世界一周645日目(4/5)
夜中に
何度も目が覚める。
足の指先がコチコチだ。
ドイツでかったペラペラの銀マットの上に、
エティハド航空からもらってきた薄手のブランケットを敷き、
寝袋(15℃まで対応の夏用)、そしてペルーで相棒が買ってきたブランケット、
その上にサバイバルシートかけているの
にもかかわらずだ。
服装も可能な限り着込んでいる。それでも体は冷えた。
テントの内部の空気がひんやりと凍り付いているのは分かる。
テントの外はもっと寒いだろう。
それに加えて下からも冷えが来るのだ。
冷えのダブルパンチ。
僕は地面との接触面を減らそうと横向きになって眠ろうとしたのだが、
どっちみち寒いことには変わりない。
寒さに目を覚ましてからは一睡もすることができなかった。
何度も何度も寝返りを打ってやり過ごした。
辺りが明るくなり、太陽がテントをほんのりと照らした。
時折近くを犬の散歩をする人が通るのが分かる。
どうやら犬たちは放し飼いにされているらしく、
テントの近くまできて吠えてくる。
飼い主のマダムたちは(声で分かるのだ)それぞれの飼い犬の名前を叫ぶ。
「そんな汚いものに近寄っちゃダメ!」とでも言うように。
ここでいつまも寝ていたかったが、
僕は意を決してテントの入り口を開けた。
辺りには雪が積もっており、空一面には薄い雲がかかっていた。
テントの中で余っていた食糧を食べた。
ヒマワリの種が非常食に思えた。
そのままノロノロと
寝袋やブランケットやたたんで、ブーツを外に出した。
ブーツに足をつっこむと、感覚がなかった。こりゃやべえんじゃねえか?
感覚の麻痺した手でテントをたたみ、そのまま公園を出た。
辺りは閑静な住宅地となっていた。
ヒッチハイクのポイントを間違えた僕は地下鉄でKenedy駅まで向かい、
乗り換えてMacCrow駅まで向かった。
ヒッチハイクポイントに到着すると、
「Montreal」と書いたボードを取り出し
早速ヒッチハイクを開始した。
ただ、その場所は交通量が少なかった。
時間も10時過ぎでこれで車が捕まるのか不安になった。
トロントの郊外はかなり寂しい。しまいには粉雪まで降り出す始末だ。
そういう時には誰もいないことをいいことに大声で唄って
すさみそうになる気持を吹き飛ばしたりする。
ありがたい
ことに一時間ほどして車が止まってくれた。
「うちの親父もな。
ヒッチハイカーを見つけるとホイホイ乗せていったもんだぜ」
というトムの行き先はここから10kmほどのとなり町だったが、
少しでも前に進みたい僕にとってはありがたかった。
すこしぶっきらぼうなトムが
「おい、お前腹減ってないか?」と僕に訊く、
日本人の僕は「いや、大丈夫」と言ってしまう。
「コーヒーが飲みたいかな?」とも言う。
ふてぶてしいのだ。僕は。
車を降ろしてもらう直前に、
トムは僕にコーヒーを買ってくれた。
「Thank you so much! have a nice day!」
とお礼を言って車を見送った。
「写真撮っていい?」って訊くと意外にノリノリ♪
寒風に吹かれながら飲むホット・コーヒーが
手と心をじんわりと温めてくれる。
これはいいヒッチハイクができそうだぞ♪
トムが降ろしてくれたのは、
「ramp(ランプ)」
と呼ばれるハイウェイと一般道が交わる坂道のような場所だった。
スケートボードの「ランプ」とこの英単語が結びついて、
言葉の意味がなんとなく馴染んだ。
二台目の車は僕がコーヒーを飲み終わる前に停まってくれた。
アイヴァさんはPickeringという町に住んでいるようだった。
サービスステーションの方が車が捕まるわよ!
と提案を受けて僕はそこで降ろしてもらうことにした。
クマのプーさんがプリントされたピンク色のフリースを着るアイヴァさん。
天候の話をしたり、自己紹介を兼ねた自分の旅の話をしたりした。
アイヴァさんはお母さんがガンにかかり、
息子さんと一緒に世話をしているらしい。
大変ですよね。とちょっぴりアイヴァさんの生活を知ることになった。
サービスエリアで降ろしてもらった僕は、
もうどこか安心できていた。これなら心配ない。
もしここで車が捕まらなかったとしても
サービスエリアで寝ればいいだろう。
ここまで来れば前向きになれちゃうから不思議だ。
サービスエリアの出口で僕は再びヒッチハイクを始めた。
スロベニアからクロアチアへ行く際に、
ボードありのヒッチハイクに切り替えてから、
僕のスタイルは一貫して笑顔だ。
それに腕を名一杯上げることも忘れない。
元気のあるバックパッカー。
相手にプラスの印象を与えるように心がける。
三台目の車のドライバーは遠くから僕を呼んでくれた。
荷物をまとめて駆け寄り、
「モントリオール方面まで行きますか?」と訊ねる。
この車は首都のオタワまで行くらしい。
お礼を言って荷物をトランクに入れると僕は助手席に乗り込んだ。
BMWに乗る56歳のダグは日本人の奥さんがいたらしい。
今は彼女とは離婚して、別のガールフレンドがいるとか、
息子さんが上海に住んでるとか、なんだかエネルギーに満ちたヤツだった。
趣味は自転車とギターでブルースを弾くこと。
仕事は政府から依頼された中国語の書類を翻訳することだった。
当然のことながら中国語も喋れた。すげえ!
若い頃は僕と同じように旅をしていたらしい。
オーストラリアで日本に輸出するための鉄を発掘する仕事にも
短期で就いていたのだとか。
それってまさに僕に言わせてもらえば漫画の中の話だった。
僕はこういう、他の人が持つ様々な映画のようなストーリーを
漫画にできないかと考えている。
きっと僕の漫画の中にダグが出てくるだろう。
どういうわけだか、波長みたいなのが合うと、会話も弾む。
もちろん向こうが分かりやすく話してくれているというのもあるのだろうが、
早い英語でも理解できる内容が増えてくる。
車の中では寝落ちすることなくずっと喋りっぱなしだった。
「ほら、見てごらん、あれがライム・ストーンだよ。
ここには大昔海があったってことが分かるんだ」
「へぇ~、カナダって言ったら
やっぱり僕は自然だと思うんですけど、
グリズリーベアーはやっぱり出るんですか?」
「グリズリーなんてアラスカの方だけさ。
こっちにも熊はでるけど、それは町には現れないよ」
「はははぁ。なんだ。そうですよね。
まぁ今の季節は、まだ冬眠しているのかな?
それにしてこっち来てみて驚きですよ!
だって日本だったら桜の季節ですからね!」
「桜ね~!あれはビューティフルだよ!」
「ちなみにこっちの冬って
マイナス20℃まで行くんですよね?
どう過ごしているんですか?」
「目だけだして服を着込みまくるよ!
でも自転車漕いで体を動かしていうと温まるんだ」
「すげぇ..!」
「やばい…警察だ」
「え?僕たちですか?」
「130km出してたからな。くそ..!」
後ろにパトカーが見えた。
ダグは車の速度を落として
近くにあった小さなパーキングエリアに入る。
だがどういうことだろう。
警察が止めたのは一台後ろの車だった。
きっと後ろの車もスピードを出していたに違いない。
警察は同時に何人も捕まえることはできない。
後ろの車が僕たちの身代わりになってくれたのだろう。
「ふふっ!やった!おれたちじゃなかった!ラッキーだ!」
一気にテンションが上がるダグと僕。
「ラッキーですって!
なんてったって僕がラッキーですから!
ラッキーは別のラックを引き寄せます。
ってこれ僕の考えですけど」
そんなご機嫌なドライブだった。
僕の目的地はモントリオールだったが、時間も夕方ということもあり
今日はオタワの町で一泊することにした。
オタワの街はずれにあるガソリンスタンドで僕は降ろしてもらった。
「写真いいですか?」なんて訊くとポーズをキメてくれるダグ。
彼はほんとうに映画にでも出てきそうだと思った。
今日もいいヒッチハイクができた。感謝の気持を忘れずにいよう。
なんとなく両手を合わせてどこかで僕のことを見ているであろう
ヒッチハイクの神様に拝んだ。
かっこいいおっちゃんだった。
オタワ
の街も静まり返っていた。
これがカナダの首都だなんて思えなかった。
今日が日曜日だということもあったかもしれない。
ほとんど人のいない通りにあるスーパーでスニッカーズを一本買い、
通りの端まで歩いてSUBWAYに入った。
コーヒーが売り切れいたので、ティーだけ注文し、
コンセントから充電をしながら作業をした。
1時間もしないで見せのスタッフが僕に訊いてきた。
「なぁ、おたく、いつまでいるわけ?」
「え?ここ何時まで営業してるんでしたっけ?」
「今から掃除するんだが」
「あーーーー…、
はい。分かりましたよ。出てきますって」
もちろんここが23時まで営業していることを知った上で
僕はサブウェイを選んだわけなのだが、席数が少ないために、
僕は追い出されてしまった。
哀しき都市型キャンパーの定めだ。
結局行き着く先はマクドナルドだった。
というか最初からここに来ればよかったのだが、
初めての街なので、勝手は分からない。
店内には寒さから逃れてきたであろう人たちがいた。
マクドナルドを食事以外の目的で使っているヤツらは
なんとなく同じ匂いをしている。
充電はできなかったが、Wi-Fiは問題なく使えた。
深夜1時をまわると僕はマクドナルドを後にし、
チェックしておいた公園にフラフラと入っていった。
公園の一部ではまだ雪が残っていた。
★Twitter”Indianlion45″
リアルタムどすぅ♪
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