世界一周676日目(5/6)
僕には相棒がいる。
時々他の人からは「彼女?」とか訊かれるけど、ヤツは男で、中学の時の同級生だ。
言ってくけど、僕はゲイじゃない(笑)。
相棒は僕の人生を狂わせてしまった。
とてもいい意味で。
大学二年の秋、地元の新百合ケ丘で再会しなかったら、僕の人生はもっと違ったものになっていたかもしれない。
漫画家になんてなろと思わなかったろうし、
こうして世界一周の旅に出ることもなかっただろう。
人のことが好きで、長所を見つけるのが得意。誰かを巻き込んでいく。
それで時々、自分に対してレスポンスが返ってこなくて傷つく時がある。
自分の理想をどうすれば実現できるのか、悶々としている。
カッコいいけど、人間的な弱さも持つ。それが相棒のまおだ。
それで本日、5月6日は、相棒の誕生日だ。
365日ごとにおれたちは歳をとる。
それは単なるカウントにしか過ぎない。
「こうなるべき」というフレームの中で人生を捕らえてしまっては何もできない。だからおれは10年単位で生きることにした。よくわからねーけど。
時々相棒は言う。
「あー、もうアラサーだよ!」
え?アラサー?
おれの思うカッコいい大人たちって36歳なんだよね。
そしてみんな揃いも揃ってアウトサイダーでクリエイティヴでアーティスティックだ。
相棒だったらそんな大人になれるね。おれは確信を持ってそう言えるよ。
まおはいつだってカッコいいから!
君の持つセンスや物事の考え方はいつだっておれにないものばかりだった。その調子でアンテナをどんどん伸ばして、ガンガン行動して欲しいと思う。
あと少ししたら、おれは日本に帰るよ。
やりたいことが山ほどある。
さてとーー…、
何から手をつけていこうか?
誕生日おめでとう。
一日一日を全力で楽しんでくれ。

早朝に
目が覚めたのだが、「ポツポツ」とテントを打つ雨の音が聞こえた。
だから僕はまた眠りに就いた。
9時前に起きると、僕はテントをたたみ、
ヒッチハイクポイントまで向かった。
昨日7km歩いたせいで左足首には痛みが残っていた。

これから山の中へと入っていこうと思う。
ハイウェイは山を迂回するように伸びている。
ヒッチハイクがうまくいくかも分からない。
“Arches National Park”
という自然公園に僕は行ってみたかった。

patagoniaのスタッフのカールが僕に勧めてくれた場所でもあり、
そこはヒッチハイクを禁止しているユタ州でもあった。
ただ、ネットの情報によると、
ユタ州には「モルモン教徒」と呼ばれるクリスチャンの人々が
多く暮らしているらしく、
ヒッチハイカーには寛容だということだった。
また、一カ所に留まって親指を立てるヒッチハイクはイリーガルだが、
歩きながらするヒッチハイクなら
ギリギリセーフのようなことも書かれていた。
とりあえずやってみよう。
時には打ち拉がれるのもいいかもしれない。
ハイウェイへ続く道の直前にあるガソリンスタンドで
お決まりのコーヒーとチョコチップ・クッキーを買って食べた。
ガソリンスタンドの(売店の)店員は
「クッキーを二枚買うとお得よ!」とセールスをかましてきたので、
まんまと乗せられて二枚で3ドルを払ったのだが、
単価で買っても50セントくらいしか得をしていないことに気がついた。
大判のクッキーだけあって、
二枚を食べ切ると少し胸焼けのようなものを覚えた。
ガソリンスタンドの外にあるベンチに座って、
カードボードに行き先を書いていると、
フレンドリーな男が「どうしたんだい?」と声をかけてきてくれたが、
僕の行き先がアーチーズ国立公園だと分かると
「ごめん、おれはそっちには行かないんだ?」
と申し訳なさそうに言った。
「ところで、君、バーいる?」
「”bar”ってなんですか?」
「マリファナだよ」
「あ~、大丈夫っす。あざっす」
ここはまだ、
マリファナの吸引が容認されているコロラド州だ。
ハイウェイの入り口まで歩いていて行き、そこで親指を立てた。
時刻は11時を過ぎていた。
15分ほど試して、
そこが微妙なポジションであることが分かると、
僕はハイウェイの中に少し入ってヒッチハイクをすることにした。
まさに西部のハイウェイとも呼べる道路は、
そこまでガチガチに道路専用にしたものではなく、
入ろうと思えば歩行者も入れるような道路だった。
一般道から少しだけ中に入り、
そこでボードを掲げて警察に見つからないか
若干ドキドキしながらヒッチハイクをしていると
すぐに車が止まってくれた。
やはりコロラド州はヒッチハイクがしやすい州だ♪

運転手のデイヴさんは
「ユタ州まで行くけどいいか?」と僕に訊いた。
まさか一発でユタ州に入れるとは思っていなかった。

Crescend Junction
という分岐点まで僕は車を降ろしてもらった。
ジャンクションには小さなガソリンスタンドがあり、
僕はそこでデイヴさんからサンドイッチを買ってもらった。
バックパックに入れて持ち運べる食糧は貴重だ。
バックパックのサイドポケットに入れておいた。
ここのオーナーがモルモン教徒かは分からないが、
コーヒーが無料で飲める場所だった。

ひとまず先に出発するイヴさんの車を見送り、
ふと気がついたのはサンドイッチがバックパックのポケットから
落ちてしまったということだった。
再び店内に戻りウロウロしていると、
お店のおばちゃんが
「サンドイッチでしょ?また別の持って行っていいよ?」
と声をかけてくた。
なぜだか分からないけど、
ユタ州の人たちはみなおばちゃんのように
優しいのではないかと思ってしまった。
お礼を言って新しいサンドイッチを受け取り、
今度はちゃんとバックパックの中に入れた。
外に出ると、そこには警察がいた。
僕の格好はあからさまな貧乏旅行者で、
間の悪いことにその時は手に
ヒッチハイク用の段ボールを持っていた。
行き先が見えないように隠し、
「ただの旅行者ですが何か?」と言った風なポーカーフェイスを装う。
「How’s it going(調子はどうだい?)」
お腹の出たサングラスをかけた男性警察は僕にそう言った。
僕はなんだか肩すかしを食らったような気分だった。
その警察はパトカーに乗り、そのままどこかへ行ってしまった。
ここはヒッチハイク禁止の州じゃなかっただろうか?

ユタ州での
最初のヒッチハイクは歩きながら親指を立てた。

『ここから国立公園に行くのに
どれくらいかかるのだろうか?』
そう考えているとトラックがスピードを落として
前方に止まった。マジですか。
ダッシュで駆け寄り、自分のために止まってくれたことを確認する。
「さっさと乗りな」と無骨に言われ、
僕はお礼を言ってトラックの助手席に上がり込んだ。
運転手のスティーヴさんが止まってくれたのは、
僕がギターを持っているからのようだった。

話していると彼も若い頃にギターを持って
アメリカを旅したと言っていた。
きっとヒッチハイクや野宿の経験もあるのだろう。
そして次に言ったのが「ヒッチハイクで死ぬぞ」ということだった。
「ま、まぁそうですよね。
分かっちゃいるんですけど…」
こういう時になんて言えばいいのかよく分からない。
別に何もないと確信しているわけじゃないし、
まぁ、お金だって全然持ち歩いてないし、
もう3年以上使っているMacBookProとiPhoneくらいしか
電子機器で売れそうなものはない。
まぁ、個人使用目的なら襲う価値はあるかもしれない。
だが、ヒッチハイクなぞしなくても襲われる時は襲われるし、
アメリカをあちこち移動するにはヒッチハイクが一番勝手がいいのだ。
事前に計画を立ててグレイハウンドのバスチケットを購入する旅は
僕にはできない。
スティーヴは地味に日本について詳しかった。
日本の文化だとか戦後史だとか。
かつて日本人のガールフレンドがいた、
ようなことを話していたかもしれない。
トラックに乗っている間に雨が降り出した。
ここは天気の変わりやすい場所なのかもしれない。

平地から褐色の岩肌がむき出しになった谷間のような場所で
僕はトラックを降ろしてもらった。
アーチーズ国立公園はもう目の前だ。

最初に
僕がしなければいけなかったことは、
入園料を支払うことだった。
ほとんどの来場者が車で来るのに対して、
僕はフル装備。
※バックパック(15kg)、サブバッグ(7kg)、ギターを装備すること。
車のゲート脇で7日間有効の5ドルのチケットを購入し、
僕はインフォメーションセンターに立ち寄った。
「アーチーズ国立公園」は誰か他の日本人旅行者のブログで
見たことがあったかもしれない。
だが、ここに来て思ったのは国立公園はかなり広く、
アーチも一つだけではなく、複数あるということだった。
マップアプリを広げて
自分の見たい”Delicate Arch”までの距離を確認すると
なんと19kmもある。
19km??!!!
ビジターズ・センターの外に出ると、
僕はブーツからKEENのサンダルに履き替えた。
こんな山道をブーツで歩くのは無理だ!
それならかかと留めがあり、アウトドア用に作られた
機動性の高いサンダルの方がいい!
トラックを降りた時に、降っていた雨はやんでいた。
僕は冒険の予感を感じた。

19km…。しかもバックパックを背負って…。
決心してアスファルトの山道の第一歩を踏み出した。
ほんの数歩で車が止まる。
え?おれ親指立ててないんすけど…??
「ハロー?助けが必要かい?よかったら乗せて行ってあげるよ?」
「マジ泣きそうっす…!!!」
BMWに乗るマットとキティのカップルは
これからサイクリングとロッククライミングを楽しみに来たようだ。

僕がデリケート・アーチまで行きたいのだと言うと、
トレイルの直前まで僕を乗せて行ってくれることになった。
まさか国立公園内でヒッチハイクができるだなんて!
車の中から周りの景色を眺めるだけでも僕は存分に楽しむことができた。
二人はユタ州在住なので
「あれが〇〇ロック」だよという風に僕に説明してくれる。
彼らはひと月に三回以上はこの国立公園を訪れるそうだ。
この公園はアウトドア・アクティヴィティも楽しめるようだ。
マットはキャンプの許可証を持っていた。
まぁ、ここで野宿するのはさすがに怒られるよね。
よかった。車が捕まって…。


すげぇ…。
車を降りるとき、二人から12ドルが差し出された。
「いやいや、車まで乗せてもらって、
そんなことまでしてもらう必要ないですって!」
僕はそう言ったが、
キティは「旅を楽しんでね♪」と素敵に言って
スマートに立ち去って行った。
一体なんなんだ?この旅人によくしてくれる風習は??!!
ニューヨーク以降全然お金減ってないぞ?
僕はまるでガソリンスタンドの店員のように
頭を下げてBMWを見送った。
車が見えなくなるまで大きく手を振っていた。
たまたまそこを通りかかった女の人が
「どうしたの?」と声をかけてきた。
こんな派手な見送りしてたらそりゃ気になるだろう。
「もしかして、あなた日本人かしら?」
「あ、そうっす」
「私、ハワイで日本人と一緒にエステの仕事してたのよ。
ドウモハジメマシテ、ワタシハダニエルデス~♪」
「うまいっす!」
ダニエルは夫のマイクと二歳の息子のウォレスと共に
ソルト・レイクシティーからここにキャンプに来ていた。


「見てみて〜〜♪こんなとこに小汚いホームレスがいるよぉ〜♪」
一緒にデリケートアーチを観に行くことになり、
もしよければ一緒にキャンプしない?とまで誘ってくれたのだ。
ここはパワースポットだ。
あまり僕はスピリチュアルなことは信じないけどね。
僕は車にバックパックとギターを置かせてもらい、
三人と一緒にデリケートアーチを観に行くことになった。
駐車場から車でデリケートアーチがある場所までは行くことはできない。
ここから簡単なトレッキングをしなければならないのだ。
だから荷物が置かせてもえるのは非常にありがたかった。
道中はダニエルとお喋りをしながら歩いた。
マイクは子供用を背負うハーネスを身につけており、
最初は黙々と先頭を歩いていた。

二人は現在大学でシステム・エンジニアリングの勉強を
しているということだった。
年齢は僕より上だが、一度仕事を辞め、
大学で専門知識を身につけることを決めた根性はすごいなぁと思う。
どちらも仕事はしておらず、奨学金をもらっているらしい。
周りの景色はもちろん素晴らしかったのだが、
僕は彼らと一緒に今ここを歩いていることが楽しかった。
はぁはぁ山道に汗をかきながら喋りかけてくれるダニエル。
ほっぺたつねりたいくらいに可愛い息子のウォレス。
父親らしさを感じさせるマイク。
もしここに一人で来ていたら周りの景色は全然違って見えただろう。
僕は一人で旅をしているけど、一人という気はしない。
いつも知らない誰かとの出会いがあり、別れがある。
僕はこの旅の中で何回自己紹介しただろう。
そしてどれほどの人たちが自分のことを語ってくれただろう?
もちろん、デリケートアーチまでの道のりを
一人で歩くのも後で振り返ってみれば
楽しい経験になったかもしれないけどね。
物は考え様ですが、出会ってくれた人にありがとう。


デリケートアーチ
は、自然にできたようには見えなかった。

そこには何か特別な力や意思が宿されているように思えた。
三人は写真をパシャパシャと撮り、
ここまで来たをことに満足してしまったのか、
滞在時間そのものはかなり短かったが、
僕としてもこの場所にこれてよかったと思う。
再び駐車場までを歩いて戻った。
途中ウォレスがおもらしをしてしまい、
おしっこがオムツの間から漏れ、ジーンズを濡らしてた。
デニスは慌てていたが、マイクはおしっこの臭いなんて気にせずに
ウォレスを抱き上げた。
「ちょっと臭くてごめんね。ホームレスの臭い?」
「いや、ちっちゃい子供の臭いだね」
車に乗り、ウォレスの下着とズボンを履き替えると、
車は一度国立公園を抜け、モエブの町へと降りて行った。

モエブ
の町は国立公園を楽しむ人たちの宿泊地として機能しており、
ホテルやモーテル、キャンプサイトがいくつも見られた。

僕たちはデニーズに入り、
僕はそこでサラダをごちそうしてもらった。
当初の予定ではこのまま家族と一緒にキャンプするのもよかったのだが、
どっちにしろ僕は明日ここを出発する予定だった。
そうであればモエブの町で野宿してしまった方が
明日のヒッチハイクはいくらか楽になる。
僕はそう伝えて、家族とはこの町で別れることにした。
別れ際にマイクが
「これをもらってくれ。ここから先は砂漠だらけだから」
とプラスチックでできた丸形水筒を僕にくれようとしたが、
残念なことにそれは僕の旅向きではなかった。
「僕にはペットボトルがあるからね」
そう言って申し出を断った。
三人と別れた後、僕はモエブの町をぶらつき、
相棒の誕生日用にインディアン・ジュエリーを買っただが、
その後で写真とサイズを送ると、「小さい」と言われてしまった。
まぁ、嬉しがってましたけどね。
これは旅する雑貨屋”Drift”用に他の誰かにプレゼントすることにしよう。
ホピ族が作った並のデザインのシルバーリング。サイズは9.25。
僕は指輪なんてしないからサイズなんて分からないっす。


マクドナルドで閉店まで作業した僕は、
ハイウェイに近い町外れにあるキャンプサイトの脇にテントを張った。

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