愛つてる

 

 

 

通天閣を後にした僕は、

普通だったら電車で行くような距離を歩き出した。

向かう先には僕が大阪に来たら絶対に訪れたいと思ったいた店だ。

その店は瓦屋町というところにある。

 

 

 

 

 

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大阪は相変わらず暑かったけど、幸いにこの街は平坦な道が多いため歩きやすい。

僕はペットボトルのお茶を飲みながらぽそぽそと歩き出した。

昼下がりの大阪といっても、場所によって人の行き交いは異なる。

まぁ、そりゃそうだよな。繁華街だったら人が多いかもしれないけど、町工場だとか、昼間は店を閉じているスナックがある場所には人は集まらないわな。

 

 

旅のマインドを持った散歩をなかなかにいいもんだ。

ここは僕が生まれ育った日本という国だけど、ここにある風景は僕には馴染みのない色彩を持っている。

 

だいたい金曜日の正午に目に入るのは自転車に乗ったおばちゃんの姿だったり、工事現場のおっちゃんだったりだ。そうだ。今日は平日なのだ。

格安スーパーで有名な「玉出」が意外にあちこちにあるのには驚いた。僕は中には入ったことはないんだけれど、やっぱり中で売られている商品はめちゃくちゃ安いんだろうなと思う。

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あの家、きっと昔っからあったんだろうな。

 

 

 

 

目的地までの道順はそこまで複雑ではなかった。

あみだくじの要領でT字路に行き当たったら右か左に曲がって、また道を下って行く感じだった。

僕はしょっちゅう立ち止まってはiPadでGoogleマップを起動し、道を確認した。

おかげで目的地までは順調に距離を詰めて行くことができた。

 

ただ歩いているだけだとそこまで面白いことは起こらない。ゆっくりな速度で景色が変わっていくだけだ。

もう少し涼しければいいのになと僕は思った。

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歩いていて気がついたことは、そうだな。

この街には自動販売機だらけだということだ。それに歩きタバコをしている人の多さ。

中には自転車に乗りながらプカプカとタバコを吸う人もいる。こういうのは問題にならないのだろうか?

きっと、大阪の喫煙率は高いに違いない。だって、町のタバコ屋さん的なお店もけっこうあるんだよな。僕の地元にはそういうお店ってほとんどないな。

あぁ、なんだか僕もタバコを吸いたくなって来たな。

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ゆっくりと

1時間くらい歩いて僕はようやく目当ての店に辿りついた。

お店の名前は

 

 

チャルカ

 

 

といった。

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このお店がつくった「チャルカの旅と雑貨と喫茶のはなし」という本を大学生の時、ヴィレッジ・ヴァンガードで買った。今でも実家に置いてある。

あの時の僕は、一体自分にやりたいことがなんなのかわからずに、ただ、悶々とする日々を過ごしていた。

本屋に置いてある「夢を叶える方法」だとか「20代でやるべきことの」だとか、その手の自己啓発本を買って読んではさらに悩んでいた。

 

 

この本のいいところは、写真と文章の多さだと思う。

写真メインの本によくあることなのだが、文章が少ないと背景のストーリーだとかが読み手に伝わってこない場合が多い。

「ほら、この写真きれいでしょう?」と言わんばかりの自己主張。画質がいいのはわかるんだけど、僕が知りたいのはもっと他のことなんだよなといつも思ってた。

その点、チャルカの本は、写真は割とザラザラした質感が多かったのだけれど、そのぶん、ストーリーを描くことに力が注がれていた。

そういうのを読んで、僕は雑貨に対してなんだかワクワクするものを感じていたし、いつかはチャルカが買い付けをしているハンガリーだとかチェコに行ってみたいと思うようになったのだ。あの国に行けば可愛い雑貨が手に入るに違いない!単純な僕はそう思い込んでいた。

そういう幻想に従って実際にチェコに行き、野宿している間にバックパック丸ごと盗まれたのは、まぁ、いまでは笑い話だよな。

 

 

 

 

 

とりあえず、僕はお店の人と話したかった。

 

「僕を旅に駆り立てた要因のひとつはチャルカでもあったんですよ。雑貨の魅力を伝えてくれて、この本を届けてくれてありがとう」

僕はそう言いたかったのだ。ちょっとドラマチックに。

 

 

 

 

店は13時からオープンしていた。

中に入ると、そこには東欧からやって来た雑貨が綺麗にディスプレイされており、奥の事務スペースでは何人かが事務作業をしていた。ノラ・ジョーンズの曲がさりげなくかかっていた。

 

僕は博物館や美術館で作品を鑑賞するようにじっくり雑貨をみて回った。

そうしていると、一人の店員さんが「よかったら棚の中も見てくださいね」と僕に声をかけてくれた。

いくつもキャビネットがある棚の中には思わずニヤけてしまうような味のある紙やボタンが種類ごとに入れられていた。やっぱりセンスのようなものを感じる。

僕もこういう雑貨を探してまわったけれど、素人目にはその良さを見出せなかったものばかりだ。こういう場所に置かれているのを見て、「あぁ、やっぱり東欧の雑貨っていいよな」と思うのだ。

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店自体は大きくはなく、15分もあれば一通り全部の商品を見ることができた。

そして僕は急にドギマギしてきた。

 

 

 

 

「どうしよう???

一体どのタイミングで喋りかければいいんだろう?」

 

 

 

 

 

店はあんまりに静かすぎた。

まだ開店したばかりってのもあるだろう。時折事務所スペースから仕入れがどうとか展示会だとか出店のワードが聞こえてきたけれど、みんな僕のことを気にしてかは知らないが、全くといっていいほど無駄話をしなかった。

むしろ僕は喋りかけて来てほしかった。

そうすれば、会話を繋げることもできるのに。いや、そもそも誰に話しかければいいのか僕にはわからなかった。雑貨を何か買えばそこから会話が膨らんだりするんだろうけど、準ミニマリストの僕はそこまでものを持たない。せめてMacのアダプタを入れるポーチみたいなものがあれば、それを買おうかなとも思ったんだけど、店に置いてあるのはもっと女性向けの可愛いアクセサリーだとか手芸用品とか花瓶だとかだ。あぁ、しかも安いわけじゃないんだよな。そりゃそうだよな。だってこれらの雑貨はチェコやハンガリーから来たんだよな。あ!そうだ!こんなのはどうだろう?「あの〜..ちょっとでいいので話を聞いてほしいんですけど」って独白みたいなワンセンテンスから始まる。ってなんだか映画みたいなシチュエーションだな。もしかしたら、面白がって話をじっくりきいてくれるかもしれない。コーヒーなんて出してもらったりして。それで僕が漫画を描いていることを知ったら、似顔絵をプレゼントするくらいはできるかもな。道具は一応一式持ってるわけだし。いやいや、そんな出だしだったらドン引きするに決まってるよ。何妄想を膨らませてんだ?バカか?あぁ〜〜〜〜…どうしたらいいんだ?今日しかないんだぞ!チャンスは!

 

 

なんだか告白に向かう男子高校生にでもなった気分だった。

置いてある本を読むフリをして、必死にイメージトレーニングを繰り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「今日はどこからいらしたんですか?」

 

 

入店から40分くらいしてようやくアシストが入った。

店頭スペースに立っていた店員さんが話しかけてくれた。

僕は相手との距離感を図るようにさりげなく旅の話を始めて行った。

 

 

「実は、僕、大学生の時にチャルカの本を読んで、それにとても影響を受けたんだです」

と僕は言った。

店員さんはなれた営業対応で「ありがとうございます」と言った。

 

 

「それで、僕、三年間くらいバックパッカーをやっていて去年帰って来たんですね。旅に出ている間は個人的に買える範囲でいろいろな国の雑貨を集めてたんです。もちろんチェコやハンガリーにも行きました。でも、本に載っていたような可愛い雑貨は見つからなかったんですよね。やっぱりチャルカさんだからこそ仕入れられる雑貨ってことなんでしょうね」

 

 

なんだか会話がうまい方向に進まない。

 

 

いや、僕はファーストコンタクトの時点でわかっていた。

ここにいる人たちと僕の旅のスタイルはあまりにもかけ離れているということに。

別に僕の旅の話なんて興味ないのだ。

 

 

 

「えっと、それで、チェコで一回荷物を盗まれたちゃったことがあったんですよ。野宿している時に。チェスキー・クロムフとチェスキー・ヴドヴィチェを間違えちゃって、ヴドヴィチェの方に行っちゃったんですよね。あははは」

 

 

 

店員さんは少し困った顔でこう言った。

 

 

 

 

 

「まぁ、そうですよね。

そんな旅をされてたら、荷物も盗まれちゃいますよね」

 

 

 

そこには興味だとか同情のニュアンスは一切含まれていなかった。

雨が降ったら地面が濡れるだとか、風が吹いたら砂埃が舞うだとか、玉ねぎを切ったら涙が出るだとか、そういった自然現象の流れを説明するような口調で、昔の僕の失態が改めて言い直されただけだった。

 

それから、堀江の昔の店舗から瓦屋町の新店舗に移店して来て日が浅いだとか、当たり障りのない話をしただけだった。

そこには僕が期待していたような旅的なハプニングは何もなかった。

 

 

うん。わかってたけどね。

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忙しそう…

 

 

 

 

いくら、その人が好きでも、想いが一方通行で終わってしまう時がある。

僕はこれまでも同じような過ちを繰り返して来た。

ただ、今回も同じだっただけだ。

というか、海外が違うんだよ。nudie jeansやpatagoniaは特別だったんだ。

僕が一方的にこの店に憧れを抱いていただけ。

運やタイミングもあっただろう。いきなりやって来た変なヤツの対応をしなくちゃいけない人間の身にもなってみろよ?

 

 

 

 

ーーー…

 

 

 

 

 

僕はうなだれて外に出た。

空気はムッとしていて、ひどく疲れた気になった。

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ABOUTこの記事をかいた人

「旅する漫画家」を目指す、清水陽介(シミ:24歳)の世界一周ブログです。