世界一周666日目(4/26)
目を覚ますと
ソファに横になっていた。
『あれ?おれ、ソファに横になったっけ?』
不思議なことに、自分がソファに横になった記憶がない。
ちゃんと毛布までかけられている。
昨日はスポーツバーでアイスホッケーの試合観戦から帰ってきて、
別のソファに腰掛けたところでは覚えているんだけど..。
ここはアメリカ、シカゴ。
patagoniaのスタッフ、カールのシェアルームに
僕は泊めてもらったのだ。
先に起きて支度をしていたカールに「グッモーニング」と挨拶をして、
もしや自分がソファに座ったまま寝ていたのではないかと訊ねてみた。
「あぁ、全然起きなかったから
5人がかりでソファに移動させたんだよ」
信じられない話だが、僕は自分の体が担がれて
ソファを移されたことに全く気がつかなかった。
よっぽど疲れが溜まっていたのか?
気が張る屋外の睡眠(野宿)と、
気が休まる屋内での睡眠の質がここまで違うとは。自分でも驚いた。
とか書いて起きながら寝落ちしていた隙に
バックパックまるごと盗まれたのは僕です。
人間は眠ってしまうとなかなか気がつかない。そういうことなんでしょうね。
今日は待ちに待ったpatagoniaの修理専門スタッフが
シカゴにやって来る日だ。
僕は彼らに会いたかったがために、
ニューヨークからここまですっ飛ばしてやって来たのだ。
急いで朝の支度を済ませ、カールの車でパタゴニアストアへと向かった。
駐車場に着くと、YouTubeで見たあのキャンピングカーの姿が見えた。
キャンピングカーの周りには既に人が集まっているのが見えた。
まるで遊園地に連れてきてもらった子供時の気持ちを思い出す。
すぐにでも駆け出して行きたい気持ちを抑えてストアへと向かった。
カールは店内の業務があったので店の外で一旦別れた。
カールの話によると11時から修理の受付が開始されるということだったが。
既に修理の受付は開始されていた。
僕は自分で修理不可能のボタンシャツと
洗濯したばかりのnudie jeansを手に列に並んだ。
列に並んでいる最中に、自分で修理するなら
ボックスの中のパタゴニアウェアを持って行ってもいいですよと
呼びかけがかかった。
若者たちはバーゲンのようにそれに群がったが、
僕が持つスタイルは一貫して変わらない。
僕はシャツを修理してもらうためにここまで来たのだ。
余分なものはいらない。(いや、実を言うと欲しかったんだけどさ)
ストアの前はちょっとしたフリーマーケットのような空間
ができあがっていた。
中古のパタゴニア製品が安く売られていたり、
ドリンクのケータリングが出てる。
こういう野外でのイベントスペースはどうして特別に感じるんだろう?
それは代々木公園のイベントも同じだ。
いや、野外の催し物には共通してもつ独特の空気感というものが存在する。
その日だけはいつもと違う空気が流れているのだ。
多くの人たちがお気に入りのパタゴニア製品を手にしていた。
それを見ると僕は不思議な一体感のようなものを感じた。
とうとう僕の受付の番がまわってきて、
僕は穴の空いたボタンシャツを提出した。
早口に自己紹介的なことをまくしたてる。
修理職人の女のコたちは少々驚いた顔をしていたが、
僕の話を面白がって訊いてくれた。
ダメもとでnudie jeansの一番破れやすい股の部分の補強をお願いすると
すんなりとオーケーしてくれた。
そして信じられないことに僕の番をもって修理の受付は終了した。
修理職人はたったの二人しかいないのだ。
二人で直せる衣類の量には限りがある。
ボタンシャツとジーンズには「Shimi」と書かれたタグが取り付けられ、
半券が渡された。
僕はキャンピングカーの後部にまわり、
彼女たちの仕事を観察しようとした。
すると別のスタッフに声をかけられた。
「やぁ、僕はドニー!
君の話を聞かせてもらってもいいかな?」
目尻に素敵な皺のよったドニーはこのツアーのカメラマンのようだった。
僕はYouTubeで観れる「Worn Wear」のショートフィルムのように、
お気に入りのボロボロになったボタンシャツを自慢するかのように
ストーリーを話した。
僕がこうして旅をしながら、
パタゴニアのウェアを愛用していることを知ると
他のツアースタッフたちも僕に興味を持ってくれたようだ。
スタッフのジェイは6月以降にカリフォルニアに来るのであれば、
うちに泊まってもいいとまで言ってくれた。
こうしてパタゴニアスタッフと仲良くなれるとも僕は思ってもみなかった。
沢山話せば話すほど、もっと仲良くなれる気がする。
他にもジェイからは「Worn Wear」のキャップをもらった。
これは相棒へのお土産にしよう♪
スタッフたちとのお喋りが終ると僕は
さっそく修理の現場を見学させてもらうことにした。
修理職人の女のコたちは僕の見学に応じてくれた。
修理はキャンピングカーの中で行われる。
大人三人が入ったら窮屈に感じてしまうようなミニマムなスペースで
修理職人の女のコたちがミシンに向かって作業していた。
他のお客さんとのお喋りを交えながら
手際よくボロボロになったウェアたちを繕っていく。
中にはすぐに修理の終ってしまうものもあれば、
修復するのに時間のかかるものもあった。僕のボタンシャツは後者だろう。
何色もの糸があり、クリアケースには
素材やカラーバリエーションごとに布が詰まっている。
ジーンズを縫うことに関しては経験があるが、
上着に関しては小さな穴を縫って閉じるくらいしか経験がなかった。
彼女たちの仕事を観察していると実に多くの発見がある。
『そこはパッチを当てるのか。
ははぁ、なるほど、裏側と表側のどちらにもパッチを当てるのね。
やはり重要なのはミシンか。
てか修理職人ってかっこいいな。日本に帰ったらミシン買おう♪』
まぁそんな感じだ。
ずっと一カ所に留まっているのもつまらないので、
しばらく見学すると、他のブースにも足を運んでみることにした。
本日中の受け渡しではないが、修理の受付ブースには常に誰かがいるし、
修理を済ませたセカンドハンドのウェアが何着も売られている。
アメリカはカード社会なので、スタッフがiPadにカードリーダーを取り付けて
支払いができるようにしている。
ケータリングで出ている無料のコーヒーはシカゴに店舗を持つブランドらしく、
コーヒー好きの僕にはたまらなかった。
そして
僕のボタンシャツが修理される番がまわってくると、
僕は食い入るように観察した。
大きな穴の大きさに合わせて当て布がカットされ、
まずは裏面から縫われて行く。
そして今度は表側なのだが、パッチの当て方が秀逸だった。
まるで最初からそんなデザインのように思えてしまう。
nudie jeansの方もバキバキにミシンで縫われ、
もうこれ以上の修繕はいらないのではないか、
というほどに強化されていた。これも世界に一着だけの旅するジーンズだ。
ここに持って来てよかった。
ツアーのキャンピングカーの後部の扉には
Mikie Shefferというクライマーが使い古したジャケットが展示してあった。
文字通りボロボロで修理した箇所が跡がいくつもある。
袖の綿は飛び出ており、とてもじゃないが切れたものではないのだが、
僕にはそのジャケットがまるでアートのように思えてしょうがなかった。
真似しようたってこの人のようにジャケットを着古すことはできない。
そして、このボロボロのジャケットが僕には
とてつもなくカッコよく思えた。
ウェアにストーリーを付加することを意識し始めたのは
patagoniaがきっかけだったが、
こうして「ストーリー」というものの存在に意識するようになると、
|僕はさまざまなものにストーリーを求めていることに気づいた。
「〇〇というブランドが生まれるに至った経緯」
だとか、
「どこそこでの誰それが手間暇かけて作ったオーガニックの野菜」
だとか、
「売れる前の作家がバーの仕事が終ったあとに
テーブルで書き上げてた処女作」
だとか。
これは商品価値を上げるための情報なのかもしれないし、
どうでもいいことなのかもしれない。
だけど僕はこのようなストーリーが大好きなのだ。
受け売りだが、ストーリーというのはいつの時代も求められるものだ。
母親が子供に昔話を聞かせるように。
僕たちは小さい頃からストーリー(物語)に慣れ親しんで来た。
目には見えないのだが、そこには間違いなく価値が存在する。
いや、それを「価値」という言葉で括ってはいけないのかもしれない。
ベールやオーラなどスピリチュアルなものとも考えられなくもない。
どんなに時代が進んでも、ストーリーは求められる。
これは僕が漫画家になることを後押ししてくれる事実のひとつでもある。
旅をする人間はいつの時代にも、どんな場所にもいて、
時にはその旅路、経験は似通うこともある。
だが、僕が見て、感じ、味い、再構築した経験は僕だけのものだ。
旅漫画は誰が描いてもいいと思うけど、
僕のストーリーは、僕にしか創れない。
どこか僕の生き方にもオーバーラップしてくるのが”patagonia”なのだ。
マジでいい経験だった。シカゴに来てよかった。
撤収作業は
18時に始まった。
昼間はあんなに賑わっていたのに、
残ったのはスタッフと僕くらいだった。
セカンドハンドのウェアや、椅子や布を片付けて行く光景は
どこか僕を寂しい気持ちにさせる。
お祭りが終ってしまう時はいつも感じる。
あの楽しかった空間が閉じられていくのだ。
僕はごみゼロナビゲーションで何度もこの感覚を味わって来た。
フジロックにはボランティアとして二回しか参加したことがないけど、
フジロック好きのヤツらは
「また来年♪」
と言い、元の生活に戻って行く。
そんなことを思い出した。
撤収作業が終わり、店じまいが済むと、
僕はスタッフに誘われてストアのすぐ目の前にあるバーに行った。
打ち上げ的な現場に僕なんかがいてもいいのか?
という気持ちにもなったが、誘ってくれたことは単純に嬉しかった。
ビールやワインを片手に、みんなが楽しそうに喋っている姿を見ると、
僕は相棒のかつての夢が
「パタゴニアで働くこと」だったことを思い出した。
そうだよ相棒。
ここのスタッフたちはとても楽しそうに働いているよ。
そうだよな。働くってこうだたよな。
カールたちのシェアルームに戻ったあと、
デールを交えて明日のヒッチハイクの計画を立てた。
そして僕は「旅する雑貨屋”Drift”」用に仕入れた
南アフリカのカメレオンのキーホルダーを
カールとデールにプレゼントした。
道端で作られるハンドメイドのキーホルダー。
中でもこのカメレオンのクオリティが高くて一番の僕のお気に入りだ。
このキーホルダーが僕を通して南アフリカの路上から
アメリカ、シカゴに暮らす二人の手にドリフト(漂流)するのが
今のタイミングだと僕は思った。
いいよね?まおくん、これ売り物だったけど、
ドリフトしたのが彼らで。
カールは僕に卵形のマラカスを、
デールは一眼レフで撮ったシカゴの夜景の写真をプレゼントしてくれた。
ははは。なんだかもらってばかりだよ。サンキュー♪
明日は早くに出発するつもりだ。
24時前にはソファに横になった。
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ブログ以外はリアルタイムの近況報告やってます。
アメリカはマクドナルドがどこにでもあるから、ね♪
私のアウトドア用の備品や普段着の服は全て、アメリカのL.L.Beanです。
もうかれこれL.L.Beanを35年使用して居ますが、当時は値段は高いがダウンジャケットも、普段着も寝袋もまだまだ現役ですよ。
当時はデブの私が着れるサイズは日本に無くて、柄やデザインよりもサイズが大きくて丈夫な、L.L.Beanの服を現在も愛用して居ます。(笑)
>JOSANさん
さ、ささ、35年!!!
JOSANさんがL.L.Beanの本社に行かれたら
社長さんが泣いて喜ぶんじゃないですか??!!
寝袋が現役って…すごいなぁ。
そういうこだわりってとてもカッコいいと思います。
果たして自分も貫けるか。
いい物を見極められるようになりたいです。
それよりも今さっき「L.L.BEAN」の画像検索したんですけど、
けっこうなお洒落着ですね。僕には着こなせなさそうだ。
それに「当時はデブ」って、
僕の中でのJOSANさんは痩身で背の高い方って
勝手にイメージが膨らんでいました。
やはり文章からだと勝手に想像してしまうようですね。
シミ君訂正します、私は63歳の今でもデブです!。(涙)
でも22~23歳の頃まではウエスト78cmバスト112cmの、ムキムキのスポーツマンでしたが、30歳過ぎると誰しもマジ太ります、シミ君もご注意を!。(笑)
>JOSANさん
はっ!すいません!
コメント返すの忘れていました!
いやいや、デブだなんて!
そう自分をカテゴライズしないでくださいな。
それに原因はタイの料理が美味しいからじゃないですか?
あれ?タイに太った人ってあまりいないイメージが…。
はじめまして。
ここ最近の記事、特に楽しみにしています!!
99年アメリカを夫婦でまわっていた頃を思い出します。
シカゴ、ピッツバーグ、、、大好きな街でした。
今もその頃の服を持っているし,パタゴニアじゃないけど
シカゴで購入した厚手の下着パンツ(旦那用)も現役です。
私も、ミシンほしいんです!
ご飯はどうですか?
私たちは、クラムチャウダーやバナナマフィン、クリームチーズ&サーモンベーグルが贅沢な食事となったことも。
クラムチャウダーは、ホントおすすめですよ。季節的に?
シミくんの旅の成功を東京より祈っています!
>nicoさん
99年か〜。
なんだか旅そのものの純度が高そうな感じがしますね♪
しかも厚手のパンツって、それ僕も欲しいです!
ご飯はー…
内容はかなり不健康です。
毎日のコーヒーはもちろんのこと、
マクドナルド、サブウェイ、クッキー、etc
こういう時に自炊できる調理器具があったらなぁと思います。
まぁ、きっとめんどくさくってしないんだろうけど。
お金がないくせに行きたいところが多過ぎて
日本に帰れるか分かりませんが、
とりあえず今はポートランドでまったりしてます♪
いい町です。
シャツの修理が凄いハイセンス!
価値観が揺らぐぐらい。
私はミシンが好きで、チクチクやったりするので、
今回のブログは食い入って見させてもらいました。
JUKIのミシンなんですね!
ウエアーにストーリーをつけるって意識を
したことがなかったけど、
そういえば、
子供が小さい頃に来ていた服は、
思い出がいっぱいで捨てづらいです。
>あっきーさん
価値観が揺らぐくらいって!
あっきーさんにそこまで言わしめるとはさすがプロ!
周りにいたお客さんも
「もともとそういうデザインみたいだね」と
褒めてくれました。
学生の頃は流行を追ったりして
余分な物ばかり増やしてきましたが
こういう考え方って必要だし、
かっこいいと思うんですよね。
使い込んでいる/ボロボロ→ダサいじゃなくて
それを生き方のスタンスのひとつとして
自分で提示していきたいと思っています。