「グレート・パシフィック・ワークス」

世界一周714日目(6/13)

 

 

ベンチュラ

に行くのは僕の中で必然だった。

そこには大好きなパタゴニアの一号店がある

特別アウトドア・スポーツが好きなわけじゃない。
山登りだってしっかりやったこともなければ、
サーフィンボードの上に乗ったことすらない。

 

 

ただ、旅をする上ではアウトドアのギアや衣類は
かなり役に立つように思われた。

バックパックという大きな入れ物の中に
一年以上旅する衣類やら道具を詰め込み、
時には雨の中を歩く時もある。

温度だって国や場所によって違う。
暑い場所では動きやすい服を、寒くて天候の悪い場所であれば
それらをしのぐことのできる服を着る。

もちろん機能面だけじゃないこだわだってある。
nuidie jeansとブーツがそうだ。

まぁ、できればメレルのブーツでもよかったかなと思う。
ヌーディーも生地が他のものに比べ薄いし、
シルエットも細身だからね。

 

 

 

 

 

 

 

6時半にiPhoneのアラームが鳴った。

さっさと荷物を回収してテントを片付けた。

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ここはアメリカ、サンタバーバラ
昨日は300kmもの距離をヒッチハイクで移動してきた。

 

 

 

 

マップアプリで駅の場所を確認して歩いて向かった。

ここからベンチュラまでは電車で行くことができる。
ジェイはここを通る電車を勧めてくれたのだ。
電車から見る景色は最高らしい。

9時25分のチケットを15ドルで買った。

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チケットを買うと僕は外に出てアメスピを吹かした。

空一面には薄い雲がかかり、天候もあまりいいものではなかった。

 

 

 

「ついにここまで来ちゃったんだな」

 

 

そう僕は口に出した。

 

 

 

大好きな誰かに会いに行くようなワクワクと緊張感。

自分は過剰に期待している。それは分かっている。
自分の期待していたものが得られないことだって十分にある。

ハードルは高くなくていいんだ。そこへ行くことが大事なんだ。

 

 

スターバックスでコーヒーを飲みながら
「もうそろそろベンチュラに行くよ」と相棒に連絡を入れた。
僕をここまでパタゴニア好きにさせたのはヤツがいたからだ。

 

 

 

 

 

電車が来る15分前になると、
駅にはチラホラと人が集まり始めた。

地元の人や、小さなスーツケースをもった短期の旅行者。
僕のようにバックパックをかついだ人間は一人もいなかった。

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やってきた電車は二階建ててかなり綺麗だった。

僕は二階席へと上がり座席ふたつ分を使って席についた。
Wi-Fiが使えたのでTwitterで画像を投稿していると電車は走りだした。
車掌がやって来てチケットを確認して行った。

 

 

サンタバーバラを抜けると、海が見えた。

馬に乗って海岸を散歩する人の姿が見えた。

さらに進むと、朝から何人かのサーファーが
波の上で漂っているのも見つけることができた。

それらはここがビーチの町なんだってことを僕に知らせてくれた。

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いつだって太平洋を見るときには
自分の帰るべき日本のことを考える。

そして自分の旅の終わりのことも。

 

 

この旅を始めた頃は
自分が何をしたいかよく分かっていなかった。

でもいまはそれが徐々に見えてきたのだと感じる。

漫画だけじゃない。日本に戻ってからやりたいことは
山ほどあるのだ。

今はそれをどう実行に移そうか考えている。

 

 

そうして電車はあっという間に
僕をベンチュラへと運んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

駅は

ちっぽけなものだった。

調べておいた住所とマップアプリを照らし合わせて
逆方向に進まないように注意をする。

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駅からパタゴニア・ストアは
ほんとうに近い場所にあった。

ハイウェイの高架線をくぐり抜けると、
そこにはクリーム色と黄色が混ざった優しい色合いの建物が見えた。

向かいの駐車場に腰をおろし、また煙草を一本吸った。

このまま入らずにいたい。そんな気さえする。

 

 

『彼らは僕のことを
温かく迎えてくれるだろうか?

せっかくここまでやって来たんだぜ?』

 

 

心のどこかではかすかに期待してしまう。

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煙草を一本吸い終わると、僕は意を決して入り口の階段登った。

入り口のスタッフが「グッモーニーン♪」と爽やかに挨拶をくれるが、

僕はガッツポーズ!

感極まってそのまま拳を振るわせ膝を曲げて
しゃがんだ体勢になる。まるで神々しいものを授かるように。

 

 

 

 

「日本から来たんです。
ここまで来るのに二年かかりました」

 

 

いや、ここで大事なのはいかに僕が
ここに来たかったのかをアピールすることだ。

自己紹介のタイミングも完璧。
その場にいた三人くらいのスタッフは、
僕がパタゴニアの大ファンで世界一周の旅路の上で
ようやくベンチュラに辿りついたのだということが
理解できたはずだ。

ちょっとテンション上がっちゃった体で
ボロボロのボタンシャツをバックパックから取り出す。

 

 

スタッフ苦笑。

 

 

うるせぇ!おれの愛の告白を聞け!!!

 

 

ちょっと大げさに書いてますけどね。

でも、ボディーランゲージも大事でしょ?
それにエンターテイナーとしてはこれくらいやらなくちゃ
インパクトに欠けるから、ね。

 

 

 

 

 

スタッフのアンディーが僕の話を聞いてくれた。

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サッと40%オフのチケットを取り出して、
「これ、よかったら使ってね♪」と差し出してくれる。

はうっ!そうきましたか!

 

 

「じゃあお店を案内してあげるよ?」

 

 

そう言ってアンディーはストアの中を案内してくれた。
残念だったのは今日が土曜日といこともあり、
工房は開いていないということだった。

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グレート・パシフィック・ワークス(パタゴニアの前名)から
使われていた工場の前で僕は記念撮影をした。

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ここにはサーフィンの製品が売られる箇所や託児所、
カフェまであるのだ。

カフェテリアは残念ながら今日は閉まっていた。
くっそ~!今日が土曜日じゃなかったら!

 

 

 

 

 

店内を簡単に案内してくれると、
アンディーが仕事に戻っていった。

何人かのスタッフは僕の旅の話を嬉しそうに聞いてくれた。

店舗自体はここも木調で、
特別他店とは違う製品が売られているというようなことはなかった。
パタゴニアゆかりの写真だとか、
昔ここで作られたという登山用の丈夫そうなカラビナが展示してあった。

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ここに

来た目的は見学だけじゃない。

もっている服はメンテナンスの必要性があった

まずシカゴを訪れた際に「Worn Wear」ツアーで
修理職人に直してもらったボタンシャツ
さらに大きな穴が空いていた。
バックパックを背負って長距離を移動したことによって
擦れてできた穴だ。

自分でデニム生地のパッチを当てたが、
もうさすがに限界だ。手縫いだけでは直せない。

 

 

そしてもうひとつはアウターだ。

日本で買ったゴアテックス製の
「トリオレット・ジャケット」は三年以上使っているため、
防水機能が低下している。

一度だけ専用の洗剤で洗濯したことがあったが、
それはもう9ヶ月も前の話。

雨の中を長時間歩くと中まで濡れて来てしまう。
これもどうにかならないかアドバイスが欲しい。

スタッフの一人から
「日本人のスタッフが働いているわよ!」と教えてもらった。

 

 

 

そこには後からやって来た日本人の男性がいた。

え?日本人でここで働いているの?!

最初の「こんにちわ」という第一声、
イントネーションで彼がここで
アメリカで生まれたことが分かった。

 

 

コウスケさんは、僕がもっている服のメンテナンスや
修理をしてもらいたいのだと言うと、
カウンターに置いてあるパソコンで何かを調べ、
店舗用の分厚いカタログのページをパラパラとめくった。

 

 

「そのジャケットだけど、まだ保証期間内だね。
よかったら新しい製品と交換してあげるよ?」

 

 

マジか!

 

 

「同じ製品ってことですか?」

「いや、トリオレットジャケットは
今のシーズンはないんだ。代わりになるのはこっちかな?」

 

 

見せてもらったジャケットもゴアテックスのものだったが、
生地は薄い夏用のものだった。

中にはゴアテックス・プロの製品もあったが、
それは600ドルもするため、
さすがに交換なんてしてもらえなかった。

あちらだってビジネスなのだ。
交換を申し出てくれただけでありがたいじゃないか。

僕は対象のジャケットを試着してみたのだが、

「ピン!」

とくるものを感じなかった。

 

 

 

 

僕が今着ているトリオレット・ジャケットを買ったとき、
それは東京の渋谷店で買ったのだけれど、

着た瞬間、自分がアウトドア・スポーツの玄人にでも
なったような気がした。
分かりやすく言うと「パワーアップした気がした」のだ。

 

 

「交換して渡したジャケットはどうなるんですか?」
と僕は訊いてみた。

「寄付されるか、使えるパーツだけリサイクルされるかだね」
コウスケさんはそう応えた。事務的に。

 

 

すぐに製品を交換するのは何か違う気がした

相棒から教えてもらったパタゴニアの「Worn Wear」の
ショートフィルムを見たとき、何年も同じギアを使う彼らを
かっこいいと思わずにはいられなかった。

自分の探すライフスタイルもそういった種類のものだった。
壊れたら修理して、ひとつのものを大事に使い続ける。
そこにはストーリーが詰まっている。

漫画家の仕事のひとつは「物語を作ること」。
だから僕は語られるストーリーというのに
すごく興味を抱いている。

 

 

そうして僕はこのジャケットに詰まっている
ストーリーを思い出した。

日本では珍しく降った雪の中をこれを着て歩いた。
世界一周の一カ国目のロシアでは遅れた梅雨の中を歩いた。
インドの列車の中で寒さに凍え、時にはまくら代わりになり、
寒い場所で野宿する時には欠かせない存在だった。

それを今、「交換してあげるよ?」と言われ、
なんのためらいもなく手放していいものか僕は悩んだ。

 

 

心にひっかかるものがあった。

たとえこのジャケットの防水機能が落ちてしまったとしても、
コイツはまだ着れるじゃないか。一緒に日本に帰ろうぜ?だろ?

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「すいません、やっぱりまだ使いたいです。
僕が影響を受けたのはウォーン・ウェアに出てくる人たちがやる
「テン・イアーーーズッッ!!!」 ってあれですから♪」

 

 

僕は無理を言ってゴアテックス用の洗剤を
貸してもらうことにした。

洗剤ボトル丸ごとあげるよ?と申し出くれたが、
いつか僕みたいなヤツがここにくるかもしれない。
一回分だけ使わせてもうことにして、
またここに返しにくることを約束した。

ここには数日滞在するつもりだ。
一回だけで満足するなんてあまりにもったいない。

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再び

バックパックを背負って僕はコウスケさんに教えてもらった
コインランドリーへと行くことにした。

ダウンタウンは小さく、10分もかからずに
通り抜けてしまうようなもので、
そこまで面白いようには見えなかった。

30分も歩くと地味に汗をかき、
自分で何をやっているのかも分からなくなってくる。

 

 

たまたま目に入った靴屋さんでボロボロのブーツの修理に
いくらかかるのかと訊ねると、80ドルもかかると教えてくれた。

移民系のおじいさんでメキシコだろうか?
アジア人に近しい顔をしていた。

「こんなにボロボロになったら新しいのを
買った方がいいんじゃないか?」そう彼は言った。

いやいや、修理すればまだ使えるっしょ。
ブーツってそういうものじゃなかったの?

英語がうまく発音できなかったために、
このブーツが家族から引き継がれたブーツということになったが、
まぁ、それは気にしないでおこう。

別れ際におじいさんはペットボトルの水を僕にくれた。
ありがとうございます。

 

 

 

 

コインランドリーの中には沢山のコインランドリーが置いてあった。

言葉にすると当然っちゃ当然なんだけど、
一つの部屋に何台ものコインランドリーが置かれていて、
「ウィーーーーン…」とドラムが回る稼働音が聞こえるのは
不思議な感じがする。
何かここが工場の中にであるよな気さえするのだ。

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コインランドリーはクオーターコイン(25セント)以外は
受け付けないレトロな仕組みだったが、
ちゃんと両替機も設置してあったので、
僕はそこで大量にコインを用意した。

一回にかかる料金は2.5ドル。
つまり10枚のコインを入れないとマシンは動かない。

もっと大型の高機能のやつだと3.5ドルもする。

 

 

最初はジャケットとボタンシャツ、ジーンズを洗濯にかけ、
それが済むと今度はジャケットだけ専用洗剤で洗った。
なかなか手間がかかる。

乾燥機の方は25セントで9分回る仕組みになっていた。

僕はベンチに座って居眠りしながら時間をつぶした。
ここにはトイレがなかったのがキツかった。

 

 

 

洗濯が済むと僕は時間のつぶせる場所を探した。

歩いて見てわかったのはベンチュラというのが
ほんとうに小さな町だったということだった。

町外れにいくにつれ、車の修理工場が増え、
作業ができそうなカフェなんてどこにも見当たらなかった。

 

 

『よくこんな町で工場を
興そうなんて思ったよなぁ..』

 

 

僕はパタゴニアの創設者のイヴォン・チョイナードに
敬意の念を抱いた。

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そうして

結局行き着く先はマクドナルドだった。

いやはやマクドナルド様。
いつも体に悪い、不健康だとか言ってごめんね。

作業場としてはかなり上位にランクインするよ。
コンセトねーけどさ。

贅沢か。

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24時前にマクドナルドを出た。

ビーチがすぐ近くにあり、そこで寝床を探した。

他にも寝ている人間がいるのが分かった。
野宿者の中にもプライベートの領域のようなものがある。

僕は少し離れた場所にテントを立てた。

海辺の砂はさらさらとして気持ちがよい。
風がはたはたとフライをはためかせる。

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