世界一周689日目(5/19)
「君がいなくなって、
僕は抜け殻になって、
泣いてばかりいたよ」
自然と青葉市子の唄う「機械仕掛乃宇宙」
の歌詞が口からこぼれる。
相棒からもらったデッドベアのレックスは
こつ然と姿を消してしまった。喪失感がぬぐい去れない。
ここはアメリカ、ポートランド、滞在5日目。
6時15分に目覚めた僕は、
清掃員がやってくる前にテントを片付け、山を下った。
そのままフレッド・マイヤーの三階にある個室トイレで頭を洗い、
外に出ると、スターバックス前でWi-Fiを頂戴し、
スカイプで二日前に行った”BOLLYWOOD THEATER”に電話をかけた。
英語で「クマのぬいぐるみ」と説明するのにてこずった。
「TOY(おもちゃ)」だとか「Doll(人形)」だとか、
単語をぶつ切りにして何度も説明した。
車の走行音に音がかき消される。
電話の向こうのしスタッフは「はっ??」と言う。
「だから~~~…」
イラつきが思わず声に出てしまう。
ただ、このまま何もしないでポートランドで
一日を過ごすわけにもいかなかった。
動かないと何も得ることはできない。
もしかしたらここで滞在していれば
そのうちひょっこりレックスくんが戻ってくるかもしれない。
僕はゆうこのオススメする
「Hawthrone(ホースロン)」という通りに僕は行ってみることにした。
自由大学が編集を手がける
「True Portland」(ゆうこ曰く「とぅるぽ」)というガイドブックがある。
僕は2013年度版をゆうこから借りていた。
中には素敵な写真とポートランドに関するワクワクする情報が
ぎっしり詰まっており、
ゆうこはこのガイドブックを120%信頼しているらしい。
これを見ればホースロン通りのどこが面白いのか
一発で分かったのだが、レックスくんのことで頭が回らなかった僕は、
本を見ずにこの通りを目指した。
ダウンタウンを抜け、ホースロン・ブリッジを渡った。
自転車がものすごいスピードで僕の横を走り抜けた。
橋の下へと歩いて行くと、
そこにはヒッピーなのか浮浪者なのか、
比較的年齢の若いヤツらがテントや寝袋から出てくるのが見えた。
ポートランドにはホームレスは意外に多い。
彼らは川沿いを寝床としているらしい。
また、バーンサイドと呼ばれる大通りを目印に
チャイナタウンの近くは治安がよくないので近づかない方がいいと
ゆうこから注意を受けていた。
最近チャイナタウンで発砲事件が起こったらしい。
橋の下は都市型キャンパーたちがわんさかいた。
中には僕が使っているテントより
良いものを使っているヤツさえいる。
そんな彼らの寝床を写真に収めているうちに気づいたことは、
『これなら自分も大丈夫だな』
ということだった。
彼らは彼らで境界線のようなものを持ち、
それを侵害することはない。
彼らのテントを見ると、
自分のものとなんら違いないことが分かった。
そうかワシントンパークにテントが張ってあっても
ホームレスにしか見られないんだな。
だが、これがオススメされるHawthrone Stなのかという疑問も
僕にはあった。
半信半疑でそのままどんどん通りを歩いて行くと、
徐々にケータリングのキャンピングカーやカフェが
目に入るようになった。
僕はひとまず見つけたカフェでドリップド・コーヒーを注文し、
窓際の席で15時まで作業をした。
チェーン店に比べれば、こういう場所で飲むコーヒーは少し高い。
だが、お金はこういう時に費うものだと思う。
まぁ、その額も人によりにけりですけどね。
“OUI PRESSE”
というのが僕が入ったカフェの名前だった。
ここの店にも、他には真似できない独特の空気感を感じた。
置いてある雑誌もセンスを感じる。
書いてあることは英語なのですぐには理解できないが、
味のある表紙なら家の本棚に置いておきたくなるから不思議だ。
店員はホームレスの格好をした僕に対して、
そこまで心を開いてはくれなかったが、
僕はコーヒーと店を楽しむことができた。
充電もできたので満足いく作業だった。
実は今日はゆうことピクニックをする予定だったのだが、
あいにくの曇り空でFacebookのメッセンジャーでは
「ピクニックするべきか?否か?」
の議論が繰り広げられていた。
「いや~、天気も悪いし、今度にします?」
「あー、いいよ。別に。
それじゃあ私は作ったお弁当を
ゆっくり家で食べるとしよう」
「え??!!食い物!!!!
いやいや!せかっく作ったんならさ!
ピクニックしようよ!」
「は?何をアツくなってるの?」
今の僕がどれだけ「食」に飢えているのか分かるまい。
ジャンクフード以外の物が食べたくてしょうがないのだ。
ピクニック実地の有無は二転三転し、暗礁に乗り上げた。
「どっちにすべきかグダグダしたら延期すべき」
と僕の脳内で決断が下された。
「それじゃあまた今度、ね」
とメッセージを送り、僕はカフェを後にした。
ヤケ喰い
したい気分だった。
考えたら朝からまともな物を食べていない。
くっそ!バカゆうこ!
ジブリ映画の怒ったヒロインばりにプリプリして、
僕はセブンイレブンでドーナッツを一個買い、
見つけたファーマーズ・マーケットで巨大なリンゴを二つ買って、
それらを完食すると、空腹感はどこかへ消え去った。
リンゴは地味にお腹を一杯にしてくれる。
そしてここから
ホースロン通りは魅力ある物へと変わっていった。
『あぁ、ここか!
ゆうこが言ってたのは!』
曇り空だけど、こんなんばかっか!見てて楽しい!
カフェと雑貨が通りに何軒も立ち並ぶ。
一軒一軒見ていたら一日ではとてもじゃないが見切れない。
もらいタバコをしようと
オーバーロールを着たおじいさんに声をかけると、
おじいさんは快く僕にタバコを分けてくれた。
「Welcome!Portland!」
おじいさんの一言に思わずニヤける。
おいおい。なんだよ。これじゃねえかよ。ポートランドォォォォ!!!
見つけた古着屋には、
日本で買う輸入物の古着の半分程の値段で服が売られていた。
そりゃそうか。現地の古着だもんな。
これなら古着屋のバイヤーが成立するのもうなずける。
ツバサさん見たら絶対欲しがるだろうなぁ。
まるで通り全体が
「Village Vanguard」なのだ(僕が日本で好きな雑貨屋ね)。
あぁ、お金があったら何か買うのにな。
だが、相棒から出資してもらうまでは
財布の紐を固く縛った僕にとって、
この通りは雑貨好きの「生殺し」だった。
買いたくても買えないこの思い…!!
くっそ!覚えてろよ!
ホースロン通りを最後まで歩き切り、
見つけたフレッドマイヤーでWi-Fiをゲットすると、
ゆうこから連絡が来ていた。
“CANTEEN”というカフェにいると書いてあったので、
そこまで歩いて向かった。
20分ほどでそこまで向かい、窓際の席にゆうこの姿が見えた。
向こうから見たら僕の姿はどんな風に見えるのだろう?と考える。
きっとホームレスがやって来たように見えるだろうな。ははは。
「ここはねー、
「健康志向のファストフード」
を提供するカフェなの」
値段はもちろんファストフード店ではないのだが、
内装やBGMはどこかお洒落でドリンクはオーガニック素材を
使ったものを提供していた。
体に良さそうなグリーンの液体を飲み、
ぺちゃくちゃとお喋りをする。
ピクニックはなくなってしまったが、
代わりにスーパーでサイダー(日本で言う発泡酒)とお菓子を買って
Laurelhurst Parkまで歩き、ベンチに座って酒を飲んだ。
ポートランドでは外で飲酒することが
禁じられているそうなのだが、
「代々木公園と井の頭公園を足して二で割ったような公園」
であるローレスハースト・パークには
まったりとした空気が流れていた。
酔った僕はしばらく動けなかった。
情けないほどにお酒に弱いのだ。僕は。
ゆうこは「そろそろ帰るね」と自転車に乗って去って行った。
ホームテイ先のホストのママは保守的な人らしく、
話を聞く限り門限に厳しそうだった。
公園に誰もいなくなると、僕はバックパックを背負い、
フラフラと公園を後にした。
途中に見つけたグランドの脇にテントを張った。
テントを張り終え、あとは寝るだけだというタイミングで
セキュリティに見つかる。
パスポートをチェックされて
「ここはプライベート・グラウンドなんだ」と言われる。
「すぐに片付けます」と言い、
セキュリティが立ち去った次の瞬間にグランドの証明が落ちる。
くっそ、あと30分遅ければここで寝れたのに..。
まだ酔いが残る。
だが寝床はワシントンパークしかない。
新しい場所を探すよりは戻った方がいい。
あそこは安全だから。
まさか歩いてアップタウンまで戻るとは。僕もバカだよ。
もうブーツの底が磨り減ってそろそろ限界ださ。
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たぶんそろそろ相棒が更新してくれることでしょう!
門限全然厳しくないし!
>ゆうこ
なんか厳しそうなイメージだったけどな。
いや、周りのみんなもそう思ってるかも笑。
「よ〜し!二軒目行こうか〜!」
「私、帰るね〜♪」ぴゅ〜〜いっ!
って感じで。
まぁ、暗くなる前に買えるのも大事だけどね。
催涙スプレーの出番が来ないことを祈るよ。
いやいや!!
あれはいらないよ!!!
>ツバサさん
さすがにお医者さんごっこはやらないか笑。
シュールなパッケージが面白かったんでついつい。
まぁ、お店や通り自体は絶対にツバサさん好みでしたよ!
町自体もそんなに大きくないし、
是非仕事かなんかで出張だとかにこじつけて
ポートランドで雑貨を買い漁ってください。
僕はお金なくて見てるだけでした..。