▷12月27日/ニュージーランド、オークランド。
都市型キャンプ生活を続けているとシャワーを渇望するようになる。温水を思う存分体に注いで汚れを洗い落としたい!もうパブリックトイレに篭って体を拭うだけなのは嫌だよぉぉぉ〜〜〜〜‼︎
そんなわけで僕はどここかでシャワーが浴びられないものかと探していたのだが、ネットで見つけたのはウェリントンの街にあるボタニティ・ガーデン(植物公園)にある運動施設でホットシャワーが無料で使えるという情報だった。
それはキャンパー向けの英語のサイトだったんだけど、僕はそれを当てにして昨日の夜のうちから植物公園でキャンプしたのだ。
植物公園は本当に静かなところだった。ここでだったらいつまでも寝ていてもいいんじゃないかと思ったくらいだ。木々の合間から港が見えた。朝日を反射する水面っていうのはほんとうに綺麗だよ。
テントを片すとマップアプリを頼りに、その「無料でホットシャワーが浴びられる運動施設」を僕は目指すことにした。マップで確認すると公園内にはひとつしか運動施設がなかったから迷う心配なかった。
だけどね、この植物公園っていうのが山の上にあるもんで、道もクネクネと曲がりくねっているし、小さい脇道なんてたくさんあるもんだから、たかだか500メートルくらいの距離を歩くのも大変だったんだよ。
やっとの思いでその運動場みたいな場所にたどり着いた僕は落胆の色が隠せなかった。だってそこは遊具なんかが置いてある子供の遊び場だったんだもん。
どこを探してもシャワーらしきものはなかった。僕は諦めてダウンタウンへと降りていくことにした。
この街には市民プールがない。
だからオークタウンみたいにシャワーにありつけないのだ。小さなビーチでシャワーが浴びられるらしいんだけど、ダウンタウンからそこまではちょっと歩かなくちゃならない。それにきっと冷たいシャワーだろう。
この前街を歩いていた時「サルベーション・アーミー」を見つけた。僕は一度もこれを利用したことはないんだけど、「深夜特急」で沢木耕太郎も泊まっていたし、カナダかどっかではホームレスに開けているとも聞いたことがあった。もしかしたらここシャワーを浴びれるんじゃないかって思った僕は一度もサルベーション・アーミーに行ってみることにした。
その途中ですれ違ったマダム二人が「 あなた、迷ってるのかしら?」なんて僕に訊いてきたんだ。いやぁ、こっちんの人はいいよね。開けているというか、日本だったら不審者扱いだもんなぁ、きっと。
それで僕はそのマダムたちに僕は訊き返してみたんだよ。「どこかでシャワー浴びられませんかね。ほら、市民プールにあるやつみたいに」
僕がそう尋ねねると、マダム二人は「それならそこのパブリックトイレで浴びられるわよ」と僕に教えてくれたんだ。いやぁ、参ったね。だって僕は毎回そこのトイレで体を拭っていたんだもん。なんだよ。そこにあったのかよ。

僕はさっそくパブリックトイレに行ってみることにした。
パブリックトイレには清掃員がいた。トイレの脇には清掃員用の小部屋があって中にテレビと椅子と雑誌なんかが置いてある。時間帯によって違う人なんだけど、この日はマオリのおばちゃんが清掃員をしていた。
僕はそのおばちゃんに「どこでシャワーを浴びられるんですか?」って尋ねたんだけど、そのおばちゃんは「ここにはない」って言うんだよ。でも別の場所に行けばそこでシャワーを浴びられるっていうじゃないか。僕はそこまでの道のりをおばちゃんに訊いてみることにした。
このおばちゃんは実にシンプルに物事をいうおばちゃんだった。近くに銀雨があってその裏手にあるということが分かったんだけど、こういう単純な道案内ほど落とし穴があるものはないよ。シンプルすぎて場所が特定できないことがよくあるんだ。
僕は確認のためiPhoneのマップを見せて確認を取ろうとしたんだけど、このおばちゃん、どういうわけだか、それを見ようとしないんだよ。なんだか電子端末を拒否しているって感じだったな。だから僕はそこまでの道のりを紙に書いてもらおうとしたんだけど、それもなんだか曖昧な情報だった。
言われた通りにその銀行を探したんだけど、それらしいものはあっても、シャワーらしきものはどこにもなかった。おばちゃんは「別のマオリの同僚が働いているから」と言ったんだけど、その人ですらどこにいるのかわからなかった。
いやいや、あるんだよね。こういうことが。地元の人はさも当然にそこにあるものだと言うのだけれど、実際探してみるとそんなものはどこにもないってことがさ。別に騙しているとかそういうんじゃないんだ。目当てのものがそっくりそのまま消え失せちまっているんだよ。
僕は気分転換するためにバーガーキングに入って2ドルのチョコレートサンデーを食べることにした。よくよく考えてみるとヨーロッパを旅している時はシャワーなんてなくて当然だったからな。インフラの整った日本みたいな国に来てシャワーを浴びたいって気持ちが強くなったのかもしれない。
それで僕はいつもみたいにバスキングをしにメインストリートへと向かったんだ。
今日は日曜日ということで街にはそこまで人がいなかった。
僕はいつものようにバックパックに腰掛けると漫画を描き始めた。
たとえレスポンスが少なかったとしても、ここでの時間は全て自分の漫画のための時間だ。膝の上にボードを乗せて描くもんだから描けるものには限りがあるけど、基礎的なことなら色んなことが試せる。
そんな中で今日も声をかけてくれる人たちがいた。


なかでもカレンさんという日本人の人とのおしゃべりは面白かった。最初英語を喋ってたからわからなかったんだけど、僕が日本人であることに気がつくと途端に日本語で喋り出してさ。あんなにマシンガントークな人には久しぶりに会ったな。

変なオーダーもあった。
「ワンパンマン」っていう、最近の日本の漫画のキャラクターを描いて欲しいというオーダーだった。僕が日本を出た後に連載された漫画だから読んだことはないんだけど、パンチ一発で敵を倒せるヒーローが出てくるギャグ漫画なんだよね。漫画家の村田雄介は「アイシールド21」で知ってた。画力が高いギャグ漫画なんだ。

今日は九組のお客さんに絵を描いてアガリは65NZドル(¥5,387)。日曜日だしね。

それで僕はいつもの流れでホステル併設のカフェへと向かうことにした。
バックパックを背負ったままでも、何も言われずに中に入ることができる。カフェを使う分にはお客さん扱いなんだよ。もちろん注文もするけどね。
僕は3.5ドルのコーヒーと3ドルのミニサラダを注文して席に着いた。もうどこの席の脇にコンセントが付いているかもばっちし分かってる。
ここのカフェは本当に穴場だと思うよ。いったい何時に閉まるんだってくらい、カフェのあるラウンジは開いているし、隣のバーのある部屋ではいっつも誰かしらがビリヤードをやってる。すっごい居心地がいいんだ。トイレに立ちに荷物を置きっぱなしにしていても盗まれる心配もない。Wi-Fiも二十四時間経てばまた使えるようになるしね。
僕は上の階がどうなっているんだろうと、階段をさらに上がってみた。そこには細い廊下とシングルルームが続いていてた。
そこでも個室トイレを見つけたんだけど、なんとシャワーが付いているヤツだったんだよ。マジでこれには驚いたね。僕はすぐにタオルや替えの下着なんかを持ってきてソッコーでシャワーを浴びた。
うわぁ…。求めよ。されば与えられんってね。
僕は無神論者だけどさ。この時ばかりは何かに感謝せずにはいられなかったよ。

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