3月23日/日本、鳥取
山間の町、日野町。
朝はちょっと寒い。僕の日本にいた時の記憶が思い出される。
もしここが実家なら間違いなく二度寝していただろう。布団のぬくぬくが気持ちいい。
だけれども、8時になると布団から這い出した。
ちょっと思うのだけれど、体には適度なストレスを与えることは逆にいいとされているよね。筋肉だって、鍛えないと衰えていくし、甘やかされると「ゆとり」とか言わてしまう。
布団から出る時だって、もしかしたらそうなのかもしれない。
そりゃ、布団からでる前はキツイよ。ここから出て行けば、僕の体は冷気に包まれる。
『うぅ… できることなら、もっと暖かくなってきてから布団の外に出たい』
たぶん、君ならそう思うだろう。
だけど、さっきも言ったように、体には適度な負荷をかけていかなければいけないんだよ。それに人間は順応する生き物だ。最初はちょっとキツいかもしれないけど、徐々に慣れていくはずだ。

これがあの「おしどり夫婦」の、おしどりか!
まぁ、今日も僕はそんな風にくだらないことを考えながら外に出た。
ハヤトは好きなように過ごしていいとは言っているけれど、それでも僕はハヤトに生活のリズムを合わせたい。仮にもホームステイさせてもらっているわけだしね。
ここは鳥取県。相棒のまおがリスペクトする男の家に僕はやって来ている。
ハヤトは自分のことを「情報の横流し屋。パイプ役」だと言っている。
あまり詳しい仕事内容は聞いてはいないが、「iPhoneさえあれば仕事ができる」らしい。
昨日もそうだったけれど、区役所なんかに足を運んだり、地域おこし協力隊関連の書類を書いたり、まぁ、見ているだけでも色々と忙しそうだ。
僕も机と電源さえあれば、何かしらの作業ができるので、ハヤトが忙しいことについては何も気にしなかった。あと欲しいものがあるとすればWiFiだろう。
それを聞いてハヤトは僕を町の公民館に連れて行ってくれた。
中には小さな図書館と「おしゃべりカフェ」という週二で開かれている出張カフェが営業していた。赤十字で働いているおばちゃんが二人がカウンターの向こう側で元気に動き回っていた。

ごめん..これ、写真を後で撮ったんだ。
公民館にいるのは地元のおじいちゃん、おばあちゃんたち。
ハヤトが彼らと仲良く話している姿を見て、僕はこれがハヤトが2年かけて作ってきた関係性なのだなと思った。地元の人に愛されるワカモノ(移住者)。なんかいいよね♪
カフェで提供されているのはドリップコーヒーで味もしっかりしていた。何より100円という安さだった。まったく日本の値段設定には毎回驚かされるよ
僕とハヤトはそこで一杯のコーヒーをそれぞれ注文するとテーブル席に着いた。忙しいのに僕にちょっとでも付き合ってくれるハヤトの優しさを感じる。
コーヒーと一緒に小さなチョコレートやクッキーがついてきた。僕はこういうのに目がないのだが、ハヤトは「おれは食わないから」といって、僕に自分の分をくれた。僕は久しぶりにお菓子を食べない人間に会ったような気がした。
ハヤトは小さい頃、せんべいやお茶を飲んで過ごしたらしい。ばあちゃんからの影響だとも言う。
今はこうして「甘党」を公言している僕だけれど、果たしてこれがなんの得になるのだろうと考える。まぁ、確かに、お菓子好きの女のコと会話は弾むかもしれないけど、そんなシチュエーションなんてあまりないし、なにより問題は虫歯だ。なんでったって人間の歯は一度きりしか生え変わらないのだろうと思う。三度だっていいんじゃないか?
まぁ、そしたら歯の強制はむっちゃ困るし、前歯のない芸能人とか出て来ちゃうけどな。
ハヤトには17時にここに迎えに来てもらうことにして僕たちは別れた。
のんびり過ごしていたら時刻は12時ジャスト。僕もしっかり作業しないとな。
ブログを書いたり、漫画を描いたりする時はやはり一人の方が効率がいい。日記なんてまさにそうで、周りに人(得に友達)なんかがいると、とてもじゃないけど、文章が書けない。僕はそういう人間なのだ。
そして変な話、完全に周囲に誰もいないと、怠けてしまうことが多くなるのだ。一番最初にも書いたけど、適度な負荷は大事ね。だからカフェとかだととても作業がはかどるのだ。
別に職業として文章を書いているわけじゃないけど、やっぱり「ノリ」はあるんだよね。うまい具合にノれると、スラスラとキーボードを叩ける。
17時少し前にハヤトは公民館に迎えにきてくれた。
この日はひたすらブログを連投していた。予約投稿なんてクソ食らえだ。一体このクドクドしたブログが連投された場合誰がどんな風に読むのだろう、なんて気にならなくもない。
ハヤトの車の後部座席にはおとといのイベントで使われたDJ機材が詰め込まれていた。
家に帰る前に区役所に向かった。
ハヤトはここでフライヤーを作るための写真資料をもらいに来たようだ。

鳥取のシャンクス。
カウンターには机が並び、職員たちがそれぞれにパソコンに向かったり、紙に何か書きこんだりしている。
みんな同じような服を来て、見ているとどこか真面目な雰囲気が区役所には漂っており、あまりワクワクしない。
むしろ息苦しさや退屈ささえ感じる。好き好んでわざわざ来るような場所には思えない。私服でいる僕たちの姿が浮いているように感じた。
「これがアメリカとかだったら、どうだろう?」
と僕は考えてしまう。こんなふうにドレスコードにとことん従順するようなことはしないのではないだろうか?
というかね、失礼ながら僕は思ってしまうんだけれど、職員さんたちの服装の中に上下ねずみ色のユニフォームがあるんだけど、
あんなダサいユニフォーム着させられたら仕事の意欲も削がれちゃうんじゃないかなって思う。
適度にドレスコードを守れば、その範囲内で好きな服を切れるんだったら、働いている人間も楽しくなるんじゃないかな?
今自分が思ったことをハヤトに伝えると、彼は「隣町はモンベルを着てるよ」と教えてくれた。あぁ、そういうのならいいな♪
ハヤトが用事を済ませると、僕たちは車に乗って晩御飯を買いにスーパーへと向かった。
昨日買った食材と野菜スープの具が少し残っていたので、今日はそれを使ってカレーを作ろうという話になったのだ。
実は僕、カレーなんて作ったことがない。
いや、小学生の時の家庭科の時間なんかで作ったんだろうけど、そんなのこれっぽっちも覚えていない。え?野菜切って、ルー入れるだけでしょ?
材料を揃えて家に帰ると、僕はさっそく料理に取り掛かった。
今日はゲストが来るのだ。

僕が料理を作っている間、ハヤトはDJをしてくれた。
2000枚のレコードから選曲し、ナイスな曲たちが古民家に充満する。
ミラーボールの下には懐中電灯が置かれており、ミラーボールが揺れるとキラキラと光が反射した。ふすまの紙に光が当たると、それが夜桜みたいに見えた。
僕の方はというと、料理も楽しめるようになってきた。
年をとるとは不思議なものだ。なんだか旅に出て、自分のことができるようになってきた、気がする。掃除とかはわかんねーけど。
確かに僕はこの旅の中で何かを培ってきたのだ。旅という生活の中で、それにあった暮らしを確立してきた。常にあちこちを移動しながら、住む場所を変え、食事も変えていった。
今は料理をすることが楽しい。
「切って」「煮る」ことしかできないけど(笑)

コンロは片方しか使えないの。

これって、カレーじゃん!
「みさ、20時半にくるって」
ハヤトはそう言った。
「りょうかい。じゃあ、そろそろ米炊くわ」
みさがハヤトの家にやって来る。それは僕をワクワクさせた。ごみゼロナビゲーションの仲間に会えるのだから。
世界一周への旅立ちを見送ってくれたみさ。アイツはこの三年でどう変わったのだろう?
キッチンに立っていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
「お〜!みさ!」なんて顔を出すと、「お〜!シミ!よく帰ったなぁ〜!」と、おっとり、ちょっとイントネーションにクセのあるいつものみさが迎えてくれた。変わってなくて、ある意味安心した。
僕が作ったカレーの方はうまくいった。
自分一人で初めて作ったカレーなのに、めちゃくちゃ美味しかった。まぁ、ルーを入れるだけなんだけどさ(笑)。
やっぱり自分で作った料理が一番美味しいのかもしれない。
いや、違うな。誰かのために作った料理だから、美味しくできたのかもしれない。

ここはどこのゲストハウスだっっ??!!
食卓に缶ビールが並ぶ。スピーカーから音楽が流れる。ミラーボールが揺れる。
昼間とはだいぶイメージが変わる。まるでここはおしゃれなバーか何かだ。
そこで食べるカレーと味噌汁がどれだけ美味いことか。

最高でしょ?
みさはしっかりと、寝袋と歯ブラシを持参していた。
ハヤトの家に遊びに来ると、だいたいこの流れなんだそうだ。まぁ、この居心地の良さだ。気持ちはわかるよ。それにハヤトも面白いもんな。
ハヤトは「今日は楽しいから仕事はいいか〜♪」なんてゆるいことを言っている。奥さんと生まれたばかりのコウタくんが、北海道に行ってしまっている今、ハヤトは家に一人。だからきっと嬉しいんだろう。
うん。今日の夕方は「みさが来てくれてよかった。おれはその間仕事してるよ」なんて言ってたのにね。まぁ、そんなもんさ。おれでもそうするよ。
今後、この古民家はゲストハウスとしても機能するそうだ。
もしこのブログを見ている人がいたら、絶対に泊まりに行った方がいい。マジで面白いから。
居心地の良さは空間づくりがうまくできているかによる。
「空間とは何か?」最近よくそのことを思う。音楽だったり、匂いだったり、そこにいる人間だったりと、空間を構成する要素はさまざまだ。間違いなくハヤトの家には僕の好きなものが詰まっている。
食事をとると、僕たちは外に出た。
空には満月が浮かび、くっきりと夜空を明るく照らしていた。いつも以上に空が綺麗に見えた。
ハヤトの家のすぐ近くを流れる川を渡り、僕たちは散歩した。
ハヤトが唐突に言う。
「人間ってこのまま進化し続けたら、月まで行っちゃうのかなぁ?想いを月まで届けられたらすごくない?」
なんて、ちょっとスピリチュアルなことを口にした。思念だけ離れた場所に飛ばすってこと?
僕は橋の上で喋るのをやめて立ち止まった。
足元を流れる川の音が聞こえる。胸いっぱいに夜の空気を吸い込むと、肺の中がひんやりした。
いい夜だ。
こんな風に暮らすのもアリだよな♪

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