当時17歳だった僕はショックを隠せなかった。
というのも、お返しに渡されたのは
どこでも買えるような安物のペンケースだったからだ。
青いプラスチック製で、蓋には英語で「Pencil」と書いてあった。日本語で書くと筆箱に「鉛筆」と書かれているようなものだ。「adidas」っぽい書体だった。
その時の僕は高校2年生で、修学旅行で韓国に来ていた。
なぜ韓国なのかはわからない。
それまでは一年おきに沖縄か北海道を修学旅行先にしていたのに、なぜだか僕たちの世代だけ海外旅行になったのだ。
僕たちの修学旅行だけ海外旅行になった理由は、事前に修学旅行の希望地アンケートをとった際、海外に多くの希望が集まったことと(信じられない話だけど「ハワイ」なんてのもあった)、韓国ならそれほどコストがかからずに行くことができるからだと推測される。
ただ、今までの修学旅行なら3泊4日の日程だったのに、僕たちはそれよりも一日少ない2泊3日の日程へと変更させられてしまった。
300人近くいる生徒を管理するにはそうする必要があったのだろう。
実際の修学旅行は軟禁状態に近いものだった。
一日の大半をバスに詰め込まれて、次の観光地から次の観光地へと移動させられた。自由に行動できるのは宿泊先だったホテルの中だけだった。
それでも修学旅行はどこか気分が浮つく。みんなそれなりに限られた自由エリアで楽しんでいるように思えた。
僕も気分は上々だった。ここへきた初日に限って。
というのも、
修学旅行の前に行われたハンドボールの公式試合で、僕たちは強豪だった桐光学園との戦いで勝利していたからだ。
あの試合で僕はいいシュートを決めていた。普段は厳しいチームメイトもそれを評価してくれていたし、自分の成長を感じられた。
そのような浮ついた気持ちは修学旅行へ持ってきてはいけなかったのだ。
不覚にも僕はその時頻繁にメールのやり取りをしていた同じ部活内の女のコにうっかり告白してしまった。
そしてしっかりとフラれた。
普段から仲良く話しているだとか、一緒にどこかに遊びにいくだとか、そういうのをすっとばして、メールだけの関係から一方的に告白したのだ。
それが修学旅行初日のことだった(笑)
韓国の高校生たちと交流会は二日目にあった。
そこでプレゼントを交換する時間があったのだ。
時間の最後の方になって、向こうの女子高生と僕はプレゼントを交換した。僕がその時渡したのは「隣のトトロ」のパズルだった。
そして相手の子から渡されたのが、そのペンケースだったのだ。
『こんなのってないよ。100円ショップでも買えるじゃないか..』
僕は感情を表面には出さなかったが、心の中では思いっきり肩を落としていた。
っていうか、センスがなさすぎる..。
失恋があり、さらに追い打ちをかけるようにプレゼント交換でがっかりさせられた僕のテンションがどれだけ下がっていたかがおわかりいただけるだろう。
高校の修学旅行での思い出といえば、軟禁状態に近いスケジューリングと苦さも感じないくらいあっけない失恋だ。
そして手元に残ったのは青いペンケース。すぐに蓋は外れるし、ペン自体もせいぜい6本くらいしか収まらない。
不思議なもので、
僕は未だにそのペンケースを使っている。
5年以上は自分の机の引き出し入れっぱなしだった。普段ペンをたくさん持ち歩く僕には向かないペンケースだったからだ。だから僕はそのペンケースの中にレトロな10円玉(淵にギザギザがついているやつだ)を入れたり、ステッカーなんかを入れていた。
そして今は漫画を描く際に使うペンを入れるケースとして使っている。主に外で漫画を描きたい時だ。
お盆に両親の実家である埼玉県に向かった時もそこにGペン、シャーペン、製図用のペン二本(0.8と0.5)を入れて持って行った。もちろんそれ以外に道具を持って行ったけれど。
そうだ。フジロックにも持ってったんだっけ。
「贈り物」に値段なんて関係ないのかもしれない。
僕とプレゼント交換をした韓国人の女のコも、自分のお小遣いで買えるものはこれが精一杯だったのかもしれない。はたや『別になんでもいいや』という軽い気持ちだったのかもしれない。
それでも僕は今もなおそのペンケースを使っているのだ。10年もこれを所持していることになる。無理な使い方をしなかったおかげで、今もペンケースにほとんど傷はついてない。もらった時と同じ状態と言ってもいいくらいだ。
モノがどのような形でその人の手元にとどまり続けるのかはわからない。
高価なものだからといってもすぐに壊れてしまうことはあるだろうし、大事にしているつもりのものがどこかへ消えてしまうときもあるかもしれない。
ものが手元に残り続けるということは運なのかもしれない。
少なくともこのペンケースには先に話したようなストーリーが詰まっている。そして今も僕はそのペンケースを現在進行形で使っている。
先日「旅祭」で世界一周の旅路で仕入れてきた雑貨をたくさんの人に売った。
僕たちが売った雑貨が、今僕が使っているペンケースと同じようにいつまでもその人の手元に残っていればいいなと思う。
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