世界一周679日目(5/9)
アラームが6時45分に鳴る。
寝ていたいのを我慢して体を起こす。
しばらくそのままの体勢になり、
自分がなぜ早起きしなければならないのかを考える。
あ、そう言えばさっき犬の散歩している人の足音がしたなぁ…。
おっと、そうだ!
レンジャーが来るかもしれないんだ。
とっととずらかろう!
テントを畳むのよりも、中の物を片付ける方が時間がかかる。
トラベルピロウの空気を抜いて、寝袋や銀マットを畳み、
散らばったその他の物をバックパックやサブバッグの中に収めて、
最後に靴下を履く。
毎日洗濯できないので、靴下は臭いを嗅いでチェック。
うん。
まだいけるっ!
テントそのものを片付けるのは5分もあれば十分だろう。
なんせチェコで買った40ユーロの安物のテントだ。
それを8ヶ月以上も使っているのだ。
コイツのおかげでどれだけお金が節約できただろうか?
朝の早い時間帯。周りには誰の姿も見えなかった。
撤収を終え、バックパックを背負うと
『え?野宿なんてしてませんよ』と何喰わぬ顔でその場を後にする。
そして僕はヒッチハイクポイントへと向かった。
ここはアメリカ、ワイオミング州ジャクソン。
今日は近くにあるアメリカ最古の国立公園である
「イエローストーン国立公園」に行こうと考えている。
町はほんとうに小さかったが、
家のひとつひとつの作りはしっかりしているように見えた。
冬になれば辺りは一面真っ白になるのだろう。
5月になってもこの気温は低かった。
日本で言う冬の始まりくらいだろうか?
中にはログハウスのような山の家にふさわしい外観の家も経っていたが、
中の防寒設備は完璧だと思う。
ここはお金持ちの人々が住むエリアだからだ。
僕は家々を観察しながら、ジャクソンの町を歩いて抜けた。
途中にあったスターバックスには
朝も早くから地元の人たちがコーヒーを楽しんでいた。
なぜかアパレル店と併設している妙なコンビネーションだったが、
僕は服屋のソファに座り、
10分ほどメールなどをチェックさせてもらった。
これが都市型キャンパーの知恵なのだ。
ヒッチハイクを始める前に、
いつものようにガソリンスタンドでコーヒーと菓子パンを買った。
聞いていた通り値段が他の町に比べていくらか高かった。
普段なら99セントで売られているパンが
ここでは1.5ドル近くするのだ。
ガソリンスタンドの前でコーヒーをすすっていると、
店のお兄さんが出てきて僕にタバコをわけてくれた。
僕がヒッチハイクでここまで来たことを聞くと驚いていた。
そして「マリファンいるかい?」とフレンドリーに勧めてくれたが、
丁重にお断りさせていただいた。
コロラド州と同じくワイオミング州でも
マリファナの吸引は合法なのだろうか?
朝食を食べ終えた僕は、
そのまますぐにヒッチハイクをするつもりでいたが、
ガソリンスタンドの近くに、
あまりにも唄いたくなるようなロケーションの東屋
を見つけてしまった。
早くヒッチハイクを始めたとことで、まだ車も少ないだろう。
そう見込んで僕はギターの練習を始めた。
気づけば時刻は10時半を回っていた。
おっと!
もしかして
もうみんな出発しちゃった??!
ジャクソン
の町はイエローストーン国立公園へ行く
ツーリストたちにも開けている。
町のビジターズ・センターには
何組もの観光客たちの姿を見ることができた。
彼らの車に乗せてもらえれば来るまで国立公園を回るのは
さほど難しくはないだろう。
問題は僕なんかを乗せて国立公園をまわってもいい
という人間がいるかどうかだ。
天気は良かったが風が強く吹いていた。
僕は「Yellowstone National Park」と書いたボードを掲げた。
風でボードがめくれないようにするためには
両手でしっかりと持っていなければならなかった。
運転席からヒッチハイカーに温かいまなざしが注がれる。
「こんな場所でヒッチハイクだなんて微笑ましいわねぇ..」
たぶんそう思っているのだろう。表情から読み取れる。
そんな優しい笑顔を向けてくれるなら
僕を車に乗せてはいただけないだろうか?
風に煽られながらヒッチハイクをする日本人を横目に、
自転車に乗った中国人のグループが怪訝な顔つきで通り過ぎて行った。
『アイツは何をしているんだろう?』
みんなの頭上には「?」マークが浮かんでいる。
中国人ヒッチハイカーを見つけたら
僕は駆け寄って抱きしめてやるのになぁ。
だが20分もして車が止まってくれた。
やはりこの町はヒッチハイクしやすい町のようだ。
乗っていたのはデイヴィットのマリーのカップル。
行き先はイエローストーン国立公園の手前にある国立公園だった。
マリーはワイオミング発のアウトドアメーカーの
繊維を扱う部署で働いているらしい。
僕がそのメーカーの店を知っていると言うと
「だけど、それって中国製なのよね」
とちょっとバツの悪いようにマリー言った。
僕が座った後部座席にはそのメーカーの衣類が何着か無造作に置いてあった。
まぁ、それはほとんどのメーカーがそうなんじゃないだろうか?
車は国立公園の中へ入っていった。
国立公園と言えどもそのまま中を車道が走っている。
国立公園内は来るまで移動するのが普通のよううだ。
デイヴィットが以前バッファローを見たと言う場所に寄り道した。
その場所は草原のようになっていた。
バッファローの姿は見えず、
野鳥が数匹ポツンと草原に見えるだけだった。
だが、僕はそれで満足だった。
どっちにしろ、ここをバックパックを背負って
歩いて見てまわることなんて不可能なのだ。
車に乗って見る外の景色はまるでサファリのようだった。
僕はこの旅の中でそうような高額ツアーに参加したことがなかったが、
これこそまさに貧乏旅行者のサファリなのではないだろうか?
デイヴィットとマリーはそのまま
イエローストーン国立公園まで僕を送ってくれた。
それだけではなく、彼らは国立公園の年間パスを持っていたため、
僕は入場料を支払わずに済んだのだ。
これはありがたかった。
なんせ入場料が20ドルとかなり高額だからだ。
ゲートを抜けると、二人は僕に国立公園の説明が書いた
フリーペーパーのようなものをくれた。
僕はお礼を言ってそれを受け取った。
僕は窓の外を眺めていた。
どちらかと言えば集中していたと思う。
多くの観光客が訪れる歴史ある自然公園。
地下に眠っている大火山が噴火すると
アジア大陸の一部を除いてほとんどの大陸で生物が住めなくなるらしい。
一瞬たりとも景色を逃したくはなかった。
そんなよくわからない貧乏根性をもってそれらを眺めていたのだが、
国立公園の中を走る道路脇は木々が立ち並んでいるだけで、
めまぐるしく景色が変わるわけではなかった。
どこを眺めても林しか見えない。
木の向こう側にずっと木が続いているだけだ。
カーステレオからはビートルズがうるさくない程度に流れていた。
この国立公園の雰囲気といい感じに混ざり合っていた。
そして僕はだんだんと眠気を覚え始めた。
だって、朝早かったし、ずっと林ばっか見てても飽きるじゃないか。
林を凝視することに集中し過ぎて、会話もそこまで弾まなかった。
国立公園内の駐車スペースで二人とは別れた。
ヒッチハイカーとドライバーの普通の別れ方だった。
まぁ、こういう時もあるよね。
国立公園内には何カ所か見所スポットが点在し、
その場に駐車場も設けられているらしかった。
二人は景観の良いビューポイントへと歩いて行ったが、
僕はそのままヒッチハイクを続けることにした。
さすがにバックパックを背負ったままで歩き回る気はしなかったからだ。
さてと、次の目的地はボズマンだな。
『国立公園内でヒッチハイクだなんて、
車が止まってくれるのだろうか…??』
そんな不安に対して、針は真逆に触れた。
ここはヒッチハイクしやすい場所だったのだ。
乗っていた二人も僕と同じようにニックネームを名乗った。
ロボとティンクは
アペレーション・トレイルをスルーハイクした経験
を持っていた。
ロボに至っては二度も歩いているという。
だって、普通は6ヶ月かかると言われているんだぜ?
それにけっこうな苦行みたいじゃないか。
一度目は個人で、二度目はティンクと共に登ったらしい。
一度目は5ヶ月半、二度目は6ヶ月半かかったそうだ。
「三週間もシャワーを浴びない時があったよ。
通常シャワーを浴びる時は麓の村なんかに
シャワーを借りにいくんだけど、ヒッチハイクで向かうんだ。
だけど、止まってくれた車の運転手の中には
おれたちの臭いがくさすぎて乗車拒否するヤツもいたくらいさ!」
ロボがそんな風にして思い出話を聞かせてくれた。
二人は今日、キャンプのパーミッションを取り、
明日ここでキャンプするらしい。
車が走るとついに自然公園の中に大型のバッファローの姿を
見つけることとなった。その数は徐々に増えて行く。
観光客たちが安全な距離感を保ちながらそれを写真に収めている。
景観も最初の方と比べて今度は川が見えるようになった。
僕はもったいない国立公園の回り方をしているな。
こういう場所に巡り会った時には
『またいつか』と思うことにしている。
僕はただ前へ前へ進んでいるだけだ。
僕は一番景色が綺麗だという道路を通ってみたかったのだが、
その道路は雪のために閉鎖されていた。
そのままモンタナ州へと抜ける道路で二人には降ろしてもらった。
別れ際にロボは僕に青リンゴとミックスナッツをくれた。
お!兄妹!
三台目
の車もすぐに捕まった。
マイクは南アフリカ出身で、
ここに出稼ぎに来ているようだった。
ラフティングのツアー会社で働いているらしい。
「そうだな。ここで三年くらい働いて向こうに戻るよ」
その言葉からは南アフリカに対しての愛着が感じ取れた。
ついこの間、南アフリカは訪れたばかりなので会話も弾んむ。
僕がドキュメンタリー映画「シュガーマン」を観たと言うと、
マイクは「ロドリゲスはおれが始めて買ったCDだったんだ」
と懐かしむように言った。
ここにも歴史の目撃者がいるようだ。
僕たちは国立公園の端の町へと出た。
そこにマイクの働いている
ラフティング会社のオフィスのひとつがあった。
町自体はとても小さく、
国立公園へ訪れる人のベースキャンプのような町だった。
数件のレストランやカフェ、
そして決して豪華と言えない宿泊施設がポツポツと。
車の中から「コーヒー1杯25セント」と書かれた看板を見た。
そんなんで利益が出るのか頭をひねってしまう。
「ここがヒッチハイクのベストポジションさ!」
そう言って降ろしてもらった場所は
確かにヒッチハイクに最適だった。
だが交通量が雀の涙ほどしかなかった。
おまけに谷を吹き抜ける風がひどく、山の麓まで来たというのに、
気温は国立公園内よりも低かった。
僕はおもわずバックパックからブランケットを取り出して首に巻いた。
風のせいで行き先を書いたカードボードもなびいてしまう。
置かれた環境としては笑ってしまうようなものだったが、
無理矢理笑顔を作り、ヒッチハイクを続けた。
次の車が止まってくれるまでたったの20分しかかからなかったが、
僕としてはかなりキツイ20分だった。
本日最後のドライバーのミルは元警察官だった。
「ヒッチハイクなんて、
ドライバーの良心に甘えているのね…」
「は、はぁ…。そうっすねよ」
彼女もまたSッ気を感じさせるお姉さんだった。
その割くせ腕にはがっつりとタトゥーが掘ってあり、
インドだかネパールだかで見かけたような文字も掘られていた。
「それ、なんて意味なんですか?」
「これは「すぐに怒らないように」「心を静めるように」
だとかそういう意味よ」
彼女が辿っきた人生を思わず想像してしまう。
少し離れたそこまで話は弾まず、最後の方はかなりウトウトしていた。
「コーヒー飲む?」
と言われたので、僕はありがたくいただくことにした。
リヴィングストンの町のドライブスルー専用の小さなコーヒー屋が
ミルの行きつけのようだった。
ミルの持っていたスタンプカードには沢山のスタンプが押されていた。
店員とミルの会話は、ネイティヴ同士の会話ということもあって
かなり弾んでいた。
「それでね、彼、世界を旅してるんだって。
それでドライブスルーのコーヒー飲むのが初めてなんだって!」
「へへ~、マクドナルドなんかより絶対美味しいと思うわ!」
「ざっす!ちょっす!」
二人分のコーヒーのはずが、僕の分はタダにしてもらったみたいだ。
なんだか粋なことをするよなぁと思う。
本日の目的地は隣町だったがそれほど距離も離れておらず、
僕はリヴィングストンの町に留まることに決めた。
ミルにはすぐ近くのマクドナルドで車を降ろしてもらった。
「これ、とっておきなさい」
受け渡されたのは40ドル。
「いや、コーヒーまでごちそうになっておいて、
ここまでしてもらわなくても大丈夫ですって!」
「私、良い稼ぎしてるのよ♪
だからとっておきなさい」
ツンデレ!!!!
「毎朝コーヒー飲ませていただきます!」
そう頭を下げて、僕はそのままマクドナルドに入り、
コーヒーとダブルチーズバーガーとポテトのMサイズを注文して
(これで3ドルちょっとだ)本日も閉店まで作業をし、
マクドナルドの横にある芝生にテントを張った。
ここはモンタナ州だったな。
モンタナの人たちって、
とてつもなくフレンドリーなんじゃないか…???
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