▷12月31日/ニュージーランド、クイーンズタウン
誰か来て怒られるのは嫌なので、6:30に目覚めて テントを片付けた。
クイーンズタウンを取り囲む山の一つが朝日を浴びてオレンジ色に光っている。少し肌寒い中、僕は墓場をあとにした。
昨日は墓場に寝たのだ。いいよ。セメタリーは。人なんて来なくて静かだし、芝生も生えててさテントを張るには最適なんだ。
スターバックスは朝の7時から営業しているようだった。
すでに三組くらいの客がおり、僕もアメリカーノを注文するとコンセントのあるテーブルに着いた。相変わらずWi-Fiは一時間の時間制限つきで、速度もあまり早くない。僕は日記を書いていた。
店内ら通りを見ると、だんだんと人が増えてきたのがわかったが。昼前までスターバックスで過ごすと僕は外に出ることにした。
外はどちらかといえば静かな方だった。年末だからといってごった返すということはないみたいだ。僕は昨日の夜もバスキングをした通りでバックパックを下ろすと絵を描き始めた。
いつも1ページの漫画を描くだけではつまらない。今日ドローイングから始めることにした。
僕のスタイルは定規を使わないフリーハンドのスタイル。インスピレーションに従って下書きなしで線を組み合わせていく。でっきた形を何かに当てはめて作品は完成するのだ。ほら、欧米人ってこういうよく分からないアートみたいなヤツが好きでしょう?

でもドローイングを描いている時は、はっきりいってかなり地味だ。使っている紙もB4くらいのサイズだし、使っているペンも0.3ミリなので線もかなり細い。「雛鳥」というタイトルでドローイングを完成させるとカバーにれ10ドルの値段をつけてみた。売れるだろうか?
次にとりかかったのは下書きなしのイラストだ。最近筆ペンにハマっている。いやいや、筆ペンってすごいんだぜ?線の強弱の幅はめちゃくちゃあるんだ。これならオークランドのダイソーでもっと買っておくんったなぁ。
筆ペンという日本的なものを使うと、描かれる絵も不思議と日本っぽくなってくる。頭に浮かんだのは「鬼」の姿だった。鬼のディテールを意識しながら線を描いていった。そう言えば子供の時「おにーのパンツは、いいパンツ〜、強いぞ〜♪」という歌を歌わされた記憶がある。百年履いても破れないらしい。それにあれって虎の皮だもんな。ラムちゃんのブラも虎皮なのかなぁ…?
イラストを描いていると男の子四人組がやって来て、そのうち一人がオーダーをくれた。彼から渡されたのは2ドルコイン一枚。僕はとても微妙な気持ちになった。確かに値段はお客さんが決めていいことになってるけど、叩かれている気がするなぁ…。
はっきし言って年末だからとといってレスポンスが極端にいいわけではなかった。時々足を止めてくれる人はいるのだが、僕が「ハーイ」と声をかけると、目をそらしてどこかに行ってしまう人が多い。この恥ずかしがり屋さんめ!
それでも絵を描き続けているとオーダーが入った。
音楽と絵のバスキングの違うところは、お客さんを待っている間も常に新しい作品が作れて、路上にいる間は練習ができるところだ。
音楽ってやっててわかるんだけど、持ち歌の繰り返しのところが多いんだよね。持ち歌を増やすのにも時間がかかるし、やってる人間が多いから、同業者がいると目立たないし、ニュージーランドの人たちは路上ミュージシャンに慣れちゃってる感じがする。まぁ、めちゃくちゃ上手くて稼げている人もいるんだけどね。
今日は中華系の人のオーダーが多かった。一枚描くと、それにつられてまた次のオーダーが入る。

太陽がかたむいて日陰がなくなると、通りの反対側に移った。夕方になるとまた何組かの似顔絵を描いた。
男の子がポケットから小銭を出して「これで描いてもらえる?」とお願いしてきたので、僕は喜んでそのオーダーを受けた。せいぜい中学生くらいの年齢に見えたし、そんななけなしのお金で僕の似顔絵を求めてくれたことが嬉しかったからだ。今日一番目のヤツらは別だよ。依頼してくる時の雰囲気で分かるさ。
今日は待ち時間が多かったが、その分自分の作品を描くことができたと思う。似顔絵自体も「動きのあるポーズ」で描くことを定めて、適度に遊ばせてもらった。いや、もちろん描いているときは遊ばせてもらってますよ!
オーダーもすっかり入らなくってしまったので、僕は荷物をまとめてその辺をブラブラしてみることにした。
同じ通りではハングドラムを叩いたヤツがいた。僕は少し離れた場所からナチュラルドレッドをほどきながら彼のお金の稼ぎ具合を観察した。腕も悪くなかったし、そこそこに目立っていたんだけど、やはりレスポンスは少なかった。
ところで、この「ナチュラルドレッド」だけど、僕は髪の毛が長いしキャンプ生活を続けてけているもんだから、髪が絡み合って天然のドレッドヘアができちゃうんだ。あれにはマジで困るよ。
僕はどこか燃焼しきれてなくて、もう一度同じ通りに戻ると、今度はベンチに座って漫画を描くことにした。
夕方になると通りはまた賑わうようになっていた。音の出ない地味なパフォーマンスなので、ちゃんと人の目に留まることができているのか不安になる。
たまたま隣に座った老夫婦の似顔絵を描いて5NZドル、漫画を買ってくれる人がいて7ドル、パフォーマンスそのものにコインを入れてくれた人がいて2ドル(⇦これあんまない)。それで今日のアガリは100NZドル(¥8,288)になった。まぁ目標行ったからよしといよう。
20時を回ると、町はより賑わうようになってきた。
ふたつの特設ステージが組まれ、片方ではバンドが演奏し、もう片方ではDJがダンスミュージックを流していた。
僕はスターバックスでコーヒーを買い、リンゴをかじりながらDJのいるステージの方へと向かった。ステージの近くにバックパックを下ろしその上の腰を落ち着けた。
ステージの前では四人くらいが踊っていた。そのうち一人のおねーさんのダンスはかなり上手かった。まるでDJの曲を予測して振り付けを当てているようにドンピシャでダンスが合っているのだ。僕はそのダンスに思わず見入ってしまった。
音を聞いていると自然とからだが揺れた。踊りたくても踊れないこのジレンマ。いてもたってもいられなくなり、ついにはステージ脇のスタッフに荷物見ていてもらえないか尋ねた。
「あの!すいません!荷物フェンスの向こう側に置いてもいいですか?」
「お前、何するつもりだ?」
「何って踊るんですよ!」
「…、いいぞ。そこに置いていきな」
「ざっす!」

バックパックを置くと僕はすぐさまステージの前では体を揺らし始めた。
なんでこんなに踊りたくなる時があるのだろう?そういや、幼稚園の時も踊らずにはいられないガキだったような記憶があるぞ。ははは。そうか。昔っから変わってないんだな。
日が沈むとどんどんとステージ前で踊る人間が増えてきた。DJの後ろの画面にはタイマーが作動しており、2015年も残すところあと二時間を切っていた。
この一年間にどれだけけのことがあっただろう?
一年前はエジプトのダハブにいた。
それからアフリカを縦断し、南アフリカからカナダへ渡り、アメリカを横断/縦断した。
メキシコから中米に入り、陸路で南米に入り、
まぁ、ペルーでパスポートやなんかを盗まれちゃったけど、
行けないだろうと思っていたパタゴニアを旅することもできた。
そして今、ここニュージーランドで2015年の最後を締めくくろうとしている。
おいおい。最高じゃねえか!
西暦2016年まで30分を切ると、ステージ前は人でごったがえしていた。満足にダンスすることもできず、音楽に合わせて飛び跳ねるだけだ。その場にいたみんながバカみたいに歯をむき出しにして笑っていた。
10秒を切ってカウントダウンがはじまる。
「スリーーーー…
ツーーーー…
ワーーーーン…
ハッピーニューイヤー‼︎‼︎‼︎」
その瞬間湖から花火が上がった。その場にいた人間は体の動きを止めて湖面から放たれる花火に見入っていた。
グッバイ2015年。

なんだか嬉しい気分で、コンビニでコーラとスナック菓子とフライドポテトを買った。
うーむ…。新年早々ジャンクフードだが、これも悪くない♪
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