世界一周359日目(6/22)
辺りは明るい。
時刻は4時半。
キャンプ場の隣りにあるバルーン・ツアーの
オフィスからは朝も早くから
従業員がツアーの準備をしていた。
意外にブルーシートの保温性があることが分かった。
もう少し寝よう。
二度寝から目を覚ますと、
ひとつ、またひとつと
向こうの岩山から気球が飛び上がって行くのが見えた。
もう少しここにいよう。
ブルーシートを体に巻き直し、
気球が飛び立って行くのをじっと眺めていた。
ここはトルコ、観光地として有名な
カッパドキア、ギョレメの町。
そこにあるキャンプ場の隣りにある
岩山のひとつが僕の寝床だった。
だって、キャンプするのに
お金とられるなんてあんまりですよ!
てかカッパドキア寒い!寒いぞ!
こんなところで
キャンプやってるヤツは変態だ!
おれかっっっ!!!
あ~、さすがにカッパドキアで
野宿二日連続はできないわ。
ここには見所があちこちにある。
フル装備のままその全てをまわることはできないだろう。
7時からやっているカフェで早めの朝食をとる。
トーストサンドみたいなのが7リラ(333yen)。
観光地というだけあってそこそこの値段だった。
カフェの店員さんに、一応ツアーの料金も尋ねておいた。
ツアーに参加して、ツアー会社に
バックパックを預かって、
見所をびゃびゃっとまわるのも一つの手かもしれない。
カッパドキアにはエリアによってツアーが別れている。
「グリーン・ツアー」とか「レッド・ツアー」とか
そういう名前で3区分くらいされているのだ。
そのお値段120リラ(5,711yen)。
若干のディスカウントはしてくれるようだが、
ツアーに50ドル以上も払うなんて…。
去年の情報ではツアーの料金は
60リラから80リラだった。この一年で値上がりしたようだ。
ツアー内容ははメジャーな観光地をざっと回るものだけど、
僕はその全部を見たいとは思わなかった。
自分の見たいものだけ。
ミニマムでいいのだ。
だけど、そんなツアーはないという。
やめやめ。
お金を浮かすためにも自分で
バスを乗るなりしてまわることにしよう。
その前に
宿を見つけるのが先決だ。
カフェのWi-Fiで他の人のブログから情報収集をする。
分かったことは今、僕がいるギョレメの町に
ドミトリーに安く泊まれるホステルがあるらしい。
10リラ(476yen)だなんて破格の値段じゃないか!!!
しっかりと住所まで調べ、
僕は重いバックパックを背負って歩きだした。
だが、あるはずの場所に目当ての宿がない。
おかしいな。確かにDora Motelって言う名前で
ここにあるはずなんだけど。
新しい名前の下に
うっすらと前の名前をはずした跡があった。
場所は間違っていないはずだ。
もしかしたら宿の名前が変わったのかもしれない。
ホテルに入り、授業員にドミトリーはあるかと尋ねる。
ここにもドミトリーはあったのだが、
値段は25リラ(1,190yen)。
朝食つきみたいなんだけど…。
うーむ。やっぱり10リラだよなぁ。
話によるとドーラ・モーテルは移動したと言うのだ。
異動先を教えてもらっただが、やっぱり見つからない。
ギョレメの人たちはあっちだと言ったり、こっちだと言ったり、
一体どこにドーラモーテルがあると言うのだ!
僕はギョレメの町を行ったり来たりした。
日本人旅行者の間で安宿として親しまれた
ドーラ・モーテルはいっちょまえに
「Dora cave hotel」という名前になっていた。
「以前は向こうにあったドーラ・モーテルですよね?」と尋ねると、
スタッフは「そうだ」と言う。
ドミトリーはあったのだが、値段は上がっていた。
25リラだ。どうやらギョレメの宿は軒並み値上がりしたようだ。
一応ドミトリーを見せてもらったのだが、薄暗く、
気持ちが沈んでしまう様なものだった。
スタッフの対応ももへっとしていて、好感が持てなかった。
これが人気のあったドーラ・モーテルの成れの果てか…。
ここに泊まる必要は無いな。
どうしようさっきの場所に戻ろうかな?
ふらふらと歩いていると、
昨日仲良くなったお土産屋さんのスタッフとお店の前であった。
「グッモーニン」
「ようおはよう。
昨日キャンプしたんだろ?どうだった?」
「やー、寒くて全然寝れなかったよ。
宿に泊まろうと思うんだけど、
安いどこも値上がりしてるね。
どこか安いとこ知らない?」
「ドミトリーでいいのか?」
「もちろん」
スタッフさんはどこかに電話をかけている。
「そうそう。昨日ギョレメ
で野宿をかますアホな日本人がいてさー。あははは」
みたいな会話をしているに違いない。
「よかったら、
おれの友達のやっているホテルに行ってみなよ。
9ユーロだよ。
楽器の弾けるヤツがいるからすぐに仲良くなれるさ」
まぁ、これも何かの縁かもしれないな。
マップアプリでちゃんと場所まで確認して
僕は教えてもらった宿へと向かった。
HAPPYDOCIA(ハッピドキア)
というご機嫌な名前がその宿の名前だった。
のっぽなスタッフたちがヒマそうにしている。
「え~っと、さっき電話きたと思うんだけど。
ドミっていくら」
「9ユーロ。25リラだよ」
「オーケー。
じゃあ2泊くらいいいかな?」
もうここでケチってもしかたない。
カッパドキアを楽しむためには宿が必要だ。
案内されたドミトリーには他の宿泊客はいなかった。
ということは僕の貸し切り!
しかもさっきの宿なんかよりもずっと綺麗だ。
荷物を置いてスタッフに訊いてみた。
「もしかして、
今日の分の朝食とか食べれたりする?」
「それはどうだろうかぁ〜???」
わざとらしくしぶるスタッフ。
「ふふ。ついて来な」
と宿の三階はテラスになっており、
5台くらいのテーブルが置いてある。
「ここに座りな」と椅子に座らせられ、
出て来た朝食はー…
最高です。
え???何??!!ツンデレなの?
この一見ぶっきらぼうに見えてこのおもてなし!
テーブルには豪華な朝食が並んだ。
それをスタッフたちと一緒になって食べる。
「いや~!キャンプのあとだから
めちゃくちゃうめぇ~~~!」
「だろう?ハッピーか?」
「ハッピーっす!」
「ふっふっふ♪これがハッピドキアなのさ!」
「ほらほら!どんどん喰いな!」
スタッフと話していると分かったのは、
ハッピドキアはオープンしてまだ一ヶ月も経っていない
新しいホテルだということだった。
どうりでベッドがあんなに綺麗なわけだ。
それに僕が初めての日本人のお客らしい。
おいおい。なんなんだよこれ?
きっかけは昨日のお土産屋さんだ。
そこで弾き語りして、スタッフと仲良くなって、
今日、目当ての宿が見つからなくて、
お土産屋のスタッフの友達が経営している宿に僕は今いる。
なんだこの繋がり???
ツイているとしか
言いようがないっ!
ご飯を食べて後は僕もギターを披露した。
即興で3つのコードから成るアホみたいな曲を唄う。
頭の中にある英語の歌詞をテキトーに当てていき、
できあがったのはハッピドキアのテーマソング笑。
「そんな難しく考えないでさ、
仕事なんて辞めちゃいなよ。
ここに来れば最高だぜ?
ハッピド~~キア~~♪
ご機嫌な場所だぜ~!」
とかそんな歌。
陽気なスタッフたち。
リーダーでミュージシャンのユノス。
中東でテロリストやってそうなキャップのエリカン。
自称映像監督でヒッピーみたいなお団子ヘアのフィケット。
そしてそこにいる旅する漫画家。日本人の僕だ。
漫画みたいなキャラクターたち。
なぁ、音楽って素晴らしくないかい?
音楽が僕たちを引き合わせてくれたんだぜ?
★
エリカンは
日本語学校の教師をしていた韓国人の彼女がいたらしく、
簡単な日本語は知っていた。
「前はもっと喋れたんだけどな。
もうすっかり忘れちゃったよ。
なあに、話していれば思い出すさ」
と言って「トモダチ!」と僕に
フレンドリーに接してくれる。
(会話の内容のほとんどは下ネタだけどね笑)
そんな彼は点在する観光名所に
ギョレメから徒歩でどれくらいかかるかを教えてくれた。
まぁ2、3日滞在するとして、そうだな。
まずはウチサルとやらに行ってみようじゃないか!
朝食もたっぷり食べたので運動がてら歩いた。
バックパックのない移動がこんなに楽だなんて。
途中にあるパノラマビューの見れる場所へ行ったりして
のんびりとウチサルを目指す。
ウチサルってのは岩のお城みたいな場所だった。
ギョレメの町からでもその姿を見ることが出来る。
徐々に近づいて来るウチサルの城はまるで
ファンラジーかゲームの世界みたいだった。
城の前まで行くと僕は眠くなっていた。
キャンプすると睡眠時間が短くなって、
その分活動時間が増える。眠くなるのも無理ないか。
入り口脇のベンチで昼寝をした。
目を覚ますと、6リラの入場料を支払って中へ入った。
ここへは観光しに来たんだ。お金を出す所では出そう。
ウチサルは高台から臨む景色は綺麗だったが、
それっきりだった。別にお城の隠し部屋が見れるとか
素晴らしい壁画が描かれているとか
そんなのはなかった。ちょっとがっかりだ。
これが5リラ…
他の町なら1リラちょっとで買えるよ…。がっかりだ。
時刻は14時。
まだ一カ所行けるかもな…。
マップアプリで行けそうな場所を探しす。
少し離れているがデリンクユと言う
地下都市がある場所に行けそうだ。
そう決めると、僕は道路まで歩いていき親指を立てた。
道路はそこまで広くない。
車が止まるスペースもそこまでない。
こりゃダメかなと思ったが、
フレンドリーに一台の車が止まってくれた。
ほんとうにツーリストに寛容な国だよ。
「ネブシェヒルまで行きます」
「ああ」
とお兄さんたちに乗せてもらい、
ネヴシェヒルの中心地へ入っていく前に
降ろしてもらった。
そこからデリンクユへの続く道まで歩き、親指を立てた。
だが、今度も簡単には止まらない。
むう…。やっぱ観光地ではキツかったかなぁ…。
だが、そこでも止まってくれるのがトルコなのだ。
しかもツーリストバス。
おい!なんなんだよ!
なんでそんなに優しいんだよぉぉおおお!!!!
デリンクユ行きのバス。5リラ(238yen)。
こんなにもスムーズに移動ができるなんて。
デリンクユについた僕は地下都市へと入っていく。
入場料は15リラから20リラ(952yen)へと
値上がりしていた。この一年で何があったんだろう?
ちょうど韓国のツアーとかぶっており、
なかなか先に進むことが出来なかった。
まぁ、急ぐわけでもないけど、
韓国語の説明だから何言ってるのかわからないんだよね。
持て余した時間でここぞとばかりにセルフタイマーを切る。
ツアーが進むに従って内部はどんどん複雑になっていった。
2つ先の部屋まで行ったら
ツアー客の姿が見えなくなってしまう。
たよりは声のする方角だけ。
ビビリの僕は真っ暗闇に一人でつっこむ勇気がなかったので、
ツアーから一旦離れては合流するのを繰り返した。
地下都市内は他のツアー客の姿もあった。
ここはツアーに参加しなくても
ついていけちゃう場所だったな。ラッキー♪ラッキー♪
地下都市を楽しんだ僕はそのままバスに乗って
ギョレメまで戻ることにした。
バスの中ではすぐに眠ってしまった。
「ほら、ここで降りなよ」
と添乗員お兄さんに起こされた。
ん?もうギョレメっすか?!
荷物を持って降りると、そこはギョレメではなく、
隣町のネブシェヒル。
どうやらここでバスを乗り換えなくちゃいけないらしい。
バスの時刻を確認して、僕はこの街で
バスキングをやってみることにした。
そこで見つけた一人のバスカー。
しゃがれた声で英語の歌詞の歌を唄っている。
自分と同じことやってるヤツを見ると
嬉しくなってついつい声をかけてしまう。
お互い一曲づつ披露すると僕たちは
すっかり仲良くなってしまった。
「なあ!よかったら
おれたちのうちに遊びに来ないか?
コーヒーごちそうするぞぜ?」
「帰りバスもあるから40分くらいなら」
まわりにいたルームメイトといっしょシェアルームへと向かった。
トルコ人のバスアカーの名前は
ルーズベルトと言った。まぁニックネームだろう。
僕も「シミ」って名乗ってるし。
かなりのアメリカ好きで、部屋には
アメリカのシンガーたちのポスターが貼ってあり、
アメリカの星条旗が壁にかかっていた。
てかスリッパが
シンプソンズって…。
「おれは絶対シンガーになってやるんだ!
いつかはこんな場所抜け出してやるのさ!」
「なぁ!なんでおれは一体
こんなクソったれな場所にいるんだ!!??
ああ!ここはおれの居場所じゃない!
いつかはアメリカに行くんだ!」
ルーズベルトは流暢な英語で自分の夢を語った。
ツアーの仕事に従事してないで
留学もしていないルーズベルト。
よっぽどアメリカン・カルチャーに惚れ込んで
英語を練習したのだろう。
その熱意が彼の話っぷりから伝わって来た。
「でも、アメリカに入国するのは
なかなか大変だぜ…」
どこか自分の夢が叶わないと
諦めているように彼は言った。
お互い25歳ということもあり、
「夢」というものに向き合う気持ちみたいなのも
痛いほど理解できた。
「ほら、この曲知ってるか?マジで最高なんだぜ?」
とコピーされた何十枚もの英語の歌詞と
コードの書かれた楽譜の中から、
ルーズベルトが選曲して唄ってくれる。
さっきは屋外で歌を聴いていたけど、
室内で聴く彼の歌声は僕の心を揺さぶった。
その唄い方から彼の想いを感じることができた。
「あぁ!ったくなんでおれは
ここにいるんだよ~!
アメリカに行きてぇ!」
「なぁ、ルーズベルト、バスキングって知ってるか?
さっきみたいに路上で唄ったり
ストリート・パフォーマンスをしてお金を稼ぐことなんだ。
君に勇気があればアメリカまでとはいかないまでも
旅をすることは可能かもしれない。
旅人の中にはね、バスキングをしてお金を稼いで
外に寝泊まりしながら旅を続けるヤツらもいるんだぜ?
まずはイスタンブールからでもいい。
挑戦してみたら何か得られるんじゃないか?」
きょとんとした様子のルーズベルト。
僕もバスキングの存在なんてブログから知った。
彼はきっと、ただ黙々と英語とギターの練習を
続けて来たんだろうな。
「それにね。インターネットさえ使えれば
「カウチ・サーフィン」っていうホームステイの
サービスもあるんだ。
お金がなかったらそれを使ってみるのも手だろう」
今僕は無責任なことを言っている。
だけど、現実だけ見てても何もできないのも分かってる。
「勇気はあるか?」
と伊坂幸太郎は「モダンタイムス」の冒頭に書いた。
ここでは新しい何かに挑戦する勇気を問いたい。
失敗することを恐れていては何もできない。
家に忘れたならとってくればいい。
僕はルーズベルトにエールの意味を込めて名刺を描いた。
ギターを背負った彼がニューヨークの町に立つ絵を。
ファッキンアメイジングだぜ!と渡した名刺を
大事そうにしまうルーズベルト。
「どれがいい?」
彼の手にはピックが並べられている。
「ん~、じゃあこれ」
「おれのこと絶対忘れないでくれよ。このピックを使った時、シミは絶対おれのことを思い出すはずさ」
「ああ。忘れるわけなんてないさ」
40分と言ったはずが2時間近く経っていた。
バス停で彼らと別れる。
頑張れよルーズベルト。アメリカに行けよ。
ただ、アメリカに行かなくても、お前の未来は輝けるはずさ。
アツくなる胸。バス停でギョレメ行きのバスを待った。
近くにいたおねえさんが教えてくれる。
「ギョレメ行きのバスなら
もう終わったわよ」
と。
えええぇぇぇぇぇ~~~~~….
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結局ヒッチハイクを駆使してギョレメに戻ったシミでした。
てか長え!自分で日記書いてても長ぇ!
トルコで一日のボリュームが増えました。好きです。トルコ。
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俺もシミに無責任な事をたくさん言って、シミの世界一周の後押しをしたからなぁ。良いじゃない?それで。俺は良いと思う。
>まお
あれ?そうだっけ?
全然そんなの覚えてないや笑。
まぁ世界一周はおれの夢だったからね。
親にも言わないで温めてた企みだったから。
似た様な夢を抱えて、動けないヤツには
動いて欲しいんだよ。
とりあえず「何か」してみなよって。