世界一周682日目(5/12)
テントの外
には感心するくらい見事な出来映えの
「都市型ソロテント」ができていた。
撤収を終え、僕はその見事なテントを写真に収めた。
制作者は中はまだ寝ているらしい。
辺りに人はいなかったが、
そろそろ人が辺りを出歩き始めるだろう。
もう行かねば。
か、完璧だ…。
ここはアメリカ、ワシントン州シアトル。
アメリカ横断の旅は終了し、
ついに来たかった西海岸へと僕はやって来たのだ。
ここからはゆっくり旅をしようと思う。
朝の町をいつものようにバックパックを背負って歩く。
通りの名前は分からないが、そこには沢山のカフェがあり、
まだ時刻も8時前だと言うのに客で賑わっていた。
こんな通りに家やカフェが立ってるんだから、
シアトルってお洒落よね。
都市型キャンプをしていて困るのがトイレだ。
辺りが暗ければそこら辺の茂みで用を足せるが、
日が昇ってしまってからではそうはいかない。
最近「トイレを貸してくれませんか?」と
トイレだけを目的に店員に訊ねることが億劫になってきている。
それは北米のホームレスのほとんどは
僕と似た様な格好をしているからだ。
彼らが持ってていないのは
ほんのちょっとのフレンドリーさだけ。
見つけたスターバックスで元気よく
「お手洗い貸してください」と言うと、
店員のお姉さんはニッコリしてトイレのロックを解除する4桁の番号
を教えてくれた。
こういう旅ができるのも今だけだと思う。
これで僕がもっと歳をとって、
今のようにホームレスまがいのかっこうで
「トイレを貸してください」と言ったところで
彼らは客以外の人間に冷たくするだろう。
マジで笑顔って大事だなと思う。
トイレを済ませて顔を洗うと、
僕はスーパーでベーグルをみっつ買ってそれを食べた。
なぜかベーグルは69セントと安く、
味もプレーンだけでなくブルーベリーやナッツなど様々な味があった。
僕はそれを食べながら”University Distinct”というエリアを
目指していたはずだったのだが、
マップを見るとなんと逆方向に歩いているではないか。
恐るべき方向音痴。
戻る気も
なかったので、
そのまま中心地へスターバックスの一号店を見にいくことにした。
町の中心地はオフィス街のようになっていた。
ビルとビルの間には道路があり、
活気あるメインストリートというものが存在しないように思える。
僕は西海岸でバスキングで稼ぐつもりでいたのだが、
これはそんなに甘くはないかもしれない。
スターバックス自体はすぐに見つけることができた。
「Pike Market Place」という観光地のすぐ近くに位置していた。
ロゴがちょっとレトロになっていて一目で見分けがつく。
正直に告白するのであれば、
僕はスターバックスがそこまで好きではない。
値段は高いし、コーヒーをそこまで美味しくは感じない。
うまく説明することができないのだが、
スターバックスでは作業が捗らない気がするのだ。
そこまで居心地の良さを感じない。
行くのであれば僕はタリーズ・コーヒーに行く。
そんな僕がなぜここに来てしまったのかと言えば、
浪人時代にスターバックス一号店のことを扱った英文を
読んだからである。
それがどんな内容だったかはよく覚えていない。
Z会の出版する長文の参考書だった気がする。
僕の頭にこびりついているのだ、
スターバックスの一号店に呼ばれている気がさえする。
一号店と思わしきそこは、あまり歴史を感じさせはしなかった。
お洒落な内装と音楽。
もっと観光客で溢れているかと思いきや、
客層は他の都市と比べてあまり変わらない。
何かに過剰に期待してしまったのだろうか?
まぁ、いい。僕はここでコーヒーさえ飲めば満足するのだ。
普段なら頼まない「グランデ」サイズの
Fresh Brewed Cofeeを注文すると500円くらいが
一瞬で吹っ飛んで行った。
コーヒーを手にした僕は充電できる席を探したのだが、
店内にはコンセントを見つけることはできなかった。
きっと観光客が長居して回転を妨げないようにする作戦だろう。
マクドナルドにもコンセントがまるで見つからない店がある。
仕方がないので僕は窓際のカウンター席に着いた。
『よくよく考えてみたら
スターバックスの女神って
「髪ブラ」
じゃねえか。
なんかエロいなぁ…』
とロゴを眺めながらコーヒーのふたを開けようとすると、
なみなみと注がれたコーヒーがこぼれた。
隣りに座っていたおじさんが形だけ
「大丈夫か?」と訊ねてはくれたものの、面倒くさそうな顔をしていた。
こういう焦ってもしょうがない。
ペーパータオルでこぼしたコーヒーを拭き取り、
何事もなかったかのように席に着いた。
はぁ..。何やってんだよおれ?馬鹿か?
パイク・マーケット・プレイス前の交差点を眺めて絵を描いたり、
日記を書いたりして過ごしていると
時間はあっという間に過ぎてしまった。
14時に
なると僕はスターバックスを後にした。
もう金がほとんど残っていないので、雑貨も素通りだった。
パイク・マーケット・プレイスには沢山の飲食店や雑貨屋が
立ち並んでおり、多くの観光客で賑わいを見せていた。
僕はiPhoneで適当に写真をパシャパシャと撮り、
ひととおり端から端まで歩き切ると、
それ以上マーケットを散策すすような真似はしなかった。
外に出ると雨が降り出していた。
マーケットの外では三組ほどのバスカーの姿がいた。
等間隔で各々のパフォーマンスを行っている。
マーケットの中ではバスキングが禁止されているのだということが
理解できた。
サックス吹きが二名。
そして中でも目を引いたのは義足のギター弾きだった。
彼は観光客で賑わうお店の前で弾き語りをしており、
ギターケースの中には紙幣がわんさか入っている。
そして彼の頭上には見覚えのあるレトロなマークが…。
あれ?ここって…。
そこにはスターバックスのレトロなマークがある。
そして僕は理解した。
さっき行った店が
一号店ではなかったのだということを。
正真正銘の一号店の規模はかなり小さく、
中でパソコンでも広げようものなら、
「さっさと出て行け」と追い出されそうな賑わいぶりであった。
悔しかったので僕は写真だけ撮りすぐにその場から抜け出した。
僕はダウンタウンの中心を歩きまわってはみたものの、
シアトルのダウンタウンはそこまで僕を
ワクワクさせてはくれなかった。
何の気なし
にマップアプリに「patagonia」と入力すると、
シアトルの町に大好きなパタゴニア・ストアがあることが分かった。
僕は一直線にパタゴニア・ストアを目指した。
どんどんと一号店のあるヴェンチュラへと近づいているのだ。
ここのお店一体どんなカラーを持っているのだろうか?
いつもと同じように入店したものの、
スタッフはごくフツーのフレンドリーなヤツだった。
「あぁ!
わざわざ日本からありがとう!」
『いやいや、
せっかくここまで来たんだぜ?
もっと喰い付いてくれてもいいんじゃないか?』
いや、フツーそんなもんさ。
と思い直す。
店内はタイミングよく他の客がおらず、
スタッフたいちはぺちゃくちゃとお喋りをしている。
ひとまず荷物を置かせてもらって、僕は店内を見てまわった。
ここのお店もフォルクスワーゲンのバンの正面部分(のハリボテ)が
飾ってあったり、
フィッシィング・ウェアのブースが設けてあったりした。
だが、僕はこのストアに何か物足りなさを感じていた。
ウロウロと店内を見てまわったけれどそこまで楽しさは感じない。
スタッフも楽しそうというよりかは暇を持て余して
お喋りを楽しんでいる。
半ば義務のようになっているストア名の書かれた
ご当地ステッカーをもらい、30分でその場を後にした。
僕は
やることが見つけられずにいた。
日記は書きたまっているし、
近頃ヒッチハイクで移動してきたので絵も描けていない。
いつもと変わらない作業ならあるのだが、
それらをするにはまだ早過ぎた。
一人作戦会議を開こうとマクドナルドに行き、
コーヒーを注文したまではよかったのだが、
ここでもコンセントを見つけることはできなかった。
そして早起きしたのせいか、急激な眠気に襲われた。
考え込むような姿勢でウトウトしていると
一時間後に店員から
「ここで寝られては困ります」
と肩を叩かれた。
うーーむ…。
よし。バスキングするか。
せっかく大きな街に来たのだ。
ダメ元でやってみようじゃないの!
唄ってないと声出なくなるからね。
そろそろパイク・プレイス・マークットのヤツらも
落ちつた頃かなと思い、僕はもう一度マーケットへと足を運んだ。
義足のバスカーは今波に乗っているようで、
まだパフォーマンスを続けていたが、
僕もなんとか建物の端に良いポジションを発見した。
ここでバスキングをするのは比較的簡単なようだ。
所定のポジションであれば、誰でも唄うことができるようだ。
まぁ、僕の存在自体がギャグみたいなものなので、
肩に力を入れすぎずに唄いだした。
まさかの一曲目で5ドルが入る。
いきなりのことだったので、僕も驚いてしまった。
観光客であろう女性と男性がニコニコしながら親指を立ててくれる。
おー。なんだよ。けっこういいところじゃねえかよ。シアトル。
もちろんそれは単なるビギナーズラックに過ぎなかった。
そこからは時々1ドルが入るくらいだったが、
僕としてはシアトルでの一発目のバスキングを楽しんでやることができた。
一時間半でアガリは16ドル。まぁ、そんなもんだよね。
引き上げる際に、おじいさんにあった。
カフェの前でタバコを吹かしており、
一本タバコを売ってくれないか?と訊くと
「もちろんさ!」とタダで一本分けてくれた。
70代のおじいさんの服装はかなりお洒落で、
ジャケットの胸ポケットにはフライ・フィッシュングのルアーが
ブローチ代わりに刺さっている。
「いやぁ~、
ひと仕事した後のタバコて美味いっすよね。
あ、実を言うと4ヶ月前に辞めたんですけどね。
ただ例外があって、もらいタバコはしていいルールなんです」
僕がそう白状すると、
「それなら私はいつも辞めてるってことになるね!」
とジョークをかましてきてくれた。
ちょっとゲイの気があるのかは分からないが、
僕の顔を「ビューティフルだ」なんて言うもんだから
思わずドキッとしてしまう。
いやいや、そんな顔してませんから!
「まぁ、ワシはタバコよりマリファナの方が好きだけどね」
「え?ワシントン州って合法でしたっけ?」
「いや」
「ははは。気をつけてくださいね」
そんなファニーなじいちゃんと会った。
タバコで始まる会話も悪くない。
欲に目がくらんだ僕はその後、
メトロの入り口でもバスキングを試みたのだが、
1クールでわずか1ドル。
シアトルはパイク・マーケット・プレイス以外
ダメなのだということが分かった。
バスキングを終えた僕はそのまま
ブロードウェイ(道の名前だ)まで歩いてき、
STABILOの青色のペンを日本買い、
23時まで営業しているカフェで作業をしていた。
今日の寝床はVolunteer Park。
広い公園には誰れ一人としていなかった。
ここは僕の貸し切り空間だ。
大きな木の下にテントを張った。
小雨が降り出したが、木の下であれば濡れることはない。
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★Facebookページ「旅する漫画家」
カイロのスルタンでお会いした中年のオオタケです。
覚えているかな?
今アメリカ西海岸にいるんだね!
元気で何より
シミのマンガ拝見さしていただきました。
Very nice
くれぐれも体を大事に残りの世界一周を満喫して
漫画を完成させてね!また
>オオタケさん
あれ?前回は「オオダケ」さんでしたが、
「タケ」の方でよろしかったですよね。
大丈夫ですよ♪もうばっちし覚えました!
実は「世界新聞」というキュレーションサイトでも
漫画を寄稿しています。
なかなか自分の日記の中で紹介するタイミングが掴めずに
ひっそり描いているように思えるけど、
さりげに4作描いています。短編ですけどね。
よろしければそちらもよろしくお願いします!
☆http://sekaishinbun.net/category/series/travel-cartoonist/
シミさん、こんにちわ。
とってもお久しぶりです。
シアトルってイチロー選手がいた野球の町・・のイメージしかないですが
ソフトに歌って、パワフルに稼いでいますか?
毎日が日曜日の私は庭の草と戦いながら
ボランティアで蚊に献血をしています・・痒くて泣きそう(>_<)
韓国ではMERSが流行中・・世界が狭くなったので何かと大変ですね。
コンセント問題日本では逮捕された人もいますが
外国ではそこまでしないのかな?
なんにせよ、日々を平穏に旅を順調にお過ごしくださいね。
少年の似顔絵、とっても可愛い(^^♪
>みやわきさん
どうもお久しぶりです。
シアトルは僕もスタバとイチローのイメージしかなかったので
新鮮に感じました。公園もいくつもあり治安もよかったです♪
野宿もし放題でしたね笑(ただしチェックアウトは7時前ですが..)
バスキングは稼ぐとまではいかないまでも
僕なりに楽しむことができました。
即興の似顔絵も好調です♪
僕は大学生の時、献血車が来ると進んで血を抜いてもらったましたね。
あれ、お菓子もらえるんですよ。タダで。
意外にコンセントは海外の方が寛容な気がします。
僕も一カ所に長居するタイプの旅人ではないので
まぁ、見逃してもらっているのかもしれませんね♪
それではポートランド沈没編をお楽しみください♪