「ツイてるんだかいないんだか」

世界一周761日目(7/30)

 

 

「ガンッ!」

 

 

上から何かが降って来た

 

 

 

 

その音で目が覚めた。

その何かは僕の斜め前方に落ちた。黒くて細長いものだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ってギターやんけぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!

 

 

一瞬で血の気が引くのが分かった。

まるで傷ついた我が子を抱きかかえるようにして
僕はギターを抱えた。

まず一番気になるのがネックだ。
先代と先々代のギターのどちらともネックが折れて
旅から離脱してもらわなければならない壊れ方をしていた。

ギターのネックが折れてしまった場合、
修理をするのにものすごく金がかかる。

楽器屋の店員たちは
「それなら新しいの買った方がいいですよ」
とアドバイスをするくらいだ。

だから泣く泣く壊れるたびに新しいギターを買ってきたのだ。

 

 

 

取り扱いには注意してきたつもりだ。

常に不安定な置き方をしないように注意し、
バス移動の際は極力車内に持ち込んだ。

バスが走る道路は高速道路だったが、カーブが多く、
路面も歪んでいた。
遠心力で荷棚からギターが吹き飛ばされたのだ

 

 

慌てて中をチェックするとネックは折れてはいなかった。

荷棚には雑貨の入った手提げも置いてあったの。
僕はギターと手提げを隣りの席に置いた。

 

 

この日のツキのなさは深夜一時から始まったようだ。

 

 

僕はバスの中ではほとんど眠ることができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

オアハカに到着したのは6時過ぎだった。

二等バスと言ってもほとんど一等バスと変わらなかった。

ただ、停まる場所がどこかの路上だった。
ここはバスターミナルでもなければ、
バス会社のオフィスの前でもなかった。

 

 

乗客たちはすぐに散って行った。

僕は忘れ物がないように声と指さしで荷物を確認して、
ひとまずその場で煙草を一本吹かした。少し肌寒いくらいのだった。

宿のある場所はなんとなく調べてある。
「ラス・ルナ」という宿に泊まろうと考えてた。

いつものようにマップアプリで検索をかけると、
宿の名前はすぐに出て来た。ちょっと有名な宿のようだ。

 

 

オアハカ町はみたところあまり大きくないように思えた。
日はまだ昇らず町は静まり返っていた。

歩き出してまず一番最初に気がついたのは道には
ごみ一つ落ちていないということだった。

こんな朝早くから
イエローとオレンジの色の服を着た清掃員のおばさんが
道の掃き掃除をしていた。朝からご苦労様です。
きっとこの町はそういう環境美化に力を入れているのだろう。

 

 

マップアプリの方位磁石を読み間違えて
逆方向に歩くというヘマをやらかしてしまい、
宿に着くのには少し時間がかかったが、
宿周辺に辿り着く頃には辺りは明るくなっていた。

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宿のある通りまでやって来たのだが、
そこには黄色いテープが張られていた

警察がテープの向こう側にいた。

何が起こったのかはよく分からない。

 

 

「あの、ペルミッソォ、
そこに宿があると思うんですけど、
入っていいですか?」

「ん?宿なんてないよ」

「いや、マップに確かに表示されてるんですよ。ほら」

 

 

警官は宿を探しに行くが「見つからない」と言う。
僕は自分の目で確認したかったので、中に入ろうとしたのだが、
警察は反対側から回れと言う。

わざわざ隣りの通りから反対側へと回ると、
そこにはパトカーと何人かの警察官が交通整理をしていた。

テープの向こう側には
どこかに激突したであろうバイクが道の端に寄せられ、
事情聴取のようなことが行われていた。

僕は最初、接触事故が起こったのだと思ったのだ。

 

 

反対側にいた警察は僕をテープの内側に入れてくれた。
事故現場を通り過ぎるとき、何かが横たわっているのが分かった。

 

 

すぐにそれが人間ということが分かった。

 

 

うつぶで顔を横にして目をつぶっている。
髭をはやしてる30代くらいの男性だった。
頭周辺には血が流れ出していた。

救急車が呼ばれるでも、蘇生法が行われるでもない。
事故現場の一部として彼はそこに横たわっていた。
周りの誰もが彼に気を遣っていないということがすぐに分かった。

 

 

『あぁ、死んじゃったんだな..』

 

 

僕はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

探していた宿はその通りにあった。

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なんだ、やっぱりあるじゃねえか。

 

 

インターホンを押すと中からスタッフが出てきて
僕を中に入れてくれた。

ドミトリーの値段は130ペソ(993yen)に値上がりしていたが、
まぁ、予算内っちゃ予算内だろう。ここには朝ご飯も付くのだ。

スタッフは英語を流暢に喋れた。
対応も親切で僕は彼に好感が持てた。

 

 

彼はドミトリーへと僕を案内してくれた。
部屋のドアを開けると甘い臭いが鼻についた

 

 

女性の匂いだ。

 

 

 

そこにはスヤスヤと寝息を立てている女性が一番手前のベッドで寝ていた。
室内を見回すと女しかいないように見る。僕はたじろいだ。

 

 

「ちょっと!ガールしかいないじゃん!」

「え?嫌かい?」

ニヤニヤしてスタッフが言う。

 

 

「(いやむしろ嬉しいけど)

気ぃ遣うじゃんか!」

 

 

だがドミトリーのベッドはここ以外に空いていないという。

僕は渋々(や、嬉しかったけどさ)二段ベッドの脇に荷物を置いた。
薄暗いドミトリーには荷物が散乱し、
下着が無造作に床にほっぽいてあった。

あぁ、やっぱ嫌かも..。

 

 

 

ちょうど同じタイミングでスーツケースを持った
スタイルのいいヨーロピアンのツーリストが宿に来ていた。
もちろん女性だ。

僕の慌て様を見てクスクスと笑っている。

受付に一本煙草が置いてあったので、それを買おうとすると、
彼女は「スッ」と僕に煙草を差し出してくれた。
お礼を言って僕はそれを受け取った。

 

 

宿は分煙になっており、
シャワーとキッチンのある細長い通路のような場所で
吸うことが決まりになっていた。

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そこにあるテーブルについてふぅっと息をつくいていると、
先ほどの彼女もそこへやって来た。

 

 

「座ってもいいかしら?」

「あ、どぞ」

「大丈夫よ。襲われたりしないから♪」

「いや!そういうんじゃないよ。
だって気を遣うじゃないですか?」

「どーだか?」

 

 

彼女の名前はフローリィと行った
フランスから短期でメキシコを旅行しているらしい。

スマートフォンやパソコンは極力使わないと言ったスタイルで
ガイドブックや自分のノートにこまごまと書き込みをしていた。

少しお喋りをしていると、
だんだんと他の宿泊客たちも起きてきた。

大判のバスタオルを体に巻いてシャワーに入っていくヤツらを見ると、
僕はここでの生活が思いやられた。

どちらかと言えば他の人間など気にせずに気楽に過ごしたかった。

 

 

 

僕はここへ来る前にバスの荷棚から落下した
ギターのことを思い出した。

明るい場所で確認してみるとネックに
かすかにヒビが入っていることが分かった。
音を出す分には問題ないと思うが、
もう一撃加われば確実にアウトな気がした。

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それに追い打ちをかけるようについに
MacのWi-Fiがウンともスンとも言わなくなってしまった

ほら言ったじゃんかよ!壊れてるって!

 

 

「ハードウェアなし」

と表示されるのもおなじみのことだ。
同じ壊れ方をしてこれで三度目になる。

分かっているよ。ケーブルだろ。
ケーブルを交換すればいいんだろ。

 

 

僕がうなだれていると、スタッフのマリオは昼過ぎまで待てば
楽器屋とパソコンの修理ができる場所に車で連れて行ってあげるよ?
と申し出てくれた。いやぁ。マジ助かります!

それまでは絵を描いて時間をつぶした。
ようやく2ページの漫画が完成した。

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マリオ

は22歳の若者で、宿のスタッフ以外に
もうひとう別の仕事を持っていると言っていた。

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外に置いてある車に乗ると、
僕たちは修理屋へと向かうことにした。

車内はサウナのように蒸しかえっていた。
助手席に着くと一気に汗をかいた。

子供を車に置き去りにして脱水症状で死なせてしまう
という状況がよく分かった。

 

 

オアハカの町は一方通行にしか車が進めない道が多く、
修理屋に着くまでには地味に時間がかかった。
その割には宿からさして離れてはいなかった。

 

 

 

 

何軒か修理ができないかと当たってみて、
そのうちの一軒が修理を請け負ってくれることになった。

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このままの状態で使い続ければ、
ヒビ割れが拡大してしまうだろうということだった。

ヒビの中に接着剤を流し込むらしい。

見たところそんなに大きなヒビでもない。
直すのにはヒビを意図的に広げてそこに接着剤を流し込むと言うのだ。

かえって悪化させやしないかと僕は心配だったが、
ここで修理に出すことにした。

修理は翌日の受け取りで180ペソ(1,375yen)。
ネックが折れる前で助かった。

 

 

 

 

 

次に向かったのはパソコンの修理屋だった。

メルカドの近くには小さな店がいくつか並んでいた。
ジャンク屋と言った方が近いだろう。
アフリカのマラウィでパソコンを修理したのと同じような感じだ。

こういう時に英語が喋るマリオがいるのは本当に助かった。

僕は要望を伝えると、
店の人間は2時間で直ると言うではないか。なに!そりゃ早ぇ!

しかも値段は150ペソ(1,146yen)らしい。こらまた安い!

 

 

 

時間まではメルカドの中にあるマリオのガールフレンドがいる食堂で
時間をつぶすことにした。

マリオにはお礼として50ペソを渡しておいた。
修理にそれほどお金がかからなかったのもある。

 

 

 

 

メルカドの中は入り組んでおり、沢山の店がひしめき合っていた。

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店と店の間に張られた雨よけの黄色シートが
通りを明るい印象にしていた。

彼のガールフレンドのいる食堂につくと、
僕はコーラだけ注文して席についた。

マリオは「また明日」と言って仕事へ向かった。

 

 

店は家族経営でそこにはガールフレンドの他に
母親と姉らしき人ががいた。それに一緒に働いている人も何人か。

最初は何か質問をしてきたが、会話はあまり弾まなかった。

最初はここで漫画でも描こうかと思っていたのだが、
何もする気が起きなかった。

通りで遊ぶ子供たちをぼっと眺めながら時間をつぶした。

コーラの次はセブンアップを頼んだ。

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時間になると、僕は先ほどの修理屋に向かった。

店のおばちゃんたちにパソコンはどうなったかと尋ねた。

 

 

「ああ!それね!まだ今からやるから!
ちょっと待ってて!」

おいおい..。二時間待って「今から」って..。

 

 

僕はカウンター越しに待っていたのだが、
なかなか修理が始まる気配はなかった。

後から別のおばちゃんがやって来てどかっと席についた。
彼女が僕のパソコンを直してくれるようだった。

ぺちゃくちゃとお喋りをしながら
手際よくパソコンの裏蓋のネジを取り外して行く。

会話7割、作業3割くらいだ。見ていてハラハラした。

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頼むからよそ見しながら作業しないでくれ..

 

 

 

パソコンの裏蓋を開けると、回路を指でなぞり
「ふむふむ」といった表情を浮かべて、
ケーブルを指でチョンチョンと押しそして

再び裏蓋を閉じた。

 

 

 

え?!!それで終わり???

 

 

 

「いや!それ直ってねーべ!」

「?」

 

 

『こんなん唾つけとけば直るっしょ?』
みたいな顔をしてこっちを見ている。

おいおい二時間待たせてそれかよ!

 

 

「いや、だからさ!ケーブルだって!
あぁ!クッソ!ケーブルってスペイン語で何て言うんだ??!

カブル!カブル!」

 

 

なんだったらiPhotoを起動させてマラウィでの修理の風景を見せ、
絵まで描いて説明した。

っていうかさっきマリオから聞いてたんじゃなかったのかよっ!
店のパソコンでGoogle翻訳を使って会話した。

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「うん。カブルね~。うちじゃ無理ね♪」

「ってアホたれ!なら最初っから言ってくれよ!」

 

 

あまりのおばちゃんたちのマイペースっぷりに笑えてくる。
英語の喋れるおっちゃんが来てくれたので、
交渉は(ほんの)少し円滑になった。

 

 

「まぁうちに預けてくれたら業者に出してあげてもいいわよ?」

「え?それって何日くらいかかるんですか?」

「三日かなぁ~?」

「どこに送るんです?」

「グアダラファラ」

「ってアホか!
なんでMacストアがメキシコシティにあるのに、

それより遠くの街に送らなきゃあかんねん!」

「あ、そか。だったら六日かかるね!」

「…」

 

 

 

 

 

 

 

メキシコシティ

に戻ることを決めた。

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あんなにウダウダと長居したメキシコシティ。

もう戻ることはないと思っていたが、
これからグアテマラに入り、
中米を抜けて行くのに修理は望めないと思ったからだ。

旅も極力前に進むことを心がけてきた。
日数のロスが痛いように思え、少し焦った。

僕はうなだれて宿に戻った。

 

 

シャワーを浴び、
誰もいないドミトリーで軽く昼寝をして、日記を書いた。

Wi-Fiの使えないMacなんて電子タイプライターじゃないか!

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日が暮れると今朝方会った
フルー(フローリィ)が戻ってきた。

 

 

「よかったらお酒飲みに行かない?」

「お共します!(即答)」

 

 

めげている僕を気遣ってくれたのか、その誘いが嬉しかった。

いや、何よりお姉さんと飲みって!!!

 

 

「今朝のあなた、けっこうおかしかったわよ?」

「いや、僕だって彼女いますけど~!
なんつーんですか?気を遣うじゃないっすかぁ~!」

 

 

どういうわけだか、彼女がいるだなんて
とっさによくわからない嘘をついた。

「彼女の名前は?」と訊かれてうまく名前が思いつけなかった笑。
「いつもニックネームで読んでるんだよね」とまた嘘をつく。

 

 

いやいやだって考えてみてほしい。

フランス人のおねーさんから飲みに誘われるだなんて、
何これ?!奇跡か!

下心全開で向かうのはスマートじゃない。紳士的に。ね。

 

 

 

 

フローはどこのバーに行くか目星をつけているようだった。
手には青いペンで店のある通りの名前が書かれていた。

だが、彼女もこの町にきたばかりのようで、
通りを行ったり来たりした。

それでも僕としてはこうして夜道を散歩しているだけで嬉しかった。

 

 

歩いているとスピーカーから流れる音楽に合わせ
地元の人たちがサルサを踊っている場に行き当たった。

フローはそこでサルサのステップを僕に教えてくれた。
彼女はサルサを習ったことがあるらしい。

 

 

「ほら、ワンツースリー。ワンツー..」

やってみると余計に多くステップを踏んでしまう。

 

 

「セニョリータ?」地元のヤツらが踊りませんか?と
彼女をエスコートする。あぁ、もう..。

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そこで会ったのがソロモンというメキシコ人だった
両親がこっちに住んでいるらしく、休暇でこちらに来たのだと言う。

ダンスを切り上げてフローと僕はバー探しを再開した。
ソロモンはあちこちと僕らにバーやクラブを紹介してくれた。

っていうか、余計なヤツがついて来おったよ..。

 

 

ソロモンは英語が喋るので喰い気味でフローに喋りかける。
フローもスペイン語ができるので、会話は困らない。

 

そして僕置き去り。

 

 

見つけたバーはクラブのような場所だったが、
かけられていた音楽はメキシカンミュージックだった。

鼻の下を伸ばした入り口のお兄さんは
入場料を半額にまけてくれた。マジこういう時、女の人っていいよね~。

 

 

 

三人でテーブル席に着くと、一番安い瓶ビールを注文し乾杯。

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フロー。

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ソロモン…?

 

 

 

相変わらず会話はソロモンにもってかれちゃってる。

ここで自分のペースを取り返そうと躍起になるのも違う気がした。
まぁ、いいや酒さえ飲めれば。

 

 

音楽に合わせて客たちがダンスホールでステップを踏む。
それを眺めていると、フローが僕の肩を軽く叩いて
「踊りましょう」と言う。

手を取り合いぎこちないステップでサルサを踊ると
村上春樹の短編に出てくる「カエルくん」の話を思い出した。

地元の人間はステップを知っていて当然のように踊っていた。
体の密着度合いの高いサルサ。
みんな踊ることを楽しんでいる。

やがて音楽はバンド演奏に切り替わり、店内もヒートアップ。

ソロモンにフローを奪われて、
僕はテーブル席で煙草を吹かしながらビールを飲んだ。

 

 

 

いや、待てよ。そうか。そうだよな。

自分一人だったら、こんなのなかったじゃねえか。

焦ることはないさ。この一瞬を僕は楽しめばいいのだ。

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それにしても、

サルサとスペイン語の大切さが身にしみたよ。

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このあとソロモンのやろー、
別の女と踊って「あぁ先に帰るの。おれは残るから」とか言ってたんだぜー!
くっそ~!

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