3月8日/台湾、台北
朝の6時くらいから市民プールを内包している公園にはお年寄りがやって来てエクササイズを始める。
その頃にはもう太陽が薄っすらと顔を出しているので、当然のことながら僕のテントは彼らに見えてしまっている(はずだ)。
元気なお年寄りたちは僕のテントが最初からそこにあるかのようにいつも通りのエクセルを始める。そして僕は彼らの発する「ホッ!」とか「ハッ!」といった掛け声や、ラジカセから流れる「イーリャン、サンスー、ウーローチーバー!」というカウントを聞かされえて目がさ覚めるのだ。

ほら、奥に見えるでしょう?トトロに出てくる姉妹みたいなポーズしているかわいいお年寄りたちの姿が。
朝6時というのはまだまだ寒い時間帯だ。
市民プールは朝5時45分から営業しているが、さすがにこの時間にプールのシャワーを使おうだなんて思わない。だから僕は再び寝袋に頭をうずめるのだが、彼らの掛け声はしばらく続いたままだ。頼むから寝かせてくれよなんて言えないよなぁ…。こればかりは仕方のないことだ。

朝のシャワーを済ませて西門にあるスターバックスへと向かう。
西門にはホステルもあるし、ここで働いているのは若い子ばかり。彼らもフレンドリーだ。
対する僕も母親譲りの愛嬌の良さでニコニコしながら迷うことなくBrewed Coffeeを注文する。一番安いヤツだ笑。こっちだと75NTドル。約260円。
あれ?日本のスタバって一番安いやつでいくらだっけ?変わらないのか?
西門のスターバックスは朝8時からオープンするのだが、開店したばかりの頃に行くのがベストだ。できれば30分以内には店に入っておきたい。
僕の目当てはコンセントのあるテーブル席だ。
この店は二階、三階に客席がある。コンセントはどちらのフロアにもあるのだが、WiFiの感度がいいのはやはり二階席だ。だいたいこういう良席はすぐに埋まってしまう。それをゲットするためにはやはり早く店に行かなければならないのだ。
また、スターバックス店内でも「WIFLY」というフリーのWiFiを使うことができる。
スターバックスのWiFiというものもあるのだが、あまり使い勝手はよくない。いつもの宣伝サイトに飛ばされて、ほんの少しインターネットに接続できるだけだ。時間制限もよくわからないので、気づいたらWiFiが使えなくなっている。
スターバックスのWiFiを使いたい場合は店員さんに尋ねてみるのがいいだろう。素敵な笑顔でWiFiのパスワードの書いた紙切れを渡してくれるはずだ。
そんな感じでスターバックスでコーヒーをすすりながら時間を過ごし、15時くらいになると僕は通りに出た。
行きつけにしている「水龍王」という飲食店でご飯を食べ、僕はバスキングを始めることにした。数日ここでバスキングをやってみた感じでは16時以降になると警察のチェックもゆるくなる。
天候は曇りで、今にも雨が降り出しそうだった。
僕はアーケードのある場所で絵を描き始めることにした。
「Roots」というアパレル店はそこそこ広く、スポットライトも天井に設置してあったので、絵を描くにはうってつけのポジションだった。
ここでバスキングをして怒られないかはわからないがとりあえずやってみよう。『ここでやったら怒られるかもしれない…』という心配で行動を起こさないのであればそれはもったいないことだ。
何事もトライアンドエラー。やってみなければ分からないことだってある。
案の定、絵を描き始めるとすぐに雨がパラつき始めた。
アーケードの下でバスキングをやるのは通りよりも目立たない。
僕がいる場所は西門のMRT(台湾の地下鉄)の入り口のすぐ近くなので人通りはあるのだが、果たしてこちらに気づいてくれるかが問題だった。
開始から一時間くらいは黙々と絵を描き続きたが、新しく買った筆ペンを使って即興で落書きをするのは面白かった。
昨日買ったkuretakeの「完美王」があまりにもいい筆ペンだったので、僕は同じ筆ペンの朱色も買ってみた。200NTドル。800円くらいするが、これは先行投資というべきだろう。
筆ペンには「朱(明るいオレンジ)」という色があるが、主になんの目的でこの色が使われるのだろう?
と僕は疑問に思った。
僕は小学生の頃は習字を習っていたので、先生が「留め」や「払い」を直す時に、この「朱色」を使っていたような気がする。何かを直す(修正する)以外にこの色を使う用途は文字を書くにあたって存在するのだろうか?
だが、似顔絵においては朱色は見事に効果を発揮した。使っているスクラップブックの紙の色と絶妙な相性の良さを見せたのだ。
今まで僕は、かすれたペンも含め黒一色で似顔絵を描いてきたわけだが、どうして色を使うことをしなかったのかと感じるほどに、一色他の色が加わるだけで似顔絵のクオリティはグっと上がったのだ。
一番初めに試したのは、飼い犬の似顔絵だった。
オーダーをくれたカップルは僕のを絵を気に入ってくれたのか、それから別にふたつ(ひとつは飼い猫、もうひとつは自分たち)のオーダーをくれた。一枚200NTドル。三枚で600NTドルだ。


上の人と猫の飼い主は別。
僕はいつも似顔絵を描いているわけだけれど、どうしたら新しい新鮮味のある似顔絵が描けるのか、どうすればお客さんが喜んでくれるのかを考えている。
また、似顔絵もなるべく実物と同じ頭身で描くようにもしてみた。
僕の似顔絵は全体像を描くのだが、そこに漫画的な要素を入れることでお客さんが喜んでくれるのもわかった。
今は雨が降っているのでみんな傘を持っている。傘を銃だとか剣に置き換えるだけで、彼らはそこに漫画を感じてくれたようだ。

傘の代わりにソードでも持たせてみようか。

楽しんでくれたみたいでなにより!

こっちはお客さんが待ち時間に通話し始めたから、それをネタに。
ただ、今日の似顔絵は写真を見せてオーダーするお客さんが多かった。

写真を見せられると、僕はそれに忠実に描かなければならない。画面の大きさと紙の大きさ、サイズは異なるので、うまい具合に配置を決めないと絵のバランスが狂ってしまうのだ。それに似顔絵ほど遊びを効かせる箇所がない。また時間もかかる。
一番困ったのが、好きな映画俳優を6人描かされたことだ。
試写会か何かの写真をネットから拾ってきたのか、そのお客さんは台湾女優/俳優の集合写真を僕に見せて「この人とこの人とこの人を描いて」と僕に注文してきた。
写真からだとディテールはつか見ずらい。紙を後ろで束ねている人なんかは想像して描くほかない。
僕が絵を描いている間にじわりじわりとギャラリーが増えてくるのもプレッシャーだ。それ以前にもう次のオーダーが入っていた。
まぁ、これも嬉しい悲鳴なんだと思う。見向きもされないよりも忙しい方がありがたい。
22時を過ぎると、目の前の店の電気が消え、スタッフたちは帰っていった。
僕は街灯の真下で絵を描いていたのだが、23時にはとうとう街灯の電気も消えてしまった。
僕は「もう絵が描けないから今日はおしまいです」というと、順番が回ってこなかった二人が「なんとか絵を描いて欲しい」と僕にお願いしてきた。話に聞くところによると、彼らはマレーシアの出身でたまたま台湾に旅行に来ていたのだという。似顔絵も彼らにとっていい思い出になるのだろう。
そうなってくると、僕も似顔絵を描かずにはいられない。スマートフォンのトーチで紙をてらしてもらってなんとか似顔絵を仕上げた。

待っててくれてありがとね。
今日のアガリは4500NTドル。一万五千円。
僕の絵を欲しがってくれる人がいるってことはなんて幸せなことなんだろう。
それに台北のペイ(客単価)はなんて高いんだろう。
「タイペイのペイ」
ぷっ…。あ、ちょっ、ごめ、許して!行かないで!あぁ…。
金丸氏のコメ欄の時に、シミさんを知り、たまにではありますが、ブログを拝見しておりました。
すごくシンプルで素敵な旅をされていて、思わずコメントさせられました。心の中では、スタンディングオベーションです。
>まんさん
ありがとうございます。
僕の方はと言いますと、自分の活動に精一杯で、
他の方のブログはさっぱり読まなくなってしまいました笑。
金丸さんとは日本でお会いしたいですね。
そして僕の次なる活動のフィールドは日本です!
コメントありがとうございます!