3月18日/台湾、台北→韓国、釜山
日本に帰る。
それは旅の後半から、とりわけニュージーランドに渡ったときから、より強く僕の頭の中で反芻していた。
かれこれ二年九ヶ月も日本を離れていたわけだけれど、どれくらい旅をしたいか?という自分の旅のゴールを定めるその期間は「一年八ヶ月以上三年未満」という目安があった。
それは僕が旅に出る前に読んでいたブログ「恋する咲ログ」の咲ちゃんが一年八ヶ月という期間で素敵な世界一周を成し遂げていいたからだし、
三年以上旅をする人はどこか日本に根付いていない印象があったらからだ(もちろんそれは旅をメインにした各々のライフスタイルが定着していたからだ)
僕には夢がある。
それはこの旅の原点、つまり
「旅漫画を描くこと」だ。
『旅を題材にした漫画を描きたい』
というかまずは自分で読みたい。
自分の読みたい旅漫画は自分の頭の中にしかない。
もうストーリーのおおまかな設定も決まっている。
日本で僕の帰りを待っていてくれる人もいる。
家族はもちろんのこと、相棒や仲間たち。
やりたいことをやるためには日本に帰らなくちゃいけないのだ。
「オン・ザ・ロード 」の主人公であるサル・パラダイスが放浪の末、故郷へ戻るように。
日本に帰る時なのだ。
僕はそこで物語を描かねばならない。
いつもと同じ市民プールの脇で目覚めた。
前日寝たのが遅かったため、早起きはできなかった。まあ、空港にシャワーもあるのだから、プールのシャワーを浴びる必要はないだろう。
テントを出るとお年寄りたちが今日もヘンテコなラジオ体操のようなことをしていた。僕が「今日で台湾を出ちゃうんですよ」と言うと、ケタケタと笑っていた。『あぁ、コイツはホームレスではなかったのだな』と再確認したように。
それから僕はいつもスターバックスに行って最後のWiFiを堪能していた。
出発は18時の予定だったはずだ。四時間前にここを出発すればいいだろう。空港まではバスで行くことができるわけだし、早く行き過ぎても時間の消化に困って、無駄にお金を使ってしまうだけだ。
空港までの行きかたをGoogleマップで調べて13時には西門を出発することにした。

お世話になったスタバのみんな!シェーシェー!
バスは台北駅から出ているようだった。
何度も足を運んだ台北駅だったが、降りる場所を間違えてしまい、バスターミナルの場所を探し当てるのに少し手こずった。あぁ、やっぱり早く出てきて正解だったな。と僕は思った。
松山国際空港までは125NTドル。400円ちょっと。
空港までは頻繁にバスが出ているのでそこまで待つ必要もなかった。何も滞りなくスムーズにバスに乗り込んだ。
バスに乗るとパラパラと雨が降ってきた。
ここは最後まで雨が降る街なのだな、僕はそう思った。
バスの中には何人かの日本人の姿があった。そのほとんどが小綺麗な格好をし、スーツケースを転がした短期の旅行者たちだったが、彼らはみな、台湾を楽しんだような満ち足りた顔をしたいた。遠足帰りの小学学生のようだ。
15時前に空港に到着した。
バスを降りた場所は、台湾に来た初日にバスに乗った場所でもあった。一度使った空港であれば、どのように進めばいいのかも分かっている。
僕はバックパックを下ろすと、近くの喫煙スペースでキャスターを吹かした。降りしきる雨を見ながら煙を吐き出す。
チェックインを済ませる前に、僕にはやらなければいけないことがあった。バスキングで稼いだ台湾ドルの両替だ。
ネットレートを調べると手元には日本円に換算して24万円程度の台湾ドルがあった。全てここで稼いだお金ではない。ニュージーランドとオーストラリアの貯金も合わせての金額だ。ちなみに台湾では23日の滞在で17万円ほど稼いだことになっていた。
空港内の両替所で両替すると、23万円八千円になって戻ってきた。一万円くらいレートで損をするようだったが、僕も台湾で稼がせてもらったんだ。一万円くらいいいじゃないか。キャッシュバックってやつだ。今までありがとうございました♪
日本円を手にした僕はそのままチェックインカウンターへと向かった。
想像したたよりもカウンターは広く、自分の乗る「V air」のカウンターに行く前に、プリントアウトしたeチケットを見た。
「Departure(出発) 16:00」
は、、、
え?
現在15時ジャスト。
『って…
やべえええええええええええええええええええええええ!!!!!』
そっからダッシュでカウンターに滑り込んだ。
「あ、あああああ、す、す、す、すみません、遅れちゃって、乗れますか!」
チケットを見てスタッフのお姉さんの顔つきが険しくなる。ってかこれで飛行機乗れないなんてバカなことがあってたまるかぁ〜〜っっっ!ってかなんで16時を「PM6時」って勘違いしとんねんおれ!
カタカタとキーボードを打ち込んで何か情報を入力するお姉さん。シュッと顔を正面に向けて「急いでください!」とそういった。
「15時20分までです!急いで」
「あ、ありがとうございます!」
バックパックを預けるとダッシュで階段を駆け上った。
そこには既に20人ほどが並んでいる。いやぁ〜〜〜!マジそんな時間ねーってばよ!サブバッグからアイパッドを取り出したて時刻を確認する。
あと15分しかない。
『いやぁ、安心しろ!安心するんだ!おれ!今までだって、何度か危機的状況を乗り越えてきたじゃないか!今回だってどうにかなる!おれには御先祖さまパワーがついているんだ!』
とりあえずネガティヴになってもしょうがないので、めちゃくちゃなこじつけで自分を鼓舞する。おれならできる!おれならやれる。今回だってなんとかなる!残り12分!
「すいませ〜〜ん!」
後ろからさっきのチェックインカウンターのお姉さんが追いかけてくる。
「お客さん、ちょっと戻って来てもらえますか?!!」
な、なんだ?ナンパか?いやいや、おねえさんはすっげーカワイイんすけど、今は僕は日本に帰らなくちゃいけないんです。あ、あとでフェイスブックの連絡先だけでも、交換しておきませんか。
階段をダッシュで駆け下り、先ほどのチェックインカウンターへと戻った。
「預けられるライターはひとつまでです!」
「はっ?」
バックパックから出てきたライターふたつ。預けられるのはひとつまでだと言う。いやいや、そんなん適当に処理してくださいよ!くっそ!時間がっぁぁあああ!
すっげえ苦しい笑顔を浮かべて僕はライターをサブバッグのポケットにひとつ入れると、再びダッシュで階段を駆け上った。戻るとさっきよりも人が並んでいる。あぁ!もう!おれは日本に帰るんだって!
そこに列を作っているのが中国人なのか、台湾人なのか、韓国人なのか、それとも日本人なのかは分からない。出国審査でモタついている人を見るとソワソワした。ええい!今は体裁などかまっていられるか!前に並んでいる人たちに英語で喋りかけて、自分の持っているeチケットを見せる。あと10分以内に行かないとおれは飛行機を乗り過ごしちゃうんです!それで三人くらい順番を飛ばさせてもらい、俊足で出国審査を終わらせる。
「ドンッ!バシンッ!シュッ!」
残り9分。
搭乗口は9番だか22番だったか、よくは覚えていないのだけれど、こういう時に限ってゲートは遠くにあるのだ。もう漫画かよ!
僕はひたすらに走った。
パソコンを入れたバッグがやけに重く感じる。
子供がちょこまかと走り回っていると、ぶつからないように細心の注意を払った。ここでな揉め事でも起こしてしまったのであればゲームオーバー。
タバコを吸っているせいですぐに胸が苦しくなった。体に汗をかいた。
『あ、そういえばシャワー浴びてねえな』
これでシャワー浴びていないのが二日目だ。何をいまさら。そんなの日本に帰れば好きなだけ浴びられるじゃねえか。
その時の僕は空港内にいるメロスだった。
疾風のごとく空港内を駆け抜けた。抜き去った人が僕のことを見てクスクス笑っているのが分かった。そのくらい僕の存在はコメディだった。ギャグだった。メロスなんて格好いいものじゃない。ホームアローンにも似たようなシーンが出てきたのを思い出した。
ゲートにたどり着いた時には時間がほんの二〜三分過ぎ去っていた。
これで飛行機に乗れなかったら、、、、どうしよう?なんて考えが浮かぶが、その時は自分の非を潔く認めて新しく航空券をかい直すしかあるまいな。
サブバッグに結び付けておいた生乾きの青いタオルがいつの間にかなくなっていたのに気がついた。ポートランドで買ったやつだ。
深層心理では、もしかしたらこの旅を終えたくないと思っているのかもしれない。
いや、そんなことあるかよ。おれは帰るんだよ!日本に!みんなの待つ日本に!
「す、すいません!はぁ…はぁ…。ぷ、プサン行きの飛行機って、乗れますか?」
ゲートは閉じられている。もう受付は終了してしまったのか?僕の名前を呼ぶファイナルコールが何度もアナウンスされていたのか?
チケットを見たスタッフが言う。
「まだ受付は開始されていません。お待ちください?」
僕はすぐには理解できなかった。
え?間に合ったの?
辺りを見渡すと、そこには飛行機を待つ人たちがベンチに腰掛けていた。半数以上はスマートフォンをいじくっている。見慣れた光景だ。
15時20分までに搭乗ゲートに行けというあの言葉はなんだったんだ?手元にあるチケットには確かに「15:20」と記載されていた。

ベンチに座って呼吸を整えた。
来ていたTシャツの下には汗をかいていた。着ていたpatagoniaのフリースジャケットを脱ぐ。まだ、自分が飛行機に間に合ったことが信じられなかった。
iPadにダウンロードしておいたHEAPSを読んで時間をつぶした。外はあいかわらず雨が降っていた。
16時を過ぎると、搭乗の受付が開始された。チケットを見せると、スタッフはちょっと距離感のある安定した笑顔を浮かべて、チケットのバーコードをスキャンした。どうやら本当に僕は飛行機に乗れるらしい。

V airのキャビンアテンダントはラグランのようなツートンカラーのTシャツと細身の青いパンツを履いていた。今までにそんなカジュアルな服装をした添乗員を見たのが、それが初めてだった。
自分の座席に着くと、僕はすぐにシートベルトをした。僕はいつも離陸前に注意されるのだ。
膝の上にサブバッグを乗せていると、添乗員がやって来て、バッグは前の座席の下に入れてくださいと、僕に注意した。言われた通りに僕はバッグを前の座席の下に入れた。
雨のせいで出発が遅れているらしいかった。
飛行機は滑走路の手前まで行くと、そこで30分ほど待機した。きっと他の瓶の到着が遅れているのだろう。雨だしね。

ウトウトしていると、いつの間にか飛行機が動き出していた。
だんだんと速度を増し、「ふっっ…」と機体が地面から離れる。重力が体にかかり、体がシートに押さえつけられる。この感覚を味わうのもこれが最後。
雨の中を飛行機は飛び立ち、すぐに雲の上に出た。
雲の上には青い空が広がっていた。
わずか30分ほどで空は茜色に染まり、窓からは美しい夕日が見えた。それを見ていると、どこか寂しい気持ちになった。


釜山
に到着したのは21時を過ぎた頃だった。
入国審査を済ませると、バックパックとギターを回収した。
サブバッグの中から使わなくなったマネーベルトを引っ張り出し、そこから100ドル札を取り出した。何かあった時の緊急用として残っていたものだ。それを韓国ウォンに両替した。
外に出ると、霧雨が降っていた。雨水を含んだ冷たい風が顔にかかる。
空港のWiFiで国際フェリーターミナルまでの行き方を調べると、そのまま電車に乗った。

電車の中は、日本の風景とほとんど変わらなかった。
同じような顔の人たちが座席に座って電車に揺られていた。家族連れがいたり、会社帰りのサラリーマンがいたり、イヤホンを耳に突っ込んでスマートフォンをいじる大学生がいたり。その風景に日本に近しいものを感じてしまう。

フェリー乗り場まではどうやらバスで行けるようなので、僕は電車を途中で降りた。
バス停はひどくわかりにくいことにあり、人に尋ねなければバス停を探し出すことができなかった。しかも乗りこんだバスはまさかの逆方面で、運転手はぶつくさ言いながらも、親切に僕を正しいバス停まで乗せていってくれた。
周りの看板にはもはや日本語は書かれていない。直線と円形を組み合わせたハングル文字の羅列があるだけだ。雨はいつの間にか止んでいた。

やがてフェリーターミナル行きのバスが現れ、僕は手を振ってバスを止めた。
車内は薄暗く、どこか寂れた感じがした。車内で会話をしている人間はおらず、バスの運転手以外はみな無表情だった。
町外れから郊外へとバスは走り、窓の外には電飾がきらめくのが見えた。
どんな街にも外れと中心がある。日本でも見慣れたフランチャイズ店や、飲食店や酒場。行き交う人々。ここには滞在することはしないけど、それでもあまり残念な気持ちにはならなかった。
フェリーターミナルに着く頃には、バスに乗っているのは僕一人だけだった。運転手が振り向いて拙い英語で尋ねた。
「どこに行くんだい?」
「フェリーターミナルです」
「う〜〜〜ん…。もうクローズだよ」
「まぁ、とりあえず行ってみます」
フェリーターミナルには電気が灯っていなかった。
僕はフェリーターミナルの入り口まで行ってみたが、もちろん中には入れなかった。24時間やっているような場所ではないのだろう。
手持ちの水も残り少なかったので、僕は少し歩いてコンビニを探した。
車の行き交う大通りを通過し、線路の下を続く歩道を通り、深夜営業のコンビニを見つけた。
あまり気乗りはしなかったが、僕はそこで菓子パンや「辛ラーメン」を買い、店内のテーブル席で食べた。深夜のコンビニのスタッフは、大学生だろうか?ホームレスのような僕に対してもフレンドリーだった。
食事を済ませると、再び歩いてフェリーターミナルまで戻った。
路面はまだいくらか濡れたままだったが、空を見上げると雲の切れ間から星が見えた。雨は降らないだろう。
今日はフェリーターミナルのすぐ真横にある空き地にテントを張った。
明日には日本だ。

あなたのブログすっっっっごく好きです!日本でもブログ書いてくださいね!
私もいつか世界を旅したいなー!
世界旅行おつかれさまです!
>kynさん
こ、告白されたっっっ..!!!
え?してない?
なんだー。早とちりかぁー..。僕の目には「あなた」と「好き」しか見えませんでしたヨ。
漫画家の妄想癖です。すいません。
そうですねー。旅ブログはほんとうに忘備録としてクドクド書いちゃたので
次のブログはもっとさっぱりさせようと思います。
旅はいいですよ♪
世界じゃなくても、日本も楽しいところは沢山ありますから♪