世界一周653日目(4/13)
トロント
に戻ることした。

ハイウェイの脇にツーリストインフォメーションがある。
そこがヒッチハイクポイイントらしい。

15分も経たないでさっそく一台目の車が止まってくれた。
車種は分からないけど、アメリカ的な大型で燃費が悪そうで、
ちょっとレトロな感じのデザインの車だった。
ポールさんはバスの運転手ということだった。
ポールさんの家の隣りには日本人が住んでいるらしく、
わかりやすい英語で喋ってくれた。
「〇〇さんは、
もう何年もこっちに住んでいるんだがな、
私の言っていることなんてこれっぽっちも聞き取れてないんだよ。
君の方がよっぽど英語が喋れるね」
という一言は、僕を嬉しくさせてくれた。
ポールさんには、10kmほど先のハイウェイ前で降ろしてもらった。

ざっす!
こういう風にちょっとづつ目的地に向かって
進んで行くんも嫌いじゃない。
その分で会いもあるし、
『ここどこだ?』っていう心細くも
冒険心をくすぐる感覚がたまらないからだ。
「Toronto」と書いたボードを掲げると
5分後には車が止まってくれた。
ジョシュアさんは大柄の女性で、
どちらかと言えばサバサバした人だった。
特にヒッチハイカーとの会話を楽しむのではなく、
道端で親指を立てている人間を見つけたら機嫌が良ければ乗せるのわよ、
と言った感じ。
いつものように自分はどのようなものですといった自己紹介も
彼女の耳にはあまり届いていないように見える。
運転主席側の窓を少し開けて、タバコを吸っているの見ると、
僕もタバコが吸いたくなった。
もちろん僕の心のうちは届かなかった。
「ここでヒッチハイクしている人をよく見かけるわよ」
そうジョシュアさんオススメのヒッチハイクポイントで降ろしてもらった。

あっと言う間にハミルトンだ。
これで千円の交通費は浮かせたことになる。
どこかのギャンブラーが言った
「ロスを防ぐことは稼いだことと同義だ」
という言葉を思い出した。
なかなかにいい感じだ。
これならあと一台でトロントまで行けるだろう。
三台目の車はトロントの隣町であるミシサガへ行く車だった。
「おれもヒッチハイクしたことが分かるからさ、
気持がわかるんだよな」

と言うカーンさんの車のカーステレオからは
ヘヴィ・メタルがかすかに流れている。
若い時(と言っても僕より3つか4つくらいしか変わらなさそうだが)は
バンドを組んでいたらしい。担当はベースだったとか。
ミシサガまで来てしまったらトロントまで
ヒッチハイクする必要はないように思えた。
「GOトレインなら安いぜ?」
と言うカーンさんの提案を受け入れて、
僕は最寄りの駅で降ろしてもらうことになった。
カーンさんは僕に負けないくらいの方向音痴で、
スマートフォンのアプリを使って駅まで行こうとしたのだが、
GPSの位置情報を表す矢印に翻弄されて同じ場所をうろついた。
僕はガソリンスタンドで降ろしてもらうことにした。
お礼を言ってカーンさんとは別れた。
駅まで地味に距離があった。
そしてミシサガからトロントまでは10.5ドルもかかった。
たかだか隣町なのに…。
駅構内にはほとんど人がおらず、
僕はお菓子の自販機で薄っぺらいハーシーの
チョコレートを朝食代わりに食べて、電車を待った。
利用者の少ないように思える駅だったが、
いっちょまえにWi-Fiは飛んでいた。
GOトレインは二階建ての綺麗な電車だった。
中にはトイレまであった。

そう言えば駅には改札もなかったし、駅員もいなかったことに
僕はきがついた。
『無賃乗車し放題なんじゃないか?』
と一瞬そんなズルい考えが頭をよぎったが、
僕がそれをすることは二度とないだろう。
ベルリンで痛い目を見ているからだ。
僕は嫌な思いを味会わないと、悪いことが止められない愚かな男なのだ。
大体、こういう時って無賃乗車する時はバレるだけど、
チケット買った時は誰も切符のチェックに来ないんだよなぁ、
と思っていると案の定誰もやってこなかった。
ミシサガからトロントまでは地味に一時間がかかった。

はっ!似た者同士!
Union
ステーションはなかなかに大きな駅だった。
昼前の時間帯。人々が忙しそうに早足で歩いている。
バスキングができそうな地下道を見つけたが、
すぐにセキュリティがやって来て罰金でも喰らわされそうな
綺麗な場所だったので、僕はそのまま地上に出た。

昼食代わりにトッピングし放題のホットドッグを食べた。
これで野菜摂取してます。

何の気なしにオフィス街を通り抜けて向かった先はパタゴニア。
僕はよっぽどこの店が好きなんだと思う。
もう上半身は全てパタゴニアだもんな。

でも今はお洒落をするよりも、
機能的でしっかりした作りのものが欲しいし、
アウトドア製品を扱うブランドは沢山あるけど、
それならパタゴニアなのだ。
感覚としては行きつけのバーにちょくちょく通うって感じだろう。
バイトしてた串焼き屋さんでも「常連さん」というのは存在した。
週一で来てくれるような有り難いお客さんだ。
それはサラリーマンだったり、同伴のキャバクラのお姉さんだったり、
社長や店長の知り合いだったり。
お店の方針は常連さんを特別扱いしないというものだったが、
それでも、馴染みの人がお店に遊びに来てくれるのは嬉しくもあった。
そんなパタゴニア常連の僕が買ったのはまたもや下着だった。
というのもついに二枚目のパンツにも穴が空いてしまったのだ。
H&Mのオーガニックコットンのオパンツ。
考えてみればかれこれ7ヶ月も黒色三枚でローテーションしてきた。
丈夫なものを買おう。
これなら旅が終るまで僕につき合ってくれると思ったからだ。
実はここのお店の人たちはかなり気前のいい人たちで、
40%の割引券を前回来た時に僕にくれたのだ。
それを今回も使おうと、ポケットを探したのだが、
どこにも見つからない。どうやらなくしてしまったようだ。
それをお店の人に言うと、またしても僕は割引券をくれた。
「ふふふ。気をつけなよ。
ここのお店は君にお金をつかわせるぜ」
とスタッフさんが言う。まさにその通りだと思う。
だけどいいのさ。沢山は物を持ってないから。
クレジットカードで2300円をスマートに支払い、
僕は満足してお店を出た。

寄付できる場所に僕の代わりに
持って行ってくれるとのことだったので
リックさんから頂いたジャケットはパタゴニアに置いて来ました。
ありがとうリックさん!でもジャケットでか過ぎだわ。
そのあと僕は
画材を見に近くの大学の購買に足を運んだり、
町をウロウロしたが、最終的には
マクドナルドで時間をつぶすことにした。

モロッコで会った別のブータン人がから連絡が入っており、
今日会う約束をしたのだ。
Wi-Fiを使って彼と連絡を取った。
今は仕事中とのことなので20時過ぎに
僕に会いにここまで来てくれるらしい。
マクドナルドはチャイナタウンの近くにあった。
中国人のおばちゃんがテーブル席で
ぺちゃくちゃと中国語でお喋りをしている。
欧米人が井戸端会議をしているところはあまり見かけたことはない。
これはアジア人特有の習慣のかなぁと思った。
コンセントのある場所を確保で、Wi-Fiは少し弱め。
まぁ、このくらいの方がかえって集中できたりする。
途中絵を描いたり、新しく買った旅ノートを広げたりして
時間をやり過ごした。
気がつくと外には雨が降っていた。
傘をさした人やフードを被った人が足早に横断歩道を渡るのが見えた。
路面電車は交差点で曲がるとケーブルから火花が散るのが見えた。
今日は野宿は厳しいかもしれない。

19時を過ぎたタイミングで
二階のフロアは掃除のため施錠されることになった。
一階席ならいてもいいとのことだったが、
一階の席は狭くせいぜい5台ほどの小さなテーブルしかない。
路上生活者、もしくは定職に就かずに
プラプラしているといった類いの人たちが一階席では談笑していた。
言うまでもなきく僕も彼らの仲間なので、
そういった匂いはすぐに察知することができるのだ。
彼らの一人はぴょいっと外に出て、
車のフロントガラスを磨くことによって小銭を得ていた。
あれって大変だよなぁと僕はそんな彼を横目にノートに絵を描いた。
隣りに座っている女の人が
「うわぁ!エクセレントね!」と褒めてくれた♪

20時半頃にそのブータン人は友達を連れてやって来た。

少し話して分かった。
彼は僕に寝床を用意してくれない
ということ
が。
いや、これはあれだな。
女のコとやり取りしてて『この娘、おれに気があるのでは!!??』と期待を膨らませておいて、告白して撃沈っていう。あぁ、思い出したくもないめちゃくちゃダサい高校生のメモリアル…。あーーーーー、ぜってえ過去には戻らねぇってばよ!
甘い考えだってのは分かってた。
まぁ、そんな楽して寝床をゲットしようとしてもダメですよね。
彼は旅に関する質問をいくつかして満足すると
「それじゃあキャンプ頑張って!」と帰って行った。
僕はどうしていいのか分からなくなってしまった。
何倍もコーヒーを飲み、セットで25セントになるマフィンを食べた。
食生活がかなり乱れているのが分かる。
だけど、野菜は高いし、調理道具も持ち合わせていない。
あぁ、一体どうすりゃいいんだ?野菜喰いたい。
夜がふけてくると、Wi-Fiの速度はぐんと早くなった。
僕はそろそろ本腰をいれて
アメリカの情報収集をしなければならなかった。
入国審査ではけっこう突っ込まれることが予想される。
ちゃんと予定を立てなくちゃ行けない。
情報収集もグズグズと進まないまま僕はついに
YouTubeを見始めた。
面白いチャレンジをしていた23歳の男の子の動画だった。
どうやら彼はユーチューバーのようだ。
「アメリカ横断生活」
というタイトルの動画は彼が所持金ゼロで
西海岸からニューヨークまでをカメラマンと一緒に旅する内容だ。
『本当に0円で旅してるのか?』と思わせるゆるさや、
行き当たりばったりの企画、グダグダしたコスプレのバスキングは
「水曜どうでしょう」を思い出させた。
それでも「行動している」と言う意味では
僕は彼を評価していた。自伝も出しているらしい。
いや、おれなんかよりもよっぽど先に行っているな。
おれも頑張らないと。
僕の隣りには大柄の黒人の兄さんがいた。
白いジャケットに白いパンツ。
どちらも汚れているが、なんだかファッションが
他のヤツとは異なるオリジナリティを持ったヤツだった。

ボールペンで一生懸命コピー用紙に何かを描いている。
未来のバスキアか??!!
僕の似顔絵を描いてくれた。

うん…。なんて言ったらいいんだろう?
よく描けているよね?
ギターケースに貼ったガムテープの
「EA(S)T」の辺りとか、さ。
そうして夜が明けた。
ビルの合間から差し込む朝日がまぶしかった。
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