「もう旅しないの?」
世界一周を終えた僕に友達はよくそう尋ねる。
そう訪ねられると僕は
「いやいや、まさか。もうバックパッカーは十分にやったよ」
と答える。
そしてそれに付け加えるように(いくらか言い訳のように)
「今は漫画を描くことの方が大事だからさ」
と、そう答える。いつもの流れだ。
だって、僕は約三年もの間、世界中をふらふらしていたのだから。
これ以上旅を続けてしまったら、そうすることでしか生きられないような気がしていた。
根拠はないけど、漠然にそう考えていたのだ。
心のどこかでは怯えのようなものがあった。
「三年以上旅を続けてしまえば、きっと僕は日本に戻ってこれなくなってしまう」
と。
旅の中でしか生きられないような人たちとも会った。
彼らは一様に顔を輝かせていたけど、僕はそんな風になりたいとは思わなかった。
だって、僕がやりたいことは
旅漫画を描くことなのだから。
それなのにみんなは、
また僕が無期限世界放浪の旅に出るようなこと期待しているようだ。
世界一周の旅先で出会い、日本で再開を果たした友達の中には
「シミはいつかまた旅に出るね!」
なんて予言めいたことを言うヤツさえいる。
それは何かの呪いのようにも聞こえるし、僕の心のどこかに引っかかる言葉でもある。
僕はもう旅に出ることはないのだろうか?
長旅を終えた今の自分は「旅する漫画家」ではないのだろうか?
そもそも旅ってなんだ?
世界一周みたいに長期間バックパックを背負ってジプシーさながら、移動し続けるのが旅なのか?
スーツケースをコロコロ転がしてスタイリッシュに移動するのは旅とは言えないのか?
いや、そんなことはない。
世界一周を終えた僕が言えることは
「旅とは心のありよう」
ということだ。
自分の知らない場所に降り立った時、
そこを通過している時、
自分にとっての初めての土地に身を置いた時に感じるあのソワソワ、ワクワクした感じ。
それが心に感じられれば、あなたがしていることは旅なのだ。
日本にいたって旅はできる。
今まで足を運んだことのないカフェに初めて入った時に
心の動きを感じることができれば、
それは立派な旅なのだ。
そんな旅する漫画家は、今現在、海沿いの小さな町に暮らしている。
あたらしい土地に来て、いろいろフレッシュなこともあるのだけれど、
やっていること言えば、ほとんど変わらない。
自分の部屋の自分の机に向かって、漫画を描くことだ。
旅をしている時でさえそうだった。
描かないでいることを苦痛に感じることもあった。
ただでさえ、漫画を描き始めたのが遅いのに、旅という「遠回り」をしていて僕はいいのだろうか?
そんな葛藤を日々感じていた。
だからこそ、世界一周の最中は至る所でノートを広げた。
たぶん、この絵に対する焦りのような感覚は僕が死ぬまで持ち続けることになると思う。
絵はいくら描いても終わりというものがないし、僕より上手いヤツなんて死ぬほどいる。
かといって、絵というジャンルは幅が広すぎて、他のヤツと比べてもしょうがない。
僕はね、「スヌーピー」が最強だと思っている。
(あれはどうみたってビーグル犬じゃないよね)
あの超絶シンプルな線は、誰でも描けそうでいて、描けないんだよ。
そしてストーリー性があるのも優れたポイントだ。
今、人があちこち移動できるモバイルの時代で
漫画家という職業も徐々に変化しているように僕には感じる。
中にはiPad Proで漫画を描く人だっているのだ。
もう、紙に描かなくても漫画を作れてしまう時代がきたことは間違い無いだろう。
ただ、
どんなにエレクトロが発達しても、アコースティックが残っているように、
絵や漫画にも代替できないものがある。
手描きやインクの質感はそれ独自のものだということを僕は信じている。
新しい時代の中で、
「旅する漫画家」を作っていくのが
これからの僕の人生のテーマだ。
まずやりたいこと。
それは、
「海外に暮らしながら、漫画を描く」
ということ。
できそうだね。
できるさ!
「一番やりたいことは何か?」と自分自身に問いかけた時、
ふつふつと湧き上がって来たのはこのような言葉だった。
よく思い出してみれば僕は漫画家になる前から(たぶん、高校生くらいの時から)
僕は海外に暮らすことを夢みていたような気がする。
永住というわけではない。
フットワークを軽くし、好きな時に好きな場所へ行き、
気に入った場所で作業に集中できる、そんな感じ。
ある意味、村上春樹の「遠い太鼓」の生活は今だったらかなり快適になる。
(むっちゃ長いエッセイだから、旅には最適だ。オススメなので是非一度読んで見て欲しい)
旅をしながら漫画を描くこと。
そこには旅と漫画の融合がある。
日本とは文化も風習も言語も異なる土地で暮らすことには旅のテクニックが要るし、
環境が変わっても漫画を描くためには、スキルや道具が必要だ。
誰もやったことはないけど、
自分の頭の中には
「僕はこういう風に生きたい!」
というマスタープランがある。
それを叶えるためには、まだまだ準備が必要だ。
そして僕の胸の中には
いつか絶対叶えてやるぞ!という情熱がある。
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