「雨が降ったらどこへも行けない」

世界一周702日目(6/1)

 

 

夜中に

雨の音を聞いた気がする。

昨日は川沿いの土手の下にテントを立てた。

テントを片付け、外に出てみると、
近くを犬を連れて散歩する人の姿が見えた。
彼ら以外に誰も周りにはいなかった。

田舎ほど野宿しやすい場所はないと思う。
小さな町や村になればなるほど、ホームレスはいなくなる。

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ここはアメリカ、オレゴン州ルーズ・ポートという
小さな田舎町

 

 

 

 

テントを片付けると
僕は昨日も行ったマクドナルドへと向かった。
どんな場所でもWi-Fiが手に入るから驚きだ。

コーヒーを飲みながらSNSを見たりする。
これが僕のコーヒータイムだ。

9時にはマクドナルドを出た。
後からやって来た観光客らしき年配の方々が
「グッド・ラック!」と声をかけてくれた。

今日もオレゴン・パシフィック・ハイウェイを南下する
ヒッチハイクの旅が始まる。

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外は曇り空で、時度雨粒が混ざった。

車が止まれそうなスペースを吟味して、親指を立てた。

一応ボードには「Crescend City」と書いておいた。
州境を越えた場所にあるカリフォルニア州の町だ。

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30分もしないで一台の車が声をかけてくれた。
わざわざ駐車場に止まってくれてた。

中には中年の女性と、
30代くらいの男性の親子が乗っていた。

 

 

「隣り町までしか行かないけどね!」

と元気よくお母さんが出て来て、トランクを開けてくれた。

僕はお礼を言ってバックパックとサブバッグを置かせてもらい、
ギターは車内に持ち込むことにした。

 

 

「これで全部?ギターは?」

「これで4本目なんですよ。
壊したくないので。ははは」

お母さんは勢いよくトランクを締めた。

 

 

 

 

「ギャッ..!!!」

短い悲鳴がする。

え??!!!

 

 

 

 

 

「ゆ、指が指がぁあああああ!!!」

「え?ちょ、ちょっと、どうしたんですか!!??」

 

 

見ると、トランクに親指が挟まれている

こんなギャグみたいな展開ってあり?
いや、ギャグだけど、

 

ギャグじゃない!

 

 

 

 

「こ、この鍵でトランクを開け..て..。うぅ…」

うめきながら僕に鍵を差し出す。

急いで鍵を差し込むがトランクは開かない。

え?どうしよう!

挟まれた親指には血が滲みだす。

 

 

「え?これ開かないっすよっっ!!」

「ティム!
ティ~~~~ムッッ!!!
ティムゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

 

息子の名前を叫ぶお母さん、
杖をついた息子のティムが出て来て別の鍵でトランクを開けた。

 

 

「く、くぅっ….」

 

 

見ているだけでこっちも痛くなってくる。

親指を大事そうに抱えて、ハンカチで包むローナさん。

 

 

「だ、大丈夫ですか??」

 

 

僕を乗せても大丈夫なのか?
僕にも責任があるような気がして、居心地が悪い。

そしてこんな状況でもワーワーと元気を取り戻したかの用に
話し始めるローナさん。

 

 

「悪いんだけど、病院によらせてね!」

息子に運転を代わり、近くの病院へと僕らは向かった。

 

 

朝からインパクトあるよ…。

 

 

 

 

 

 

 

「母さんはいっつもあんな感じさ。
だから気にしなくていいよ?」

病院の待ち合い室でティムはそう言った。

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外には雨が降り出していた。

「雨が降ってきたとしても
10分後には分からない。それがオレゴンさ」

そうティムは言った。

 

 

 

ローナさんの治療が終るまで僕たちは待合室で話した。

ティムはこれからオーストラリアに移住するつもりらしい。
天候の変わりやすいオレゴンよりも向こうの方が
断然過ごしやすいからだそうだ。

どういう経緯で彼が杖を持つようになったのは分からないが、
湿度の高い日には足が痛むらしい。
からっとした気候のオーストラリアを彼が選んだのも頷ける。

チィムはゲームが好きなようで僕と年齢も近かったせいもあり、
いくつかのゲームハードは僕もプレイしたこがあるものだった。
ゲームボーイとかニンテンドー64とかそんなのだ。

 

 

「次に何が出てくるかなんて、
ほんとうに分からないものだよ」

「そうだね。
スマートフォンとか今ではみんなもっているけど、
昔は想像できなかったよね」

 

 

時々、今の子供たちがどんなことをして
遊んでいるのか気になることがある。

まだ僕が子供の頃は、もっとシンプルだったように思える。

今はゲームとネットがリンクしてることもあるし、
人によっとは金を払ってゲームのアイテムを買う人もいるくらいだ。

そんな複雑にしてどうするのだろうと思う。

まぁ、自分たちの親も
同じ様なことを思っていただろうな。

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お大事にね。ローナさん。

 

 

ローナさんの診察と治療が長くかかりそうだったので、
ティムは僕を隣町のNorth Bned(ノース・ベンド)まで
送ってくれることになった。

今朝方までいたルーズド。ポートから20分。
ノース・ベンドの町のショッピングモールで
僕は車を降ろしてもらった。

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オーストラリア、楽しんでね。

 

 

 

 

 

 

 

 

雨は一向に

止む気配を見せなかった。

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アメリカの100円ショップ的存在の
「Dollar Tree(ドラー・ツリー)」に行き、お菓子を買うと
僕はしばらく雨の降りしきる駐車場を眺めていた。

このままヒッチハイクができそうな天候ではなかった。
町のメインストリートもほんとうにこじんまりとしたもので、
作業ができそうなマクドナルドもカフェもなさそうに思えた。

 

 

地図で確認すると隣町までは4kmほど。
歩いて行けない距離じゃない。

バックパックにレインカバーを装着して、
パタゴニアのアウターを着て歩き出した。

 

 

 

歩いてみて感じたのは、
やはりこの町には何もないということだった。

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あっと言う間に町はずれまで出てしまい、
ハイウェイとも一般道とも分からない道路沿いを黙々と歩いた。

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もう三年以上使っている
パタゴニアのアウターにはガタがきていた。

少しくらいの雨ならへっちゃらなのだが、
雨が強いと内部に水が染み込んできてしまうのだ。

半分くらいの距離を歩いたころには、
アウターの内部はうっすらと濡れ始めていた。

4kmをバックパックを背負って歩くと
体感距離が伸びる。

 

 

やっとの思いで
隣町のCoos Bay(コースベイ)までやって来た僕は、
マクドナルドを見つけた時にはほっとした。

 

 

 

 

 

逃げ込む

ように店内に入り、いつものようにコーヒーを注文した。

 

 

Loitering proibited」の文字が見える。

長居お断りという意味だ。

どうやらここで30分以上は居座れないようになっているようだ。

だが、雨が降っているということもあり、
30分以上が経過しても誰も出て行けとは言ってこなかった。
そりゃ滞在時間を店員が厳格にチェックしているわけじゃない。

 

 

 

雨は相変らず降り続いていた。

こうなってはヒッチハイクもできやしない。
今日はここで作業だなと僕は思った。

 

 

雨が降ったら、
僕はどこへも行くことができないのだ。

 

 

財布の中を見てみると、
5ドルしか入っていなかった

 

 

 

 

 

 

雨が上がった16時になると
僕は外に出てみることにした。

近くに愛しのフレッド・マイヤーがあることが分かったのだ。
今回はスーパーの前でバスキングできるんじゃないかと思ったのだ。

今まで何度かスーパーの前でバスキングを試したことがあったが、
それは一曲も歌うことなくセキュリティーにストップをかけられた。
ここではどうだろうか?

ってかお金がないから、歌わないとヤバい。

 

 

 

スーパーの入り口で僕はギターを構えた。

駐車場には沢山の車が停まっている。
夕飯の食材を買いにくる今がいい時間帯だ。

うるさくない程度に一曲を歌っていると、
小さな娘さんをつれたお母さんがニコニコしながら
3ドルを入れてくれた。

初めてだ。
やっぱり小さな町だったらいけるんだよ!

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三曲目でセキュリティのお兄さんが現れた。

「申し訳ないんだけど、
君によくないニュースがあるんだ」

という優しい注意の仕方だった。僕はすぐに退散した。

 

 

 

 

すぐ隣りにも
「SAFE WAY(セーフウェイ)」というスーパーがあった。
こちらはいくぶん客の数が少なそうだったが、
やれないこともなかった。

ギターを弾くと、カートを押した店員が親指を立ててくれた。
これならいける??!

 

 

僕はそう期待したのだが、
すぐにセキュリティがやって来て僕の目の前で
口元を緩めながら立ちどまった。

 

 

「あの~~~…、
ここでやってもいい、ですか?」

「ノ~!」

「ですよね…」

 

 

スーパーの前でバスキングだなんてできっこない。
スーパーの前は地元のホームレスのポジションだということが
改めて理解できた。

馬鹿畜生!やっぱり無理じゃねえか!

 

 

 

 

 

 

 

『ウェンディちゃんに
慰めてもらおう』

と僕が向かった先は”Wendy’s“。
結局はバーガー屋に逃げ込むしかないのだ。

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マクドナルドにコンセントがなにのに比べ、
ここにはコンセントがあった。ただし、Wi-Fiはない。
だからどちらか一方を選ぶしかないのだ。

日記を書く分にはWi-Fiが内包が効率がいい。
絵を描くには少々暗過ぎたので、
ひたすらにキーボードを叩いて日記を書いた。

こんな天気の悪い日にはファストフード店の店員も
どこかフレンドリーにさえ思える。

22時まで作業をして僕はウェンディーズを後にした。

 

 

 

 

忘れてはならないのは、
フレッド・マイヤーではタイムセールのパンが
売られているということだ。

コース・ベイのの町でもそれは同じだった。

1.99ドルの袋詰めのパンを買い、
テーブル席でそれらを食べていた。

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閉店間際のフレッド・マイヤーのテーブル席には
僕の他に酔いつぶれたような格好でテーブルにつっぷす一人の男と、
電自動の車いすに乗る男性。

車いすの男性はフレンドリーにどこから来たんだい?
と話しかけてくれた。
別れ際にチョコレートを一枚僕にくれた。
こういうのってほんとありがたい。

真面目そうな男性店員は同じように僕に話しかけて来てくれた。
やぁ、どこから来たんだい?どこへ行くんだい?

話終ると、彼は5ドル札を2枚僕にくれた。

僕は驚いたが、それを有り難くいただいておくことにした。

 

 

代わりと言ってはなんだが彼の似顔絵を描き、
それをプレゼントした。

もう何人に似顔絵を描いただろうか?
途中から数えるのを忘れてしまった。
きっと同じ番号の人が他にもいるはずだ。

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髪の毛塗っておけばよかったな。

 

 

 

 

「センキュー!グンナイ」

そう言ってフレッド・マイヤーを後にした。

人の優しさが身に沁みた。

 

 

 

今日は近くの川辺にテントを張った。

対岸にはモーテルがあり、水面がネオンで輝いていた。
それがどこか美しくも見えたりする。

ちょっと感傷的になったあと僕はテントの中に入って
寝袋の中に身を埋めると目を閉じた。

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2 件のコメント

  • 僕はどこにでも、好きな方に歩いて行ける。

    僕は自由だ・・・ だが、この自由はほろ苦かった。

    世界と自分が、どれだけ繋がって居ないかを、痛い程に思い知らされた。

    サン・テグジュペリ

    • >JOSANさん

      「星の王子様」ですか?いやどうだろ?
      恥ずかしい話それしか読んだことがないのです。

      世界と自分の繋がりの希薄生かぁ。
      僕はやはり完全な自立や孤立ってのは難しいと思うんですよね。
      砂漠で遭難しない限り。

      こうして一人旅できているようで
      色んな方々に助けられてます。
      いつもありがとうございます。

      こんな長ったらしいブログにお付き合いいただいている
      JOSANさんにも感謝です♪

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