「デンバー」

世界一周674日目(5/4)

 

 

「ちょっと!
誰かいるの!」

 

 

僕は外にいるのがどんな人間なのか、
声の調子から一瞬で判断することができた。

すぐに上体を起こし寝袋を剥ぐとテントの外に顔を出した。

ライトが顔に当たる。
眩しくて目が開けられない。
目の上に手を当てる。

 

 

 

「ここでキャンプしちゃいけないのは分かってるの?
IDを見せなさい。あなたホームレスなの?」

 

 

強気な口調で女性警官が僕に言う。

情けない声で僕は「ノォ…(違います)」と言う。

僕はサブバッグからパスポートを取り出し、弁解するように
「昨日ここで他のバックパッカーが
キャンプしているのを見たんです」と言った。本当だ。

昨日はテントを張る場所を探すのが面倒くさかったのもあり、
中心地に限りなく近い運動場の端の方に設営した。

それがいけなかった。
面倒くさがらずに町の中心から離れるべきだった。

 

 

「あなた、ホームレス?」

「違います。バックパッカーです」

 

 

彼女は同じ質問を二回も僕にした。

 

 

 

 

 

 

 

ここはアメリカ、コロラド州ボルダー

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デンバーに行く前に寄り道をしたのだが、
警告を受けてしまった以上、ここを離れなければいけないだろう。

時刻を確認すると5時半だった。くっそ…。

パスポートをチェックし終わると、
「お金に問題があったらここに連絡しなさい」
と名刺をよこして女性警官はどこかへ去って行った。

だが、彼女の乗り込んだパトカーは少し離れたところに停車した。
きっと僕がここから去るのを見張っているのだろう。

寒さに身震いしながらテントをたたんだ。
テントは深夜に降った小雨で濡れていた。

 

 

テントを片付けた僕は、
パトカーを迂回するようにして
少し遠回りをしてガソリンスタンドへ着くと、
菓子パンとコーヒーを買って血糖値を上げて、
そのままバスターミナルへと向かった。

ここからデンバーまでは5ドルで行ける。
これならヒッチハイクする必要はないだろう。

 

 

トイレを済まし、ベンチに座ってゆっくりとコーヒーを飲んだ。

7時過ぎのターミナル内には何人かの人間がバスを待っていた。
ターミナルの片隅には警官だかセキュリティがおり、
机に向かって事務仕事みたいなことをしている。

外を見ると雨脚が強まっていた。
今デンバーに行ったところで雨の中を出歩くのはしんどいな。

僕はしばらくここで雨宿りをすることにした。

 

 

コーヒーをゆっくり飲みながら外をぼんやりと眺めた。

徐々にカフェインが脳を覚醒させ、
ようやく僕は目覚めることができたような気がした。

 

 

膝の上に旅ノートを広げ、ブログ用の活動記録を書いていると
セキュリティから声がかかった。

 

 

「君、いつになったら出発するんだ?」

「10時くらいにデンバーに行こうと思っているんですけど、
ちょっとここで雨宿りしているんです」

「今日は一日中雨だぞ。次のバスで行きなさい」

 

 

そう言われ僕はバスターミナルを追い出された。

昨日見たバックパッカーたちもこんな風にして
この町から追い出されていくのだろう。
バックパカーには厳しい町だねぇここは。

 

 

 

 

 

 

9時過ぎのバス

で僕はデンバーへ向かうバスへ乗り込んだ。

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デンバー市内では一日5ドルでバスが乗り放題らしい。
バスの運転手は丁寧にそのことを説明してくれた。

ターミナルを出ると次々に傘を持たない人たちが乗り込んでくる。
みなそれぞれに雨具を着ている。
こっちではアウトドア用の雨具が傘よりもポピュラーみたいだ。

警察に叩き起こされたせいもあり、途中からバスの中では寝ていた。

 

 

 

 

 

デンバーのバスターミナルは無機質な感じがした。

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コンセントがある柱の裏には、
誰かがタブレットに充電しながら地べたに座っている。
薄暗い室内がより一層、ソイツを陰気に見せていた。

地下にあるターミナルから地上に出ると、そこは建物に囲まれていた。

ここがサル・パラダイスが
ディーン・モリアーティに会いに来たデンバーか..。

 

 

“On the Road”の小説に登場した街だけあり、僕は興奮していた。
お気に入りの小説だからこそ、この街が少し特別に見えた。

まず最初に向かったのはpatagoniaストアの位置を確かめることだった。

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オープンが10時だったので、
僕は近くのベンチでギターを弾きながら時間をつぶすことにした。

するとどこからか小汚い
アメリカ人のバックパッカーがやってきて僕に尋ねた。

 

 

 

「なぁ、どこでマリファナが手に入るか知ってるか?」

 

 

そう。ここではマリファナを吸引することが合法化されているのだ。
それを目当てにここを訪れる旅人も多いらしい。

僕が「知らない」と言うと、彼はふらっとどこかに言ってしまった。

 

 

 

 

 

10時になると僕はすぐにパタゴニア・ストアへと向かった。

店舗規模は一番大きいかもしれない。

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店内は広々としており、
入店するやいなや、大げさにガッツポーズ。

朝から変なヤツがやって来たなと
スタッフたちが思っていることはすぐに分かった。

あー、すいません、朝から、でも、これをやらなきゃ、
パタゴニアに来たって感じがしないもので…。

 

 

カウンターの脇に荷物を置かせてもらい、
僕は一時間くらい店内を見て回った。

そこまでスタッフとの会話も弾まなかったが、
いつものようにステッカーをいただいて僕はストアを後にした。
そりゃそうだ。いつもシカゴみたいにウェルカムなわけじゃない。

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これは買いだな。ヴェンチュラまでとっておこう。

 

 

 

 

 

 

 

パタゴニア

を後にすると、
僕は街のメインストリートを歩いてみることにした。

メインストリートには無料の路面電車が走っていた。
それには乗らずにゆっくりと僕は歩いた。

 

 

すぐに僕はバスカーを見つけた。
ヒッピーみたいな女性はウクレレを弾きながら
最近のヒットソングを唄っていた。
声はハスキーだが、ロケーションがよくない。

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目の前の帽子の中には
1ドル以下のコインしか入っていなかった。

僕は隣りで卵型のマラカスを鳴らし、
ジャムセッションを楽しんだ後、25セントコインを入れ
「頑張ってね」とささやかなエールを送った。

ここではバスキングは容認されているようだった。

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メインストリートのはじまで僕は歩き、
そうして元来た道を戻って行った。

ひとつの通りにスターバックスが4軒もあるということ以外に、
面白いものは見つけられなかった。

がっかりして、
他に何か面白いことはないかと辺りをほっつき歩いてみたが、
歩けば歩くほど僕はこの街がつまらないように思えてきた。

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歩き過ぎて足が痛くなって来たので、
テントを乾かしながらベンチに座って街の地図を眺めていると
すぐ近くにマリファナショップがあることが分かった。

テントが乾くと冷やかしにマリファナショップに足を運んだのだが、
マリファナはレジデンスがないと(きっと市民登録みたいなものだろう)
買えないということだった。

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いや、パスポートもIDとして有効なのだが、
まぁ、僕には縁のない話だ。
都市型キャンパーは今朝の用に警官に目をつけられることがある。

お店のお兄さんは
「ホテルの自分の部屋で吸えばいいんじゃない?」
とアドバイスをくれた。観光客はそうするのだろう。

 

 

たまたま見つけた日本人の経営するコンビニエンス・ストアで
僕は4ドルちょっとするキムチを買って階段に座って少し食べた。

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あと二枚入りのクッキーが1ドル!

 

 

 

デンバーには期待していただけあって、
せっかく連日ヒッチハイクでここを目指しただけあって
徒労感を感じていた。

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『あぁ、もう君はここにはいないんだね。
街もあの頃とはすっかり変わってしまったよ』

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こういう時に僕はまるで小説の
登場人物の一人にでもなったような妄想をする。

そりゃそうだ。小説が書かれてから50年以上経過しているんだ。
街が変わって当然さ。

 

 

 

街の中心地にある駐車場でウサギを見つけた。
どこからか逃げてきたのだろうか?

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砂利の間に鼻を近づけ餌を探してるように見えた。

そのアンマッチな光景が今の僕の心境を表しているように見えた。

 

 

 

このままでは満足できなかった僕は
試しに路上演奏をしてみることした。

街のバスカーと言えば先ほどのウクレレを弾くヒッピーと
アコーディオン弾きくらいしかいない。

適当な場所でギターを構えたが、分かったことは
ここはバスキング向きじゃないということだった。

シャトルトレインがひっきりなしに
前を行き交うので音はかき消されてしまうし、
人々はみな僕の前を素通りして行った。

誰も音楽なんかに耳を傾けていないように思えた。
僕の実力不足ってのもあるだろう。

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1クールで2ドルしか稼げなかった僕は、
結局スターバックスに逃げ込むことになった。

タイミングよく雨が振り出した。
こうなる運命だったのだろう。少し自虐的になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

閉店まで

作業し、郊外へ出る電車を待った。

23時のユニオン・ステーションには
それぞれの家に帰る学生たちがぺちゃくちゃとお喋りをしており、
僕はもらいタバコをして気を落ち着かせた。

 

 

 

終点駅の”Jefco”周辺は何もない場所だった。

立体駐車場と、大学か研究所か
何かの施設がどんと立っているだけ。

 

 

どこでも寝れそうな雰囲気だったが、
暗がりに誰かが立っているのが見えた。

体格と服装、髪型のシルエットから
彼が黒人であることは分かった。

横断歩道を渡ろうとしているのか、
獲物を探しているのかは分からない。
こんな時間にそんな場所に人が立っているのが不可解だった。

 

 

すぐに回れ右をして彼から離れると、茂みの中に僕はテントを張った。

僕は明日、さらに西まで進もうと考えていた。

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2 件のコメント

  • はじめまして(^^)

    確かにデンバーは何もないです。笑
    多分清水さんが行かれたサクラスクエアという日本食スーパーが一番テンション上がる場所でした。笑

    ただ、一年間ボルダーに留学していた私にとって、デンバーもボルダーも本当に懐かしくて、自分の思い出写真ではないからこそ、リアルに感じられ、思わずじーーんときてしまいました。勝手に懐かしんで感動して、何なんだと思われるかもしれませんが(笑)、、、ありがとうございました。

    • >まえまえさん

      あ〜〜〜、そうでしたか。
      てっきり『何か見過ごしちゃったんじゃないか?』
      と思っていたので安心です。何もなかったか…。
      でも、ボルダーは好きでしたよ。警察厳しかったけど。

      僕はセブンイレブンでチョコチップコッキーが
      二枚入りで1ドルだったのにテンション上がりました。

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    ABOUTこの記事をかいた人

    「旅する漫画家」。世界一周後(2013-2016)、現在は海沿いの町に潜伏中。そろそろ旅がしたいぞ!