「シアトル行きのスペースシップ」

世界一周681日目(5/11)

 

 

アラームで

目が覚める前に人の足音を聞く。

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ランニングや犬の散歩をしだす人が現れ始めたというのは
そろそろ起きるタイミングということだろう。

清掃員のおじさんにモーニングコールしてもらうのもいいけど、
そろそろ起きるとしよう…。

 

 

 

テントから顔を出すと周りには誰もいなかった。

撤収を途中まで終え、
木に向かって立ちション養分を与えていると、

向こうから清掃員のおじさんを乗せた
緑のカートがやって来るのが見えた。

 

 

脳内で

 

 

「とっとと

逃・げ・ろ!」

 

 

と指令が響き渡る。

 

 

片付けを最後まで終えずにフライや本体を乱暴にまるめて腕に抱え、
その場から一時退却。

おじさんはもちろん追いかけてはこなかった。

バレてないバレてない。
誰も見ていないのであれば問題ない。

 

 

 

ここはアメリカ、ワシントン州スポケーン

向かうはいよいよシアトル。ヒッチハイクがうまく行けば
一発で今日中に着くことができるだろう。

 

 

公園から少し離れたところでいつものように、
テント本体とフライを綺麗に丸めて紐でしばってケースに入れた。

昨日の夜に使ったマクドナルドまでトコトコと歩いて行き、
朝のコーヒーと二枚で1ドルのクッキーを朝食代わりに食べる。

ここにいる間は栄養が偏った食事しか摂れないだろう。
それにここは出来和えのサラダなんてフツーに4~5ドルするのだ。
高くて買っていられない。

 

 

コーヒーをすすりながらリーディングリストに残しておいた
スポケーンについてのヒッチハイク情報を読むと、
この町ではヒッチハイカーに対する警察の取り締まりが
厳しいということが分かった。

そのためここからヒッチハイクする場合には
少し10kmほど離れた空港まで行き、
近くのハイウェイの入り口まで歩いて行くのがベストらしい。

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ボタンシャツがいい味に。

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そして相棒からもらったTシャツはパンクに。

 

 

 

空港までの生き方Googleのルート検索を使って調べ、
バス停へと向かった。

15分ほど待っていると空港行きのバスはすぐにやって来た。

中ではスポケーンのバスに関するアンケート調査が行われていた。

英文で書かれたアンケートを書くと、
なんだか受験生に戻ったような気持ちがした。

文字で書かれた英語の質問にグズグズしているうちに
バスは空港に到着した。

 

 

空港でトイレを済ませると
僕は歩いてハイウェイの入り口を目指した。

天気は良く、周りにはほとんど人はいない。

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ヒッチハイクポイントまでは地味に距離があった。

最初はできたばかりの「Denver」という曲を口ずさみながら
元気よく歩いていたのだが、
だんだんとバックパックが重く感じるようになってきた。

早起きしたはずがヒッチハイクポイントに着く頃には
11時を回っており、僕のTシャツは汗まみれで、
臭いを嗅ぐと変な臭いがした。

 

 

 

 

 

 

ヒッチハイク

ポイントの評価はかなり高かった。

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「5分以内に車が止まる!」と書いてあったので、
僕もそれに期待してここへやって来たのだが、

他のヒッチハイカーがうまくいったからと言って、
自分もうまく行くとは限らない。

 

 

あっという間に5分以上が経過した。

まぁ、のんびりやろう。別に今日中にシアトルまで
着けなくたっていいのだ。

 

 

ここではパトカーも素通りだった。

ワシントン州はヒッチハイクはイリーガルじゃない。
もちろんハイウェイの外であればの話だが。

 

 

 

 

 

そしてヒッチハイク開始から40分で
大型トラックが止まってくれた。

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後で撮った写真だけどね。これは。

 

 

 

アメリカのヒッチハイクにおいてトラックに乗る機会は
ほとんどないので、最初は自分のために停まってくれたのか
分からなかった。

中から男性が降りてきて「スリーダラー」がどうのこうの言っている。
乗せる代わりにお金を払えということなのだろうか?

 

 

「シアトルに行きます?」
と聞き直すと、中にいた女性から声がかかった。

 

 

「あんた、犬は大丈夫?」

「え?犬?!」

犬が僕に吠えてくる。

 

 

 

「大好きです!」

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先ほどの男性は訛りが強かったようだ。

トラックはなんとシアトル行きだった。

アメリカ横断最後の締めくくりにふさわしいヒッチハイクだ。

 

 

運転手のケイとその弟のテリーはミネソタ州出身だった
目的地はシアトルの少し先らしい。

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トラックの中はまるで「カウボーイ・ビバップ」に出てくる
宇宙船のように僕には感じた。

ダッシュボードにはいくつものつまみがあり、
トラック同士で連絡ができるように
トランシーバーがぶらさがっている。

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運転席の後ろは寝台となっているが、
そこにはテリーと二匹の犬がじゃれ合っている。

犬を乗せているため、一人が寝るのでやっとなスペースだった。

寝台のサイドの棚にはドッグフードやら
その他の犬用の洗剤だかクリーナーだかが置いてあった。

やはり犬の臭いがする。別に嫌いじゃない。

 

 

このトラックを特別なものにさせているのは、
やはり乗っている人間が面白いからだろう。

運転手のケイは宮崎駿の
「天空の城ラピュタ」に登場するドーラのようだった。

弟のテリーは訛りが酷くて何を言っているのか
さっぱり分からないのだが、見ていて面白い。

大の犬好きのようで、犬とじゃれあって
顔や胴体をバチバチと叩いていた。
(イジメているようにも見えるのだが)

犬たちはそんなテリーにうんざりしているようにも見える。

 

 

『いつの日か自分の漫画にも長距離を登場させよう!』

僕は密かにそう決心した。

 

 

 

 

カーステレオからは
テリーの好きなカントリー・ミュージックが流れる。

 

 

車内にいるのは僕たちの他に
中型犬が一匹と大型犬が二匹、合計三匹だ。

あまり犬種には詳しくないので、
その三匹がなんという種類の犬なのかは分からない。

最初は初めての人間に吠えていたのだが、
5分もしないうちに大人しくなった。

 

 

親戚の犬だという巻き毛の犬の名前はオディという名前で、
すぐに僕の膝の上に乗ってきた。外の景色を見るのが好きなようで、
ずっと外を眺めている。

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僕はオディのサラサラとした巻き毛を何度も撫でた。
「ソイツはラップ・ドッグだよ!」とケリーは言った。

一時間以上そうしていたのだが、ずっと犬が乗っていたものだから、
ジーンズからは犬と糞と尿がするようになった。

それに気づいてからはヒッチハイクのボードを膝の上に敷いて
オディを乗せるようになった。

 

 

 

大型犬のマナとルナは母親と子供の関係だった。

母親のマナはもう大分歳がいっているようで、
最初からずっと大人しかった。背中には皮が硬化していまものだか、
腫瘍だかがこんびりついていた。

反対にルナは元気があった。
後部座席でテリーのサンドバッグと化している。
あぁ、そんなにぶっ叩かなくてもいいんじゃないか?

もってりとした表情がなんとも言えない。

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こうしてシアトル行きの宇宙船は快調にハイウェイを飛ばした。

テリーはともかくケイの英語はいくらかマシなのだが、
僕の英語不足も手伝ってうまく聞き取れない。

だが、犬がいるおかげでちっとも
居心地の悪さといったものは感じなかった。

ただ犬を撫でておけばいいのだ。やっぱり犬はいい♪

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二時間

ほど経つと、トラックはレスト・エリアへと停まった。

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「あんた、私たちシャワー浴びるけど、どうする?」

そうケリーが訊ねる。

 

 

レスト・エリアには
長距離ドライバーのためのシャワーがあることを僕は知っていた。

だが、利用する機会がなかった。
まさかついにそれを使う時が来るとは!

 

 

「え?いいんですか!お願いします!」

 

 

受付でメンバーカードのようなものを提示し、キーが三本渡される。

レストエリアの施設内には個室シャワーが10部屋ほど用意さており、
僕たちは各々にシャワーを使うことができた。

シャワーを浴びれて嬉しい反面、
『これで置き去りにされたらどうしよう?』
という不安もあった。

バックパッカーは常に警戒していなければならない。
最悪の事態も想定しておかなければならない。

彼らが僕のバックパックをギターと持って先に発進してしまったら
僕は途方に暮れるだろう。

 

 

体を洗うのも早くなる。
汗を吸って臭くなった衣類を素早く石鹸でもみ洗いした。

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シャワーから出ると、もちろんトラックは停まったままだった。

中では三匹の犬が
「早くここから出してくれ!」とワンワンと吠えていた。

僕はコーヒーとチョコパイを買って
外で太陽に当たりながら洗濯物を乾かした。

 

 

しばらくするとテリーがシャワーから出てきて、
犬たちをリードにつないで散歩をさせた。

リードは一定の距離までなら巻き尺のように伸びる仕掛けになっており、
好き勝手歩き回る犬たちのおかげで、
リードが絡まらないように気をつけなければならなかった。

 

 

ケイがシャワーを終えて出てくると、
トラックはすぐには発進せずにしばらくその場に留まっていた。

書類を手に持って、ケイは会社の誰かと電話している。
「何時までにはそちらに着く予定です」とスケジュールや
数日先の仕事の確認なんかをしていた。

 

 

それが済むと、シガーソケットから充電する際に利用するプラグが
壊れてしまったようで、新品の部品と交換するのに
手間取っているようだった。

僕は助手席に座ってぼんやりしていると、だんだんと眠気を覚え、
30分ほどうたた寝をした。

 

 

起きると、二人からホットドッグをごとちそうになった。

シガーソケットに繋がったコードは
小さなクーラーボックスのようなものと繋がっており、
中にはボイルされたウィンナーが入っていた。

それをパンに挟み、
ジャム状のピクルスやケチャップ、マスタードをかければ
即席のホットドッグの出来上がりだ。

テリーはウィンナーをそのまま犬たちの口に放っていた。

窓からは心地良い風が吹き込んでくる。
こういう時間の使い方ってほんとうに贅沢だよな。

都市型キャンプをしている以上、
べつに何時にシアトルに着いたって構いやしないのだ。
急ぐ必要はないさ。

 

 

僕がサブバッグを持ってトイレに行こうとすると、
ケイは「どこにも行きゃあしないよ」と言った。

ここまで来て何か盗られてしまったらそれは
僕にも責任があるだろう。疑っていてもしょうがないよ。
だってヒッチハイクだろ?
こうなったら犬の様に腹を見せるくらいじゃないとね。

 

 

 

 

そこでどれくらい留まっていただろう?
二時間以上はレストエリアに停車していたような気がする。

トラックは重たい腰を上げ、またハイウェイを走り出した。

会話も少し少なめだ。
長距離を運転してきた二人はどこか疲れたようにも見えた。

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途中で

止まったガソリンスタンドで、僕はケイに

「どれくらいこの仕事を続けているのか?」

と質問をしてみた。

 

 

「29年さ。もういい加減リタイアして
孫と暮らしたいもんだけどね」

 

 

約30年。

一体このトラックにどれだけのストーリーが
詰め込まれているのだろう?

そしてトラックの運転手一筋で家族を支えたであろうケイからは
「凄み」のようなものが感じられた。

僕もまだまだだな。描くしかねーな。

 

 

 

 

シアトルまで残り50マイルを切った時に、

雨が降り始めた。

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「今日はどこに泊まるの?」と訊かれ、
「キャンプです」と答える。

まぁ、場所は探せばどうにかなるだろう。

だが、僕がアメリカを野宿で旅していることを知ると
大抵のドライバーたちは驚く。

油断、というか、危険もあるのはもちろん分かっているけどね。
だから寝床を選ぶ時は慎重ですよ。

 

 

そしてシアトルに着くころには雨はやんでいた。

トラックの目的はシアトルではなかったので、
せかされるようにしてトラックを降ろされた。
満足にお礼を言うこともできなかった。

 

 

トラックを降りた場所は普通の交差点で、
信号待ちが長いだけだった。

周りには高層ビルが建っており、
それが完全に暗くなる前の空にシルエットとして浮かんでいた。
窓から漏れるオレンジ色の灯りは、
僕が大都市にやって来たことを教えてくれた。

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ついにアメリカ大陸を横断したのだ。

 

 

 

使ったバスは

ニューヨークからアレンタウン(ペンシルヴァニア州)

コロンバス(オハイオ州)からインディアナポリス(インディアナ州)

の計二回。

 

 

ここまで一体何台の車に乗せてもらっただろう。

ふっと、かすかな達成感が胸の内に沸き起こったが、
それは一瞬で消えた。

僕は西海岸を旅したかったのだ。

僕のアメリカ旅の二章が幕を上げた。

 

 

 

 

ガソリンスタンドで用を足し、バナナと林檎を買った。

ブロードウェイをふらふらと歩いて行った。

空港を泊をしようかと、
ローカルな空港の方へと歩いて行ったが、
行く手をハイウェイに阻まれ諦めた。

いつも寝床の場所に選んでいる公園は遠いように思えた。

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閑静な住宅地が立ち並ぶエリアで
ほんの小さな公園とも呼べない様なエリアを僕は見つけた。
また朝早く出発すれば何も言われないだろう。

 

 

テントを張っている間に、犬の散歩中のマダムに遭遇した。

時刻は23時5分前。

マダムは僕なんかと関わり合いになりたくないのだろう。
まるで空気のように扱ってくれた。ありがたい。

 

 

 

 

 

 

 

24時を過ぎた辺りで
テントの頭の方で人の気配がした。

 

 

立ち去るのではく、僕の様子をうかがっている様子だ。

しばらくじっとしていたが、
遠くからパトカーのサイレンの音が聞こえる。

まずい警察を呼ばれちまったら
ここで野宿しにくくなるぞ!

 

 

急いでテントから顔を出すと、
そこにはセキュリティのおじさんのような人がいた。
ジャンパーに「SECURITY」と書かれているからそうなのであろう。

 

 

僕のテントのすぐ近くに
ホームレスの即席テントのようなものが出来上がっている。
おじさんはそれをどう撤去しようか攻めあぐねているようにも見えた。

こんな場所にホームレスが二人。
だからパトカーに応援を要請したのだろうか?

 

 

僕は「ここでキャンプしちゃダメですか?」
とダメもとで訊いてみたのだが、

「朝になったらランニングや犬の散歩で人が通る」
と言った。

「あぁ、そうですよね」と僕はすぐに撤収に取りかかった。
ここでゴネても事態を悪化させるだけだろう。

こんな夜中にまた寝床探しだなんて、シアトルの先が思いやられるぜ…。

 

 

 

 

テントを畳んでいる最中に思ったことは

 

 

『ひょっとしてこのおっちゃん、
セキュリティーじゃないんじゃね?』

ということだった。

 

 

おっちゃんを横目で観察していると、
彼はどうみてもそのテントを片付けようとしているのではなく、
寝床を作ろうとしているように思えたからだ。

 

 

「もしかして、ここで寝てます?
てかここ寝ても大丈夫なんですか?」

「あ?ここで寝たところで誰も気にしやせんよ」

「おっちゃんはー…、
セキュリティではない?」

「これか?中古で2ドルで買ったんだ」

「最高です!あ、ピーナッツ喰います?」

「それを喰う歯がない」

 

 

目をつけるとことは他のヤツも同しか。

僕は再びテントを立て直し、さっさと眠りについた。

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