▷12月14日/ニュージーランド、オークランド
毎回僕の日記は長ったらしくて全部読み通すのに嫌になっちゃうくらいだと思うんだけど、書いている方もなかなかに大変なんだ。
これが宿をとってたりして、深夜誰もいないリビングでコーヒーか白湯でも飲みななら一人で悠々と書けるのなら楽だけど、なんせ今はキャンプ中だしね。街には何人か顔なじみの路上生活者たちもいるよ。
オークランド滞在も5日目だ。なんだか早いな。一日の活動もだいぶルーチンになってきたから、日記の内容も単調に感じるかもしれない。
だけど、僕はスカスカの日記と言うのが嫌なんだ。どうもしっくりこない。だから、こうして本編とは関係ないことをクドクド書いている。最近「ライ麦畑でつかまえて」を読んでるもんだから、口調もホールデンみたいになってる。僕はね、すぐ影響を受けちゃうんだ。
最近この本について調べたら「中二病小説のパイオニア」みたいに書かれてて少しがっかりした。まぁ、そりゃ確かにこの世の中の全てが敵!大人なんて信じねぇぞ!みたいな感じではあるけどね。いや、でもあの小説に出てくる「インチキなヤツら」って、なんだか理解できるよ。僕もそのうちの一人だけどね。
まぁいいや。こんな本編と関係ないくだらないことなら何時間でも書けちゃうからね。
どうやら僕がテントを張っているハイウェイ沿いのウォークウェイは絶好の犬の散歩道のようだ。
いつも朝起きると車が停まっているのだけど、その車には「Dog daycare」と書かれていた。きっと犬の散歩を代行してもらうリッチな人たちのための会社なんだろう。
特にこれといってスタッフたちと対面したことはないが、彼らも僕がここでテントを張っていることはもう完全に気づいているだろうし、だからと言って警察を呼ぶだとか、ここで寝てはいけないだとか野暮なことを言ってくるわけではない。近隣住民の人とは比較的良好な関係を築けている、のだろう。
いつものように朝は図書館併設のカフェで過ごした。
このカフェ(図書館)にはあらかた必要なものが揃っている。美味いコーヒー、Wi-Fi(遅いけど)、個室トイレはもちらんのこと、水飲み場だってある。
大体僕は9:00〜14:00過ぎまでここで作業をしている。
今日はそのまま路上にはいかずに、文房具屋にいくことにした。もう似顔絵用の紙が4枚しか残っていないのだ。
僕は図書館のスタッフにどこに文房具屋があるのか尋ねてみた。眼鏡をかけた30代中頃の彼女は「hmmm—-…」と言いながら人差し指を口にあて、思いついたように文房具店のある場所を教えてくれた。
教えてもらった場所はクイーン・ストリート沿いに、しかも図書館の近くあった。
と言っても、ここは文房具専門店ではない。
なんとそこにあったのは「DAISO(ダイソー)」だったのだ。日本の100円ショップがニュージーランドに出店しているだなんて意外だ。

しかもここで売られているものの値段にも驚きだった。
なんと日本では115円(でしたよね。たしか)で売られているであろう商品が、ここではなんと3.5NZドル(¥290)で売られているのだから。「3つで10NZドル」というセールじみたことはやっているけど、やっぱり高く感じずにはいられない。
ニュージーランドのダイソーはなかなかの品揃えだった。スケッチブックも何種類かあり、ペンの種類は豊富。思わず買い込んでしまう。
いや、僕は文房具店に来るとテンションが上がるタチなんだよ。
値段のことはあまり考えないことにした。この四日間で罰金分のロスは回収できていたし、道具にお金をかければクオリティの高いパフォーマンスができる。これは先行投資だ。
スケッチブックをサイズや色違いで3セット、似顔絵を入れるビニールカバー、ペン数種を買い込み、会計パフォーマンス36ドル(¥2,984)。
それでも自分が金を使ったという感じはあまりしなかった。出した分だけ、お金は戻ってくるものなのだと、僕は考えている。
新しい道具を手に入れると自分がどこかパワーアップしたような気になる。街のヘンテコなオブジェの前に荷物をおろすと、僕はこの日のパフォーマンスを開始した。
今日は中々にキャラの濃い人たちが僕に話しかけてきてくれた。

Phodiso(たぶん「フォデイソ」だと思う)というヤツは、僕に10NZドル札を渡すと「おれにも絵を描かせてくれ」と言って、お互いに似顔絵を描くことになった。
もしかして、やっこさん相当上手いんじゃないか?『お前この程度のレベルで似顔絵なんて描いてるんじゃねえよ』というメッセージなのではないか?と僕はビクビクしながら似顔絵を描いた。
僕の方が早く出来上がり、しばらく彼が描き終わるのを待っていた。フォデイソが僕に描いてくれた似顔絵はいい意味で僕の期待を裏切ってくれた。とてもアーティスティックだったのだ。いい意味で言って(笑)

また、ソリという韓国人の女のコは、似顔絵を描いた後もしばらく僕の横に座って話をしてくれた。
なんでも彼女はいとこの家に一ヶ月ホームステイをしているそうなのだが、オークランドを一歩でたことがないと言うのだ。フェリーで30分行ったところにあるワイキキ島にすら行ったことがないと言っていた。
「それじゃあ、どうやってこの一ヶ月を過ごしたのさ?やることあるの?」僕はおもわず尋ねた。
「それがね。とても暇なの。あぁ、自転車でニュージーランドを旅したいなぁ」ソリはそうボヤいた。

二人の娘の似顔絵を描かせたあと、自分の似顔絵も描かせるお母さんもいた。
彼女たちはけっこうリッチに見えた(そういう服装をしていた)にも関わらず、3枚で10NZドルに値切るという絵描き泣かせのディスカウントをさらっとしてみせた。
隣に座っていたソリは「最初に一枚5ドルって言ってたのにね」と困ったような顔をした。いくら似顔絵の値段は決めてもらうスタイルでも、値切られるといい気持ちはしない。
この日も日本人の女のコに会った。
その女のコはケイコちゃんといい、キャビンアテンダントを目指して留学をしている女のコだった。彼氏とのツーショットの写真を見せて僕にそれを描かせたのだが、書き終わった似顔絵を見ると「盛れてますね。彼氏はもっと丸顔ですよ」と言った。
本人がその場にいない場合、僕には写真しか手がかりがない。そこからイメージを膨らませて絵を描くのだ。盛れてるもなにも、僕は常時「30%盛り」で描いているよっ!
アマンダスというヤツは、僕が旅をしながら漫画を描いてることを知ってかなりテンションが上がっていた。
ツーブロックの頭の後ろで小さく髪を束ねているかれは、なんとなくアナーキーな感じがした。それでもちゃんと仕事をしているようだ。
「ファッキン・クールだぜ!メーン!おれはさ!お前みたいな生き方してるヤツが大好きなんだよ!」
そう言ってくれるアマンダスにはいい似顔絵が描けたと思う。
ノっていると似顔絵を求める人も増えてくる。
電動車椅子に乗ったリネッタおばちゃんは、足の病気で象みたいに太い脚をしていたが、カラカラと笑う気持ちのいいおばちゃんだった。
彼女が似顔絵の代金として渡してくれたのはミルクティーとグミとキャンディー。まぁこういうのも悪くないよね。
ユキさんという日本人の方ともお会いした。
彼女もまた写真から似顔絵を描いて欲しいと依頼してきたのだが、写真のユキさんはロングヘアでセクシーな格好をしていた。彼氏だか上司だか分からない男性とのツーショットだ。
そのまま模写するとつまらない絵になってしまう場合は絵のタッチを変えることもある。今日はダイソーで買ったスクラップブック用の茶色い紙に絵を描いているのだが、なかなかいい味を出していた。
ユキさんはカフェラテの差し入れをしてくれた。あざっす!
英語の喋れないモイアおばちゃんは、きっとポリネシアとかそっち系なんだろう。フランス語は喋れるみたいだったな。
似顔絵がよっぽど嬉しかったのか、それから数日顔を合わすたびに僕にお金をくれる気前のいいおばちゃんだった。
最後の似顔絵を描く頃には辺りは暗くなり、眼鏡をかけなければ手元がはっきりと見えないようになっていた。
アラブ系のお兄さんの似顔絵を描いて今日はフィニッシュ!ずっとバックパックの上に座っていたのですっかり腰が痛くなってしまった。
あぁ、今日はマジで描いた気がする。アガリは113NZドル(¥9,223)。

似顔絵のスタイルがまた新しくバージョンアップされた。
最近は顔だけじゃなく、全体像でその人を描くのが好きだ。顔の描き分けができない分をボディがカバーしてくれる場合もある。何より全体像を描いた方が漫画っぽい。
ずっと座って絵を描いていると、けっこう食べ物の差し入れをしてくれる人もいるんだよね。
今日もありがと!楽しかったわ!
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