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僕は睡眠が浅い。
だから、誰かが僕より早く起きて出発の支度なんかしていると、すぐに起きてしまう。
三階で誰かがパタパタと足音を立てるのが聞こえた。
いつまでも寝ているわけにはいかないな。
ええっと..今何時だ?
ここは大阪。桃谷商店街の近くにあるとあるシェアハウス。そして今日は日曜日。
昨日ショータさんとシンゴさんにこのシェアハウスに連れてきてもらったのだけれど、ここで二人は暮らしていないのだという。
事前にここに住む人たちには連絡がいっているみたいなんだけど、僕は彼ら(彼女たち?)と顔を合わせたことがない。それってなんだか気まずくはないだろうか?
昨日はソファで寝た。
僕が寝るためにふとんを用意してもらっていたのだけれど、僕みたいな小汚いやつが布団なんて使っていいのかためらわれて、僕はソファで寝たのだ。
旅をしていてたまたま家に泊めてもらった時なんかも、僕はよくベッドではなく、自前の寝袋で寝ていた。そうすると、次の日家の人が「なんで寝袋で寝てんの!!?」って驚いたものだ。僕は変な気の遣い方をするのだ。
ソファで寝ていると暑過ぎたのでそのまま床に転げ落ちて二度寝。
他の同居人の方々も起きてきたので、僕はとうとう諦めて活動しはじめることにした。
ここに住んでいるお姉さんの一人が「そろそろ出ます?なら私が鍵閉めてきますけど?」と言った。僕はすごいボヤボヤしていたのと、なんだか顔を合わせるのが気まずくて「僕もすぐに出発します」とモソモソと返事をした。
こういう時に忘れ物しがちなので気をつける。昨日も宿にパソコンを忘れたばかりなので、慎重になる。バックパックから取り出したものを確認して、パッキングを終えると家を出た。
「さて…どうしようかな???」
もともと、僕の日曜日のスケジュールは、
朝からヒッチハイクして神奈川に帰るというものだった。
その距離なんと500km以上。
これでも世界中でヒッチハイクしてきたので、日本でも楽勝だろうと考えていた。
朝から出発すれば、遅くとも夜には神奈川にたどり着けるだろう。そこから電車に乗って家に帰って翌日バイト。
うん。悪くない。ネタにもなるしね。いいじゃんこのプランで行こうよ。
調子に乗っていた僕だったが、念のため大阪から東京までのヒッチハイクを調べたらとんでもない記事を見つけてしまったのだ。
そのブロガーの大学生らしき男の子は大阪から東京まで18時間もかけてヒッチハイクしたらしい。彼曰く足柄サービスエリアは鬼門らしく、まったく車が捕まらないのだとか。彼は雨の中ドライバーに声をかけまくってようやく乗せてもらえたとのこと。ブログの最後の最後に「夜行バスがこんなに安いとは知らなかった」と彼は描いていた。
僕はそれの記事を大阪に行く前に読んで不安と恐怖に駆られた。
これが、予定もないお気楽な旅だったら僕はあえてそのルートをヒッチハイクで帰ったことだろう。
でも、今は違う。生活費を稼ぐためにバイトをしているわけだし、急に休むわけにはいかない。
なんだか日和ったものだなと思いながらも、僕は深夜バスで帰ることにした。値段は直前割引で3300円。なんだ。そこまで高くないじゃないか。時間を金で買うと考えれば安い値段だと思う。
バックパックを背負うと僕は桃谷商店街の中へと入っていった。
正確にはここは三つの商店街に別れているらしい。
その区分は商店街を区切るように横切る車道によってなされているようなのだが、外からやってきた僕にとってはここは「桃谷商店街」なのだ。
僕は日記が書きたかった。例のように長い日記が。
旅をしている時もそうだったけれど、記憶はできるだけ早いうちに書き留めておいた方がいい。これが一ヶ月後に書かれていたら、僕が感じたものはまた違う種類のものになってしまうだろう。
ブログをアップすると書くと、なんだかささやかな自分の趣味のように思えるかもしれないけど、書くことは大事なのだ。どんなに頑張ったって記憶は薄れて言ってしまう。
ミスタードーナッツまで行き、中の様子を見ると昨日と同じように混雑していた。そうだよな。今日も休日だもんな。ニマが開くのは14時過ぎからだ。今日はシンゴさんが店に立っているらしい。
商店街にも長いこと居座れそうな店はないものかと探して見ると、ひとつ作業ができそうなカフェを見つけた。
窓枠がミッキーマウスのような形をしており、中の様子は分かりにくくなっている。一見さんは入りにくいだろうなと僕は思った。だが、入り口には「Wi-Fi FREE」のラミネートが貼られているし、各席に電源がついている。入り浸れってことなのだろか?
とりあえず僕は中に入って見ることにした。
11時前の時刻では店内に僕以外の客がおらず、ちょっとだけきまずい。
テーブル席に着くとメニューを広げた。おいてあるのはブレークファスト・メニューだけとなっていた。ほとんどがサンドイッチとドリンクのセットだ。だいたい500円くらい。まぁ、ブランチと思えば今の僕にはちょうどいいだろう。
玉子入りのサンドイッチが食べられるようになったのはいつからだろう?今だって好んで食べるわけじゃないけど、昔は食べられなかったんだよな。タマゴサンドを食べながら僕はカタカタとキーボードを叩いた。
14時半
になって僕はニマに向かうことにした。
出発前に顔は出して起きたい。そこでしばらくウダウダ過ごして、夜になったら梅田でお土産を買って帰ればいい。
商店街を歩いていると「シミくん!」と声をかけられた。
見覚えのある顔が僕を呼んでいる。そこにいたのはBEANSのアヤさんとヒロさんのお二人。
「ちょっとちょっと」と呼ばれるので、中に入っていく。
「ちょうどよかった。今ちょうどパウンドケーキができあがったとこなのよ♪コーヒーも飲んでいきなさいよ」とアヤさんが嬉しそうにいう。
さっきコーヒーを飲んできたばかりなのになと思いながらも、ありがたくケーキとコーヒーをごちそうになることにした。
このケーキはヒロさんが作ったものなのだという。
ぱっと見ツンケンしたような元和太鼓チームの一員だったお兄さんがお菓子作りをしているシーンを思い浮かべる。なんだかそういうのってギャップ萌えだよね。硬派な人ほどお菓子作りした方がモテるのかもしれないね。
BEANSの中はかわいい雑貨であふれていた。
チャルカとはまた違った種類の雑貨だ。店の規模自体は大きくないが、中にはコーヒーが飲めるようなテーブルがおいてある。ここは雑貨屋兼カフェでもあるのだ。
そこであれこれ世間話のようなことをして僕は店を後にした。
一瞬、似顔絵を描いてプレゼントしようかとも考えた。何かお返しがしたと思う時、僕は似顔絵を描いて渡したところでその人は嬉しくないんじゃないかなと考えてしまう。まるで似顔絵の押し売りみたいだから。
でも、もしかしたら、二人はどこかで僕に似顔絵を描いて欲しいと思っていたのかもしれないなぁ、とも考える。どうしてたって、僕を呼び止めたんだろう?わざわざお店に呼んでケーキとコーヒーまでごちそうしてくれて。
人の好意のやり取りはもちろん金銭的なやり取りや物々交換が前提としてなされるわけでもない。だけど、僕はついつい考えてしまうのだ。結局僕はケーキのお礼だけ言って店を出た。雨が降ってくるらしく、お客さんの置き忘れたジャンプ傘をもらって。
お二人ともありがとうございました!似顔絵いりましたか..??
ニマ
に着くと、シンゴさんはカウンターの中に立っていた。
今朝方シェアハウスにいたフミコさんもそこにはいた。今日は二人で店をまわしているらしいが(この店は一体誰がスタッフで誰がそうでないのかよくわからない)、雨の予報もあってか、店は静かだった。棚の上に置かれたタブレットからはなぜだか「時をかける少女」が流れていた。
ここは美味しい日本酒も飲める店でもある。シンゴさんたちのオススメの日本酒だ。
日本酒の味がわかるほどの酒飲みではないのだけれど、僕はメニューの一番上の日本酒を注文した。
「昨日はありがとうございました」「楽しかったねぇ」という風に話をする。なんだかトークライブがとても昔の話のように僕は思えた。
きっと僕にとって大事なのは「今この瞬間」なのだ。それが積み重なっていく。来るべき「未来=次の今」に向かって僕は出力を上げ続ける。一体これのどこに終わりがあるのだろうとおもう。もちろん終わりなんてないのだ。自分が目指すべき理想の自分を体現すべく、描いて、人と会って、そして創り続けなければならないのだ。旅する漫画家はもっと進化しなくちゃならない。
僕はちょっと話をしたら、あとは二階で同じように作業していようと考えていた。
だけど、この店の面白いところは、ついついお店の人たちと楽しくおしゃべりしてしまうところにある。
この日、シンゴさんが見せてくれたのは、かつてシンゴさんとコラボレーションしたという路上パフォーマーの人たちの動画だった。
ある人はジャグリングのスリー・ボールを得意とし、ある人は三段重ねの一輪車に乗ったかと思えば火を使ったパフォーマンスをし、ある人は骨伝導を使った音楽をしていた。
その一人一人を嬉しそうに僕に紹介してくれるシンゴさん。
一体この人はどんな人たちとつながっているんだろうと僕は思う。
「役者をやっているとさ、やっぱり人付き合いは同じ人になってしまうやろ?だからおれはいろんな人と付き合うようにしとるんやなー」
というシンゴさん。
役者かぁ..。
シンゴさんは10年以上役者もやっている。僕が「10年同じことを続けているとその道で食えるようになる」という話をすると、「おれの場合はまた違うからなぁ」と言った。きっと、食えるようになるためにあがく10年と、自分の表現を突き詰めていく10年は違うのだ。僕はどっちだろう?
パフォーマー達の動画を見せてくれる中でシンゴさんはひとりのピザまわしのお兄さんの動画を見せてくれた。
「このピザまわしている〇〇さぁ、おれと仲めっちゃいいやないか?この間の大会で世界3位になったんだよね」
「商店街のピザ屋さんで働いてるよ?」
「え?マジッすか?え?じゃあ見に行こうかな?」
「そうだよ。6時までに行かないと混むから早めに行ったほうがいいよ!」
はははは。
ほんとうに桃谷にいる人たちは濃いよ。ムーミン谷といい勝負だと思う。
そうして、僕とフミコさんは商店街にあるCASATIELLOというピザ屋さんに、世界三位のピザまわしのお兄さんに会うべく、店を後にした。
お店にはまだお客さんはいなかったため、ユウスケさんとはすぐに話ができた。ユウスケさんはものすごく腰の低いお兄さんでピザ回し歴4年なのだという。
「ピザ回しは地味にお金かかりますからね。これだけじゃ喰っていけませんし、ピザ屋で働いている人じゃないとできないと思います。それに大会に出るためにイタリアまで行かなくちゃいけないですからね。え?この前の大会ですか?前回は入賞できなかったんですよ。優勝したのは中国人だったっけな?」
やっぱり人の話を聞くのは面白い。
そもそも、ピザ回しは現地イタリアではピザを焼くのと同じくらいに見られているらしいが、日本ではピザを回すことはそこまで重要視されていない。それに衛生上の問題もあるみいだ。
僕たちがピザ回しをせがむと、ユウスケさんは一瞬厨房まで戻り、店長に許しを得てから、ピザ回しを披露してくれた。
ほんとうにあのピザの生地が回転しているのだ。だって、あれ、もとは小麦粉でしょ?
それを股の下を通したり、肩から肩へ渡したり、空中でキャッチしたりと、多彩なテクニックのオンパレード!これがイタリアだったら、帽子がチップで埋まること間違いなしだよ!
そんな世界レベルの技を見せてもらった僕は、なんだかお金がいれたくなってしまって、「チップボックスはどこですか?」なんて聞いてみた。すると、ユウスケさんは
「そんなことよりもピザを食べて美味しいって言ってもらえる方が大事ですよ♪」
とスマイル。
ぷ、プロだ!!!
ぴ、ピザが神々しい…
これでこそプロフェッショナル!
うわ〜、やられたよ。そうそうプロに気軽にパフォーマンスを求めるものじゃないよな。今更だけど、旅の最中タダで髪を切ってくれたりょーちくんにはビールをおごりたい!そしてもちろん僕たちはピザを注文した。フミコさんごちそうさまでした!
僕はなんだかムズムズしてきて、そこにあった文房具を使って似顔絵を描くことにした。描けた即席のなんとも言えないクオリティのものだったが、ユウスケさんたちは喜んでくれた。
僕の目標は、
「え〜!ちょっと描いてみてよ!」という出先でのオーダーにもさらっとこなしつつ、クオリティの高い物を仕上げることだ。
でも、作業環境も違うとそうもいかんのです。いいわけばかりね。
ニマに戻ると、できた他のピザを食べながら二杯目の日本酒を飲んだ。
そういうしているうちに、先日お会いした女優のタネちゃんさんと流しのギター引きであるキンさんがやってきて、店の雰囲気はまた違うものになっていた。
そこに楽器があるのがいい。
楽器はやっぱりコミュニケーションツールだ。そしてやっぱりギターは弾けた方がいい。
ギターを持ってきたキンさんというのは、最近流しの弾き語りを始めたばかりだという。
レパートリーは2曲しかなかったが、Mr.Childrenの「花火」も斉藤和義の「歌うたいのバラッド」もそこにいたキンさん以外はみんな知っていた。カバーの重要性はこういうところにある。みんなが知っている曲というのはそれだけで僕たちに共通認識というものをあたえてくれるのだ。キンさんが歌ってくれたおかげで僕たちは一体感のようなものを感じた。
19時には店を出るはずだったのに、僕はさらにお酒を注文していた。
帰ろうとすると、シンゴさんがサービスでお酒を飲ませてくれたりするから、そりゃ店を出るタイミングは見失いますよ!
いい感じで酔っ払ってくると歌いたくってウズウズしてくる。
キンさんにギターを貸してもらうと、旅の最中に僕が作った曲を一曲といつもの「スタンバイミー」を披露した。楽しい夜だったな。
キンさん、写真ありがとうございます!
僕がnyi-maを出た時には時刻は20時になっていた。
またきまーーーす!
みんなにお礼を行って僕は商店街を歩き出す。
桃谷駅から電車に乗り、酔っ払ったせいでウトウトする。
なんとか梅田で降り、そこにいる人の多さに少し驚く。
やっぱり大阪はでかいよ。表札とGoogleマップを頼りに駅を抜け、梅田モータープールへ向かう。
夜行バスが出るのは21時半。
時間がなくて最後のたこ焼きには間に合わなかったけど、バスターミナルの近くで立ち食いそばで腹ごしらえをすませた。
そうして時間ギリギリまで大阪を満喫し、ターミナルで歯を磨くと僕はバスに乗り込んだ。なんだか最後は慌ただしかったな。
大阪までこんなに簡単に来れるなんて思わなかったし、こんなに居心地のいいものだとも思わなかった。
アーティスト気質の人が多く、街はエネルギーみたいなもので満ちていた。
旅を続けていると思わぬ出会いに巡りあることがある。
忘れることができないような人たちと出会い、僕たちは目には見えない何かを交換する。
ニマのみなさん。
僕を呼んでくれてありがとうございました。
アットホームのように出迎えてくれて、とても居心地がよかったです。大阪はまたいつかなならず来たいと思います。
その時はもちろんニマにも顔出すのでよろしくお願いしますね♪
またね。大阪。またくるよ。
「たこ焼きはどう食べるんですかね?」
「わたしは〜、猫舌だから、ちょっとずつ食べるかな?」
「え!?」
「あ〜〜、それ、おれもやわ〜〜」
「え?」
「シミくんは?」
「いや、僕はまるごと派ですね…あつ、あっつぅ!」
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