「ビッグ・サー」

世界一周713日目(6/12)

 

 

寝心地は

決していいものではなかった。

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テントを立てた茂みの横を通る車や人が気になって
僕はよく眠れなかった。
いや、睡眠が浅いのはいつものことだ。

いつまでの起きられずにグズグズしていると、

「とっとと起きなァッ!!!」

といった感じのホームレスをからかうような
大きな声が聞こえたので、僕はテントを片付けることにした。

 

 

 

ここはアメリカ、サンタクルーズ

南へ向け、僕は旅を続けている。
なんだか渡り鳥みたいでかっこいいでしょう?

 

 

 

 

 

この町はバックパッカーのハブ的なポジションにあるらしく、
ヒッチハイクをするのも簡単だと情報サイトには書かれていた。

もちろん中心地からではない。
いつものように僕はバスで郊外まで出ることにした。
ここから20kmくらい離れた隣町まで
わずか2.5ドルで行けるというのだ。安いじゃないか!

グレイ・ハウンドが止まるような
少し大きなバス停で、僕は運転手に尋ねた。

 

 

「あの、すいません、
モントレーまで行きたいんですけど、
このバスで合ってますか?」

「いや、モントレー行きは
朝の6時と夜の7時しかないよ?」

「えっーーーーー…」

 

 

時刻は8時半。わざわざ隣町まで行くのに、
半日以上もここで時間をつぶさなければらならないか、
もしくは諦めて明日の朝出発するか?

僕は頭の中で決断を下しかねていた。
するとバスの運転手は代案を出してくれた。

ここから7kmほど離れた隣町まで行き、
そこから乗り換えをすればモントレーに行けるらしい。
僕は例を言って教えてもらったバスに乗り込んだ。

 

 

さよならサンタクルーズ。みんな親切だった♪

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わずか

15kmの距離にある町へ行くのに4時間もかかったのは、
自分の中では笑話だった。

乗り換え自体は比較的にスムーズにできた。
バスを30分待つこともあったが、
遅延だとかそいうトラブルは何もなかった。

だが、ローカルバスの厄介なところはバス停を
ほとんど一つずつ進んでいくことと、
ルートが最短距離ではないということにある。

もちろんバスには乗客が降りる際に押すボタンがあるのだが、
何もみなが終点まで一緒に行くわけではないのだ。

僕は窓の外の景色を見たり、まどろんだりして時間をつぶした。

4時間という時間はそこまで長くは感じなかったが、
モントレーに到着した時、時刻を確認して驚いた。
おいおいバス、
何やってんだよ?

と。

 

 

 

 

モントレーの町はカリフォルニア州で
一番始めに出来た州だとジェイは言っていた。

町自体はどこかお金持ちが住む様な感じもする。
道にはごみひとつ落ちていない。

 

 

見つけたオーガニックスーパー「トレイダー・ジョー」で
なぜだか分からないけど、石鹸をふたつかった。

時刻は13時を過ぎ、もうヒッチハイクなんて
明日に回してしまった方がいいんじゃないか?
と迷う気持ちがあった。

こういう時にすぱっと決断を下せないと、
ズルズルいってしまうのが僕の悪いところだ。

ガソリンスタンドで千円もするアメリカン・スピリットを買い、
ヒッチハイクポイントまで歩いて行った。
まぁ、途中まで進めりゃいいんじゃねえか?焦ることはない。
だけど、止まるよりかは前に進もうじゃねえか。

 

 

ヒッチハイクができそうな場所まで歩く途中に
話しかけて来た中年男性はバンドのギター演奏者で
CDを三枚出しているそうだが、
彼のやっているジャンルの音楽は馴染みがなかった。

「ちょっとヒッチハイクするのが
遅かったんじゃないかい?」と彼は言った。

いや、分かってますよ?
でもまぁダメもとでやってみてもいいでしょう?

彼は「グッド・ラック!」と声をかけて僕と別れた。

 

 

 

 

 

町外れにあるヒッチハイクポイントに着く頃には
地味に汗をかいていた。

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ひとまず荷物を下ろし、
ギターケースからヒッチハイクのボードを取り出した。

「SOUTH/SFC」と書いた部分のうち、
サンフランシスコの部分を無理矢理マジックで
「→」マークに描き変えて僕はボードを掲げた。

ヒッチハイクをする人の中にはどシンプルに
「北」だの「南」だの、
自分の進みたい方角しか書かない人もいるらしいが、
僕はそれに対していささか懐疑的だ。

時々ドライバーに訊ねるが、
最寄りの町を書いた方が分かりやすいというのが彼らの回答だった。

それでも僕が最寄りの町を書かないのは、
実験的な意味もあるし、
単に新しい町の名前を書くのがめんどくさかったからだ。

 

 

 

だが、どういうわけだろう?

30分もしないで車が止まってくれた。

 

 

 

「隣町までしか行かないけどよ、
ここよかマシだと思うぜ?」

と車に乗せてくれたパトリックはかなりファンキーな男だった。

 

 

「そこうかお前は日本人なんだな!
これでおれも「日本人とファックしたぜ!」
って言えるな。だっはっは!」

と下ネタが好きな様子。

 

 

っていうか、いや、ゲイじゃないことは分かるけど、
その手のジョークに対して僕は身構えなければならない。

小柄(167cm)で髪が長くて、顔は母親似。
ホームレスだということを除けばちょっとどうなの?って感じだ。

僕はゲイに対してステレオタイプを抱いているのかもしれない。

 

 

いや、怖いんだよ。実際。

 

若葉マークみたいに目で見て認識できればいいんですけどね~。

 

 

 

 

途中にあるショッピングモールの駐車場で
パトリックは車を停めた。

「買い物につき合ってくれれば、
もう少し乗せてってやるよ?ここは交通量も多いし、
ヒッチハイクやるポジションもねえだろ?」と申し出てくれたので、
僕は彼と一緒に車を降りた。

 

 

彼は猫を飼っているらしい。ペットショップはまるで
人間の行くスーパーのような大きさと品揃えだった。
キャットフードにしても30種類以上はあるのだ。

 

 

「いやいや、こんないらいなでしょう?」

「これがアメリカさ!0か100しかないんだ!」

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店員もノリノリのおばちゃんだった。
「今なら3つ買えば、4つ目はタダですよ♪」
なんてセールスをかましてくる。

ペットショップでキャットフードを買い、
隣りのスーパー(こちらは人間用だ)で食材をいくつか買うと、
僕たちはまたドライブを続けることにした。

 

 

 

 

道の途中でパトリックはスチールでできた筒を口にくわえた。

煙草くらいの長さだが、いくらか太い。
先端についた何かをあぶり煙草を同じように火をつけた。
いい匂いが車の中に漂う。僕は煙草を吸っていいいか?と訊ねた上で
自分のアメリカン・スピリットを吹かした。

 

 

「マリファナはでっかいビジネスだぜ?
うちの近所のヤツらなんかみんなマリファナを育ててる。
しかもそれが高く売れるんだ。
吸う方も病院に行って「最近肩の調子が..」なんて言えば
医者は一発で処方箋を書いてくれる。
普通市販で買う場合にはそこそこの値段がするんだが、
知り合いに頼めば4分のいちの値段で売ってくれる。
あとでお前にもマリファナ分けてやろうか?」

「いや、いいっす。
てか、吸っていると記憶とか飛ばないんですか?」

「いっつもそんな感じだよ(笑)」

 

 

僕は彼らがよく自動車事故を起こさないのかよく疑問に思う。

そんなファンキーなパトリックは
家へと続く脇道の途中で僕を降ろしてくれた。
ハイウェイ「」はそのまま一直線に南へと続いている。

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だが、その場所が

かなり微妙

だということはすぐに分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いくら

フリーウェイより道幅が狭いとは言え、
車はスピードを出して向こうからやってくる。

道の脇には私有地が広がり、気軽に入ることはできない。

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いつものように僕はヒッチハイクを続けるしかなかった。

少し場所を移動して車が止まれるようなスペースを見つけると、
そこに荷物を下ろして親指を立てた。

レスポンスはそこまで悪くはなかった。
乗用車やキャンピングカー、ツーリングのバイク。
ハンドサインで親指を立ててくれたりすると少し勇気づけれられる。

まぁ、のんびり行こうぜ?なんとかなるっしょ。

 

 

 

 

 

こんな場所だってのに一時間以内に車が止まってくれた。

『さすがカリフォルニア!』と
僕はカリフォルニアのオープンマインド気質に感謝したのだが、
乗っていたのはアメリカ人ではなかった。

車に乗っていたのはスペイン人のカップルだった

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今さらだけどごめんなさい。あんなにお世話になったのに、
発音が難しくて、メモを取ることさえできませんでした…。

 

 

まさかこんなところでスペイン人に
車に乗せてもらえるだなんて思ってもみなかった。

というのも、これから先には
BIG SUR(ビッグ・サー)」と呼ばれる圧倒的なスケールの
沿岸線があるからだ。

これらは一種の観光地となっており、
僕もこれ目当てでカリフォルニアのハイウェイ「1」を
ヒッチハイクしている。

サンフランシスコではジェイが

「ジャック・ケルアックが好きならビッグ・サーには
行ったほうがいいぜ。あそこでヒッチハイクするんなんて
アドベンチャーだ」

そうも言っていた。

だかこんな簡単にビッグ・サーを走る車を
ゲットしていいものだろうか?

 

 

 

黒く光るBMWの室内をできるだけ汚さないように
僕は行儀よくあろうと努めた。

スペインのカップルは景観のいいポジションに着くと
車を止めて外に出て写真を撮った。

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二人ともiPhone6やコンパクトカメラで
パシャパシャと写真を撮った。

僕は串焼きやでのバイト時代の経験を活かして
「写真撮りましょうか?」と訊ねられる前に
率先してカメラマンを引き受ける。

こういう写真があとから二人の想い出になればいい。
漫画家の僕はいつもそんなことを妄想するのだ。

 

 

 

 

二人の姿を初めて見た時、最初僕は
二人のことを「父と娘」だと思った

背の高いグレーの髪の毛をした男性と、
小柄でラフな格好をしている女のコ。声もどこかカワイイ。

だが、二人の写真を撮ると
『あれ?もしかして?』と違和感に気づき、
話しているうちに二人がつき合ってるのだということが分かったのだ。

彼氏の方はシステムエンジニアの仕事を
サンフランシスコでしているらしい。
彼女は休暇を取ってアメリカまでやって来たというのだ。
彼女の出身は「ロマニア」と言っていたからルーマニアのようだ。
どちらも英語が喋れたので会話には苦労しなかった。

 

 

 

僕が去年の9月頃にスペインを旅したことを言うと、
二人は嬉しそうに僕の話を聞いてくれた。

「僕たちの国はやはりなんと言っても歴史と食文化だよ♪」

彼らの話し振りから自分の住んでいる国が
好きなのだということが伝わって来た。

そんな風にして僕たちはビッグ・サーを満喫しながら
ハイウェイをドライブした。それはまるでツアーのようだった。

 

 

 

 

 

 

16時に

なると途中の休憩所で僕たちはランチをとることにした。

「じゃ、コーヒーお願いします」と僕が言うと、
彼らは僕の分まで食事を頼んでくれた。

ほんとうにありがたい。
僕もお礼に彼女の似顔絵を描いてプレゼントした。

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彼女がビールを注文した時、
メキシコ系のウェイターがIDの提示を求めた。
そのため彼女は車までパスポートを取りに戻らなければならなかった。

 

 

「ちょっとめんどくさいね。」

「いや、彼女、ちょっと喜んでたよ。
実際よりも若く見られたって。
彼女、あれで31歳なんだ」

「うそぉ…」

 

 

てっきり自分より歳してかと思った。

スペインで家族と一緒に撮った写真では
髪は後ろで束ね、ドレスをまとい、もっと大人びていた。
つまり化粧と着ているもので、女のコは若く見られる..、
ってことかな?

 

 

僕はなんちゃってベジタリアンなので
サラダを選ばさせてもらって栄養を摂取した。

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二人はハンバーガーを注文していた。
彼女は上品にフォークとナイフを使い、
彼氏は両手でがっしりとつかんでバーガーにかぶりついた。

ゆっくりと食事をとりながら、僕たちは色々なことを話したが、
それらは時間とともにサラサラと消えて行った。

彼氏が僕の旅の話を聞いて

「それならYoutuberになって
3分でもいいから自分の絵も描いて、
旅の動画を作ればもっとファンが増えると思うよ?
英語でやればもっといい。字幕なんてつけてさ。
君が外国人であることはみんな分かってると思うから、
間違いなんて気にしないよ!」

と僕にアドバイスしてくれた。

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さすがにユーチューバーに今からなろうとは
僕は思わなかったが、日記ごとにイラストや漫画を描くのは
やってもいいかな?と思った時もあった。

だが、やはりそれをするには時間がかかる。
絵を使った方がもっとランキングも上がるだろうし、
見る側も読みやすくなるだろう。

 

 

だけど、僕は今こうして、
自分の記憶を長々と文章に書いている。

それは僕が忘れる生き物だからだ。
どんなに感動して充実感を味わった一日でも時間とともに
記憶は薄れて行ってしまう。

最終的には「〇〇面白かったよね?」
くらいの一言でまとめられてしまうだろう。

一日のディテールを可能な限り書き留めていく。
それが僕の旅にとってはとても重要なのだ。

ぜったい後から役に立つ。
それは日本に帰った後に「旅漫画」を描く時にはとりわけ。
だから、僕はアノニマスな人たちに向けて日記を書くことはしない。
こんな日記を読んでくれるのはとても嬉しいけどね♪

 

 

 

遅めランチを終らせると、
僕たちは再びビッグサーを走ることになった。

沿岸線は霧で覆われ、景色は一気に単調なものに変わった。

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少し残念な気もするが、それは仕方のないことだ。

会話もどんどん少なくなり、
僕は外の景色を見ているほかなかった。

二人は車であと数日旅をするらしい。
今日の目的地はサンタバーバラという町だ。

最初はいちいち車を止めて進んでいたので、
僕がヒッチハイクを始めたモントレールからは
100kmも離れていなかった。あと200kmもあるのだ。
今日中に着けるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕日が

沈む頃、空は奇跡的に晴れた。

 

 

ゾウアザラシがいるという海岸で車は止まった。

潮風がふきつけ、どこか肌寒い。
僕はバックパックからフリースジャケットを取り出しては折った。

ゾウアザラシはそんなこと気にせずに、
砂浜に大集結していた。

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ゾウアザラシが一体どれくらい大きさなのかは分からない。
近づけば相当な大きさであるのだろうが、
観光客が安全な場所でゾウアザラシを確認するのには
距離が必要だった。

「オウッ!オウッ!」と鳴き声が聞こえる。
ゾウアザラシなんて初めみたよ。

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すぐ近くの場所で僕たちは再び車を止め、
夕日が沈むのを見た。

夕日のオレンジが空と海岸を染める。
ゆらゆらと夕日を反射した水面が揺れる。

 

 

 

 

 

 

 

「マジで綺麗だな…」

 

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「It’s beautiful」としか言えなかった。

どれだけ言葉で装飾しても、
自分の心が受けた印象は言葉なんかじゃ表現できないんだろうな。

自分がここにいる喜びや奇跡、
旅に出たことの意義なんてものをしみじみと感じた。

 

 

旅に出なければ見れなかったものに、
僕はどれだけ出会っただろう?

ほんと、旅に出てよかった。
この人生を選んでよかったと心から言える。

 

 

 

 

 

 

日が暮れると車は
ひたすらにサンタクルーズを目指して走った。

もうどこかで写真を撮るために止まるということもなかった。
ついに僕はウトウトしてきて、いつの間にか眠ってしまった。

21時頃に車はどこかの小さな町のレストランで止まった。
休日ということもあり、レストランには大勢の客でにぎわっていた。

天井には数えきれないくらいのキャップがぶら下げられていた。
店のオーナーが一人で集めたのだろうか?
そんなに沢山のキャップを見たのはそれが初めてだった。

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「さぁ、ディナーを食べよう」と彼らは言うが、
僕はさっきいただいたランチと
アホみたいにおかわりしたコーヒーのせいで
ちっともお腹が減っていなかった。

 

 

「じゃ、コーヒーで!」

「いやいや、遠慮なんてしなくていいんだよ?
何か注文しなよ?これは僕たちが好きでやってることなんだから
遠慮しなくていいんだよ?」

「じゃ…、じゃあ、
このクリームチャウダーで」

 

 

腹が減ってないのに喰うというそんな自分に嫌気がさしたが、
出て来た料理は最高に美味しかった。

彼女はサラダを注文したとして、僕は彼ら二人の食欲に驚いた。

彼氏の方は柔術などの格闘技をやっていた。
体も大きい分エネルギーの消費量も多そうだ。

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そして彼は僕以上の
「甘党」
だった。

 

 

 

食事だけでもお腹一杯だというのに、
そこにさらにアイスをぶち込むのだと言う。

 

 

「シミはいらないのかい?」

「い、いや、もうお腹一杯だから、さ。ありがとう」

「そんなそんな!遠慮しなくていいって言ったろう?
おーい。君、アイス二つ」

 

 

彼は煙草も酒もやらない代わりに甘い物には目がないのだという。

出て来たアイスはなかなかに大きかった。

 

 

 

 

 

『グルメレポーターって
こんな感じなんだろうな..』

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僕はそう思った。

見るからに硬派でビジネスマンの彼が
眉間に皺を寄せて真剣にアイスを食べている姿は
どこか微笑ましかった。

いや、でも、やっぱりこういう経験をさせてもらうと、
僕は旅のもつ「出会い」や「奇跡」を
素晴らしく思わずにいられないのだ。

 

 

 

 

ここに来てから

『もし日本にいつづけたらどうだったろう?』

と考える。

 

 

いや、僕はこれでいいのだ。
正解なんて誰も分からないのだから。

思ったこともちゃんと言葉に出して彼らにお礼を伝えた。
言わなくちゃ伝わらないことも沢山ある。
青臭いくらいが僕たちにはいいのかもしれない。

 

 

話していると分かったのは、
この旅が彼らのハネムーンだということだった

 

 

 

 

 

 

 

 

サンタバーバラまではひたすらにドライブが続いた。

前の二人の声の音量も下がり、僕はついに眠ってしまっていた。

彼に起こされた時には、サンタバーバラに到着していた。
辺りは暗くてここがどこなのかよく分からない。
どこかの住宅地のようにも見える。

 

 

停まった場所はモーテルだった。

彼らはひとまず荷物を自分の部屋に置き、
彼は僕に今日どうするのか訊ねた。

 

 

「いつもと一緒だよ。
ここら辺は治安が良さそうだから、公園でキャンプするよ」

「それなら僕たちの車で寝てくれてもいいんだよ?
ちょっと待ってくれ」

 

 

この車はレンタルしたもので、
中で人が寝れるのかは分からなかった。

車の鍵はもちろん彼がもっているのだが、
キーを抜いた状態で車をロックし、
中から振動が少しでも車に加わると警報がなるようになっている。

僕たちは何回か試してみたのだが、
キーがない状態で人が車の中で寝るのは無理だということが分かった。

彼は申し訳なさそうに「Sorry」と言った。

いやいや、ここまで連れてきてくれただけで感謝なのに、そんな!

 

 

「これを明日の電車代にしてくれ」
そう言って彼は僕に20ドルを渡してくれた。

お礼を言って彼らにおやすみを告げた。

 

 

 

 

どうやらここは高級住宅地か何かのようだった。

辺りにはもちろん人はいなかったが、
建物からそれらが分かった。時刻は2時をまわろうとしていた。

僕はモーテルから100mも離れていない場所に空き地を見つけ、
そこにテントを張った。

明日早く起きれば大丈夫だろう。

 

 

まさかアメリカのヒッチハイクで300kmも進めるだなんて。
それもフリーウェイより狭いハイウェイ「1」で。

それに今日の出会いもまた素敵なものだった。

ありがとう。

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2 件のコメント

    • >あっきーさん

      そう言ってもらえるとこちらも嬉しいです♪

      出会いの連続で
      最近、ほんとうに不思議に思います。

      僕の旅も何かが変わったのかもしれません。
      それはとても良い意味で♪

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