2月26日/台湾、台北、淡水
この日は朝から雨がパラついていた。
僕は耐水性を失ったテントの中でうんざりするように寝返りを打つと、そのまま目を閉じた。誰から叩き起こされたって構うものか!
雨が降ったら何にもできやしないのだ。
僕がテントを立てた公園は微妙な場所にある人通りの少ない小さな場所で、朝は犬の散歩かトイレの清掃くらいにし人がやって来ない。台湾の野宿一日目にして、この国が野宿者に対し寛容な気さえする。
雨が収まると僕は濡れたままのテントをたたみ、穴のあいたケースをさらに大きなビニール袋のなかには突っ込んだ。
こんな雨の日にテントを片付けると思う。
世のキャンパー達は、雨に降られた場合どうやって自分たちのテントを乾かすのだろうかと。もう僕のテントをにはいくらか黴が生えてしまっている。
淡水へとやって来た目的はバスキングだ。
ここはデートスポットとして人気のようだが、こうして雨が降ってしまうと人通りはめっきり少なくなってしまう。観光地なんてそんなもんだろう。
僕は駅近くのスターバックスに入ると唯一見つけたコンセントに近い席に座ってしばらく様子を見ることにした。
ちなみにコーヒーはブリュード・コーヒーで75台湾ドル(260円)。
台湾にしちゃあ結構高い値段だが、日本やオーストラリアに比べれば安い。作業場として割り切れば十分価値のある値段だ。
そこで僕は駅前の広場を二階席から眺めながら書きたまった日記を書いていった。この間までパースで充実した日々を送っていたので、反面日記は書けていなかったので、ちょうど良かったのかもしれない。反対に日記がリアルタイムでアップできているというのは、僕にとって暇である(あった)ことなのかもしれない。
スターバックスの店内では古いジャズがかっていた。
そうちの何曲かは僕にも馴染みのあるものだった。スタンゲッツとかエラフィッツジェラルドとか。
雨はいくらまって止みそうになかった。
路面は濡れたままだし、傘をさしている人がいつまでも歩いている。
思えば、傘をさす文化がある国に久しぶりに戻ってきた気がする。国によってはちょっとくらいの雨であれば傘なんてささない場所もあった。やはり僕は日本にとても近い場所にいるのだなぁと思う。
そうして昼過ぎの14時まで作業していたのだが、雨はやっぱり上がらなかった。
僕は淡水でバスキングをするのを諦めて台北市内へ戻ることにした。その時、駅で路上似顔絵師を二人見つけた。
校内とも校外ともつかない微妙な場所でブースを設けて絵を描いている。自分の作品の写真がいくつも貼り付けられており、そのどれもクオリティが高かった。彼らもまた漫画的な似顔絵を描くようだ。僕なんかよりもずっとレベルが高い。職業的な似顔絵師と言ったところだろう。
それでも、僕は彼らに負い目なんて感じずにやるしかないのだ。そうやるしか。ただし、台湾でバスキングをやらせてくれるかは別の話なのだが…。
淡水線に乗って向かった先は「中山駅」という台北駅から徒歩で行ける場所だった。そこを目指した理由は「DAISO」があるからだ。
僕は似顔絵で描く紙をここで調達している。
茶色の薄いスクラップブックは39台湾ドル(135円)で売られていた。これも日本よりほんの少し高いくらいだ。ニュージーランドやオーストラリアがなんであんなに高かったのか?この違いはどこから生まれてくるのだろうか?日本では安物扱いされるユニクロもここではメイドイン・ジャパンのブランド物だ。
僕は30ページのスクラップブックを二冊とA4のカバーをいくらか仕入れておいた。
レジは混雑しており、二人の手人が客をさばいていた。
僕は小銭を受取るのがめんどうだったので(それに後ろもつかえていたのので)つり銭を受け取らずに店を出ようとすると、わざわざ店員に呼び止められた。まるでレジ金が合っていないと彼女達に迷惑でもかかるかのような呼び止められたようだった。
なんだかそんなところまで日本じみているのがちょっとおかしいね。
画材を仕入れると、僕は別のバスキングスポットにも足を運んでみることにした。天候は小雨で、人々はどこか急ぎ足のようにして歩いている。
「西門(xiemen)」と呼ばれる場所はなんだか日本の渋谷や原宿のような繁華街だったが、やはり天気の悪い日には人通りもまばらだ。
ギターを持ったおじいさんを見かけたが、彼も路上演奏なんてできていなかった。
うん。雨が降るとね。キツいよね。
僕は結局何もできずに西門の近くにあるモスバーガーでコーヒーだけを注文して時間を潰した。
台湾にはいくつもWi-Fiがあるけれど、どのどれもが電話番号を必要とする。登録すると、自分のスマートフォンにテキストメッセージでパスワードが送られてくるっているわけだ。
唯一使えるのが「WIFLY」というWi-Fiなんだけど、30分おきにログインしなおさなくちゃならない。まぁタダで使えるのは有り難いけどね。
今日は川沿いで野宿することにした。
川沿いは人も少なく絶好野宿スポットのように思われたがーー…
テントを張る場所探していると、
何か黒い物体が僕の視界の端に入った。
ふと顔をこちらに向ける。向こうも僕の存在を確かめるようにこっちを見ている。
そこに何がいたって?
野良犬さ。
台湾には野良犬がいるのだ。
僕は屋根のある東屋の下にテントを張ったんだけど、夜中野良犬がテントに近づいてきた時はビビったね。
野良犬のシルエットライトがライトに照らされててテントの内側に映し出された。
僕はテントの中で息を潜めて、それはまるでジュラシックパークのワンシーンみたいだったよ。
コメントを残す