっぱり今日、ここに留まって良かったです。
サンドラから学ぶことが沢山ありました」

 

 

「それは私もよ♪

いい?あなたはまだ若いは。
これから先何が起こるかなんて誰も分からない。
ただ、あなたが旅してきた日々はきっとあなたの財産になるわ。
それは本のページと一緒。

フツーの女のコがいたとするわね。
大抵その子の本はこう「学校→青春→仕事→結婚」
たったそれだけ。
きっとその子は自分の本のあまりの薄さに
最後にはがっかりするでしょうね。

でもあなたは違うわ。だから自信を持ちなさい。
あなたはきっとうまくいくわ♪」

 

 

 

「サンドラは26歳の頃、何してたんですか?」

「結婚して働いてたわ。その時は分からなかったけど、
それから色々な場所を旅して、いまここでこうして暮らしている。
今の人生が私は大好きよ♪」

 

 

人生なんて何が起こるか分からないし、
結婚して家族を持つことが最終的な幸せとも限らない。

その人の人生なんて、当の本人しか分からない。
彼や彼女にしか自分の人生は生きられないからだ。

 

 

 

ここにこうして自分のやり方で人生を楽しんでいる人がいる。

サンドラに会えただけで僕は幸せだなと思った。

外にテント張り、波の音を聞きながら目を閉じた。

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2 件のコメント

  • お、アミーゴに滞在中か・・・
    懐かしい。
    でも三日以上の沈没はお断りよ。
    日本は梅雨明けです。

    • >hisyさん

      オラ〜♪

      hisyさんも泊まられたことがあるのですね!
      もうヤヴァイっすよ!

      何がやばいって、
      「宿からコンビニまで30m」っていう
      立地条件が自堕落的にやばい。

      滞在5日目です。

      ここ数日コンビニと宿の往復しかしてませんが
      今日はいよいよギターもって唄いに行きますよぉ〜♪

      欲出さずに行こう!

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