世界一周462日目(10/3)
「やばっ!
足濡れてんじゃん!!!」
がばっと上体を起こして、
濡れた足下がどうなっているのかを確認した。
テントのフライが風でズレて、
今も降り続いている雨が
中に浸透してきてしまったようだ。
テントの中はほとんど濡れてはいなかいが、
寝袋がしっとりしている。
朝からテンション下がるなぁ。
今日は晴れて欲しかったんだけど…。
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「しとぉ〜〜〜ん…」
このナメクジみたいなテントが僕のマイホーム!
畳むときよく裏側にお友達がついているので、
優しい気持ちで「こらこら」と
デコピンで吹き飛ばします。
ここはアイルランド、エニスという町。
そして今日の目的地は
”Cliffs of Moher(モハーの断崖)”
という場所だ。
昨日調べ物をしていたら、
たまたま発見したモハーの写真。
しかもここからそう遠くない。
サブウェイで少し雨宿りをしたあと、
小雨の中、僕はラウンドバウトまで歩いた。
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アイルランドの人たちは
ヒッチハイカーに優しいけど、
こんな雨で車が止まってくれるのだろうか?
バックパックとサブバッグには
レインカバーが装着されている。
ギターはケースのみ。
土砂降りだったら対応できないだろう。
パタゴニアのアウターを着て、フードをかぶった。
髪を後ろで束ねているので、フードは
頭をすっぽりと覆うことができない。
しゃあ!
今日も気張って行こうぜ!
向こうから速度を落として
やって来る車にニコニコしながら親指を立てた。
時度、小躍りも混ぜる。
こんな中で悲壮感満載の
やる気のないバックパッカーになっちゃダメだ。
もっと楽しそうに!
ヒッチハイクを楽しむくらいの気持ちでなきゃ!
「ブロォォォ…、」
「途中の町までだったらいいわよ?」
「ありがとうございます!
よろしくお願いします!」
わずか10分足らずで止まってくれる。
ほんとうにここには優しい人たちがいる(涙)
ドライバーのアンさんも
バックパッカーの経験があり、
ヒッチハイクでヨーロッパ中を
旅したことがあると言っていた。
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アイルランドでヒッチハイクをしていると、
こういう「元バックパッカー」の
ドライバーさんに乗せててもらうことが多い。
僕も日本に帰ったら、
この輪を途切れさせないようにしたい。
車持てたらだけど笑。
「ここはほんとうに静かでいいところよ。
ただ、若い人たちがダブリンや
オーストリアやイギリスへ
行ってしまうことが問題ね」
そうアンさんは言っていた。
この国も若者の減少の問題を抱えている。
たぶん、若いうちは
自然の豊かさっていうのが
分からないんだと思う。
僕がもし、もっと若いうちにここを旅していたら、
『アイルランドって何もないな』と
感想を抱いたかもしれない。
だけど、今の僕の目には
アイルランドの自然はとても魅力的に見えた。
なだらかな草原、羊や牛の群れ、シンプルな家。
僕がここに住むとしたら、
あとはどうやって毎日を楽しく過ごすかだ。
それは日本に帰ってから、還元できるだろう。
今はいろんなことを吸収したい。
アンさんの住む、
Ennistimon(エニスティモン)の町に
到着するころには、雨はほとんど止んでいた。
小さなビーチのある町はサーフィンができるらしい。
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お礼を行って、アンさんとお別れしたあと、
僕は少しこの町を歩いてみることにした。
町の防波堤の上には
小さなサーフショップとオリジナル・Tシャツを
販売するお店が向かいあって建っていた。
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周辺にもエスニック系の服屋さんなんかもある。
ここに住む子たちは
サーフィンをするのだろうか?
もしかしたら、ここのTシャツショップで
服を買うのかもしれない。
でも、H&Mみたいなファスト・ファッションの
お店の流れていくのかなぁ?
あいにくの天気で町には人の姿を
ほとんど見かけることができなかった。
僕は売店でディスカウントされた
60セントのパンを4つ買った。
歩きながら食べたが、全然美味しくなかった。
まさに売れ残りだ。
モハーの断崖は観光地として開かれており、
ここから一本道でアクセスすることができる。
アンさんはすぐここからヒッチハイクして
次ぎの車をつかまえればいいわと教えてくれたが、
肝心の車がほとんど通っていなかった。
僕はヒッチハイクの見込みがないまま、
一本道を歩き出した。
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海沿いの草原はゴルフ場になっており、
雨の上がったタイミングで何組かの
ゴルファーたちが練習している姿を診ることができた。
なんで、ゴルフやる人って
あんなに真剣なんだろう?
こんな風の強い天気なのにさ。
後ろから来る車に何度か親指を立ててみたが、
レスポンスはまったく無かった。
モハーの断崖まで4km近くある。
まぁ、一時間あれば着くだろう。
海沿いに建てられた家々は
人が住んでいるのだろうか?と
心配になるほど人気がなかった。
海沿いをカーブするようにして道は続いている。
砂漠のような砂地で犬を放して
遊んでいる人の姿が見えた。
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一軒の家を通過すると
背中を丸めたおばちゃんと目があった。
こんなところで、前にもバックを装着して、
ギターを持っている変なヤツが
目の前を歩いていたら、どう思うだろうか?
訊かれてもいないのに
「モハーの崖に行くんだよ!」と大声で叫んだ。
おばちゃんはニッコリした。
「何?モハーに行くの?」
「あ、そうです」
「ちょっと、待ってなさい。
車で連れていってあげるわ♪」
家に停められたMINIの車のトランクに
バックパックとギターとサブバッグを置いた。
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「ちょっとあなた、
そこに座ってなさいね。
これから友達にパイを渡しに行くところなの。
スペースがないから持っていてね」
そう言っておばちゃんは僕の膝の上に
鍋掴みのグローブを置いて、その上にパイを置いた。
シラーさんの運転するMINIは
快調に海沿いを走り出す。
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「友達の名前ですか?
GAS GREENって?」
パイにはそのように文字が刻まれている。
切れ間から黒いジャムみたいなのが見えた。
「そうなのよ。
彼はとってもいい人でね、
私の仕事を引き受けてくれたりするの。
だから、私もお返しに、ね♪」
こういうささやかな日常のひとコマを
見させてもらっただけで、
僕はシラーさんにぐっと親近感が湧いた。
お返しにパイってー…♪
来るまで3分もかからない少し離れたところに
ガスさんの家はあった。
パイを持ってシラーさんはガスさんを尋ねたが、
外にいたガスさんは作業中で手が離せないようだった。
あぁ、こういう時って
直接本人の驚く顔が見たいよね。ちょっと残念だ。
シラーさんはガスさんのワゴン車の運転席にパイを置いた。
車を再び走らすと、
作業中のガスさんが大声でお礼を言っていた。
車の中ではジャズがかかっていた。
スムースジャズとでもいうのだろうか?
ボーカルは入っていないけど、
なんだかゆったりできる曲調。
シラーさんの二人の息子さんは
ジャズ音楽をやるらしい。
「そろそろ大きなストームが来るのよ」
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去年のストームはかなり大きかったらしく
一部の壁は崩されていた。
だから、今、雨が振っていないことは
とてもありがたいことだと思う。
「それじゃあ楽しんでね♪」
車を降ろしてもらうとき、
シラーさんは僕の頬にキスをした。
よくヒューマンドラマの映画で見る、
親しい者への挨拶。
たった15分くらいのヒッチハイク。
だけど、こういうヒッチハイクで
僕はとても優しい気持ちになれる。
そうだよ。
そうだよな。
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「今、目の前にいる人を
愛さなくてどうするんだよ?」
インドでお会いしたヒデさんの言葉が
今も僕の胸の中に残っている。
ヒデさんはそう言って旅の途中に
電子機器を含むほとんどの荷物を日本に送り返した。
目の前にいる人たちと過ごす時間を大切にするために。
僕にはそこまではできそうにないけど、
いい言葉だなと思う。
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モハーの断崖は、
そこにリアルに広がっている
光景なのか分からくなるほど、壮大だった。
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![IMG_6629](http://yosukeshimizu.com/wp-content/plugins/lazy-load/images/1x1.trans.gif)
雨上がりで、
海からの冷たく吹き付ける風を感じる。
波が少し断崖に当たる音が聞こえた。
バックパックを背負ったままでいる僕の姿を見て、
中国人っぽい女のコが何か話しかけて来た。
英語がペラペラで
「荷物ならクロークに預けられるわよ?」と
言っていることくらいしか分からなかった。
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「ん~、荷物は預けなくていいかな?
もう、ここには戻って来ないから」
適当な表現が思いつかなくて、
「I will never come here」
って言っちゃったけど、
どこか寂しい表現だな。
もう二度と戻って来ないか…。
世界にはそんな場所ばかりだ。
バックパックを背負ったまま崖沿いを歩いた。
こんな天気だってのに、
観光地のここでアコーディオン弾きの
おっちゃんがバスキングをしていた。
そんなシチュエーションもあって、
メロディーは物悲しく聞こえた。
しばらく歩くと、柵がなくなった。
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轍が続いており、その上を注意して歩いた。
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落ちたら間違いなく死ねる。
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こういう所から落ちて死ぬのって
たぶん一瞬のことなんだと思う。
テレビの電源が切れるみたいに。
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![IMG_6640](http://yosukeshimizu.com/wp-content/plugins/lazy-load/images/1x1.trans.gif)
ひょえぇぇぇ〜〜〜〜…
ただ、この崖沿いを歩いて行けば
どんな光景が見られるのだろうかと、
期待を抱いてしまう。
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「Cliffs can kill」
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と書かれた看板もあった。
不思議と頭は冷静なままだ。
アドレナリンも湧かない。
一歩一歩集中して、崖沿いを歩いて行った。
気づいたら観光客は僕一人だけになっていた。
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![IMG_6648](http://yosukeshimizu.com/wp-content/plugins/lazy-load/images/1x1.trans.gif)
『もうそろそろ戻らないとマズイな…』
それほど遠くもない距離に
バスが通過するのを見た。
あそこに道路があるみたいだ。
崖沿いを離れて、
雨水をたっぷり吸い込んだ地面に
足を濡らしてなんとか車道まで
出ることができた。
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![IMG_6652](http://yosukeshimizu.com/wp-content/plugins/lazy-load/images/1x1.trans.gif)
一応、今日の予定では
隣り町で一泊する予定だ。
だけど、9kmくらいある。
道は一本道。バス停すらない。
5分に一台くらい車が通るくらい。
それなのに、道沿いには「B&B」と
書かれた宿があった。
こんな場所に観光客は来るのだろうか?
そんな光景を横目に歩いていると
後ろから来た車が僕を通り過ぎた。
そのまま速度を落として、停止すると、
ゆっくりとバックで戻って来た。
ふふっ♪ありがとうございます。
みんなの優しさに思わず顔がニヤけてしまう。
車を運転していたのはイギリス人だった。
![IMG_6653](http://yosukeshimizu.com/wp-content/plugins/lazy-load/images/1x1.trans.gif)
ドライバーのマーロゥと、
アイルランドに住む妹のロンダ。
しかも行き先がGalway(ゴールウェイ)という
町のすぐ近く。
今日中にそこまで行けるとは思ってなかった!
車の中ではクイーンズ・イングリッシュが
全然聞き取れなかった。
助手席に座ったロンダが時々、
何か話しかけて来て、ケタケタ笑っているけど、
ペラペラってか
『それ英語なの?』って感じ。
途中、ウトウトしながら
ゴールウェイへ続く道へと切り替わる
ラウンドバウトで車を降ろしてもらった。
「これ、残りの旅も楽しんでね♪」
そう言って渡されたのは
20ユーロだった。
一度は断ったが、
丁寧に折りたたんで財布の中にいれておりた。
ありがとうございます。
やっぱさ、愛を信じたいよ。
![IMG_6654](http://yosukeshimizu.com/wp-content/plugins/lazy-load/images/1x1.trans.gif)
さーってとー、あと16kmか…
向こうからやって来る車を横目で見送った。
目が合ったので
とびっきりのスマイルを送っておいた。
車が止まった。
マジか。
車の中には教養のありそうな
綺麗な白髪のお母さんと
その息子さんが乗っていた。
![IMG_6655](http://yosukeshimizu.com/wp-content/plugins/lazy-load/images/1x1.trans.gif)
「あなたは運がいいわね♪」
というお母さん。
何やら4人の子持ちのようで、
隣りに座っている息子さんは
4ヶ月の中国の留学経験があるのだとか。
しかも少林寺っていう笑。
「それって、
すっごいレアですよね」
「そうだね。
そしてとても価値のある経験だね!」
ここにはいない別の息子さんは
8ヶ月もインドを旅しており、
今もインドにいるとかいないとか。
もう、なんなんだ!
旅人に対する理解がハンパないぞ!
ゴールウェイの中心地から
少し離れたところで僕は降ろしてもらった。
二人を乗せた車はスマートに
その場から去って行った。
降ろされた場所は
“DEANS STORES”という
マルエツのお上品みたいなスーパー?だった。
食品も安く買えるんだけど、
服も売ってるっていう。そんなお店だ。
僕はトイレに行くと温水でタオルを濡らした後、
個室に入ってそれで体を拭った。
もう3ヶ月もこんな生活してるんだよな。
でも、それも終わりかな?
![IMG_6656](http://yosukeshimizu.com/wp-content/plugins/lazy-load/images/1x1.trans.gif)
ブレてるけど、子供に犬みたいなリードがついているんだよ。
さっぱりした後、
そのままゴールウェイの中心地を目指した。
バスキングできそうな歩行者専用の
ストリートがあったが、
既に地元のバスカーが
アンプとマイクの弾き語りをしていた。
音の届かないところで僕もギターを弾いた。
もう時間も遅いというのにパラパラとレスポンスが入る。
僕はそのいただいたコインでー、
マクドナルドで2ユーロのコーヒー片手に作業して、
通りに出ると、
辺りは若者たちで
にぎやかになっていた。
![IMG_6661](http://yosukeshimizu.com/wp-content/plugins/lazy-load/images/1x1.trans.gif)
夜になってぐっと気温が下がったってのに、
女のコの何人かは見てるこっちが
寒くなるような格好をしていた。
ライブをしているバーが何軒もある。
ここはライブバーの町なのかもしれない。
![IMG_6662](http://yosukeshimizu.com/wp-content/plugins/lazy-load/images/1x1.trans.gif)
どこもお店は人でにぎわっている。
バックパックを背負って
入れそうなお店を見つけると、
そこでゆっくりギネスビールを飲んだ。
じわっと体にアルコールが染み込んで行く。
![IMG_6669](http://yosukeshimizu.com/wp-content/plugins/lazy-load/images/1x1.trans.gif)
今日の寝床は遊具の上。
久しぶりのテントなしだ。
アルコールで体が火照る。
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★世界一周ブログランキングに参戦しております。
ほとんどすれ違いに近い、旅での出会いの連続。
だからこそその一つ一つを
大切にしなくちゃいけないんだなって、改めて思いました。
いつも僕なんかを車に乗せてくれるドライバーのみなさん、
ほんとうにありがとうございます。
もらってばかっかです。
おれもいつかは誰かにまわします。
ピース♪
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