世界一周554日目(1/3)
今日でダハブ最後の日。
スキューバのライセンスを取るでもなく、
女のコとイチャイチャするわけでもなく、
ただのんびりと絵を描いた23日間。
どれだけ毎日分の日記を書くのに頭を捻ったか!
そして僕のブログを読んでくれた人たちに
どれだけ退屈な思いをさせたことだろう!
心から謝るよ。
クソつまんないブログでゴメンあそばせ。
いつも読んでくれる方々には
超最大級のリスペクトを混めて
サンキューベリマッチョです!
あぁ、マジ沈没って怖ぇ…。
日記もきっぱり止めちまえばよかったんだ!
後悔してももう遅いな。
チェックアウトは12時だったので、
カフェには直行せずにパッキングを済ませた。
僕より早めに起きていたみんなは餅米をついていた。
イッチーやケイスケくんが「ホッ!ハッ!」と
合いの手を入れてビール便片手に
ペッタンペッタン子気味のいい音がする。
パッキングを済ませると、
いつも通りEvery Dayに作業に向かった。
10ポンド(166yen)のミルクコーヒーを注文して、
テーブルにつくと、海を見ながら
ぼんやりとタバコに火をつけた。
この何気ない景色もこれで最後になると思うと、
途端に愛おしいものに思えてくる。
しばらくパソコンに向かって日記を書いていると
マサトさんとアグリさんがカフェにやって来た。
「あ!どもっす!」
耳にしていたイヤホンを外し、二人に挨拶をする。
「まさかとは思うけどさぁ、
もしかしてイッチーのiPhone持ってたりする?」
「え?どういうことですか?」
「イッチーのiPhone5が
見つからないんだよね」
「え!マジっすか!!!???」
「やっぱりないよね…」
二人はそれだけ僕に訊くとカフェから出て行った。
おいおいマジかよ?!
iPhone5が盗まれちゃったの?
いやいや、イッチーのことだから
どこかにしまったか、置き忘れちゃったに違いない…。
でも気になるなぁ。
この「持ち物紛失」は
何も今回が初めての出来事ではない。
ディープ・ブルーではちょくちょく物がなくなるのだ。
僕がここに滞在してる間に、
トシさんのシャンプーがなくなったり、
貴重品とは言えないまでも小さな物が
不可解な疾走を遂げてきた。
僕もiPhoneの充電コネクタが神隠しに遭い、
ついこの間、買ってまだ一週間も経っていない
歯磨き粉(だけ)が異空間へと消え去ってしまった。
だけど、iPhone5ってのはちょっと行き過ぎじゃないのか?
僕はすぐに宿のやる気のないスタッフたちを疑った。
彼らはチェックイン/アウトや掃除など
基本的な仕事はしているが、
それが終ってしまうと暇そうにパソコンで
youtubeを観ている。
(おかげでWi-Fiの速度が遅くてイライラさせられている)
彼らを犯人に決めつけるのは早いが、
犯人が誰であれ、生活雑貨に手を出すのは
リスクは少ないだろう。
どこかに置き忘れてしまったのかと
宿泊者たちはあまり気にかけず、
それくらいの物だったらなくなったところで
大きな騒ぎにはならない。
だが、今回のケースは違う。
iPhoneって言ったら、こっちではかなり高価な物だし、
これがもし仮に盗難だったとしたら、
これを機に盗難事件がここディープ・ブルーで
起こるようになるかもしれないのだ。
持ち物がなくなる原因は
僕たちの管理不足にあると思う。
ここは日本人宿で、まさか日本人に
そんな手癖の悪いヤツなんていないだろうという
気のゆるみが自分の持ち物の紛失を招いてきた。
たとえ日本人宿だとしても
自分の持ち物の管理は十分にしておかなければならないのだ。
USBのコネクタも歯磨き粉も
僕が談話スペースに起きっぱなしにしていたからだ。
不可能とまでは言わないまでも、
100%の盗難防止というのはなかなかに難しいことだと思う。
見ず知らずの人間が数日間、共同生活をする宿だ。
場合によっては宿の人間がグルで
犯行に及んでいるということもあるだろう。
少し心配しながら、僕は作業に戻った。
しば
らくすると、
某一流大学(大学院)生のカズくんと、
大学を休学して旅をしているシンヤくん
がカフェにやって来た。
二人はEvery Dayが気に入ったようで、
ここ数日ここを作業場として使っている。
二人がやって来たタイミングで店が混み始め、
僕は二人と相席することに鳴った作業を一段落させ、
10ポンドのシーシャを注文した。
最初は当たり障りのない旅の話を僕たちはしていたが、
次第にカズくんの「クチべた」に話題が移っていった。
こう言ってしまうのも少し失礼な話だが、
僕たちはネームバリューのあるものにどこか
畏敬の念のようなものを抱いている。
そしてそのネームバリューが
その人に対する期待値を
高めてしまう場合だってある。
カズくんは、一見我々となんら変わらない
ごく普通の青年だ。先にも書いたように
少し口下手なところがある。
それがどうだろう、
「有名な大学の大学院に通う」という事実を知ってからは
カズくんのことをエリートのような目で見るようになった。
「それが重いんですよ…」
そして思った期待した通りの発言ができなかったり、
人よりも流暢に喋れなかったりすると、
だんだんと小馬鹿にするように接するようになった。
僕もそのうちの一人だ。
ここ数日、話す機会が何回もあったが、
他の人とはちょっと変わった彼の
まどろっこしい話ぶりに、
からかったりもしたのはここで謝っておきたい。
「僕も自分で、他の人みたいに
喋れないことが気になっているんですよね…」
カズくんは視線を落としてそう言った。
「それにしても、
ディープの人たちはちょっとカズさんに対する
リスペクトみたいなのが少し欠けてますよ。
ちょっと失礼だと思います」
言葉を選んだ様に大学生のシンヤくんは
カズくんをフォローする。
「いや、リスペクトがないわけじゃないんだよ。
最初は誰だってカズくんのことを
すごいなって思うんだ。
だって、普通に勉強しても
カズくんの大学院には行けないからね」
二人に対して僕はそう言った。
ディープ・ブルーには大学院卒でソニーに努め、
現在マレーシアで電子パネルを設計してる
リキさんという僕と同い年の人がいた。
彼もその大学院を受験したが、
落ちてしまったということを言っていた。
「だけどね、
やっぱり他の人がカズくんに対する
ハードルってのは高いと思うよ。
僕たちはステレオタイプを持ってるからね。
『頭がいい大学に行ってるんだから
こういうレスポンスを返して欲しい』
みたい思っているからさ、
カズくんが僕たちの期待に反して全然違った答えをすると、
どこかがっかりしちゃうんだよ。
もっとシンプルに応えてもいいところを、
ほら、まわりくどく言ったりするじゃん?」
カズくんはある大手の自動車会社に内定が決まっている。
前日、どこの会社に勤めることになるのか
当て合うゲームをしたのだが、
カズくんの言い回しは
「どうせ、僕が行く会社は
知らない人もいるかもしれない」
そんな言い方だった。
「いろんな国を旅してみるとさ、
特に東南アジアなんかでは
日本の車やバイクって至るとこを走っているんだよ。
トルコでヒッチハイクをした時なんかはね、
トラックのドライバーさんは
カワサキやヤマハだって知ってたんだ。
そんな世界中に知られている会社で
カズくんは働くんだぜ?
もっと自信持って言いと思うよ?」
僕が喋り始めると、
カズくんの視線が僕の方に向くようになった。
「それにさ、
まぁ、口下手なのはしょうがないけど、
人と同じである必要はないと思うんだ。
最低限のコミュニケーション能力は
必要だと思うけどね。場数だと思うよ」
「そうっすよ。
別に口下手でもいいと思います。
人は『こうあるべき』みたいに思いがちですけど、
今の自分を否定する必要はないですよ」
「イッチーなんてすごいよね。
彼は世界中のどこでだって生きていけると思う。
カズくんみたいに大学、大学院に行ったわけじゃないのに、
料理の経験はあるし、英語がペラペラじゃん。
トークのスキルもすごい高いし、
グループで話した時は絶対輪の中心にいるもん」
「トシさんは(彼の下の名前だ)すごいっすよね。
でも、彼が絶対に正しいってわけでもないですよね」
カズくんは感心した様子で、
僕とシンヤくんの話に耳を傾けていた。
話をしながら頭の片隅では、
なんだかおかしな状況だなぁとぼんやり思った。
大学を休学して旅に出た大学生と
有名大学(院生)と自称漫画家が
エジプトのビーチの町のカフェで語らうなんて。
18
時過ぎに僕は二人を残してカフェを出た。
よくしてもらったカフェ・レストランの
Carm Innにお別れの挨拶をしに行ったのだが、
オーナーもその友達もそこにはいなかった。
暇そうにしているスッタフにオーナーに
よろしく言って欲しいと伝言を残して、僕は宿に戻った。
宿に戻ったが、イッチーにiPhone5は
まだ見つかっていないようだった。
あの後、他のみんなでiPhoneの電源が入った場合に
アラームが鳴るように設定したりと、
色々手は打ってみたものの、
手がかりは一向に掴めなかった。
やはり誰かに盗まれてしまったのだろうか?
談話スペースのテーブルの上には
酢飯にころもをつけて揚げた
コロッケのような食べ物が山積みされていた。
ひとつ食べさせてもらったのだが、
パクパク食べるのには向かない味だった。
iPhoneが見つからない今の状況にピッタリの味だった。
結局イッチーのiPhoneは
見つからないまま、バスの時間になった。
なんと
宿の人間が9人もカイロへ移動するという、
民族大移動のような移動だった。
宿の裏から軽トラックに乗り、
僕たちはバスターミナルへと向かった。
軽トラックが走り出すと、
空には満月が浮かび、夜風を頬に感じた。
ダハブの町の出口(入り口)に立つゲートには
「Goodbye」と書かれており、僕は名残惜しい気持になった。
バスターミナルに到着すると、
運転手に1ポンドを支払い、
荷室にバックパックを預けた。
バスはかなり綺麗で
120ポンド(1989yen)のクオリティのバスだった。
走り出したバスの中で、
僕はELLE GARDENのベストアルバムを通して聴いた。
1999年の結成時から2008年の活動休止までの
10年間の曲が発表された年代順に収められたアルバムだ。
僕は高校生からずっと細美さんの唄を聴いてる。
やっぱり彼の作る曲には心を動かされる。
銃を持ち迷彩柄のカーキの
ジャケットを着たエジプト人が窓を度々見かけた。
カイロに着くまでに何度もパスポートと
チケットをチェックされ、
その度に僕たちは叩き起こされた。
一度乗客が全員バスの外に降ろされ、
荷物をチェックされることもあった。
バスはハイウェイを走る。
外は一向にごつごつとした荒れ地で
空に浮かぶ満月は安っぽい街灯のようだった。
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★世界一周ブログランキングに参戦しております。
はぁ~~~~…、
マジこれを書くのに、大分日数が空きました。ここだけの話ね。
だって、Wi-Fiはくっそ遅いし、めっちゃ寒いし、
蚊がくっそ多いんだもん!どーなってんだカイロ!
出来きるかぎる着込んで、
膝にまおくんの持って来てくれたブランケットをかけて、
宿のレセプション前のソファに座ってこの日記を書いてます。
口下手だっていいのだ。
カズくん、まだまだ肩書きは重しになると思うけど、
自信持てよ。
だって、すげーんだからさ。
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