▷12月24日/ニュージーランド、パーマストン・ノース⇨ ポリルア
マジ、自分で描いてて何が描きたかったか分からない。たぶん、ワーゲンと恐竜が描きたかったかんだと、思う。
7時半に目覚めると片付けを始めた。
僕に安眠を提供してくれるサバイバルシートは便利なのだが、結露が発生してしまう。
僕はTシャツを脱ぐとサバイバルシートに残っている水滴を拭い、Tシャツをそのまま着た。ちょっとくらいTシャツが濡れていたって着ていればすぐに乾いてしまう。というか僕は洗濯してすぐのTシャツをだって着ちまうんだ。
撤収を終えるとそのまま僕は図書館へと向かうことにした。
というのも昨日図書館でシャワーを見つけたからだ。図書館でシャワーだなんて信じられないだろう?でもほんとうにあったのだ。僕みたいなヤツは例外として、普段はどんな人間が図書館のシャワーを利用するのだろう?と僕は気になった。
町の中心地までの1.5kmをハイクした。なんだかハイクっていうとスポーティな感じがしていいね♪

今日はクリスマスイヴということで12時に閉館なのは事前に聞いてたが、肝心の何時に開館するのかということは聞いていなかった。せめて四時間は開いているはずだから逆算して8時に開館だと僕は予想した。案の定、僕が行くと図書館はちょうど開いたばかりだった。
シャワーの使用料はわずか1ドルだった。僕が係員に2ドルコインを渡したのだが、「お釣りがないからタダで入っていいよ」と嬉しいサービスをしてくれた。
いや、今となって考えてみたら、1ドルコインを持っていないはずがない。きっと係員さんがプレゼントしてくれたのだろう。この哀れな家なき子に。一応僕はヒッチハイクでニュージーランドを旅しているんだって言い訳みたいに説明したんだけどね。
ちなみにシャンプーやタオルも各1ドルで利用することができる。1ドルって言っても1ニュージーランド・ドルだ。日本円に換算して83円。やすっ!
まぁ、そんな安いシャワーなので、シャワー自体はとても簡素なもので、水圧が弱く髪を洗うのに時間がかかってしまった。
扉には「ご利用は15分以内に」と書かれているのだが、いくらなんでもこれは無理だ。クルーカットのヤツじゃなかったら時間以内にシャワーを済ますことなんてできないだろう。こんな朝も早くから他に利用者もいなかったので少しくらい時間をオーバーしても何も言われなかった。
体をサッパリせると僕はヒッチハイクポイントへ向かって歩き出した。
町の外のは三本のハイウェイが走っていたが、その中から一番車が通りそうなものを選んだ。町の中心地から一直線にハイウェイ行きの道が続いているので迷うこともない。
クリスマスイヴだが、車の通りは少ないようには感じなかった。
30分ほど歩いてハイウェイの直前までやって来ると、僕は腰を下ろして昨日買ったフルーツを食べた。リンゴの丸かじりなんていていると、なんだか自分がトム・ソーヤーにでもなったような気分になるよ、いつも。
あれ?トム・ソーヤーがリンゴの丸かじりするイメージ持っているのって僕だけ?
簡素な朝食をすませると僕は段ボールを掲げて親指を立てた。

そして今日もまた瞬即で車が止まってくれた。
一体どうなってるんだ?!
乗っていた運転手は昨日のドライバーさんと同じウィリーという名前の兄ちゃんだった。彼もまた癖のある英語を喋ったが、昨日のウィリーさんほど聞き取りずらくはなかったし、伝わっていないことが分かると言い直してくれさえもした。
歳が近い分だけ会話も弾む。カーステレオからはピンク・フロイドが流れ、二人で巻きタバコを吹かしながらのご機嫌なドライブだった。
「それでな、そいつは韓国出身のヤツだったんだけど、名前が「サイモン」って言うんだ。英語だったらけっこういい名前だよな。でもマオリだとそれが「ザーメン」に近い発音に聞こえるもんだから、もう爆笑だよな。ひゃっはっは!はーーー、アイツ可哀想だったなぁ」
なんて下ネタトークも交えながら。可哀想なサイモン(笑)
彼の行き先は50キロほど進んだところにある小さな町だった。
僕はガソリンスタンドで降ろしてもらうと、そのまま町はずれまで歩いて行った。
途中でブランチにハムサンドイッチを買った。最近12時までの断食ルールはあまり守っていない。いや、僕はパンが大好きなんだよ。「ベーカリー」って名前を見つけただけで吸い寄せられちゃうんだ。
サンドイッチをかじりながら街はずれまで歩くと、向かってくる車に親指を立てた。2台目の車も俊足で止まってくれた。ニュージーランドマジすげー。
乗っていたのは人当たりのいいお父さんと、フードをすっぽりかぶった息子さんだった。
僕はいつものように自己紹介した後に彼らの名前を尋ねた。お父さんの名前はデイヴィッドと言ったが、息子さんの方にはスルーされてしまった。そりゃ、いきなり変なヤツが乗ってきたら気を悪くする人もいるよね。
車は走り出すと、カーステレオのボリュームがちょっと上げられた。かかっていたのはヒップホップで助手席に座った息子さんがラップの半分くらいを覚えて曲と同時に口ずさんでいた。
その曲を知らないと、まるで即興で歌詞をのせているように聞こえる。『マジこの人すげぇ!』って最初は僕もビビったね。
この車もまた途中までしか行かなかった。
下されたのはハイウェイに差し掛かった場所。いや、ハイウェイの中といってもいい。厳密のは僕が下された場所は歩行者進入禁止のハイウェイではなかった。速度制限も70kmまでのものだ。路肩では自転車で走っている人もいるのだから、ここでヒッチハイクをしても問題はないだろう。
向こうからやって来る車に向かってフレンドリーに手を振る。本日3台目の車もまた10分以内に止まってくれた。
ど、どれだけヒッチハイカーの優しいんだよ?

ドライバーのジョンはミュージシャンでバスキングの経験もあるお兄さんだった。音大卒でフルートを吹くらしい。最近結婚したばかりで、ハネムーンにはモロッコに行くのだと教えてくれた。お互い忙しいので一週間ほどしか旅行ができないみたいだが、それだけでもモロッコを楽しむことができるだろう。僕はマラケシュのフナ広場の雑貨がアツいことをジョンに勧めておいた。
ジョンはバスキングの情報を僕に教えてくれた。
「ウェリントンの町よりも、手前にあるポリルアの方が稼げるよ。ウェリントンはそこまでレスポンスがよくないんだ。どうする?君さえよければポリルアで降ろしてあげるけど?」
正直僕はそこまでバスキングに乗り気ではなかった。ここ数日ゴーストタウンだ寸前の街をいくつも見てきたからだ。
だが、僕はこれも何かの縁だとはジョンの言う通りにポリルアの街に立ち寄ってみることにした。
下ろしてもらったのは、まさにバスキング向けの通りのすぐ近くだった。
ジョンの話によりとウェリントンからわざわざ電車に乗ってここまで来るバスカーもいるようだ。
通りの人通りは、はっきし言ってかなり少なかった。
ちょっと離れた場所でアンプを使ったラッパーがいた。見た感じレスポンスを得られているようには見えない。
僕はギターは弾かずにいつものようにバックパックに腰掛けて漫画を描き始めた。
すぐにショッピング帰りの親子が興味を示してくれた。
みんな最初は僕の似顔絵がどんなものかはわからない。大体の人が「いくら?」と尋ねるが、僕は「別に気に入らなかったら10セントでも構わないですよ?なんなら一枚書いてみましょうか?」なんて言ってオーダーまで漕ぎ付けるのだ。
ほとんどの人は自分の顔だけしか描かれないと思っているのだろうが、僕は全体像にちょっとポーズを加えて仕上げるので、ここでちょっとだけハードルを上回ることができる。まぁ全体像を描くと少し時間がかかっちゃうんだけどね。
一枚目のお母さんの似顔絵は好感触のようだった。続けて息子さんの似顔絵をオーダーしてくれた。二枚で10ドル。悪くない♪
それを描いたっきり次のオーダーは来なくなってしまった。
おまけに太陽が僕を照らすように傾き、日陰がなくなってしまったので僕は通りの反対側に場所を移動しなければならなかった。
太陽の下で絵を描くのはかなりやりづらい。たとえそれが茶色の紙であっても、光が反射して眩しいから、いつも顔をしかめていなければならない。
人通りは時間をおうごとにどんどん少なくなっていくように思えた。こんな人通りの少ない場所で僕は一体誰に向けてパフォーマンスしているんだろう?と思う。
そんな中でかろうじて二組のオーダーを受けることができた。三姉妹と若者三人組だ。その二組を書いて僕はバスキングを切り上げることにした。アガリは40ドル。まぁ食費としては十分だろう。




僕は近くのショッピングモールに行ってみることにした。
やはりどの町もシッピングモールの中なら人で賑わっているのだ。もちろんモールの中でバスキングをしようものなら即行で警備員につまみ出されてしまうことは目に見えている。
僕はモールの中を歩き回り、となりのスーパーでカシューナッツとリンゴを買った。てか僕、毎日リンゴ食べてるな。
そのあとモールのあたりを歩き回ったが、ほとんどの店が閉まっていた。問題はどこで時間をつぶすかだ。今からウェリントンに行くつもりはない。
やってることはどこの町でも同じだ。
バスキングをして、日記を書いて、ブログをアップするか絵を描くかだ。ただ場所と人が違う。そこから何を受け取るか、どう楽しむのかは自分次第なのだ。
コンセントを求めてさまよった挙句、モール内にコンセント付きのテーブルのあるカフェを見つけた。僕はアメリカーノを注文するとそこで時間を過ごした。
7時前になると、映画館を残してて全ての店がシャッターを下ろした自動ドアが開かないようにロックをかけ始めた。カフェのおばちゃんは「明日はクリスマスで閉店だから」と売れ残りのマフィンをふたつ僕にくれた。そうかーーー。明日はほんとうにお休みなんだな。

19:30にショッピングモールを出ると、僕はまたどこか時間をつぶす場所を探さなければならなかった。
宿を取らないキャンプ生活だと、寝るまでの時間をどう過ごすかが悩みの種だ。まぁ大体の場合はファストフード店なんだけど。
マクドナルドに向かう途中でモンク(修道女)に声をかけられた。
彼女の名前はどこかインドっぽかった。手にはクリシュナ(インドの宗教の一つ)の神話と宗教画の載った分厚い本があった。彼女は本のページをパラパラとめくり、これがクリシュナの神様よ、なんてことを言っている。
僕は行儀よく話を聞き、自分は特定の宗教を持っていないのだということを伝えた。
「よかったらこの本を差し上げるわ。お金はとらないけど、ドネーションはして欲しいの」
「うーーん…その分厚い本は持ち運べないよ。ごめんね」
モンクに「ハッピークリスマス」と行って別れた。クリシュナたちはクリスマスをどう過ごすのだろう?
そのままマクドナルドへ行くと、3.9NZドル(¥323)もするバカ高いコーヒーをすすりながら閉店時間まで過ごした。
まぁそれ以上に稼げているからいいんですけどー。それにしても高いよなぁ…。今まで行ったどの国よりマクドナルドのコーヒーが高いんじゃないか?
寝床はどこかの施設の脇にある草叢にテントを張った。
テントの中にいるのにサクサクのフリーのWi-Fiが入ったが、ちょっとだけFacebookを覗いてすぐに横になった。どうせ明日はクリスマスだ。
みんなお休みなんだろ?
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