「ナイト・ハイク(ってかトレッキング)」

世界一周537日目(12/17)

 

 

起こ

された時には
3時間が経っていた。

窓の外に物売りたちの姿が見える。

どこかゾンビのように見えた。

 

 

彼らの服装から
外がかなり寒いことが分かった。

バンのドアを開けると冷気が吹き込んできた。

このままバンの中でヌクヌクと
眠っていたいところだけど、

もちろんそのために
わざわざここまで来たわけじゃない。

 

 

 

ここはエジプト、ダハブから
西に来るまで三時間走った場所に位置するシナイ山

 

 

 

 

 

シナイ山はモーセが
十戒を授かった場所らしい。
聖書に書いてある。

僕の大学はキリスト系だったので、
一般教養の授業でモーセを題材にした
ディズニーの映画を見た。

モーセっつたら杖で「バーン!」と
紅海を割るおっちゃんだよ。
イスラム教では予言者って扱いらしい。

来る前に十戒について調べてきたんだけど、
どうってことない10の教えだった。

両親を敬いなさいとか、嘘をついてはいけないとか、
殺しはダメだとか、私以外の神を信じるなとか
そんなんだ。なんの面白みもない。

 

 

 

我々は「観光地」に弱い。

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そこが西に「世界遺産」だと聞けば、
わざわざバンで数時間かけて向かい、

東に「ジブリの舞台になった場所」と聞けば
お金を惜しまずに交通費を払う。

 

 

『まぁ、せっかくここまで来たんだから、
シナイ山くらい行ってみようか?』

という気持で僕はここにやって来た。

モーセなんて名前しか知らないに等しいし、
これと言って、シナイ山に思い入れがあるわけではない。

 

 

 

「うおぉぉーーーーーっっ!!
星キレーーーー!
やべーーー!
超さみぃぃぃいいい!!!」

 

 

 

テンションも高い(笑)。

 

 

 

いっつもくだらないこと言って
マサトさんを笑わせているのが僕だ。

きっとマサトさんは内心では
僕の冗談にうんざりしているに違いない。

ほんとうに心の広いお方だ。

 

 

 

 

シナイ山に登る前にトイレを済ませておくことに。

麓のトイレはなんと2ポンド(34yen)もした。

ディープ・ブルーの宿泊客の中では(特に僕とマサトさん)

「1ポンド=クロワッサンひとつ分」

で考えられている。

宿のすぐ近くのガザラ・マーケットというスーパーで
1ポンド(17yen)の格安クロワッサンが売られているのだ。

マサトさんはここに来るのに、
10個もクロワッサンを仕入れて来た

トイレに行くのを我慢すれば
2個クロワッサンが買えることになる。

僕たちがこの2ポンドを高いと感じてしまうのも
理解できたのではないだろうか?

 

 

 

 

シナイ山には電灯なんてないに等しい。

今から日の出に間に合うように
真っ暗な山道を登るのだが、そこにはガイドがいる。

僕たちのガイドは名前は忘れてしまったが、
アラブ語で「金曜日」という意味の名前のヤツだった。

「ミスター・フライデーさ!」と彼は自己紹介した。

なんだか週刊誌でスッパ抜きしそうなヤツだが、
そのテンションの低さでは良い仕事はできないだろう。

 

 

 

ガイドを除いて、僕たちは10人。

なんとヨルンダン、アンマンの
マンスールホテルで出会った、
中国人のターロンがたまたまツアーで一緒だった。

 

 

「あれ?彼女と一緒じゃないの?」

「だからあの子は彼女じゃないって!」

 

 

そんな軽口を叩きながら
スタスタとナイトハイクは始まった。

 

 

写真がないのは道中が真っ暗だったこともあるし、
僕がiPhone(4S)で写真を撮っているからってのもある。

 

 

 

 

みんな各々にライトを持っているため、
足下を照らすことができたが、
ガイドのフライデーは
ほとんど手ぶらに近い状況だった。

彼はここでガイドの仕事を10年以上してるらしい。

そのくせ僕と同じ25歳。

来年には結婚するらしい。

これ以外に仕事はしていないとのこと。

え?じゃあガイド終ったら暇じゃん!

 

 

5年前はツアー客でいっぱいだったようだが、
今はツアー客は減少傾向にあるようだ。

 

 

「てかライト持たないで見えるの?」

「まあな。
なければケータイのライトを使うよ。
それよりツアー客が持ってるから大丈夫だろ?」

 

 

中国人のターロンにいたっては
強力なヘッドライトを装着していた。
僕もiPhoneで照らす必要がなかった。

 

 

シナイ山の地面はデコボコしていて、
おまけにラクダのフンだらけだということが分かった。

時々ラクダを連れたエジプト人とすれ違った。
てっぺんまで10ドルで連れて行ってくれるらしい。

ここが日本だったら安いと感じるのに、
エジプトだと高く感じてしまうから不思議だ。

 

 

 

 

フライデーのヤツはガイドのクセに
かなり早いペースで山を登った。

僕たちは石にけっつまずきながら進んで行くのに対して、
フライデーは歩調が乱れることはなかった。

頂上までは2時間半かかるらしい。

バンを降りた時にはあんなに寒かったのに、
30分も歩くと汗をかくようになった。

 

 

 

 

道を半分まで行った所で途中に
休憩所を兼ねた売店があった。

売っているものは水やお菓子だったが、
こういう場所で買うと高いのは
観光地だったらどこも一緒だ。

一番早い僕とターロンが長い時間休めて、
一番遅い女のコたちの休憩が短いという
負のスパイラルだった。

 

 

 

 

5分くらい休憩して、再び山登りは始まる。

相変わらず辺りは真っ暗。

なんとなく山の輪郭だけが見えるだけ。

夜空には星が輝いている。

 

 

 

 

 

ツアーメンバーの中に
小学生のユウタロウくんとお父さんがいた。

お父さんは新婚旅行でダハブに立ち寄ったらしい。

そして今、時を越えて息子さんと
エジプトを旅している。なんとも素敵なお父さんだ。

二人は栃木県の那須に住んでいるらしく、
お父さんはペンションを経営しているらしい。

今はオフシーズンというこもあり、
日本に奥さんと娘さんを残して
ユウタロウくんと二人旅をしている。

ユウタロウくんはサッカー大好きの割には
読書も好きという文武両道の男の子で、
中でも歴史が好きなのだとか。

 

 

「日本の歴史だとどこら辺が好きなの?」

「東京裁判かな?」

「あのA戦犯が裁かれたとか言う?」

「そうだね♪」

 

 

ちなみにユウタロウくんは

11歳だ。

 

 

サッカーもやっているだけあって、足取りは軽い。

先頭を行くフライデーや僕とターロンにも
難なくついてきていた。

 

 

休憩場代わりにしている売店は
山を登るにつれ頻繁に見かけるようになった。

歩き始めてから2時間ほど経ったところにある売店で
ユウタロウくんが
「カップラーメン食べてーなー」とか言い始めた。

この寒空の下でカップラーメンを食べたら
さぞ美味いだろということは想像できる。

 

 

ユウタロウくんは背負っていたバッグから
取り出したのはカップラーメンだった。

お湯さえ手に入ればカップラーメンが食べられる。

 

 

「よし!じゃあお湯がもらえるか訊いてみようか?」

僕とユウタロウくんは売店のおっちゃんに
お湯がもらえないかと訊いてみたのだが、
10ポンドをよこせとおっちゃんは言ってきた。

お湯を作るために沸かす水も水道水ではなく、
ミネラルウォーターだろう。
ここまでそれを運ぶのにコストがかかるのは分かる。

が、10ポンド(168yen)は高過ぎやしないだろうか?

 

 

僕たちは一度諦めた。

何でカップラーメンが20ポンドでお湯タダなのに、
お湯だけで10もすんだよ?

 

 

「あー、キャラメルと交換してくれないかなぁ~?」

「何?キャラメル持っているの?
もっかいトライしてみよう!」

「ねぇねぇおっちゃん!
ここに日本製のキャラメルがあるんだけどさ、
これ2コあげるからお湯くれない?」

「んんん?
これはー…???」

「おいしいよ?
なんてったって、
メイド・イン・ジャパンだらね!」

 

 

おっちゃんの目に揺らぎを感じ取った僕は
キャラメル2コにトドメの1ポンドを加えた。

すると横から英語の喋れる別のおっちゃんが登場して、
ワーワー金がどうのこうのと横槍を入れ始めた。

さっきまで揺らいでいたおっちゃんも
「キャラメル全部よこしな!」とか
強気になる始末。くっそぉ…。

 

 

「アイツが邪魔しなければ、
お湯もらえそうだったのになぁ~」

ユウタロウくんはそう呟いた。

 

 

 

 

 

最後の休憩所に着く頃には
東の空がかすかに明るくなってきた。

最後の休憩だけあって、少し長い時間をとっている。

あとどれくらいで頂上に着くのだろうか?

てかこれ日の出に間に合うのか?

 

 

「ねえ、あとどれくらいで頂上につくの?」

「ん?40分くらいかな?
あ、おれ、ここで待ってるから。
頂上までは君たちだけで行きなよ?」

 

 

「ふざけんなよぉぉぉおおおお~~~~!!!」

 

 

 

マサトさんがそんなことを
言っちゃうくらいだから、
よっぽどここの日の出を楽しみにしてきたのだろう(笑)

マサトさんはバッグを背負うと、
他のツアー客ガンガン抜かして山道を登り始めた。

遅れを撮らないようにと僕もそれにつづいた。

 

 

 

だが、40分どころか

“3分”で

頂上に着いた。
まさにどんぴしゃりの状態だった。

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もう少しで日が登る。

はぁはぁと息を切らせながら、
東の空から太陽が昇ってくるの
をただじっと待った。

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隣りでお調子者のエジプト人が
スマートフォンからガンガン音楽を鳴らして
雰囲気ぶちこわしだったので、

英語で「ボリューム絞ってくれない?」と言っても
「え?おれ、英語分からないんだけど?」
みたいに返してきやがった。

 

 

「だ~か~ら~!」

耳に手を当てて「ウルセェェェエエえ!!!」と
ジェスチャーをしてようやく音楽を垂れ流すのを
阻止することができた。

これはヨーロッパでバスキングしていた時に、
時々やられたジェスチャーだ。
まさか自分で使うとは思わなかった。

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太陽

は思わぬ場所から現れた。

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山の一部だと思っていたのは
薄く張った雲海だった。

みんなで驚きの声を出しながら写真を撮った。

一緒に来たダイキさんは
折りたたみの三脚でベストポジションから
太陽を迎え撃つ。

トシさんはごっついレンズのついた一眼レフで
何枚も写真を撮りながら
「これ、全然いい色が出せないわぁ~..」と呟いている。

他の人もコンデジやら一眼レフやら
iPhone6なんかで写真を撮る。

僕はもちろん三年以上使ったiPhone4Sだ。

逆にこの粗さ。よくなくない?

 

 

 

別にここがスピリチュアルな場所だとか、
そうじゃないとか、まぁ実際のところ
どーでもいいんだよ。

ただ、目の前にすっげー綺麗な朝日があれば、

 

 

 

『ここに来てよかったな..』

 

 

 

って思えるのだ。

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来た道

を通ってシナイ山の麓まで降りた。

太陽の登ったシナイ山は来た時とは
まるで印象が違った。

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回りは見渡す限り岩山で、
自分たちがこんな場所を登って来たことが
イマイチ実感できなかった。

相変わらずフライデーの足取りは早く、
彼について行くと、女のコたちは
どんどん離されていった。

 

 

 

麓まで降りるころには
巻上る砂でブーツが真っ白になっていた。

 

 

麓近くのオルトドックスの教会を見学したが、
山頂で観た朝日に比べると物足りなさを感じた。

モッサモサした猫がかわいかったことくらいだろうか?

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ダハブに帰るバンが出るまで
一時間の時間があった。

昨日の夜に出発し、ここまで来るのに
3時間も寝ていなかった僕らは、
外のカフェやバンの中で眠った。

走り出した車の中でもそうだった。

外の風景なんてこれっぽっちも見ていない。

見たってどうせ荒野が続いているだけだ…。

 

 

 

 

ダハブに着くとどっと疲れが押し寄せた。

もう今日一日やり切った感じになる。

観光も疲れるのだ。

なんとも贅沢なこと言っているけどね。

 

 

ある者はすぐにベッドに入り、
ある者は生気が抜けたようにぼっとし、
ある者はグダグダとパソコンをいじる。

僕もそうだった。

読み残した「夜は短し歩けよ乙女」を読み終わり、
ちょっと幸せな気分になった。

そして日記もかかずに漫画を読んだりして
グダグダと残りの時間をやり過ごした。

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23時にはベッドに直行し、ストンと眠りに落ちた。

 

 

ここはダハブ。沈没者のパラダイス…。

 

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シナイ山から帰ってきてからの腑抜けっぷりがなんとも言えないっすね。

こんな沈没日記読んでいて面白くもなんともないことでしょう。
マジでこっからやること無くなってきますからね。

ははははは!ごめん!

 
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