世界一周269日目(3/24)
「あれ?
列車は?」
大学生三人組に僕は冗談っぽく尋ねた。
もはやこれはジョークだ。
デリーに向かう列車が24時間半という
ありえない遅れっぷりだったため、
彼らは日本に帰るための飛行機に乗るために、
バラナシからデリーへインド国内線で
向かわなければならなかった。
まぁ、いずれにせよ、
三人とは今日でお別れ。
日本に帰ったら沢山のお土産話を
友達に聞かせることだろう。
さあ、僕は今日も漫画を描くぞ!
朝ご飯を食べて、
向かった先はシバ・ゲストハウスの
最上階にあるカフェ。
もう他のカフェだったら
追い出されてしまうことは目に見えているので、
それなら長い時間漫画を描けるここの方がいい。
朝10時にスプライトを
注文してテーブルについた。
今日からいよいよペン入れだ。
ペン入れ、
特にメインの線を描くのは
ちょっと習字に似ていると思う。
ほら、覚えてないかな?
「とめ」とか「はね」とか
教わったんじゃないかな?
Gペンは筆圧によって線の太さが変わる。
削れ具合によっても、湿度の変化によっても
線の太さは変わってくるし、
インクが新しいか、古いかも影響する。
なんならGペンひとつひとつが
新品でも微妙に描きごこちが違うと時だってある。
旅をしながら漫画を描くということは、
その状況に一番適したペン先なりインクなりを
選んで描いていかなくてはならない。
もちろんこの話はアナログで
漫画を描くことについてだ。
パソコンとペンタブを使う人には
全く関係ない話。
えっ?話がつまんないって?
何が言いたいかっていうと。
ぜんっぜん
漫画が描けないんだよぉぉおおお!!!!!
細い線を描こうとすると
すぐにインクがかすみやがる!
自分のイメージした線が描けない。
一番はえんぴつみたいに
ペンで線を弾けるのがベスト。
そうなんだけど、
インドは乾燥している上に、
自分の頭の上で
ファンがうぉんうぉん回っている。
他のお客さんなら店内を
涼しくしてくれる便利な
3枚のプロペラなんだろうけど、
僕にとっては底意地の悪さすら感じてしまうのだ。
きっとこれは、
ここのレストランに長くいる
僕に対するスタッフたちの
無言のメッセージなのかもしれない。
「お前。どっか別の場所で漫画描けよ」
どこから入ってくるのか、
蚊だかハエだかわからない小さな虫が
原稿用紙の上に何匹も乗ってきて、
気づいたら原稿用紙の間で
すりつぶされている。
虫たちはまるで
この世に呪いでも残していくように、
緑色の体液を原稿用紙にしみ込ませた。
僕はヤツらが不慮の事故で死んでしまう前に
丁寧にブラシで彼らを原稿用紙の上から払い落として、
乾燥するカフェのテーブルで漫画を描いた。
ここのレストランには
全くと言っていいほどお客さんが来ない。
朝の時間帯にやって来るお客さん以外には、
僕の見たところ17時までの間で
2~3組しかここにやってこない。
だからスタッフも
めちゃくちゃヒマなのだ。
何かしている時間より、
何もしていない時間の方が多い。
一人のコックと
二人の出稼ぎに来た子供たち。
仕事はしていないのに、
彼らのケータイは頻繁に鳴る。
音楽もかけている。
お客さんがいようといなかろうと、
気が向いた時に床の掃除をやるくらいだ。
あとは3人でふざけあったり、
昼寝をしたりしている。
僕が漫画を描いているところにやって来ては、
じぃ~っと、見学しにくるのだ。
漫画を描いてる現場が珍しいのは分かる。
僕も最初のうちは作業を中断して、
彼らの見学につきあった。
仮にもテーブルを使わせてもらっている身だ。
インク便をひっくり返してまわないように
ふたを閉めて、彼らの行動を見守る。
下手に触らせたくない。
落としたらペン先が折れたり、
変な形に変形してしまう場合もある。
そして、彼らの職場見学は僕をイライラさせた。
頼むから描いている時に
テーブルを揺らさないでくれないかな?
僕はそんなことをジェスチャーで伝えるんだけど、
彼らは気にかけてくれる素振りすら見せてくれない。
『ここは南の島か何かか?』と
思ってしまうくらい、彼らの一日は
ヒマそのものと言っていい。
時々やってくるお客さんのオーダーを聞いて、
料理を各2~3品作ればいいだけだ。
3時間ごとに床の掃除をすれば、
だいたいの仕事は終わり。
たぶん他にも仕事が
あるんだろうけど(食材の仕込みとか)、
僕は彼らがヒマそうにしている、
もしくは気だるそうに
仕事をしている姿以外見ていない。
串焼き屋さんでバイト時代を過ごした僕は、
時給に換算したらこの人たちの労働が
どんなものなのか考えずにはいられない。
聞いた話によると
物の値段においてインドルピーを10倍すると、
現地の人の金銭感覚に近づけるらしい。
10ルピーのものだったら100(円)。
僕のいつも食べているParle-Gmは
インドの人の金銭感覚からしてみたら
日本で言う100円分の価値に近いということだ。
ここにご飯を食べに来るのは
基本ツーリストなので、
ローカルの露店に比べればメニューの値段は高い。
一日にそんなに働かなくても
必要な分のお金はすぐに稼げるとか
そういうことなのだろうか?
細い線がうまく描けないまま
この日の漫画製作は終わった。
屋上に上がり、
夕日を見ながらギターを弾いた。
周りの建物の屋上からは
凧がいくつも打ち上げられている。
iPhoneを横置きにして映すと、
逆光でシルエットのように撮れた。
何かのロード・ムービーのように。
僕はiPhoneの位置をしきりに調整し、
Caravanの「Feed Back」を3回くらい唄った。
西へ日が沈んでいく
このシチュエーションにピッタリな曲。
僕の後ろの方で何かが跳ねた。
猿だ。
ここではまるで
木から木へ移動しながら暮らすように、
建物を行き来する猿たちがいる。
あれ、アイツなんか持ってる?
チューナーじゃねえかぁぁああ!!!
猿は僕の手の届かない隣りの建物の屋上で、
チューナーをいじりはじめた。
ギターの音程を合わせるのに必要なチューナー。
初めてアコースティックギターを
買った時についてきたKORGのチューナー。
「おいッ!返せ!」
と大声で言っても、猿の耳に念仏。
いや、きっと聞こえてるんだろうけど、
こっちの手が届かないことをあの猿は知っている!
「えー?これ?何ですか?」
何回も持ちかえながら、
ガシガシとかじってやがる。
僕はただ何もできずに
手をこまねいているしかなかった…。
別にチューナーなんてなくたって、
アプリとかを使えば音は合わせられる。
ショックで財布のひもが緩んだ。
こういう時は別の欲求を満たすことで
気持ちがいくらか晴れる。
安いご飯や大好きなクッキーを買い、
「ソナのなんでも屋」で50ルピー(85yen)の
日本製のヘアゴムを買った。
まだ前髪を耳にかけるのがやっとだが、
ようやく髪が束ねられる長さになったのだ。
ヘアゴムを手に入れると
いくらか気持ちが落ち着いた。
いつもソナの何でも屋にいるメガネをかけた、
バラナシ大学に通うお姉さんは
「そんなんラッキーだよ。
iPhoneを猿に解体された
人もいるんだから!」
と明るく言って退けた。
そ、そうだよな。
これがもしカメラや眼鏡だったら
もっと大変なことになってたもんな。
猿にはご用心。
アイツらが人間の
祖先だなんて僕は認めない!
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マジ、もんきっきに殺意が湧きます。
きっと返り討ちでしょうけど…
あぁ〜〜〜…
なんでアイツらは進化しなかったんだろう?
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