「9時間のドライブ」

2月1日/オーストラリア、ヌーサ〜マッカイ

 

 

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背もたれのない幅の狭いベンチで寝るのはなかなか大変だった。

眠れたというか、意識が朦朧としたくらい。それに蚊も時折僕の顔の近くで羽音を立てていた。

ベンチから転げ落ちる夢を見た。いや、ほんとは落ちていたのかもしれない。

熟睡できないまま朝が来て、あたりを変な鳥どもがバタバタと歩きまわるようになった。

今日はヒッチハイクだ。遅くまで寝ていることもかなわない。

 

 

 

僕はさっさと寝袋をたたんでペットボトルの水で顔を洗って歯を磨くと、調べておいたバス停に向かって歩き出した。

バス停に辿りついて、すぐに行き先と時刻を確認したのだが、よくわからなかった。

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ヒッチハイクをする時、大抵は町外れまでバスで行くのだが、使うのはGoogleマップのルート案内だ。

これがアップデートされていない情報だったら僕は時間を大幅にロスすることになるだろう。まぁ、使うのは先進国がほとんどだし、今のところそういう事態には陥っていない。

だが、今回のバスが来るまでには二時間を要した

僕は一度不安になり別のバスの運転手に訪ねたのだが、運転手は親切に時刻を調べてくれた。「なに、もうすぐ来るよ」という言葉のおかげで僕は二時間を待つことができたのだ。

 

いくら観光地とは言え、ヌーサはとても小さなば町だ。

郊外へ行くバスの本数はめちゃくちゃ少ないんだろう。もしくは乗り換えをすればいくらかスムーズに町外れに出ることができたのかもしれない。

そんばわけで僕がヌーサの町外れに出たのは10時頃のことだった。今回もヒッチハイクの情報はサイトには出ていなかったので、適当にハイウェイの手間まで行ってみることにしたのだ。

 

 

 

 

 

ヒッチハイクを始める前に、近くのガソリンスタンドでコーヒーを飲み、スニッカーズを食べた。

たまたま僕が入ったガソリンスタンドはパイを売りにしているらしく、2012年で受賞したらしい(なんの賞かはわからなかったけど)。普段は朝ごはんを食べない僕だが、この時は「このパイを食べれるのはこれが最後のチャンスなのだ」と思い、ついついパイを食べてしまった。

いや、だってさ、5ドルとかもするんだぜ?上にマッシュド・ポテトが乗ったボリューム満点のやつだったけどね。これで一日分のカロリーは摂取したかなと、僕は思った。

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食事をすませると、僕はヒッチハイクを始めることにした。20分も待たないで車が止まってくれた。

運転手のジョンソンさんは、ここから数キロ離れた場所までしか行かないが、僕をもっといいヒッチハイクの場所で僕を下ろしてくれると言ってくれた。こういう申し出はありがたい!

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ジョンソンさんは配管工のような格好をしていたが、話を聞くところによると、若い頃はヒッチハイクで世界な中を旅したのだと話してくれた。中米でもヒッチハイクをやったことがあるという。当時の治安がどのようなものでーあったかはわからないが、ジョンソンさんはスペイン語を少し話せた。

わずか15分足らずのドライブだったが、ヒッチハイク出だしは好調だ。降ろしてもらった場所はヒッチハイク手前で、車はいくらかスピードに乗っていたが、車が止まるのにいいスペースがあった。僕はお礼を言ってジョンソンさんを見送った。

 

 

 

 

今回ヒッチハイクの目的地を書いているのはいつものように段ボールではない。

ギターケースにガムテープで「North」と書いたものを使っている。

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行き先がアバウトだと止まってくれないかもしれないが、ギターケースを使うことにより外観はちょっとコミカルに、そしてインパクトがでるというのが僕の狙いだった。速度を出した車を捕まえるには行き先も大きく書かれていたほうがいいだろう。

 

 

 

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案の定10分以内に次の車が止まってくれた。

僕は路肩に置いた荷物を大急ぎで体にまとい付け、小走りで車へと駆け寄った。

「せ、Thank you so much! どこまで行きますか?」

中からおっちゃんが出てきて言った。

 

 

「マッカイまでだけど、いいか?」

 

 

 

 

この時僕はおったまげて叫んでしまいそうだった。

次の目的地はAirlie beach(エアリー・ビーチ)という場所なのだが、マッカイその100km手前にある町だ。それになんとヌーサから700km以上も距離が離れていた。まさか一発でこんな長距離を走る車をゲットできるとは思わなかった。

バスを待った二時間はこの車と僕を引き合わせてくれたのだ。もし仮にバスが早く来ていたら、ヒッチハイクは成功しただろうけど、細切れに進んでいく結果になっただろう。

 

 

運転手のティムさんはアメリカ人だった。オーストラリア人の奥さんがおり、子供が5人もいるらしい。英語は訛りの強いほうで、なんて言っているのか理解するのが難しかったが、会話は思いの外弾んだ。

「ヒッチハイクは危ないだぞ?オーストラリアでちゃんと車が止まってくれているのか?」という親心のようなものを見せるティムさん。そりゃもちろんいくらかの危険は伴うのだろうけど、僕は言いたい。「貴方が止まってくれたじゃないですか」と。

 

 

そこからマッカイまでは長い道のりだった。

途中何度かスコールに遭い、お互い眠くなってくると、ガソリンスタンドでコーヒーなんて買ったりもした。ティムさんが欠伸をすると、僕は彼の首をマッサージした。前日はほとんど寝れていないのに、僕はほぼ寝落ちすることがなかった。ドライバーとヒッチハイカーのいい関係性だった。

(マッカイ手前で奥さんから電話があり、車の走行中に友達と電話していたため罰金300ドルを喰らったのだという話が出てきた時は僕はどうフォローをしたらいいか困ったけれども)

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マッカイまで辿り着くのに九時間が経過していた。

ティムさんは野宿によさそうな場所で僕を下ろしてくれた。そこはマッカイのツーリストインフォメーションセンターで、いい感じに雨よけになりそうな屋根があった。

ティムさんとハグをして別れた僕は近くにあったサブウェイで2ドルのトーストと共に時間を潰した。

 

 

 

マッカイは今までいたビーチよりも蒸し暑く、体がベトベトしてたまらなかった。

まさかオーストラリアで東南アジアのような 気候を思い出すなんてね。

 

今日は日記に書くことは少ないけれど、僕は九時間のヒッチハイクでここまでやって来たのだ。

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