世界一周775日目(8/13)
トゥクストラ
に着いたのは9時頃だった。

睡眠が浅かったせいもあり頭がボヤボヤする。
マコっちゃんもそれは同じみたいだった。
ここはメキシコ。
バスを降りると添乗員のお兄さんが
ギターを弾かせてくれと頼んできた。
8時間のドライブを安全に終えてくれた感謝の気持ちで
「いいよ」とギターを貸してあげたのだが、
彼はパワーコードのように低音をデタラメに弾いただけだった。
なんだよ。弾けないんじゃなん。
前日歯磨きをしないでバスに乗り込んだので、
5ペソの有料トイレで口をゆすいだ。
ここから目的地のサンクリトバドル・デ・ラスカサスまでは
ターミナルから直接コレクティーボ(乗り合いバス)が出ているので、
焦る必要もない。一時間少しの距離で50ペソ(400yen)だ。
バスに乗るまえにコーラを買って一気に飲んだ。
ボヤボヤした頭が少しだけ冴えたような気がした。
コレクティーボが出発するまでに少し時間があったので
煙草をターミナルで吸おうとすると、
「ここは禁煙だから」とスタッフに注意された。
僕は火のついた先端だけむしり取って、箱に入れ直した。
しばらくするとコレクティーボは発進し、
途中で客を拾いながらトゥクストラの町を出た。
辺りの景色は今まで見てきたメキシコの
どの風景とも変わっていた。

アメリカからやって来た時は
辺りは乾燥した大地が広がっていたのに対し、
今要るチアパス州は緑溢れる山々に囲まれていた。
今まで抱いてきたメキシコはそこにはなかった。
チアパス州以降はマヤ文明が栄えたエリアらしい。
インディヘナ(原住民)の人々の割合も多くなるようだ。
コレクティーボは山を登り、木々の切れ目から谷が見えた。
薄い雲が山の中腹にかかっている。
自分がまだ見ぬ場所へ移動しているということが分かる。
久しぶりに自分が旅をしている実感が湧いたような気がした。
車がサンクリストバドルに入った時、
そこがあまり大きい町ではないことが分かった。
町は山に囲まれているので、どこまで町が続いているのか
なんとなく予想することができる。
バスターミナル付近では植え込みの手入れなどが行われていた。
どこか小綺麗な印象さえ受けた。
コレクティーボを降りると、
宿のある場所途中までは一緒に歩いた。

マコっちゃんはこのあと知り合いの家に泊まるらしい。
サンクリストバドルには以前も訪れたことがあるようで、
その時は一ヶ月ここに滞在したらしい。
そのため、知り合いに挨拶を済ませた後は
すぐにグアテマラに戻るのだそう。
マコっちゃんはグアテマラの
サン・マルコスだかにある日本料理屋で行われた
セッションを聴かせてくれた。
どうやらアティトラン湖の周辺には
ミュージシャンやらヒッピーが集まるらしい。
行くのが楽しみだ♪
僕がこの町に訪れた目的はふたつある。
ひとつは日本人が経営する「道草カフェ」というのに
行ってみたかったということ。
もうひとつは
ここで雑貨を仕入れることだった。
そして僕がここで泊まるのは日本人宿「カサカサ」という宿。
ここにはモロッコでお会いした
水墨画家のシンペイ兄さんの絵が見られるのだ。
マコっちゃんとは途中で別れた。
「道なりをまっすぐ行けばカサカサですよ!
石のアーチが目印です!」
と教えてくれたのはいいが、
道なりも何も辺りは入り組んだ路地ばかりが続いていてた。
てか、なんだよ?石のアーチって?

道なりって…。
結局はいつものオフラインでも見れるGPSのマップアプリ
「maps.me」を使って宿までは向かった。

確かにあったな…、石のアーチ。
「カサカサ」
は隠れ家のようにしてそこに建っていた。


しっかり描かれたウォールペイントがなかったら、
見分けるのは難しいかもしれない。
入り口には日本語で「カサカサ」と書かれているが、
場所を特定できなかったら見落としてしまいそうだ。
呼び鈴を鳴らすと、すぐに坊主頭のお兄さんが
ニコニコしながら入り口を開けてくれた。
初めての宿、それも日本人宿に来た場合は
どんな風にしていればいいのか掴みきれずに他人行儀になりがちになる。
これは日本人特有なのかもな。
入り口を入ってすぐのところにシンペイ兄さんの絵があった。

大きなハート型の枠の中に
水墨画的な風景画が色鮮やかに描かれている。
その隣りには”WELCOME”と綺麗なブロック体で書かれていた。
僕が絵をじっとじっと見ていると
管理人のタケシさんはシンペイ兄さんが絵を描いた
当時の様子を説明してくれた。
シンペイ兄さんはかなり計算してこの絵を描いたそうだ。
川と夕日のイメージを固めるために
丸一日宿の屋上で景色を眺めていたそうだ。
イメージが固まるとそこからの仕事ぶりはかなり早かったそうだ。
なんとこの絵を一人で4日で仕上げてしまったらしい。
「今まで色んなアーティスト見てきましたけど、
あんなに早い人はいなかったですね」
とタケシさんは評価した。
あぁ、モロッコで会ったあの時から腕を上げたんだな。すげぇや。
日本人宿にはウォールペイントが描かれてることが多い。
一見ただの装飾として捕らえがちだが、その作者を知っていると、
その絵はずっと身近に感じるのだ。
でも、あれって難しいんだぜ?
カンボジアのシェムリアップにあるヤマトゲストハウスに描いた僕の絵は
まだ消されずに残っているだろうか?
ドミトリーのベッドが空くまでは共有スペースに
荷物を置かせてもらうことにした。
宿はそこまで広くはないが、綺麗に掃除が行き届いており、清潔感があった。
小さな庭があり、隣りの家とコンクリート塀一枚で隣接していた。
どこにいたらいいのかよく分からなかった僕は、
Wi-Fiのパスワードを訊いて、とりあえず日の当たる庭に出た。
管理人のタケシさんがふいに僕に尋ねた。
「あ、コーヒーいります?」
「え?あっ!はい」
「ミルクと砂糖は?」
「あ、ミルクだけでお願いします」
え?コーヒー?
外に置いてある椅子に座っていると、
まるでカフェのようにタケシさんはコーヒーを持ってきてくれた。
今までいくつか日本人宿に行ってきたが、
タケシさんほど日本的なホスピタリティを持っている人は
会ったことがなかった。
「です/ます」調の丁寧な口調。
ベッドが空くまでアナウンス、
それに加えてコーヒーだなんて!ここはカフェかなんかか!
椅子に座ってコーヒーを飲んでいると、
その場にいた別のお兄さんが声をかけてきてくれた。
シュンさんと言ったが、この人もかなり腰の低い方だった。
シュンさんは中南米を旅するつもりだったそうだが、
グアテマラとメキシコの居心地が良過ぎて
南米に行く予算がなくなってしまったと言った。
のんびりとした空気感を持った笑顔を絶やさない人だった。
シュンさんはパチカ(アサラトに似た楽器)と
買ったばかりだというガットギターを持っていた。
話しているうちにセッションすることになり。
いつものノリで僕が気持ちよく唄って、
シュンさんがパーカッションで会わせてくれるいつもの流れになった。
シングルルームに泊まっているジュンさんが(似たような名前が多いのだ)
ジャンベを持ち出し、会わせてくれた。
ここには楽器を持った人たちが多いようだ。
ベッドが空く前に僕は外を散歩してみることにした。
タケシさんは
「ベッドが空いたら荷物移動しときますね」と
関西のイントネーションで言ってくれた。あざっす!
宿はローカルなエリアの中にあった。

町の中心地までは5分ほど歩くのだが、
路地好きの僕をワクワクさせてくれた。
一階建ての建物や、石畳。幅の狭い歩道。
頭上にはパペル・ピカードが飾られている。
ここの路地もいい味出してるね!
教会の近くには雑貨を売るマーケットが広がっていたが、
それはあとでもいいだろう。
近くの屋台で一枚5ペソ(40yen)のタコスを食べた。
食べ物の値段も少し下がったように感じる。
そこからソカロへと歩行者天国が続いていた。
僕は適当に辺りを散策した。

サンクリストバドルは観光地として開けているが、
やはりりそこまで大きくはないようだ。
もちろん周辺の村へ行くツアーなどもあるのだが、
一日か二日あれば歩いてまわれる大きさだろう。
ソカロの近くにある公園のベンチで煙草を吹かすと、
座ったままの体勢で昼寝をした。
ここはのんびりできる場所だ。

これはちょっとダメかな。双頭って…。
ただでさえ可愛さと気持ち悪さが絶妙なバランスなトロールなのに..
16時になると僕はバスキングをしてみることにした。
歩行者道はソカロを中心にみっつほど伸びている。
見た感じ一番初めに歩いた道がバスキングによさそうんだった。
ここ二三日唄っていない日があったから
喉の調子も元に戻っていることだろう。
歩行者天国はギターの演奏にうってつけの場所だった。
喉が開くまで時間がかかりそうだったが、
数曲で30ペソくらいが集まった。いい感じだ。
だが、そう簡単に路上で唄えるわけがない。
やはりここでも警官にストップをかけられてしまった。
いやいや、唄うとことだったら他にもあるぜ、と
ソカロ中心でギターを構えたのだが、
レスポンスは途端に少なくなってしまった。
物売りの子供たちが怪訝な顔をして足を止め僕を見ている。
ニコリともしない。
終いには町の浮浪者みたいなヤツが至近距離で絡みだした。
こうなるとパフォーマンスも落ちる。ノれなかった。
唄いたいという気持ちもすっかりどこかに言ってしまった僕は
そこから引き上げることにした。
なんだかここではバスキングができなさそうだ。

宿に戻ると、久しぶりにONE PIECEを読んで
改めて背景の上手さに驚いた。
もちろん作者本人が背景を描いてるわけではないのだが、
ちゃんと世界観を統一できている。
きっと尾田さんのところはいいチームなんだと思う。
21時を過ぎてここでスタッフをしている(?)カオリさんの手料理を
ごちそうになった。

今まで食べていたものは一体なんだったんだろう?と思うほどに
栄養バランスに気が配られ、最高に美味しい晩ご飯だった。
やっぱり誰かが作ってくれたご飯が一番だよね。
ってか料理できるってマジ行きて行く上では
必要不可欠なスキルだよなぁ。
「元ウェイターですから!」
と率先して皿洗いをし終わると、あっという間に夜は深けていた。
もうブログなんて書く気はしないので、
シャワーを浴びてそのままベッドに直行だ。
あ~~~~、なんだかいい気分だ。
居心地がいいのはここにいる人たちのおかげだろう。

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