フジロック最終日⑥

 

 

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シフトが終わる時になると、

「このまま僕たちがここを立ち去ってもいいのかな?」

という気持ちになった。

ボランティア活動のシフトはもう終わりだが、来場者たちは活動をやめないからだ。フジロックが何時まで続くのかはわからない。

確か端の方から徐々に来場者たちは締め出されていき、最終的には入場ゲートから追いやられていくんじゃなかっただろうか?

 

ごみは心配だったが、僕はどうしても観にいきたいライブがあったため、後ろ髪をひかれる思いで場外エリアをあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

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帰りの会も例年通りあっさりししたものだった。

 

夜のシフト担当であるナイト班のスタッフの中には知った顔も多く、とりたてて、やりきったという感動みたいなものはない。そのうちの何人かのボランティアスタッフは今回の参加がフジッロックに来たのが初めてだったらしく、興奮冷めやらぬ顔をしていた。

僕も初めてフジロックに来た時はそうだったのだ。人間は慣れていってしまう生き物だ。感動さえも。

「あぁ、終わったな」という気持ちになり、そして365日後が恋しくなるのだ。

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一通りスタッフたちの感想やインフォメーションが終わると四日間の活動をねぎらうために紙パックに入ったジュースが振る舞われた。

僕はそれを「くっ」と飲み干すと、さっさと着替えて本部から駆け出した。

ボランティア活動は終わったがフジロックは終わっていない!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

向かった先はオアシスエリアのすぐ隣のグリーンステージだ。

ここで21時からのビョークのライブは絶対にはずせない!

 

ぶっちゃけ僕がビョークを聞き出したのは日本に帰って来てからで、なんなら、ベストアルバムと数枚しか持っていないのだけれど、それでも「Hyperballad」なんて聴いてしまった時の衝撃は今でも覚えている。

ビョークは先進的な音楽しかやらないために、昔に作った曲が今の当たり前であることがよくわかった一曲だ。曲がこの世に生み出されてから10年以上の時が経過していたが、あの曲が色褪せていない気がするのはぼくだけだろうか?

https://youtu.be/D0Pv-UkoRC4

 

 

僕は中央に設置してあるスクリーンから20mほど離れたところでポジションをとった。

前に行きすぎてもどうせステージ脇のスクリーンを見ることになるのだ。今は体を揺らす時じゃない。

 

 

 

 

 

 

ステージから出て来たビョークは、ピンク色の衣装に身を包んでいた。

上下ともにショッキングピンク。まるで寝巻きのような格好だった。顔は何かベールのようなもので覆い隠されている。

 

いつも奇抜な衣装をしているけれど、今回はなんだか抑えめになっているような気がした。

なんせビョークは今年で51歳なのだ。そりゃ歳相応のコスチュームに身を包むようになっていくだろう。

でも、僕には今年のビョークの格好は、キーキーと甲高い声を出して笑う日本のお笑い芸人のそれを彷彿させずにはいられなかったのだ。

 

 

 

 

それでも、僕は期待に胸を弾ませながらビョークが歌うのを待った。

始まった曲を聴いた瞬間にリスナーがどよめき立つ。

あぁ、僕はこの瞬間を待っていたのだ。

 

 

 

 

だが、ビョークの歌声を聴いて、僕はすぐに何かがひっかかった。

 

 

 

 

 

「あれ?ビョーク、

 

 

声出てない?」

 

 

 

 

ビョークの声には伸びが欠けていた。あのエモーショナルな発声も苦しそうにさえ聞こえる。

 

そして僕はどうしてそんな風に聞こえてしまうのかを悟ることになったのだ。

僕が愛してやまないビョークの歌声とはCDに録音されたものだ。つまりそれは当時の100%のビョークってことになる。

現在僕が対峙しているのはライブのビョークだ。リアルな時間軸を共に生きる生身の人間が歌う音楽を、ここ苗場スキー場で行われるフジロックで聴いているのだ。

 

 

 

 

 

そうわかっていても、
人が歳をとることの難しさを感じずにはいられなかった。

ビョークが歌った曲の半分以上は僕の知らない曲ばかりだった。

スクリーンにはシュールな映像が映し出されており、それが僕をなんとも言えない気持ちにさせた。

印象的だったのはカタカケフウチョウの求愛だった。

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メスの前に羽を広げたカタカケフウチョウは漫画かアニメに出て来そうなシルエットをしており、それが自然界のものであるようには僕には思えなかった。

これは仲間の受け売りだが、

人間の目に見えている物が本当の姿とは限らない。

光の屈折や空気の歪みの具合で、僕たちの目にはたまたまそのように見えているのであって、鳥たちの世界ではきっとそれは違う姿で映し出されている可能性だってある。

歌詞の内容もわかれば、もっとビョークの世界に浸れたことだろう。

 

 

最後までビョークのライブを聴いていたかったが、21時半になると、僕はグリーンsヌテージを後にした。

残念ながらhyperballadが僕が観ていた30分の間に披露されることはなかった。

それでも僕にはビョークより観たいライブがあったのだ。

 

 

 

 

 

 

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ピラミッドガーデンへと続く道は長く、歩いても歩いても目当てのピラミッドガーデンに到着しないのをもどかしく感じる。何度かこの道を通ってはいるものの、ピラミッドガーデンに行けば行くほど、よりそのもどかしさを感じる気がする。

苗場プリンスホテルの裏手には照明が煌々と光り、そのすぐ近くにあるゴンドラは冬の訪れを待って体を休めているように見えた。

早足でそれらを通り過ぎ、僕はピラミッドガーデンへと向かった。

 

 

ピラミッドガーデンに近づくと、周囲にはテントが立ち並ぶようになる。キャンプサイトはここにもある。

ここにキャンプ・インする人たちは、きっとゆとりを求めているのだろう。

多少メインステージから離れることになっても、ここまでくればテントは密集していないし、プラミッドガーデンから流れてくる音にチルアウトすることだってできる。それにここは騒がしくない。飲食店だってある。

 

 

 

 

 

 

 

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ピラミッドガーデンに着いた時には10名ほどがステージの前に座っていた。

その全員が折りたたみ椅子を持参しており、地面に座っているような人間は一人もいなかった。ちなみに僕は椅子なんて持って来ていない。だって重いし、かさばるし、ステージ前ではしゃげないだろ?

真正面からライブを見たかったのだが、前にいる二人が使っている椅子は地面の僕の視線からだと微妙に邪魔になる高さにあった。こういう時ほど自分が椅子をもっていないことを悔む時はない。くっそ!椅子から引きひきずり下ろすぞ!

 

 

 

 

ライブが始まるまでにまだ30分以上もあったが、僕は気にせずに待つことにした。

たぶん、これが僕が一番見たかったライブだ。だからこそ一番いいポジションで見るためにビョークを切り上げてまでここまでやって来たのだ。

 

 

 

 

 

待ち時間にスマートフォンなどを見るようなことはしない。

なぜなら僕は未だにキャリアと契約していないからだ。

ライブが始まるまでの時間、何をしているのかと言えば、ちびちびお酒を飲んでいるか、もしくは、周りの客を観察しているか、ぼ〜っとしているかのいずれかだ。

これはともち無沙汰の時間をいかに過ごすか、心のトレーニングでもあるんだよ!ライブが始まった時に集中して聞けるだろ。その準備運動みたいなものだよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青葉市子は

ビョークに負けず劣らずの不思議な帽子を被ってステージに現れた。

特にリハをすることもなく、すぐに椅子に座り、ほんのすこしギターの音を確かめると、「こんばんは..」と言って二言三言喋るとライブが始まった。

 

 

 

 

僕には一曲一曲を解説するような知識も語彙もなければ、それを語る文章力みたいなものもないのだけれど、

間違いなく言えるのが、青葉市子のライブが僕の中でフジロックで一番心に沁みたライブだったってことだ

 

 

彼女の曲もまた、僕の旅のストーリーとしっかりと結びついている。

スイスで偶然会ったウォーホルさん(日本人)から青葉市子のことを聞き、
そして、アフリカを旅した時はよく「時計仕掛乃宇宙」を聴いていた。

 

 

「いつか彼女のライブに行きたい」と思った。

でも、結局僕はそう言って行かないのだ。漫画を描くのに精一杯になってしまい、お金も時間も余裕が取れないのが僕だ。

だからこそ、フジロックで青葉市子のライブが観れるとわかった時には、何に変えてもライブに行くぞ!という気持ちになった。

 

 

 

 

目の前でさっきからスマホを向けて動画を撮影しているヤツにいささか腹が立ったが、そんなの会場を歩いたら腐るほどいる。きっとビョークのライブでも百人くらいはステージにスマホを向けていたんじゃないだろうか?

個人的に動画を楽しむのなあいいが、そのうち何人かがYouTubeだかに動画をアップして得意げな顔をしているに違いない。

 

スマートフォンで撮影する動画の質がどんどんよくなる一方で、こうしてライブを録画する人間の数も比例して増えていっているのだろうか?

北欧の何処かの国ではテレビ局が撮影にiPhoneを導入したって話をどこかで耳にした。それくらいスマートフォンのカメラの画質は向上しているのだろう。

というか画面に集中して目の前のライブを観ないだなんて矛盾してない?なんのためにライブ観に来たんだっつーの?録画しながらライブを同時に楽しむだなんて僕にはできない。きっと画面が気になって、画面越しにライブを観るとかいう愚かしい行動をとるだろう。

それに、僕が腹を立てたところでその場の空気が悪くなるだけなのだ。

いいじゃないか。マナーの悪い客を許せるくらいに寛容になろう。腹を立ててネガティヴな感情を抱えるよりかは、今この場に流れている音楽を楽しもう。

 

 

青葉市子ほど、日本語を綺麗に歌える人はいないんじゃないかってくらい、その歌声は綺麗だった。

僕は思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

うわ〜!
市子ちゃんと結婚したいッッ!

 

 

 

 

 

って思うほどに、その歌声は心に染みた。

たった1時間のライブだったが、このライブを見るために僕はフジロックまで来たのだなと心から思えた。

いや、途中の方でコックリコックリ舟漕いでたかもしれない。酒飲みすぎた(笑)や、でも寝てないよ?!ちゃんと聴いてたって!

とても幸せな1時間をありがとう。すごい気持ちよかったです。

 

 

 

曲が終わると拍手が起こった。振り返ると僕の後ろには大勢の人たちがいた。

アンコールが要求することもなく、客たちはそれぞれの場所に帰って行った。

僕はとても満ち足りた気持ちになり、ピラミッドガーデンを後にした。

 


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ABOUTこの記事をかいた人

「旅する漫画家」。世界一周後(2013-2016)、現在は海沿いの町に潜伏中。そろそろ旅がしたいぞ!