「コロラドを抜ける」

世界一周675日目(5/5)

 

 

テントを

張った場所には、結局誰も訪れることはなかった。

道路脇の茂みで、辺りにあるものと言えば
何かの施設と駅(それも終点)、それと立体駐車場くらいしかない。

僕はテントを片付けるとマップアプリを見ながら
ヒッチハイクポイントまで向かった。

 

 

 

ここはアメリカ、コロラド州デンバー
終点駅のJeffcoの近くの茂み。

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僕はさらに西を目指すことにした。

“Grand Janction”という州境の名前をカードボードに書いた。

ネットの情報によると、ここから西へ行く道では
比較的ヒッチハイクがしやすいと書かれていたが、
終点駅の付近のハイウェイ付近はかなり交通量が多く、
ヒッチイハイクの見込みがないように思えた。

 

 

僕は交差点に立ち、しばらく考えてから、
別のハイウェイの入り口を目指すことにした。

距離にして3kmほどだったが、
歩きだして分かったのは交通量が一気に減ったということだった。

ひとまず途中にあったガソリンスタンドでコーヒーと
2ドルちょっとのブリトーを朝食として食べた。

 

 

 

 

 

『こんな山に囲まれた場所で
ヒッチハイクなんて成功するのだろうか?』

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1km以上歩いた時点で
僕はさきほどの交通量の多い交差点に引き返そうと思ったが、
前に進むことにした。

また新しい出会いがあるかもしれない。
そう信じるしかなかった。

 

 

別に何時間かかってもいいじゃないか。

今日中にグランド・ジャンクションまで辿り着ける必要なんてない。
それにさっきの交差点はヒッチハイク向きじゃないって。

無理矢理ポジティヴになって僕は歩き続けた。

 

 

 

ヒッチハイクのポイントは山の上の方にあった。

なだらかだが長い坂道が続いている。
前を見ると気が滅入りそうになる。

天候もあまりよくない。薄いグレーの雲が空一面を覆っている。

時々やってくる車に追い抜かされながら、
僕は息を切らして坂道を登って行った。

 

 

 

 

 

ようやくヒッチハイクポイントに到着したのは10時半だった。

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出勤時間は終わってしまったのだろうか?
これで車は止まってくれるだろうか?

不安が脳裏にちらつく。

交通量はかなり少ない場所だったが、
ヒッチハイクをやり始めて分かったことは
ドライバーからのレスポンスは良好ということだった。

アメリカは州によってヒッチハイカーに対する理解も異なる。
コロラド州の人々はとてもフレンドリーに思える。

まぁ、なんとかなるだろう。

 

 

ヒッチハイクの成功確率は
ヒッチハイカーの実力とは関係のないところにある
と思う。

そりゃ最低限の身なりだったり、
行き先を書いたカードボードだったり、笑顔だったり、
英語の堪能なヤツだったらドライバーと直接交渉することもできるし、
ナンバープレートからその車がどこに向かうか予測する
技術的な要因ももちろんあるだろう。

だが、結局はドライバーが
『乗せてもいい』と思うかどうかなのだ。

僕はこの旅の中で100回以上、
アメリカでも30回以上はヒッチハイクで車に乗せてもらった。

けれど、それを自分の力によるものだとは思わない。
そこにあるのはドライバーの好意と僕の感謝の気持ちだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒッチハイク

開始30分で車が止まってくれた。

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中には大学生が二人乗っていた。

後部ドアのない車だったので、
ドライバーには一度外に出てもらい、
運転席を倒して滑り込むようにして車に乗りこんだ。

後部座席にはスノーボードが積み込まれていた。

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運転しているのはオウナー
その隣りでノートに数式の問題を解いているのがグレイソンだった。

二人はこれから”Silverthrone”という
一時間ほど離れた町まで向かう最中らしい。

 

 

後部座席に座るとあまり話は弾まない。

大きな声を出さなければドライバーの耳には通らないので、
リズミカルな会話が成り立たないからだ。
僕の英会話の力不足ってのもある。

僕は自己紹介が済むと外の景色を眺めていた。

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デンバーの街を抜けると、
周りの風景は険しい山に囲まれたものへと移り変わっていった。

5月だと言うのに、雪をかぶった山さえある。

 

 

途中道路の工事で車が止まる場面が合ったので、
話をする時間があった。

オウナーはフランスで生まれ、去年までは中国に留学していたらしい。
母親と電話で会話する時はフランス語だった。

グレイソンは僕に自分の名刺をくれた。
プラスチック素材のものでグレーに透明で
文字が抜かれている洒落たものだった。
名刺の肩書きには「映像ディレクター」のような名称が書かれていた。
個人的な仕事だが、彼はそういったものも手がけているらしい。

 

 

そのようにして一時間のドライブが終わった。

僕はシルバースローンという町の
ハイウェイ直前にあるガソリンスタンドで降ろしてもらった。

僕は礼を言い、手を振って車を見送った。

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シルバースローン

はスキー場の麓にあるような町だった。

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後ろにそびえ立つ雪山がそう見せているのだ。
今朝までいたデンバーとはまるで雰囲気が違う。

アメリカを旅していると州によって見せる表情が異なるのが面白い。
アメリカを横断しているのだという実感を僕に与えてくれる。

 

 

ガソリンスタンドでコーヒーとクッキーを買った。

腹は減っていなかったが、
一本ヒッチハイクが終ったことによる
一種の達成感が手伝ったせいもあったからだ。

いつもこんな調子でコーヒーとクッキーばかりこまめに食べているため、
一日にしっかりした栄養のあるものを食べる回数は少ない。
悪い習慣だということは分かっているのだが、
なかなかやめることができない。
早くメキシコに行きたいと思うのだけど、
向こうでもきっと安いブリトーやタコスばかり食べているに違いない。

軽食をとり終えると、
僕はさっそくハイウェイの入り口に立ちヒッチハイクを開始した。

 

 

 

僕はあることに気がついた。

その発見というのは

西へ行けば行くほど、
自然に囲まれた場所に向かえば向かうほど、

人々のレスポンスは好意的になっていく

というものだった。

ほとんどのドライバーが笑顔を見せてくれたり、
手を振ってくれたりした。

 

 

一台車が止まり、行き先がすぐ近くだと理由で
「ごめんなさいね」と去って行った。

そのドライバーは行き先の書かれたカードボードを見ていなかった。

 

 

また、
トラックが運転席から何かを叫んだかと思うと、
道端に停車し、三角形の蛍光板を置いた。

そして
「車の修理が終ったら、
ロサンゼルス方面でよければ乗せて行ってやるぞ」
と申し出てくれた。

こんなもあっけなくアメリカ横断を終えてしまっていいものか?

だが、僕は西海岸を上(北)の方から
下るようにして旅したいと思っていた。

その好意的なトラックの運転手は
「ヒッチハイクがうまくいかなければ乗せてやるさ」
と僕にヒッチハイクを続けることを促してくれた。
彼は修理業者がここに来るまで待機しているらしい。

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僕は彼に言われた通りにヒッチハイクを再開した。

5分もたたずに車が止まってくれる。

あぁ、コロラド州はほんとうにヒッチハイカーに寛容だな。

 

 

 

「さっきの場所よりも
いいポジションに連れていってあげるわよ?」

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そう言って僕を車に乗せてくれたケニー
バックパッカーの経験があった。

東南アジアをメインに旅したということだったが、
アメリカでヒッチハイクをしたこともあるらしかった。

わずか10分そこらのドライブだったが、
こうして旅人が次の旅人へ助け合いのバトンを繋げていくのは
ほんとうに素敵な流れだと思う。

僕はかなり恩を受けてきたから、日本に帰った後に
その返済に追われることだろうな。

 

 

 

 

ケニーに降ろしてもらったのは、
アイルランドのヒッチハイクポイントで馴染みの
ラウンドバウトの近くだった。

ドーナッツのように円になった道路を中心に
それぞれの行き先へと道路が続いている。

ここを通る車は必ずスピードを落とす。
まさにヒッチハイクにうってつけの場所だった。

そこでヒッチハイクを再開し、
20分くらいで本日三台目の車が止まってくれた。

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プリウスを運転するジミーさんは75歳だと言ったが、
片耳が遠いことを除けばそのようには見えなかった。

20歳で結婚し、二人の子供をもうけ、
今ではひ孫ももいるらしい。

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アウトドアが好きで、
小型バスのようなキャンピングカーもあれば、
バイクでアメリカ中を旅した経験があるとも言っていた。

そんな旅人の先輩の話を聞くのはとても楽しい時間だった。

 

 

アメリカのドライバーたちと話をしていると
家族について話をされたり、訊かれたりすることが多い。

彼らは家族を大切にする。
僕はそんなアメリカ人の家族を素晴らしいとさえ思っている。

 

 

清水家は放任主義だった。
良い意味での。

全くの放置というわけではなかったが、
浪人から現在の世界一周まで、
好きにやらせてもらったことをとても有り難く思う。

 

 

僕が家族と一緒になってくらしていた時は、
家族に対してそっけなく接していたようにも思える。

「父の日」や「母の日」なんかは、
これと言って花やプレゼントをすることはなかったし
(ごめん今年もなにもしてないね…)
日本の家族なんてそんなものだとさえ思っていた。

だが、アメリカの家族の在り方、家族との時間の過ごし方、
考え方を彼らの口から聞くと、
僕も彼らのような家庭を築きたいとも思うのだ。

日本に比べ、アメリカの家族の繋がりの方が強いように感じる。
それは年齢なんて関係なく、みなそのように感じるのだ。

 

 

だが、哀しいことにジミーさんの最初の奥さんは
子供を二人残して別の男性のもとへと行ってしまったらしい。

この国の家族の在り方を素晴らしいと思うだけあって、
その離婚率の高さには矛盾を感じなくもない。

 

 

ジミーさんとのドライブはとても楽しいものだった。

雪山からコロラド・リバーと共に
岩肌の間を縫うようハイウェイは走った。

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Rifle

という町のはずれにあるレスト・エリアで
僕は車を降ろしてもらった。

ここはハイキングやキャンプなどの
アウトドア・アクティヴィティをする人たちが
足を運ぶ町のようだった。

そこにあったツーリスト・インフォメーションには
様々な情報が置かれていた。

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コーヒーはドーネーション制で、
コーヒーの値段は飲む人間の任意で決めることができた。

僕は1ドル分のコインを入れるて、
魔法瓶から紙コップにコーヒーを注いだ。

 

 

たまたまWi-Fiが入ったので、時刻を確認すると、
日本は15時間差が発生していたので、
日本は5月6日に日付が変わっていた。

この日は相棒のまおの誕生日だ

時間があまりなかったが、手短にメッセージをLINEに送り、
僕はまたヒッチハイクを続けることにした。

 

 

 

27歳の誕生日おめでとう。
そろそろ「何か」が形になる頃だ。

 

 

 

 

自然に囲まれた小さな町の脇を走る
ハイウェイ沿いのヒッチハイクでも、
僕はかなり好意的なレスポンスを得ることができた。

交通量も申し分なく、少な過ぎず、多過ぎずといったかんじ。
こちらもしっかりとドライバーたちと
コミュニケーションをとることができた。

そのため、
ほぼ全てのドライバーがなんらかのサインを送ってくれた。

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開始から30分ほどで本日最後の車が止まった。

ヘンドリックスさんはメキシコ出身だった。

後部座席にはしかめっ面の7歳のチワワが乗っており、
名前をタイガーと言った。

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「どこへ行く時もコイツとは一緒だよ」
とヘンドリックスさんは言った。

ヘンドリックスさんはコロラドの自然が好きらしい。
カヌーや自転車などだ。もちろんタイガーも一緒なのだろう。

僕が世界中を旅していることを言うと
「私はアメリカとメキシコしか言ったことがないなぁ」と言った。

 

 

年季の入った車。雨が降り出しフロントガラスを強く叩く。
カーステレオからはメロウなスペイン語の曲がかかる。

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「あぁ、やっぱこういう曲っていいですよね。
時々音楽を聴いていると幸せな気持ちになることがありますよ」

僕がそう言うとヘンドリックスさんは

「そうだね。音楽とはそのためにあるんだよ」

と言った。素敵なセリフだった。

 

 

ヘンドリックスさんの目的地は
グランド・ジャンクションの少し手前だったが、
僕をそこまで送り届けてくれた。

僕はダウンタウンで降ろしてもらい、
手を振ってヘンドリックスさんの車を見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は

18時を回っていた。

ダウンタウンにはほとんど人影が見当たらなかった。

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僕は見つけたアウトドアショップにふらっと立寄り、
スタッフたちとお喋りをした後で、
近くにあったスーパーで食糧を買った。

そしてスーパーの前でバスキングをしようと試みたのだが、
即行でセキュリティに止められた。

良い仕事してます!

ったく誰だよ?!
スーパーの前でバスキングできるって言ったヤツ!!
もうムリムリ!ムリよ!あれ!

 

 

 

 

そうこうしている間に

また雨が降り出した。

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僕はマップアプリでマクドナルドを見つけ出し、
2kmほどの距離を歩くき、いつものようにコーヒーだけ注文して
閉店まで作業していた。

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23時になると僕はナイトハイクを始めた。

いつものやつだ。ヒッチハイクの場所まで歩く。

 

 

グランド・ジャンクションの町は正方形に区切られ、
緑溢れる静かで地味に大きな町だった。

途中で僕のようにバックパックを背負い、
マットを括り付けたおっちゃんに遭遇した。

軽く会釈をすると彼は「ちょっと!」と言って僕を呼び止めた。

 

 

「なあ、見てくれ、おれは襲われてこうなっちまったんだ」

そう言う彼の目と鼻には青あざらしいものがあった。
暗くてはっきりとは分からないのだが、傷を負っているのは分かる。

 

 

「病院に行きたいんだが、金がない。
ちょっとカンパしてくれないか?」

それは物を頼む口調ではなかった。
どちらかと言えばカツアゲのそれに近い。

おいおい僕から金をせびるなよ?

 

 

「悪いけどさ、見てくれよ。
僕だってキャンプしてんだぜ?
この間金盗まれちまったんだよ。別のホームレスにな」

とっさに嘘をついた。漫画家なんで話を作るのが好きなのだ。

そう言うと顔に傷を負ったホームレスのおっちゃんは
「そ、そうか。お前も気をつけてな!」と言って去って行った。

 

 

いやに潔いおっちゃんでこちらお驚いたくらいだ。

そうして僕はグランドジャン・クションの町でのナイトハイクを続けた。

明日限界を迎え、へたれこむようにして近くの空き地にテントを張った。

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2 件のコメント

  • もうすぐユタ州ですか、早いですね。

    ソルトレイクシティーは北米でも変わった都市ですから楽しめるかも。宣教師で日本に滞在したことがある人と出会ったりするかもですよ。北米には2017年の日食の時に行く予定ですが、和食にも飽きてますのでブリトー食べたくなりました。渋谷にタコベルがオープンしましたが、アホみたいに高いので手が出ません。ところで前回の2010年の北米ドライブ旅行ではあちこちに日本にはまだ無いライフスタイルモールができているなと感じたのですが、そのあたりはいかがでしょう?

    • >citydeさん

      ソルトレイクシティはそのまま通過してしまったんです…。
      宣教師の方にはお会いすることはなかったのですが、
      ネイティヴ・アメリカンに起源のある人たちなら見かけました。

      それより渋谷にタコベルがオープンしたんですか!!!??
      こっちではチラホラ見かけますが、一度も入ったことはありません。

      「ライフスタイルモール」とは
      IKEAなんかああいった感じをイメージすればいいのでしょうか?、

      どうでしょうね?
      僕が今回アメリカ横断したのはアメリカの北側です。
      今言われるまでは見た記憶はありません。

      ただ、現在滞在してるポートランドには
      個人経営のオリジリティ溢れるお店が沢山あります。

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