「エル・カラファテの奇跡」

▷12月3日/アルゼンチン、エル・カラファテ

 

 

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テント泊は思いのほか時間を潰しずらい。

というか、この宿が妙なところで宿泊客の住み分けをしているので、僕たちは安い値段で宿の敷地にテントを張らせてもらっている難民のような扱いを受けてた。

 

 

テント利用者は宿のレセプションまでしか室内に入ることができない。そこから先は鍵が要るのだ。

Wi-Fiはキャンプサイトまで飛んできたが、利用者が多いためにかなり遅く、とてもじゃないがブログを更新することなんてできない。調べ物をするのがやっとだ。

室内の共有スペースがないのも何点だった。なぜだか、火を起こす場所にコンセントがついており充電はできそうだが、
そこから動くことができない。

ホットシャワーは使えるようで、シャワー室はキャンプサイトにしては抜群にら綺麗だったが、僕たちは昨日シャワーを浴びなかった。旅を続けていると別に一日や二日シャワーを浴びなくても気にならなくなってくるようだ。

 

 

どうやらこの宿は自転車で旅をしている人間に有名なようだった。

確かに宿代の高いエル・チャルテンで一泊100ペソ(¥1,271)で泊まれるのは魅力的だが、やっぱりバックパッカーはWi-Fiやテーブルキッチンが必要なんだと思う。

 

 

 

 

昨日は熟睡することができなかった。夜中に何度も寝返りを打った。細切れに起きて寝るの繰り返しだ。

マサトさんは僕より先に目覚めると、外でiPhoneをいじくっていた。どうやら他に安宿を探しているみたいだ。

僕は安宿なんてないものだと決めつけて半ば諦めていた。

 

 

 

 

9:30になるとマサトさんはブエノスアイレス行きの航空券を買いに直営店へと向かった。僕もそれに同行することにした。

マサトさんはチリのサンティアゴでチリ・ペソをアルゼンチン・ペソに闇レートで両替を済ませていた。レートは1.5倍以上なので、実際よりもペソが手に入ったことになる。

その余分に手に入れた金で航空券を買おうと言うのだ。

ビビりの僕は航空券の値段が上がってしまうんじゃないかと心配だったので、安いうちにネットでチケットを買ってしまっていた。

 

 

アルゼンチン航空の直営店は町の中心地にあった。担当してくれたとは常時眉間に皺を寄せてある40代くらいのスリムな女性だった。英語が喋れたが愛想がない。

なんで僕たちはたかたが航空券を買うのに、怒られているような気分にならなければならないのか意味が分からなかった。

 

 

航空券の値段はいくらか上がっていた。日本円に換算すると三万円くらいだろうか?余剰分のペソを手に入れたことを考えて1.5で割ると二万円ほどになるので、ネットで買うのとあまり変わらないという計算になる(らしい)。

 

 

 

 

マサトさんはそこでチケットを買わずに、バスの値段も調べてみることにした。

バスターミナルも町の中心地にあった。ブースが十数軒並んでいたが、ブエノスアイレス行きのバスを扱っている会社バスをひとつしかなかった。

エル・カラファテからブエノスアイレスまでバスで行く場合、かかる時間は40時間以上。それだけでも苦行に近いのに、料金は飛行機よりも高い2980ペソ(¥37,863)。

結局マサトさんは飛行機でブエノスアイレスまで行くことに決めた。日程は僕より一日早い12月5日だ。

 

 

 

 

 

 

 

航空券を手に入れるとマサトさんと僕はたまたまネットで見つけた安宿に行ってみることにした。

中心地から5分歩いた場所にある

「AMEL(アメル)」

というのがその宿の名前だった。佇まいは民宿といった感じ。玄関のドアを開けると暖房が効いており、ポカポカと温かった。毛の短い小型犬と黒猫がソファで丸くなっていた。

 

 

宿の人間は呼んでも出て来なかった。

たまたまそこに日本人が泊まっていたのだが、僕はその人に見覚えがあった。

ゲンキくんとはペルーのリマにある「桜子」で一日だけ顔を合わせていた。彼はドミトリーに泊まっているそうなのだが、なんと値段は100ペソだと言うのだ。

 

 

「安っ!おれたちテント泊で同じ値段だよ?ほとんどの宿は180とか平気でするし、安くても130だと思ってた」

「え?そうなんですか?」

キョトンとした顔でゲンキくんが言う。彼はツーリスト・インフォメーションでこの宿を教えてもらったらしい。やるな!

 

 

 

僕たちはさっそく宿を移ることにした。マサトさんさ「エル・カラファテの奇跡だ!」とこの宿のことを称賛していた。

Wi-Fiも今まで泊まってきたパタゴニアの宿の中ではダントツに早かった。ブログの更新をなんの苦もなくすることができた。こんなにも居心地がいいのに宿泊客が数人しかいないのが不思議だった。

 

 

 

 

ひと段落つくと、僕たちはキッチンの隣にあるテーブルにつくと、各々に作業を始めた。

僕はパソコンを盗まれてしまったので、iPhoneのメモにひたすら文字を打ち込んだ。なんだかんだ言って毎回長文の日記を書いている。不思議なことにキーボードで打つよりも負担が少ない気がした。

マサトさんは出発前に日本で買ったというタッチパネル式のAcerのパソコンを使っている。

 

 

 

過去の旅も含めて今まで一緒に行動したマサトさんを見る限り、

マサトさんは宿にいる時は

ずーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっと

パソコンを触っている。

ネットでビジネスでもやっているんじゃないか?ってくらいの作業量だ。

 

 

マイペースな僕に比べ、毎日日本時間の7時にアップされるよう予約投稿し、今もブログを書いている。それでいてアフィリエイトなんかはやっていないのだ。もったいない…!

 

 

僕は日記を一本書いて、ブログを一本投稿すると、今度は漫画を描いた。僕としてはこちらも大切な作業だ。

そこから僕たちはずっと部屋の中で作業をしていた。外は気持ちのいい空が広がっているのに、僕たちと来たら…。

 

旅の中で使える時間はたっぷりあると思う。ブログをやっていなかったらそれはそれで暇なんだろうけど、ブログをやっている人は多かれ少なかれ何かを犠牲にしているような気が、しなくもない。

まぁ、この町じゃ特にやることないんだけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

19時を過ぎると僕はギターを持って昨日と同じスーパーの前へと向かった。

日の長いパタゴニアでは20時前の夕方にスーパーが混み出すのだ。22時の閉店までが勝負!

 

 

と言っても欲に目がくらむとお金なんて入らないは分かっている。

スタンスとしては「稼げなくっても別にいいや。歌を楽しもう♪それで自分を見て『あはは。アホなヤツがいる』くらいに楽しんでもらえたらいいや」くらいに考えて肩の力を抜いてパフォーマンスをするのが僕に合っている。

手持ちのお金は残り460ドルと銀行の残高に5万くらいある。まぁ、なんとかなるだろう。

 

 

そんなユルく始めたバスキングだったが、レスポンスは前日に比べてすこぶる良かった。

途中からマサトさんがバスキングを見に来てパシャパシャと写真を撮ってくれた。

二時間ほどでバスキングを終えるとケースの中には紙幣が山ほど入っている。僕がそれを丁寧に揃えながら回収している姿を見て、マサトさんは「お金はあとで数えた方がいいんじゃないのかな?」とやんわり言った。

そのままスーパーに寄り、念願の野菜を買って宿に戻った。

 

 

ジャガイモやトマト、ナスにカボチャ、それによく分からない付近で取れるらしい野菜。

それをひとつの鍋でグツグツと煮て、味付けにほんの少し塩を振った。

薄く切ったジャガイモがいい感じに崩れてシチューのような食感を演出してくれている。

 

 

不摂生な食生活を続けていると分かる。野菜は凄い。

どんなに食べても太らないし、体の調子を整えてくれるからだ。最近だと野菜を食べたい!と思うことが多くなった。

子供の頃、どうしてあんなに野菜の好き嫌いがあったのだろう?

 

 

 

今日のアガリは330ペソ(¥4,193)。集計する僕の姿を見てマサトさんは「カネの亡者だ!」とからかった。

何言ってるんですか!そのお金で野菜が買えるんですよ!

 

 


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