▷12月12日/ニュージーランド、オークランド
二日目の野宿はハイウェイ沿いにあるウォーク・ウェイの脇の草むらにテントを立てることにした。
初日にテントを張ったビーチはダウンタウンから一時間も歩かなければならなかったので場所を変えることにしたのだ。
ハイウェイの脇には防音用の壁が立っており車の騒音もそこまで気にならない。ハイウェイ沿いなんてほとんど人も歩かない。
朝になると犬と散歩をしている人たちをが近くを通るだけだ。犬たちは放し飼いにされていることが多く、テントの近くまで寄ってくる。飼い主たちが各々の飼い犬の名前を叫んだり、口笛を吹いて呼ぶ音がする。テントの存在には気づいているだろうが、怒られる様子はない。かなりいい野宿スポットだ。
予想していた通り、ニュージーランドは野宿のしやすい国のようだ。
オークランドは一番大きな街らしいが、公園なんてそこらじゅうにある。公園は夜中に酒を飲んだ若者たちがたむろする場所でもあるので、あまりダウンタウンに近すぎるのもいけないが、2kmくらい離れれば手頃な寝場所を見つけることができるだろう。
もちろん街には路上生活者たちの姿を見かけることもあるが、得てして彼らはフレンドリーだ。よそ者の僕にも「調子はどうだい?」なんて気軽にに声をかけてきてくれさえもする。まぁ、僕の見てくれが彼らとほとんど同じってのもあるだろうな。
テントを片付けると近くにいた人たちに爽やかに挨拶をした。自分が危害を加えるような人間ではないことを弁解するかのようにちょっと声色を変えちゃったりなんかして。
汗をかかないように歩調を遅くしてのんびりとダウンタウンまで向かった。昨日シャワーを浴びたので今日はなしにする。なんかどんどん固定観念から解放されていくような気がするな。
30分くらいかけてダウンタウンに到着すると、今日は別のカフェに入ってみることにした。
図書館併設のカフェはWi-Fiが一時間という時間制限があるばかりか、あまり早くないのだ。
おしゃれな個人経営のカフェであれば、ひょっとしてWi-Fiがサクサクなんじゃないかと思ったのだ。
土曜日の朝ということもあり、カフェにはあまり人がいなかった。
僕は4NZドル(¥326)でアメリカーノを注文した。ここ二日間のバスキングでコインもいくらか手に入っているのでそれで支払った。
店員のお姉さん(と言っても僕より年下だろう)は愛想よく接客をしてくれた。見た目がホームレスすれすれなので、お店に入る時は少し緊張する。魔女の宅急便のキキの気持ちがわからなくもない。あの子は黒い服しか着ないことを気にしてただけだけどさ。ね。オソノさん。
ただ、Wi-Fiは図書館のカフェとあまりかわらないスピードだった。Facebookに写真のバックアップなんて取れないくらいだ。
なんとかそこで日記を更新し、ガッツリ作業でしようと考えていると、昼前になって店は一気に混み始めた。
テーブル席を一人で使っているのに気が引けてきた僕は店を後にすることにした。
これからまた別のカフェで作業する気にもなれなかった僕はそのままバスキングをすることにした。
12時の時点でクイーン・ストリートにはバスカーの姿があった。なんせ今日は土曜日だ。街もいつもより賑やかな気がする。
僕は最初は歌うことにした。似顔絵はどの時間帯で売れるか分からないし、お客さんを待っている間は歌った方が効率的だと思ったからだ。
歌のレスポンスは薄いのは相変わらずだが、今日はすぐに似顔絵のオーダーが入った。待ってましたとばかりに元気よく絵を描き始めた。
今日は日差しが暑く、白い紙に光が反射して眩しくなる。一枚似顔絵を描くと僕はアーケードのある場所に避難することにした。
30分くらい歌うと今度はB4の紙に即興で漫画を描くことにした。その場で描いた漫画は売れることはほとんどないのだが、自分が何をしているのか歩行者に伝えるには分かりやすいだろう。そこから似顔絵のオーダーに繋がることは最近の経験で徐々にわかってきた。
絵を描いている間はレスポンスのことなどあまり気にしなくてよかった。視界のはじに誰かが足を止めてくれたのが見えると僕は顔を上げて「ハロー!」と声をかけた。
別に無理やりオーダーを取ろうだなんて思わない。大事なのは人当たりのよさなのだ。少し立ち話をするだけでもいい。誰かが僕に興味を持ってくれることが大事なのだ。
似顔絵を描き始めると人だかりができる。だけと僕は周りにどれほどの人が集まってきてくれたかなんてあまり気にしない。自分のお客さんはあくまで目の前でオーダーしてくれた人だからだ。
今日も素敵な出会いがあった。
オークランドに住んでいる人もいれば、旅行でここを訪れている人、留学している子も中にはいた。
ドイツ人の家族の似顔絵をクリスマスカード風に描いたりもした。
日本のアニメ「カウボーイ・ビバップ」のファンというイカしたアフロのヤツの似顔絵も描いた。
旅行中の日系ブラジル人のヨシエさんと日本人のアキコさん。(僕と同じ顔をしててポルトガル語を話すなんて驚きだった)
「美しすぎる女性パイロット」を目指しているメルセちゃん(彼女が自分でそう言ったのだ。彼女は「これ、紙が汚れない方がいいでしょう?」と30枚入りのA4ビニールカバーを僕にプレゼントしてくれた。(あれはマジ好評だったよ!ありがとう)
オークランドからフェリーで30分行った場所にあるワイキキ島に住む女性は僕に弟妹の写真をオーダーした。
僕にはこっちの方が合っているのかもしれない。いや、それは間違いないだろう。
あまりのレスポンスの良さに、ギターの弾き語りに固執しないでこっちをメインにやればもっと稼げたのに、なんて思わなくもない。
そんなんばっかなんだけど、今は絶好調だ。
暗くなるとギターの弾き語りをしてこの日を締めくくった。
今日のアガリは128NZドル(¥1,0447)。実感が湧かない。楽しくお喋りをしながら描いてたらこんなになってた。
スーパーでリンゴとバナナを買って今朝と同じ寝床へと歩いていった。
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