「真夜中のヒッチハイカーズ」

世界一周371日目(7/4)

 

彼は僕より
早く起きていた。

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「もし明日起きられなかったら、
僕が叩き起こしてあげるから」

と早起き宣言してベッドに入った前日26時。

サジュークはボクサーブリーフ一枚の格好で目覚めていた。
一時半前には起きていたらしい。

そんくらいの早起き根性があるなら
おとといのテストだって間に合ったろうに…。

 

 

ここはトルコ、イズミル、
クルド人サジュークのシェアルームに
転がり込んで3日目。

今日こそはイスタンブールに向かうぞっ!

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サジュークは引っ越しの準備もあるので、
部屋の掃除ばかりしていた。

掃除機をかける音がさっきからずっとしている。

僕はインスタントコーヒーをお供に
パソコンのキーボードを叩く。

まぁ、やるべきことはあるのだ。

サジュークの出発の準備が終わるのを待とう。

 

 

 

だが、いつまで待ってもなかなか出発する気配がない。

これってもしかして
「明日に延長」のパターン??!!

その間にご飯を食べたりして
ようやく出発の準備が整ったのは
13時をまわってからだった。

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ちょっ!サジュークさん、マイペース過ぎ!!!!

 

 

 

いや、僕がせかせかし過ぎなのかもしれない。

出発の時間が1時間遅れてしまっただけで、
何かミスをしたような気持ちになってしまう。

それも僕が日本の時間が
きっちりかっちり定められた生活の中で
暮らしてきたからだろう。

日の出ている時間の長いトルコ。

それに今一緒にいるのは
スローフローなギター弾きのクルド人。

まったり生活するのもいいじゃないか。

 

 

 

僕たちはのろのろ街に繰りだした。

ほどよく雲が浮かんでおり、
太陽に覆い被さると涼しい風が吹いた。

「おれはこんな日を待っていたんだよ♪」

と呑気に言うサジューク。

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その後もなかなか街から抜け出そうとしない。

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ルームメイトのアーシャに
家の鍵を預けたり(先にやっとけ!)、

歯医者に行ったり(今じゃなくてもいいだろ!)、

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友達のカフェに顔を出しにいったり、

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カフェに挨拶に行ったり
(一体いつになったら出発するんだい??!!)

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気づいたら夕方5時。

これでイスタンブールまで
ヒッチハイクできるのか???

 

 

 

 

 

 

「よし!
行き先を書いた
ボードを書こう!」

中国、イタリア、ギリシアを
旅したことのあるサジューク。

ギリシアの旅に至っては
バスキングだけで旅をしたらしい。
かかったお金はゼロ。すげえ。

旅の先輩の言うことに従い、
段ボールに「ISTANBUL」と書いた。

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そして、カフェの友人たちに別れを告げ、
メトロに乗り込み街のはじっこまで出る。

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イスタンブールへ向かうヒッチハイク。

親指を立てた場所はガソリンスタンドの少し手前。

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幹線道路の脇に立てられたガソリンスタンドには
別の道から車がスピードを落として入ってくる。

車も止まりやすいだろうという狙いだ。

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「ちっ、あれはガソリン入れに来たトラックだったか」
ヒッチハイクすると車の反応をうかがうために振り返ります。

 

 

 

しゃ~~~!!!ガンガン行くぞ~~~!!!

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「いすたんぶ~~~~~るぅぅぅ~~~…!!!」

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「と、止まったか???!!!」

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「ちくしょう!次だ!」

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「いすた~~~~ん…」

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「ブロォォォォーーー…」

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もしかしてこれ
止まらないんじゃないか?

車が通過したり、速度を落としたり、
ウインカーが光るたびに僕らは振り返った。

ほとんどの車はそのまま幹線道路へと入っていったり、
ガソリンスタンドに来た車だ。

これじゃあ乗せてくれる車なんて
見つからないんじゃないか???

 

 

「いすた~~~ん…!!!」

「おっ!!止まったぞ!」

 

 

ガソリンスタンド手前で止まってくれた
一台の黄色いトラック。
すかさずサジュークが交渉に入る。

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「やった!ラッキーだ!
手前のブーサまで行くトラックだよ!
そこからうまくいけばフェリーボートに乗れるよ!
そしたらイスタンブールさ!」

 

 

ガソリンスタンドで運転手さんに
お礼のジュースを買い込んでカップを三つもらった。

ガソリンスタンドでは小さなビニールカップがもらえる。

そして僕らはトラックに乗り込んだ。

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もちろんトラックのドライバーに
ラマザンなんて関係なかった。

イズミルに住んでいる引っ越し業者さんらしく、
荷台を空けたトラックをブーサの街まで
走らせるというところだった。

ということはこのドライバーさんも
今から出発するところ。ラッキーだ。

彼はジュースに気を良くしたのか
「もし、お腹が減ったり、トイレに行きたくなったら
遠慮なく言ってくれ」と言ってくれた。

 

 

 

途中の道で僕は何度か眠気に襲われた。

だけど、ヒッチハイクで車に乗せてもらった以上、
極力寝たくないのが僕だ。

窓を開けるのはもちろんのこと、姿勢を変えたり、
余興がてらにハーモニカを吹いたり、
iPhoneからFoster the peopleのファーストアルバムをかけて
頭を揺らしたり、まぁいろいろ眠気に
打ち勝つために頑張ったわけだ。

サジューク隣りで寝てたけどな!!!

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途中ご飯休憩を挟んで再びトラックは走り出す。

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ブーサに着く前に
日はすっかり沈んでしまった。

ドライバーさんが僕に何か喋る。

英語の喋れるサジュークがすかさず翻訳してくれる。

 

 

「あはは。また同じこと言ってる。
「メシも寝床も出すから
俺と一緒に来ないか」だって。」

「~~~!」

「はははは!」

「なんだって?」

「『毎日女も買ってやる』だってさ!
シミ!彼について行くべきさ!」

「ははは…」

 

 

意外とエロトークが好きらしいおっちゃんは
僕をしつこく勧誘してきた。

なんだかボディタッチも増えた気がする。

ぼ、僕のカラダが
目当てなのかっっっ!!!!

 

 

なんかジェスチャーから
「おれはオトコもいけるんだぜ?」
言ってる気がしてならない。

ドライバーと助手席のサジュークに挟まれて座る僕は
ただただ苦笑いするしかなかった。

それはなかったにせよ、
「女を買ってやるぞ!」と売春婦が立つスポットに
車を走らせた時にはマジで引いてしまった。

 

 

「おいおいどうしたんだよ?
彼は冗談で言ってるんだよ?
だいたい男なんてこんなコミュニケーションをとるだろ?」

「いや、わかってるけどさ。
僕はこういう話がさ、
その、得意じゃないんだ」

 

 

「だからといって、
シャットダウンしてしまうことはよくないぜ?

おれも昔はもっと奥手だったんだ。
だからそういう話には関わらないようにした。

そうするとどうなったと思う?
最初は話しかけてくれたヤツらが
だんだん話しかけて来なくなって、
いつも間にか自分一人になった。

それから自分のスタンスを変えたんだ」

サジュークの言ってることは理解できた。

だけど、なんとも言えない心境だよ。

 

 

 

 

 

 

 

トラックを
降りたときは

23時を回っていた。

 

 

「これからどうする?」

「もう時間も遅いし野宿じゃない?

えっ?
もしかしてヒッチハイクするつもり?」

「Why not?(もちろん!)」

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僕のマップアプリで現在地を確認し、
ブーサまでの幹線道路まで歩く。

 

「うわぁ、見てごらんよ。
チキンだ。シミ写真に撮ったら?」

「うん。そーだね。」

 

 

大量のニワトリを乗せたトラックは
僕が写真を撮ると、
それを待っていたかのように車を発進させた。

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幹線道路の少し手前で
イスタンブールと書かれた段ボールを掲げた。

こんな時間に車なんて止まってくれるのか??!!

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運転席から僕たちの姿が見えているのかさえわからない。

こんな時間帯でも交通量はあったが、
何台もトラックが僕たちの脇を駆け抜けていった。

時々トラックが止まったが、行き先が違ったり、

ただ、一時的に止まったりと、希望はないように思われた。

 

 

「あぁ!なんでったって止まらないんだ!!!」

「ムリだよ!ムリ!ちくしょー!止まれ!」

 

 

真夜中のヒッチハイク。

成功の見込みなしかと思われた30分間だったが、
一台のトラックが止まった。

 

よっしゃーーー!と荷物をまとめて駆けていく僕たち。

これでようやくイスタンブールだ~~~!

 

 

「ラッキーだ!
このトラックはイスタンブールまで行くよ!
それに乗ってる積みにはなんだと思う?」

「え?」

「チキンさ。
こっちのはもう死んじゃってるけどね」

「はっはっは」

 

 

ドライバーさんは静かに、淡々と喋る人だった。

聞き役をサジュークに任せて、
残りの3時間のドライブを僕は爆睡。

信条もクソもへったくれもない。

トラックはブーサを抜けマルマラ海を
反時計に回るようにイスタンブールへ走った。

途中の道でトラックを降ろしてもらい、
向かった先はサジュークの両親の家だった。

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や、だって、焦るっしょ?
「女買ってやる!」ってつれてかれても。
誰とでも仲良くする必要は無い。
苦手なことを無理に合わせる必要も。

そりゃ僕だってエロですけど、
適度なエロですよ。ええ。そうですとも。

 

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