「四枚目の壁画漫画」

1月17日/オーストラリア、メルボルン、作業5日目

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とりあえず6時間眠れればいいだろうと思っていたが、そうでもなかった。

前日作業を終わらせて寝たのが深夜3時。それで9時過ぎに目覚めたのだが、

体に力が入らない。食欲もない(それはもとからか)

いや、さすがに今に食生活で僕はいよいよ栄養失調になってしまったんじゃないかとも思った。いやいや、それはまた別の問題だ。あと二ヶ月もしたら日本じゃないか。菜食中心のバラ色の食生活が僕を待っている！あーーー！野菜食いてえ！

特に飲みたくもないのに、セブンイレブンにコーヒーを買いに行く。

この時点でかなり不健康だと言わざる得ないんだけど、こればっかしはしょうがない。コーヒーを飲まないと一日が始まった気がしないのだ。

一番大きなミーティングルームに脚立を運んで、何も書かれていない真っ白なホワイトボードと向き合った。頭の中でどんな風にストーリーを展開しようか考えたがいいアイデアが思いつかない。

なんだかこのボードにマーカーで線を引くのが怖い…。

あ、なんかやりたくねえなぁ…。

漫画家を志して最初の数年はこういうことがあった。

下書きが終わり、いざペン入れの段階になり、ミスをするのが怖いせいで、ペン入れを渋ることが。あの時は毎日自分もレベルの低さに失望してばかりだった。

でも、やらなきゃ何も始まらないのだ。

日本のパントマイム・アーティスト、「が〜まるちょば」の言った「やってりゃ上手くなるっしょ」という言葉を思い出す。

話はまとまっておらずとも、僕は壁に枠線を引くことから始めた。

ここにはマーカーしかない。直線を引くのも一苦労だ。何度も線を引き直し、ひとまずフレームワークだけはできた。

あとはこれにどんなストーリーと絵を足していくかだ。まるで制作予算の限られた映画みたいだ。上映できる時間が決められてしまっているような。

必要な資料はアプリで集めた。何も描かれていない枠の中に徐々にストーリが見え始める。

ようやく絵を描き始めたのは昼を過ぎてからだった。

漫画家がヘッドホンをしているイメージがあるけど(バクマンとかそうじゃない？)作業に音楽は必要不可欠だ。

話を考えている時よりかは、むしろ描いている時。線を引いている時はどこか肉体的な作業に近い。頭でイメージして、それを線にする作業。肘や手首の角度、線を引く速度、筆圧、構図を頭に思い浮かべて手を動かす。

馴染みのある音楽はほどよく聴き流せるので作業にはぴったしだ。

誰かが作ったYouTubeのミックスには感謝せずにはいられない。Cupselや青葉市子。馴染みはないけど、七尾旅人、たまたま見つけた日本の新人バンドYkiki beat(ワイキキ・ビート)には度肝を抜かれた。ボーカルの英語の発音がくっそうまい。そして今日もアニメ「◯◯物語シリーズ」の副音声シリーズは僕を楽しませてくれた。いや、あれさ、漫談みたいで面白いんだよ。

調子も徐々に上がってきた。コーヒーが切れると、休憩がてらにセブインイレブンにコーヒーを買いに求めた。

最後の壁画漫画を完成させたのは24時を過ぎたころだった。

一枚ごとにクオリティが上がり、最後の壁は文字通りベストのものが描けた。要望通り、スターウォーズ的なスペースシップバトル。

この数日間、缶詰だったけど、自分にとっては最高の制作期間だった。

バスキングで稼げなくてもいいじゃないか。

この依頼をしてくれたバレットには感謝の一言に尽きます。

さぁてと、ギャラは一体いくらもらえるのかしらん？