目黒で行われた「路地裏dining」の帰り道。
なんか子供達にむっちゃ人気だった。
新宿から小田急線、相模大野行きの快速電車の中に僕はいた。
足元には大きな木箱が二つ。邪魔になってしょうがない。
ちょっとした野暮な用で、僕はそれを家まで持って帰らなければならなかった。目黒から新宿まで持ち運ぶのにも骨が折れた。他の乗客の迷惑になっていることは間違いなかった。発車間際の快速電車に乗り込む時「ほんとうにスイマセン..」と心から詫びて電車に乗り込んだくらいだ。
サラリーマン(ウーマン)の群れの中に紛れ込むと、僕は不安な気持ちを感じることがある。
彼らは朝八時前に出社して、会社で8時間の業務をこなし、家に帰る途中なんだろう。そして、その働いた分の対価として毎月給料を得てそれで暮らしている。
彼らのようにしっかりと自分の生活を安定させて、この日本社会で生きている人の姿を見ると、僕はよく不安になるのだ。自分がそのように安心できるのはいったいどれくらいかかるのだろうか、と。
この生き方を選んだことのよって得た自由と引き換えに、すぐには手に入らないこともある。そのことは自分でもよくわかっている。
ふと顔を上げるとそこには木村カエラの顔があった。
僕にとっては懐かしい顔だった。缶ビール片手に顔を少し横に傾け、横眼でこちらに視線を送っている。
こんな感じ。ウロ覚えカエラ。
よく見るとそれはサッポロビールの広告だった。
「爽快独り占め」なんてごくありふれたキャッチコピーが書かれていた。
正しくは「ひとり占めしたくなる爽快感」でしたね。
広告の向こう側から送られてくる視線は、正面からそれを見る人間と合うように写真が撮られていた。僕はしばらく彼女の顔を眺めていた。それはある意味、旅から戻ってきた僕にとってのひとつの再会でもあった。
僕が彼女の音楽を聴いていたのは高校生くらいからだった。
いくつかの彼女の楽曲は、当時の僕の高校生活を思い出すのに欠かせないものとなっている。実を言うと今日の午前中も、彼女の曲を聴きながら漫画を描いていたのだ。
このありふれた偶然が僕には意味のある運命のようにも思えた。そう。僕は運命主義者で、しょっちゅう自分の人生となにかをこじつけているのだ。
「you」
驚いたのは彼女がまったく歳をとっているようには見えなかったということだ。
広告に用いられる写真がデジタルで加工/編集されているのはわかっていたが、僕には彼女の周りに流れる時間はふつうの人より遅いのではないかと思ったくらいだ。
いや、現に彼女は歳をとっていないのかもしれないな。
世の中には「歳をとらない人間」というのが存在する。
もっと正確にいうと「歳をとったように見えない人間」だ。
世界を旅しながら実にいろんな人と会ってきた。そんな中で僕はあるひとつの共通点があることに気がついた。
歳をとらない人間とは
やりたいことをやっている人間
だと僕は認識している。
というか、そういう人たちに実際に会ってみるとよくわかる。
彼ら/彼女らは実に生き生きしているのだ。女性が恋をすると、一気に肌ツヤがよくなるように。何か特殊なホルモンが分泌されるのかもしれないし、現代社会で生きる上で多くの人はストレスにさらされているからかもしれない。
約三年に及ぶ世界一周の旅から帰ってきて、それのことを顕著に感じた。
僕もやりたいことをやっているわけだし、白髪は増えれども、見た目はほとんど変わっていない自信があったが、
僕と同じようにやりたいことをやっている仲間はみな同じような顔をしていた。肌にツヤがあるのだ。
そこにいくらかの遺伝的な影響も出ているのかもしれないが、若い時から年上に見られたヤツでさえ、見た目が変わらないスパンが長かったりする。
僕の好きなアーティストのCARAVANなんてそうだ。髭に白髪が混じれど、用紙はほとんど変わらない。走りこみして体重が増えないように気をつけているのだろうか?
なぜだかその時の僕は広告の木村カエラを見て妙に納得してしまった。
実際、木村カエラが手に持ったビールを広告/CMの中で飲んでいるのかはわからない。
もしかしたら彼女はとんでもなく下戸なのかもしれないし、「サッポロなんて飲んでられないわよ!私はギネスかクラフトビールしか飲まないの!」なんて言っているかもしれない。瑛太と年代物のワインをお洒落に飲んでいるのかもしれない。サッポビールそのものは家のガレージにおいてある冷蔵庫の奥底で冷凍保存されるように身を潜めているかもしれない。もしくは、ギャラのビールは友達やご近所さんにあげてしまったのかもしれない。
別に、彼女が広告に起用されていることと、彼女がそのビールを愛飲しているかとは、また別問題なのだ。
時々僕はその点を混同して考えてしまうことがある。そしてその事実を思い出すと、『どうかしているぜ』と、広告に踊らされやすい自分がちょっと情けなく思えてしまう。
それでもその時僕は、彼女が持っていたビールを飲んでみたく思ってしまったのだ。
仮にそのビールを買って家に帰って飲んだとしても、とびきり美味しいようには感じないだろう。
だが、そこに付随されているストーリーをつまみにして、一人ニヤけることは間違いない。
どっちも可愛いやん笑。春菜がソファに座った時の「ドサッ!」って感じにちょっと吹いたけど(笑)。
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