3月5日/台湾、台北
一度訪れたことのある場所へ戻ってくると、どこか自分の知っている馴染みのある土地に帰ってきたような安心感を覚える。
その土地を100%知り尽くすなんてことはできっこないのだが(僕は自分の住んでいる地元だってちゃんと知っているか怪しいもんだ)その土地のおおまかな概要だとか、自分の見たことのある景色があると落ち着くものだ。きっとスーダンにまた足を運んだとしても、『あぁ、なんか見覚えあるな』と思うに違いない。
そんなこんなで僕は夜行バスに乗って台南から台北に戻ってきた。
これから出国までの2週間はみっちり台北でバスキングをしたいと思う。

そもそも、なぜ僕が台湾に23日間も滞在しようと計画を立てたのかというと、その理由は相棒の思いつきにある。
もう僕が帰国間近だということもあり、相棒は他の仲間とともに僕に会いに来てくれる「台湾Drift会議」なるものを立案したのだ。
いやぁ、友達が旅先にきてくれるほど嬉しいものはない。きっと一日中飲んで騒いで楽しく過ごすことができるにちがいない。
三月中旬の連休に来るということで僕はそれより後の日を出国日に決めたのだ。ちなみに出国の三月十八日は「大安」。縁起の良い日を出発日に決めた。
だけど、直前になって相棒のヤツは急に仕事が入って抜けられないのだと言いだした。僕みたいな無職ならともかく、仕事ならばしかたないが…、
発起人の彼が抜けてはイベント自体が設立しない。
『それじゃあ今回はナシの方個性で…』
というふうに、仲間たちが台湾に遊びに来る予定は自然消滅してしまった。
残ったのは僕の出国チケットのみ。
まぁ、たいていの物事や事象には必ず次の物事とリンクしているはずだ。
確かにみんなが台湾に来なくなたったのは少し寂しい気もするが、日本でこれから遊んでいく仲間たちだ。きっと僕が20日以上も台湾にいるのには何か理由があるにちがいないと、僕はポジティヴに考えることにした。
きっとこの二週間の台北バスキングで僕は何かを得ることができるのだろう。
バスは台北駅の近くに止まった。
僕は駅に無料WiFi「WIFLY」で現在地を特定すると、市民プールの方に向かって歩き出した。
台南で市民プールでシャワーが浴びられるのを発見したのは大きな収穫だろう。ここ台北でもきっとシャワーを利用できるはずだ。

僕が足を運んだ市民プールはなんと明け方5時45分から営業が始まる場所だった。受付の女性にシャワーが浴びられるかを尋ねると、8時からなら大丈夫よと教えてくれた。
それまで僕は近くでタバコを吹かしながら時間をつぶすことにした。
その市民プールは公園と隣接しており、周りを道路に囲まれていた。台北ではほとんど交通量が変わることがない。野良犬もよってこなさそうないい立地条件だった。今晩はここにテントを立ててもいいかもしれない。
公園では朝も早くから体操をしているお年寄りたちが集う公園でもあった。ホームレスが寝袋だかビニール袋だかにくるまって隅っこでこんこんと眠りこけていた。
僕が朝日を浴びながらぼうっと過ごしていると、隣に一人の男がやってきた。
「やあぁ」という感じで挨拶をする。僕も地元民とは仲良くしておきたいので愛想よく「グッモーニン♪」と彼に挨拶を返した。

ナイススマイル!
彼はジェフという名前だった。
きっと外国人用のニックネームのようなものなんだろう。香港人でもジャッキーとかいるしね。
彼は英語が堪能で、フィリピンに語学留学に行った経験があった。そしてダイビングのライセンスを持っており、プールには練習に来たらしい。またどこかに潜りにいくのだとか。いいね♪
ジェフはかなりフレンドリーな男で、旅にも興味を持っていた。僕が二年九ヶ月の世界一周の旅を終えようとしていることを知ると、彼は驚いていた。「僕はもう32だからさすがに世界一周は無理だけどね」なんて日本人みたいなことを言っている。せめてインドには行って欲しい。むっちゃ楽しいから(笑)
ジェフと話しているとあっという間に時間が過ぎてしまった。彼とFacebookとLINEの連絡先を交換し、僕たちは市民プールへと向かった。
聞いていた話ではシャワーの料金は50台湾ドルとのことだったが、受付の女性の勘違いで、その料金は8時までだということが分かった。
8時以降には110台湾ドル(約380円)に値上がりするのだという。おいおい。なんで二倍に跳ね上がるんだよ?それでもニュージーランドやオーストラリアよりかは断然安いけどね。
受付の彼女もまた親切な女性で、「今回は私のミスだから、今日は50ドルでシャワーを使ってもいいわよ」と申し出てくれた。僕はありがたくシャワーを使わせてもらった。

シャワーを浴びると、公園の日向で髪を乾かした。
日本に帰って知り合いにこの長髪を披露したらさっさと切ろう。うん。いいことないし、ドレッドヘアーも悪化する一方だからね。
台北の天気もようやく回復してきたように思われた。これならいいバスキングができるだろう。髪が乾ききるとバックパックを背負い、西門へと歩いて向かった。
土曜日ということもあり昼前の西門にはすでに人の姿があった。
あたりをぶらつきどこでバスキングをするのがいいか確かめると、メインストリートと思われる通りにバックパックを下ろした。

おおーー!生簀(いけす)の中に魚がわんさか。
こんな通りで漫画を描いている人間に人々はどんなリアクションを示すのだろう?
最初は軽い気持ちで漫画を描いていたのだが、30分もすると最初のオーダーが取れた。
あとはずっと描きっぱなしだった。
休む暇もなかった。いろいろな人が僕に興味を示し、うさんくさいおっちゃんが「台湾で漫画ビジネスを始めないか?」と僕に持ちかけてきたほどだった。

ほら!流行りはペアルックなんだよ!

右下の犬の絵描いたんだよね。

仲良し三人組!

実演漫画。ストーリーはほぼナシ!

そしてそれをお買い上げ!サンクス!

じぇじぇじぇ、JKだぁぁぁ!可愛いぃぃぃぃいい!

けっこうキャラ立ちしている二人。

凛々しい目つきだね。

お洒落ファミリー!
18枚の似顔絵を描き、キリのいいところでバスキングを切り上げた。今まで台湾でやってきた中で一番のレスポンスだと言ってもいい。
心地よいくらいの疲労と軽い腰の痛み、サブバッグの中には大量の100台湾ドル札。地下道でのバスキングはあんなに厳しかったのに。どうやら西門ではバスキングをしてもいいみたいだ。警察に一度も注意を受けなかった。
充実感を感じて僕はMRT(地下鉄)に揺られた。

今日の寝床は松山国際空港を選んでみることにした。
今朝方会ったジェフが「空港に行けばシャワーもあるし、何より安全だよ」と教えてくれたからだ。
僕は降りる場所を間違えて地下鉄のラインのひとつの終点駅の松山まで行ってしまい、そこからバスにでも乗ろうとしたのだが、最終バスに乗りそこなってしまった。結局は松山駅から徒歩で空港まで行かなければならなかった。
その途中で今日の上がりを数えてみることにした。100ドル札の向きを揃えるところからはじめる。これは僕なりのお札に対する礼儀みたいなものだ。
分厚い札束がちょっとばかしエグい。見てくれはホームレスなのに札束を手にしているんだものな。誰か来たらバッグに金を隠したくらいだ。
アガリは6500台湾ドル。約2万2000円。
きっとこの旅の中で最高額のアガリだろう。
それでやっと松山空港までたどり着いてシャワーでも浴びて気持ちよく今日を締めくくろうと思ったのだけれど、空港に人影はなかった。警備員らしきおっちゃんは僕を見つけると「もう閉めるから出て行きなさい」と注意をした。
あ…、あれ?
その日どうしたのかというと、僕は空港の近くにある公園でテントを張ったのだった。
今はお金を貯めたい。
僕が次に生きていかなければならない新世界のために。

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