世界一周627日目(3/18)
寝袋に
入った4時間半後にアラームが鳴った。時刻は4時半。
パタパタとテント内に散らばった荷物をまとめてテントを畳む。
警備のお兄さんはこんな夜明け前でも起きている。
こういう警備の仕事というのは治安が
良くないからこそ成り立つ仕事なわけであって、
それで宿にはセキュリティの需要があるから、
お兄さんはここで働いている。
う~む。
ありがたいんだけど、朝イチで出発することとなると、
『起こしてゴメンね』と申し訳ない気持になるのだ。
警備のお兄さんは僕の持っているギターを見て
「おれにギターを教えてくれよ」なんて言ってきたが
「もう行かなくちゃならないんだ」と作り笑いを浮かべて宿を出た。
ここはザンビア、ルサカ。向かう先はリビングストン。
ビクトリアフォールが見える場所のひとつでもある。
宿からバスターミナルまでの道のりは暗かったが、
危険な感じはしなかった。
それはどこか僕に小学生の時に早起きして
クワガタ獲りに行った記憶を思い出させた。
5時半にバスターミナルに到着すると、
そこは長距離バスに乗る乗客とスタッフで賑わっていた。
僕は前日にチケットを買ったブースへ行き、
乗るバスを教えてもらい、荷物を預けてバスに乗り込んだ。
ここまではどこ国でも一緒だ。
よくある手書きで殴り書きのチケットではなく、
プリンターを使って発券している会社なので、
バックパックを預ける時も不安は感じなかった。
バスの中はそこそこに綺麗だった。
そのまま自分の席に着く。窓際の席を指定しておいたので、
今回は外の景色を楽しめるだろう。
バスターミナルのバラックのようなブースの向こうの方の空が
じわりじわりとオレンジ色に染まって行くのが見えた。
バスに乗り込む前に買ったスプライトは
ほんの少しシャーベット状になっており、喉をサラサラと流れた。
バス移動での景色というのは、
印象に残っているようで、残っていないものだ。
というのも、景色がダイナミックに
変化するということがないからだろう。
最初の方は熱心に外を景色を見ているのだが、
単調な景色にだんだんと飽きてくる。
いつものようにくだらないことに想いを馳せたり、
音楽を聴いたりしていても、いつの間にか眠りについていたりする。
今回の移動もそうだった。
町から町へ。
休憩所のレストランではトイレを済ませ、そしてまた移動。
何か面白いアイディアが思い浮かんでも、
それを描き残す手段はiPhoneのメモしかない。
僕は手書きの方が好きなので、
こういう時にもどかしい気持になってしまう。
外の景色を眺めていて、僕は自転車旅をしないだろいうと思う。
自転車はじっくりと旅を楽しめるという
独自の”良さ”があるのは僕も認めるが、僕はバスから眺める景色で十分だ。
ただ、残念なのは、
無期限で旅するということは僕には無理だということだ。
どんな素敵な場所でもいつかは離れなくてはならない。
僕の気持はだんだんと日本に向けられている。
14:00
くらいにリビングストンに到着した。
バスを降りるといつものように客ひきたちが
「タクシー?ジャイカ?(JICAがあるのだろうか?)」
と声をかけてくるが、マップアプリを確認する限り、
歩いてでも行ける距離に宿があった。
「悪いね」とそのままスタスタとバスターミナルを後にした。
リビングストンの街並はメイン通りの道幅が広い割には、
高いビルが立っておらず、全体的にのんびりした雰囲気が漂っていた。
ATMでお金を下ろし、チェックしておいた
“JOLLY BOYS CAMP”という宿に行ってみた。
日本人に有名なこの宿でもあるが、
欧米人のツーリストも多く宿泊していた。
タンクトップにデニムのショートパンツを穿き、
長い足をむき出しにした女のコたちがぺちゃくちゃと話をしていた。
小汚い僕は少し居心地の悪さを感じたくらいだった。
宿泊代を訊いてみると60クワチャ(928yen)。テント泊で。
僕はレセプションにいるスタッフの言葉が信じられなかった。
だって今朝方チェックアウトしてきたKULULU Backpackersは
わずか30クワチャだったのだ。
ここに来て一気に宿代が二倍に跳ね上がった。
観光地がいかに金を生むのかが分かったような気がした。
僕以外に誰もこの金額に驚いているような人間はいない。
「え?10ドル?安いじゃん?」と当たり前の用にすましている。
僕は「すいません、予算を越えてしまっているので、
他に安い宿を知りませんか?」とスタッフに訊ねた。
スタッフはそれなら別の宿を教えてくれたが、
さすがに値段までは知らなかった。
メイン
の通りを挟んで反対側にもうひとつの宿は位置していた。
ここの宿にもプールがあり、
欧米人たいちが日陰のパラソルの下でバカンスを楽しんでいる。
宿泊代は先ほどのカメレオンより
10クワチャ低い50クワチャ(778yen)。
野宿をしようか考えたが、Wi-Fiがタダと聞いて
僕はこの宿に泊まることにした。もちろんテント泊だ。
テント泊をしている人間はやはりここでも僕しかいなかった。
というか、テント泊をしている欧米人というものを
ほとんど見たことがない。
ウガンダで出会ったカナダ人の兄弟くらいだろうか。
彼らは各自ハンモックを使っていたが。
僕はスタッフに言われた場所にテントを張った。
背面は背の高い植物に囲われ、
向かいには僕以外の宿泊客のためのアパートみたいな棟がある。
テントを張っていると人懐っこい黒ネコが僕のところにやってきて、
虫を追いかけてテントの下に入ったりした。それが可愛かった。
僕は別にビクトリアフォールに行きたいとは思わなかった。
あの写真を見たことがある。
季節によって水の量が変わり、
岩肌が露わになる時は壮大な谷のように見える。
だけど、なぜだか、僕は行きたいとは思わなかったのだ。
自分でもよく分からない。
あぁ、きっと宿代が上がったから、
お金をかけてツアーに行くという気力が
持って行かれてしまったのかもしれない。
夕方まで絵を描いて、こりもせずにトマトパスタを作り、
シャワーを浴びたあとはプールの脇にあるテーブルで
パソコンのキーボードを叩いた。
プールの逆サイドではレクリエーションのようなものが開かれており、
映画のワンシーンを見せ
「今の場面で何人の子供がいたでしょう?」
なんていうたわいもないクイズが行われていた。
宿泊客と出題者のテンションの差がありすぎた。
僕は出題者のスタッフに肩入れした。
この日は24時過ぎまで作業をしていた。
物価は高い。
南アフリカが近づいているということを感じるのだ。
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