出版企画応援イラストを描きました!

世界一周中、カイロの日本人宿「サファリ」で出会った文筆家の万里くんが挑戦しているクラウドファンディング(出版プロジェクト)の応援イラストを描かせていただきました!

万里くんが書いてくれた文章を読んでいると、絵にも深みが増すような気がします。

2014年後半、エジプトの首都カイロにある安宿の一幕です。当時私は22歳。イラスト左手前でヘアバンドを巻いて、酒瓶を持った若造です。15人前のちゃんこ鍋やら親子丼やらを作って材料費ワリカンで食わせちゃ、毎晩、飲み散らかしておりました。
 
私みたいな貧乏旅をする人間にとって、カイロという街は「C to C」というエジプトのカイロと南アフリカのケープタウンを繋ぐ、東アフリカ縦断という長旅の、始まりの地であり、かつ、終わりの地でもあります。
 
つまり、東南アジアやインドなどを越えて、イランやヨルダンを通ってエジプト入りする旅人らや、
ヨーロッパでワーホリをしたり治験をしたりしながら旅し、いよいよアフリカっ、と乗り込んでくるやつらに、
先に北米南米を周り終えてからのり込んでくる人たちもいれば、
南アフリカから陸路で北上してきて、肌の色も靴の臭いもずいぶんアフリカ色に染まった強者たちもいて、
そうした旅人たちの地球各地で味わった体験談が交差し、神秘的で、時に妖しく、夢かと耳を疑うほど壮大な光景や、実に馬鹿馬鹿しくも、はたと泣けてしまうような逸話に満ちた、生き生きとした物語の数々が飛び交う、美しきボロ宿でした。
 
イラスト右奥に見えますは、伝説のトランペッター、ほりえんこ、こと、堀江さんです。当時、カイロの国立オペラのオケの首席トランペッターでしたが、この安宿に五年ほど住んでおり、裏の宿主というような存在でした。
 
剽軽で、くだらない親父ギャグや下ネタで場を和ませちゃあ、長居した旅人の出発には笑えて泣けてくる弾き語りか、圧巻のトランペットのファンファーレなんかで、見送るという粋な愛媛人でした。
飲み部屋にはパソコンが置かれ、誰かが違法ダウンロードしたスーパーファミコンとニンテンドー64のゲームソフトが思いつく限りほぼ全部そろっていました。
 
それに大の大人が群がって、ボンバーマンとかスマブラとかをして、負けた方がウィスキーを一気飲みする。そして、安物のエジプト製のウィスキーがまたどんどんと危ない方向に酔わせ、また負け、飲み、負け、飲み、と、そして気づくと、潰れて転げ落ち、また翌日にはなかなか旅に出れない、という、ため息無しには決して見れない、あきれた光景の数々が広がる、凄まじい沈没宿でした。
 
マンガとか小説も大量にロビーにあって、一泊確か500円しないくらいだったから、まあ、そりゃ楽園といえば楽園だった。
 
イラストを描いてくれたシミくんともここ、か、ダハブだったかな、で出会いました。彼はあの時もマンガをシコシコ描いてたし、路上に座ってアコギをかき鳴らしながら「stand by me」を叫ぶように歌ってたりしてた。
 
私からしたら少し先輩で、打ち込めることややり切れることがあって、すごいなあ、としみじみ憧れていた。
小神あも、こと、タカさんともここで出会った。彼は確かあの時はまだ茶髪のメッシュとかが入ったガキんちょで、私もまだまだロン毛のチャラ男で、二人とも何に心根を注ぎ込んで生きるかとか全然見つかっていませんでした。
 
それから一年位後にメキシコで再会すると、私の方は”言葉と契約した”だの言って詩を書いたりするようになっていて、彼は大きな壁画を描いたりするようになっていた。
 
それからさらに時が過ぎて、彼が屋久杉で窯神様を彫って遠野のお寺に奉納するような人間になったけれども、この時はそんな想像のカケラさえなかった。
 
とにかく生きている意味がわからなかった私は、泥酔しては暴れては叫んだり、アル中の禁断症状で色んなトラウマや自分の許せない過去の幻影にうなされて、”死にたい死にたい”とばかりノートに書き殴って、いつしかアフリカ南下も反故にしてしまいました。
 
そんな時にアラブの楽器・ウード奏者の加藤吉樹さんや、女一人で確か海外放浪9年目とか言ってたアヤさんという旅人にも出会ったりして、
“あぁ、好きなものをやり通して生きても生きていけるんやな”、と、いつしか思えるようになっていった。
多くを語らずとも、その文字通り自由で、自在な数々の旅人たちの生き様が、私を啓蒙してくれたのでした。
 
それから火がついたように小説を書き出してみたりして、だんだんと世界が言葉を通して味わえるようになるんだと知りました。それから言葉は、生を実感するためになくてはならない存在になっていきました。
 
あの記憶は今も鮮明に胸の奥にある。堀江さんが歌っていた「サファリの歌」、カイロの街のクラクションの騒音、飲み潰れて、意識も朦朧としながら暑苦しいバルコニーで寝ながら聴いた、早朝のアザーンの音色の崇高さ、甘いチャイの湯気、虹色の水タバコの煙、砂と香水の香り含んだ中東の渇いた風、風、風、、、、、。

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