3月15日/台湾、台北
どうやら台湾の晴れの日、というか、雨の降らない日は一日しか続かないらしい。
これは梅雨なのだろうか?
どういうわけでこんなに台北の天気が悪いのか僕はよくわからない。日本も雨が降り続いているわけだけれど、普段はこんなんじゃないのかな?
空には薄い雲が覆い、しばらくするとポツポツと雨が降ってきた。
僕は市民プールでシャワーを浴びると、いつものようにスターバックスのコンセントのある席で僕はしばらく作業をしたいた。
12時になると、約束していた通りウーがやって来た。
昨日二年ぶりに再会したのだ。
ウーは台北に住んでいるものの、西門の近くには住んでいない。ウーは淡水の近くに家があるというのだ。ここからMRTで行くと一時間くらいかかる距離だ。
彼は「オートバイに乗ってきた」と言っていた。
わざわざ西門までやってきてくれたのだ。
やはり日本人から見た台湾人代表と言ってもいいほどフレンドリーなヤツだ。
僕はウーのオススメの牛肉麺を出す店で昼食を食べることになった。
なんでもその店は台北にある老舗店で家族が経営しているというのだ。
「それで、その店には面白い話があるんだよ。
兄弟がその店で働いていたんだけれど、自分の取り分(給料)のことで揉めたそうで、一人が独立したんだってさ。それでどこに店を出したかというとね、本店の隣なんだよ!
彼らの面白いところは、新しい店を近くに出すところなんだよね。あっちの通りなんてもはやビーフ・ヌードル・ストリートだよ!」
そこには客で混み合う店があった。
なんとかバックパックを置けるスペースを見つけると僕たちは横に並ぶようにして席に着いた。目の前の席では夫婦が横に並んでニンニクの皮を仲良く剥いていた。てっきり僕は店員が店のテーブルでニンニクの皮むきを手伝っているのかと思ったくらいだ。
注文した牛肉麺にはモツが浮かんでいた。
具はカットされたネギのや玉ねぎくらいでどこか味気なかったが、トッピングは自由にしても構わなかった。
僕とウーはテーブルの上に置いてある緑の野菜をこんもりとトッピングした。
ウーは暑がりで食べている間はずっと汗をかいていた。
反対に僕は食べ終わるとフリースジャケットのポケットに手を突っ込んで暖を取っていた。
うまし!
昼食をとり終わると、まだバスキングをするまでにはいくらか時間があった。
早い時間からやりすぎてもヒマそうにしている警察に止められてしまう。特に見回の仕事は見るからに退屈そうだ。雨の中黄色のカッパを着て表情の薄い見回り担当は、西門に出没する亡霊のように歩く。
ウーの誘いもあって、僕たちは今度は創業60年の老舗コーヒー屋に行くことになった。なんでもそこでは珍しいコーヒーの淹れ方をするらしい。
この店も中はそこそこに混み合っていた。雨の日はやっぱり腰を落ち着ける場所が好まれるのかもしれない。
その店はコーヒー豆の質や淹れ方を売りにしているようだったが、内装や接客にはそこまで力を入れているようには感じなかった。
店員は中年の女性ばかりで、ニコリともしない。
ここの社員というわけではなく、ただのパートタイムのようだった。コーヒーの淹れ方さえ知っていれば働ける、そんな具合だ。
僕たちは二階の奥ばった一室に案内された。
そこには僕たちの他に客がおらず、どこかひんやりとしていた。
注文したのは160NTもする台湾コーヒー。せっかく有名店にきたのだから、いいコーヒーを頼んでおこうじゃないか。
出てきたコーヒーは小さなカップに入っていた。良質な豆を売りにする割にはミルクはプラカップに入ったもので、それも僕をがっかりさせた。
肝心のコーヒーの味の方も、僕はイマイチ美味しいとは思えなかった。普段飲むコーヒーよりも濃く、キュッとする味わいだ。
僕ももともとそこまで通ではない。どちらかといえば僕はカフェの雰囲気が好きだし、そこで作業をすることの方が多い。
僕とウーはお互いにカフェについて意見を交わし合い、しばらく語っていた。
僕はせっかく会いに来てくれたウーに似顔絵をプレゼントすることにした。
バックパックから画材を取り出し、紙に向かったのだが、いきなり絵を描き出しても、イマイチ筆がノらない。
今の僕はバックパックに腰掛けて、膝の上に画板を乗せたタッチには慣れているが、来たばかりの店のテーブルではやはりペンタッチが違う。
それに僕はとてつもない眠気に襲われていた。今では一日二食の生活はすっかり定着しているため、僕の胃はすっかり収縮してしまったようだ。
そして気づいたのだが、ある一定量を超えて食事をとると眠気に襲われるということだった。だから似顔絵を一枚仕上げるのには時間がかかった。
それでもウーは僕の似顔をすごく喜んでくれた。
そのリアクションだけで救われるよ。
外はシトシトと雨が降り続いていた。
ウーも別れ際を決めかねているようでしばらくは僕に付き合ってくれた。
雨の日にバスキングを始めるのは、どこか腰が重い。低気圧が僕の上にのしかかっているみたいだ。そうだよね。骨折とかしたヤツも天気の悪い日には痛むこともあるもんね。みんな多かれ少なかれそんな憂鬱な気分を抱えているんだろう。
バスキングをする場所を抑えると、ウーは「旅を最後まで楽しんでね!」と言って去っていった。あんないいヤツにはなかなか会えないよな。君に会えてよかったな。
あまり気張らないで『お客さんが一人でも来たらいいな』くらいの軽い気持ちで僕は絵を描きだす。
最初のオーダーが入るまではしばらく時間がかかったが、こんな雨の中でも8組のオーダーを受けることができた。
雨の日に切ると湿気吸わないかな?お姉さん。
こう何回も雨の日のイラスト描いてると、それがフツーになっちゃう。飽きてくる。
ごめん!目、瞑ちゃってたね!
先ほど飲んだコーヒーのせいで、僕はトイレに行きたくなった。トイレを済ませるとバスキングをする気はどこかに消え失せてしまった。
アガリは1800NTドル。約六千円。
今日は早めにいつもの寝床へと向かった。
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