世界一周732日目(7/1)
ボクサーパンツ
一枚の格好で目覚めた。
昨日の夜、あまりの蒸し暑さに
Tシャツも脱いだ状態で寝たのだが、
テントの床の部分に汗をかいた背中触れると
ペトペトとくっついて気持ちが悪かった。
コンクリートの床も寝心地が悪く、
いつものように睡眠は浅かった。
人間横になるだけである程度の疲れはとれると聞いたことがある。
100%の回復じゃなくても70%くらいは休めているんだろう。
「眠れなかった」が「眠たいわけじゃない」
そういう状態があるのだ。
ここはメキシコ、ラ・マンガという小さな漁村。
昨日ヒッチハイクで僕を車に乗せてくれたサンドラの住む家。
8時半なると僕はパッキングを始めた。
サンドラが起きてきて「コーヒー飲む?」と声をかけてきてくれる。
「グラシャス!」とお礼を言い、
淹れてもらった美味しい朝のコーヒーを味わった。
「いつでも出発できるわよ」とサンドラは声をかけてくれる。
今日もまたヒッチハイクで次の町に向かうつもりだ。
サンドラは僕をハイウェイの入り口まで
車で送ってくれると申し出てくれた。
出発の前に僕はサンドラの似顔絵を描いてプレゼントした。
テーブルさえあれば安定した線が引ける。
似顔絵を渡すとサンドラは喜んでくれた。
たかだかスケッチブックの一ページに描かれた絵で
人を喜ばせることができるのだもの。
こういう時に絵がかけてよかったなと思う。
上手ければ上手いほどいいだろう。
やっぱ机あると描けるな。
出発するタイミングで昨日の工事のおっちゃんたちが
サンドラの家へとやって来た。
今後サンドラの家は二階部分が完成し、
ガレージの屋根も拡大されるらしい。
サンドラが完璧に仕事を辞めるまでの4年間の計画だ。
ここでのシンプルライフもより豊かな物になっていくだろう。
シンプルに暮らすことは、創造力も求められと思う。
「あえて持たない」という選択肢をとる人の移住空間は
その人だけのオリジナルに見える。
少ないもので自分の生活をデザインする。
きっとそれはワクワクする作業でもあるんだろうな。
車の中ではそこまで会話は弾まなかった。
村を抜けるとき、一人の少年と目が合った。
僕は「オラ!」と声をかけたが、
少年はムスリとして挨拶を返してくれなかった。
「シャイなのかな?」
「違うのよ。嫉妬してるの。
彼、以前私に「結婚して!」って言ったことがあるのよ。
私が違う男の子と一緒にいるから
「なんだアイツは?!」って妬いてるのよ♪」
その言葉を聞いて、サンドラが
このコミュニティで愛されているのだなということが分かった。
助手席側の窓を開ける。風が吹き込み、髪がなびいた。
車はハイウェイを
エルモージョ方面へと少し戻った。
ハイウェイの分岐点に着くと、
サンドラは車を道路の端の方に寄せて止まった。
「それじゃあ、良い旅を。気をつけてね」
「こちらもありがとうございました。
沢山勉強できましたよ♪
あ、最後にこれだけ言わせてください」
僕はノートを取り出して
たどたどしいスペイン語でこう言った。
「Estoy feliz de conocerto
(あなたに会えてよかったです)」
「ハグして別れましょ」
少し、ほんの少しだけサンドラの目が
潤んでいるように見えた。
そう思ったからこそ、僕はいつも以上に明るいフリをした。
いつもより長いハグをして僕は車をおりた。
ハイウェイのゲートへ向かう途中、後ろからクラクションが鳴った。
運転席からサンドラが顔を出し、手を振っている。
僕も大きき手を振り返した。
出会ってくれてありがとう。
感謝の気持ちは忘れないだろう。
ハイウェイ
への入り口には銃を持った警官たちがいた。
バックパックを背負って歩いてやってきた僕を呼び止める。
もちろんハイウェイの歩行者のハイウェイへの侵入は禁じられている。
僕はニコニコしながらジェスチャーを交え
「ここでヒッチハイクしていいか?」と尋ねた。
警官は「それならあっちでやれ」とゲートの向こう側を指差す。
あれ?やっていいの?しかも向こう側で?
ゲートの手前だと車の進行の妨げになるが、
向こう側であれば、あとはドライバーの任意で
ヒッチハイカーを拾えるということだろう。
警官たちにお礼を言うと、僕はゲートを歩いて抜けた。
ゲートのぬけたすぐのところには小さな露店があった。
どうやらメキシコではハイウェイ直前で食べ物が買えるらしい。
車の邪魔にならない、かつ目立つ場所で僕はボードを掲げた。
交通量は多くはないがレスポンスはまぁまぁだ。
何より車の速度がゆっくりなところがいい♪
近くに一台のバスが停まっていた。
バスの一番後ろの日陰になった場所でおっちゃんが座っていた。
「どこまで行くんだ?」とそれらしいことをスペイン語で尋ねる。
「オートストップでね、モッチスまで行くんですよ♪」
モッチスとは“Los Mochis”という町の名前だ。
二つの言葉から成る地名の場合、
先頭は省いて言うのが一般的だからだ。
おっちゃんはバスの添乗員らしかった。
「乗せて行ってやってもいいぞ?」と申し出てくれた。
「それで、いくらなんです?」
「200ペソ(1,575yen)」
「あ~~、やっぱいいかな?」
まぁ何があるか分からない。
見た感じここでのヒッチハイクの成功確率は高そうに思えた。
わざわざバスに乗ることもないだろう。
30分ほどヒッチハイクをして
僕はトイレ休憩を挟むことにした。
ゲートをすぐ出たところにはトイレがあり、
なんと個室トイレの中には洗面台もついていた。
もちろんここで髪を洗ったのは言うまでもない。
体もぬぐったことだし、気分爽快リフレッシュ。
これでうまくいかないわけないだろう。
体がさっぱりすると気分もいくらか明るくなる。
バスの近くでボードを掲げた。
ゲートを抜けたばかりのトラック。
運転手が眉をしかめて行き先を見ているのが分かった。
レスポンスがないまま僕の横を通り過ぎ、そして10m先で止まった。
僕はそのままヒッチハイクを続けた。
しばらくして中から運転手が出て来た。僕のことを呼んでいる。
ってまじかーーーー!!!
「おっちゃん、ゴメンね!」とバスのおっちゃんに日本語で誤って、
ダッシュでトラックに駆け寄った。
「おー、ロス・モッチスまでな!
いいぜ乗せてってやるよ」
とすぐに話がまとまる。
「じゃ、ここで我慢してくれな」
そう言って(というか都合良く解釈しているだけなんだけど)
運転者のあんさんが指し示したのは
トラックの寝台部分。
メキシコのヒッチハイクはどうしてこうも新鮮なんだ??!
バックパックははじめ、助手席に置くことになっていた。
もちろん盗難に遭うことも頭の中では想定しておく。
だが、ヒッチハイクはドライバーを信頼してこそ成り立つもの。
そこで何かトラブルにあったらその時は自分の責任だ。
僕はサブバッグだけ持って寝台部分に登った。
「おーい。これも」
そう言ってあんさんはわざわざバックパックを
上まで持ち上げてくれた。
これで一安心♪
寝台部分にはスプリングの入ったマットが
一枚置かれているだけだった。
窓が二つあり、運転席側に座るようにあんさんには言われた。
上にいる僕とコンタクトをとるためだ。
エンジンがかかり、トラックがゆっくりと動き出す。
一日ごとに僕のメキシコの旅が深まっていく、そんな気がした。
外には
イメージ通りのメキシコの景色が広がっていた。
いい…♪
いい!
サボテンが地面から生え密集し、
その向こう側には茶色い山々が見える。
道路のコンディションが悪いと大きく車は揺れた。
時にはそれらを避けるようにしてトラックは走った。
洗濯したばかりのパンツを外にかざすとすぐに渇いた。
これもバックパッカーの知恵というやつか。
僕は旅情に浸りながら、音楽を聴くでもなく、
ずっと外の景色を眺めていた。
1時間半ほど走ったとろこで、
トラックはガソリンスタンドに止まった。
運転席の扉が開き、「休憩だ」とあんさんから声がかかる。
僕はサブバッグだけ持って寝台を降りた。
ガソリンスタンドに併設されたコンビニでトイレを済ませ、
ジュースとスナック菓子を買い、二人でトラックへと戻った。
寝台部分へ登ろうとすると、
あんさんが「助手席にすわんなよ」と言ってくれた。
本当のことを言うと僕は気楽な寝台が気に入っていたのだ。
だけどせっかくヒッチハイクで車に乗せてもらっているのだ。
スペイン語の勉強にだってなるだろう。僕は助手席に座ることにした。
運転手の名前はエミリオと言った。
僕は片言のスペイン語しか話せないので
会話もあまり弾まなかったが、エミリオは時々僕を楽しませてくれた。
「モッチスまであと何キロ?」
「200kmだな」
「それ、さっきも言ってたじゃん」
「はははは♪」
テンドン(繰り返しのギャグ)だけに笑えた。
モッチスまでの距離が書かれている標識を見つけて
「あと100kmだね!」とか言っても
「200kmだ!」って返すからね(笑)。
僕が景色を眺めていると
「ボニート?ボニート?」と尋ねてくる。
あぁ、「美しい」ってことか。
うん。ボニートだよ。メキシコは。
そんな風
にして僕はドライブを楽しんだ。
この薄汚さがなんとも言えない。
ロス・モッチスに到着したのは19時半だった。
実はこの車はグアダラファラという町まで行く車だった。
メキシコシティまでに立ち寄ろうとしていた町だ。
だけど、僕はここで車を降ろしてもらうことにした。
そんなに急ぐ必要もないだろう。僕は町が見たかったのだ。
お礼を言ってトラックを見送った。
エミリオさん、ありがとう。
ひとまず僕は町の中心地へ向かうことにした。
町の中心までは2kmほどだった。
歩くとすぐに汗をかいた。エネルギーを補給しようと、
今朝方サンドラにもらったマンゴーを食べ、
コンビニでジュースを買った。
モッチスの町は中規模の町だった。
治安もよさそうだったが、これと言って対して見るものがなかった。
メキシコ人からしてみたら
治安のいい住みやすい町なのかもしれないが、
貧乏旅行者にとっては味気ない町にも思えた。
セントロ(中心地)には大型のスーパーなどがあるだけだった。
僕はわざわざセントロを見ただけで、
ヒッチハイクポイントへと向かうことにした。
歩けば歩くほど足が痛んできた。日が暮れ、辺りは暗くなる。
何回も「くそっ..」と呟き、
『なんでグアダラファラまで
乗せていってもらわなかったんだ?!』
と後悔した。
アホかおれは。
いや、アホだ…。まちがいねぇ
町外れには大抵の場合ガソリンスタンドがあることが分かった。
そこに到着する頃にはクタクタで近くの植え込みのレンガに
へたり込んでしばらく動けなかった。
21時半。
定番の「オクソ」(コンビニの名前だ)に逃げ込み、
閉店まで作業をした。
充電する場所がない。日記も書く気にもなれなかった。
ガソリンスタンドの裏手は大型トラックが沢山停まる駐車場で
フェンスに囲まれていた。
ここならテントを張っても大丈夫だろう。
植え込みにテントを張った。
体がベトベトする。
あぁ、なんでおれはここで車を降りちまったんだろう?
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