▷12月1日/アルゼンチン、エル・チャルテン
南米脱出のフライトまで20日を切った時、ヒッチハイクでエル・チャルテンまで行けるだろうか?と考えた時があった。
チリのサンディエゴの手前にある、ロス・アンデスという町からアルゼンチンのメンドーサへ抜け、そこからハイウェイを辿った場合、エル・チャルテンまで到達するのに何日かかるだろうか?とその時は考えた。
その計画はあまりにも現実味がなかったため、僕は取り下げることにした。
エル・チャルテンにはフィッツロイがある。
フィッツロイは僕の大好きなアウトドアメーカー”patagonia”のロゴのモデルとなった山だ。マックが言うには「フィッツロイはアルパインをする者にとって憧れの山だ」そうだ。
僕はこの旅の中で巡礼のようにpatagoniaのストアに足を運んだ。
これがそのクライマックスだ。
朝5:00に僕とマサトさんは宿を出発した。
空には雲ひとつない。まさに今日はフィッツロイ日和だと、僕は思った。
外に出ると冷たい風がビュービューと吹いている。僕たちはポケットに手を突っ込んで小走りでトレイルへと向かった。すでに東の空はほんのりと明るくなっていた。
町外れからすぐにトレイルは続いていた。なだらかな上り坂にはツーリスト向けに整備されている印象を持った。この間の国境越えのトレッキングに比べたらよほど易しいトレイルだ。
トレイルを歩くうちに体が温かくなり、僕はアウターを脱いでバッグの中にしまった。マサトさんと喋りながら歩いていった。
2km少し歩いた時、後ろから女のコが走ってやって来た。同じ宿に泊まっているカレンちゃんだ。体育大生のようなスポーツウェアのような格好をしている。一緒に旅行をしているユキちゃんは後ろに置いてきたとカレンちゃんは言った。「絶対あのコ怒ってますよ」そうカレンちゃんは言った。
キビキビ歩くその小柄な女のコと一緒に僕たちは最初のミラドールへと向かった。
「ミラドール」というのは「ビューポイント」という意味のスペイン語らしい。
一時間も歩くとその見晴台に僕たちは出た。そこには既に一人のギリシャ人が寒そうにフィッツロイと対峙していた。
実物を目にすると感じるものは違う。どんなに鮮明で美しい写真や動画を見ても、こればっかりは自分の目で見て感じないとわからない。
フィッツロイは雄大で、そこだけ景色が変わって見えた。矛盾しているようだけど、CGか何かに見えてしまうような気さえした。
『あぁ、ついにここまで来たんだな』
またここでも僕は同じことを思った。そして自分が今ここにいることが嘘のようにも思えた。
感慨深かった。
どうして僕がここにいるのかを考えた時が、どうしてもそれは相棒のまおへと帰結する。
僕がアイツに出会わなければ、大学時代にNGO「ごみゼロナビゲーション」の活動へと僕を誘い、
「patagonia(渋谷店)に遊びに行こうぜ」なんて言わなければ、僕はここに来たいとさえ思わなかっただろう。だってアウトドアメーカーなんてどれも同じだと思ってたから。
お金と時間とほんの少しの勇気さえあれば、僕たちはどこへだって行くことかわできる。
運も多少あるかもしれない。だけど、この地球上の遠く離れた場所へ行くことは
不可能ではないのだ。
最初のミラドールで、女のコ二人とは別れた。彼女たちはこれから別の町へ移動するらしい。
トレイルはさらに先へと続いていた。僕とマサトさんは引き続きその上を歩いた。
林を抜け、ゴツゴツした地面の上を歩き、川のせせらぎを聞きながら、トレイルの上を歩いた。
しばらく行くと、そこにキャンプサイトがあり、その先に流れると川の水は飲めるようになっていた。
僕たちは雪解け水で喉の渇きを潤し、さらにフィッツロイへと近づいていった。
9kmを過ぎた時点でトレイルは急な山道へと変わった。そこら辺に岩が転がり、足を高く上げ泣なければ次のステップへ移ることができない。
息を切らしながら山道をゆっくり登り、ようやく頂上にたどり着くと、フィッツロイはぐっと近くに見えるようになった。麓には薄く氷の張ったエメラルドグリーンの湖がある。一人のカメラマンが
そこで写真を撮っていた。
フィッツロイを横目に僕たちはゆっくりと歩き、トレイルがそこで終わっていることを確かめると、食事をとることにした。パンやフルーツといったシンプルな内容の食事だったが、間違いなく贅沢な食事だった。
「フィッツロイを見ながらだったら、ご飯三杯はヨユーですね!」
なんて冗談を言ったが、10kmも歩いてきたため、パクパクと食は進んだ。
振り返るとそこには広大なパタゴニアの自然が広がっている。地球の上に自分たちがいるのだということを僕は感じることができた。
食事を済ませると僕たちはそこを後にした。先ほどと同じルートでトレイルを戻った。
昼前になるとツーリストの姿が多くなってきたのが分かった。
朝イチのハイキングが一番いい時間帯だろう。フィッツロイを独り占めできたからだ。
“Fitzroy;dream of alpinist”
マックはそう言ったが、この山は僕の憧れでもあった。
グッバイ。フィッツロイ。すげー山だったよ。
宿に戻ると僕はシャワーを浴びて、外に漫画を描きに行くことにした。
適当にWi-Fiとテーブルのあるカフェを見つけていつものようにカフェ・コン・ラチェを注文した。
3ドル以上支払って出てきたのは、とても小さなカフェで、小粒のお菓子が4つほど添えらているだけだった。
僕は非常にがっかりした。これならスターバックスの方が安くて美味いコーヒーを飲める。高い金を払ったのだからもう少しのまともなコーヒーを出してくれよ!そう僕は心の中で文句を言った。
カフェの作業環境だとか接客には問題はなかった。僕以外地客の姿はなかったし、テーブルの高さも絵を描くのにちょうどよかった。
ただ、コーヒーがママゴトのように小さい(味もフツー)というのがそのカフェの難点だった。
アルゼンチンのインフレに、旅行者は苦しめられ、そしてがっかりさせられる。彼らはこのインフレーションの中でどう生活しているのだろう?と僕は疑問に思った。
16:00を過ぎると西日が照りつけ、結局僕は宿に戻った。
アルゼンチンではカフェに期待しないの方がいいのかもしれない…。
宿に戻ったあとの僕の日常はいつもと同じだ。漫画を描くだけ。Wi-Fiが遅いのでブログのアップもはかどらず、日記を書く気にもなれなかった。
明日は朝からヒッチハイクで次の町まで向かうつもりだ。
そういうわけでこの日は早く寝ることにした。
フィッツロイを見れたんだ。それだけで大満足さ♪
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